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絶体絶命ゲーム A-Side 前編


絶体絶命ゲーム中学生大会の西東京代表として、姿をあらわした亜久斗。
それまで、だれのことも信用しなかった亜久斗に、いったいどんな変化があったのか?
亜久斗のパートナー・大輔との裏話を描いたサイドストーリーを2021年11月15日まで限定公開!
(この小説は『絶体絶命ゲーム10 人形館の呪いを解け!?』に収録されています)

 

◆1 大輔が必要だ

 

 

 2月5日。

 ――――どうして、あんなことを言ってしまったのか……。

 家に帰った三国亜久斗は、後悔していた。

 また、気まぐれを出してしまった。

 晴天に誘われて、外に出たのがよくなかった。

 同じ小学校の犬塚大輔が、いじめられているのを目にした。

 いじめていた2人は、亜久斗を見ると、いってしまった。

 意図せず、大輔を助けてしまった。

 黙ってとおりすぎようとすると、大輔が話しかけてきた。

「ぼくは、三国くんになりたいよ」

 大輔の言葉に、亜久斗は、むきになった。

 無視して立ち去ればよかったんだ。

 でも、できなかった。

 そして、ついあんなことを言ってしまった。

「お前、本気でかわりたいのか?」

 短い間のあと、大輔は「うん、かわりたい」とうなずいた。

 

 それから4カ月後――

 亜久斗は教室の窓から、校庭を見ていた。

 また走らされているな……。

 視線の先には、全力で走っていく大輔がいる。

 有名私立中学に合格していた亜久斗だが、武蔵野市立境中学に入学することを選んだ。

 大輔とは別のクラスだった。

 授業中も放課後も、校内でも学校の外でも、亜久斗が見かけるとき、大輔はつねに走っていた。

 不良たちの使い走り、いわゆるパシリをさせられている。

 昼食の買い出しから、忘れ物、些細な用事まで、なにからなにまでやらされている。

 大輔の顔には、いつもあざがあった。

 難癖をつけられては、不良たちに殴られているのだろう。

 教師も見て見ぬふりをしている。

 大輔が、亜久斗に泣きついてくることはなかった。

 廊下で会っても、あいさつもしなかった。

 亜久斗に、迷惑がかからないようにしているのだろう。

 

 その日の放課後、校舎の裏に、不良にかこまれた大輔がいた。

「バカ、これじゃねぇよ!」

 たのんだパンがちがうと言って、不良が大輔を殴った。

 ほかの不良も、大輔を殴ろうとしている。

「そこまでにしてくれ!」

 そう言って、亜久斗は不良たちの前に歩いていく。

 不良は同級生だけではなく、上級生も数人いる。

「お前はだれだ」

 不良たちが、亜久斗をにらむ。

「かわりに、お前を殴ってやるよ」

 そう言ったのは、同級生の安藤サダオだ。

 威勢はいいが、実際はたいして強くはないだろう、と亜久斗は考える。

「……断る」

「はぁ!?」

 サダオがにらみつけてくるが、亜久斗は気にもとめない。

 それよりも、背後を警戒していた。

 前から襲ってきたら、逃げればいい。でも、かこまれたら、戦わないとならない。

 ここで、もめごとは起こしたくない。

 しかし、襲ってはこないようだ。

 不良たちも、校舎の裏で大きな問題を起こすのはいやなのだろう。

「理由がある!」

 亜久斗がはっきり聞こえるように、大きな声で言った。

 大声は、ときに効果がある。

 不良たちは、首をかしげている。

「こいつを殴られると、困る理由があるんだ」

 亜久斗の話に、興味をしめした男がいる。

 大きな体の3年生、境中学では知らないものはいない、不良のボス・桐生仁だ。

「その理由を言ってみろ」

 仁の低くて迫力ある声が、あたりに響いた。

「……おれが、こいつといっしょに、『絶体絶命ゲーム』の西東京大会に出るからだ」

 亜久斗の答えに、その場が静まった。

 不良たちが、顔を見合わせている。

 彼らも『絶体絶命ゲーム』のことは、知っているようだ。

「……ハハ、ハハハハハハ……」

 仁が、大声で笑った。

 ほかの不良たちも笑い、大爆笑になる。

 亜久斗と大輔だけが、表情をかえずにいた。

「お前、バカだろう。『絶体絶命ゲーム』の西東京代表は、私立桐星中学と決まっているんだ」

 仁の言葉に、不良たちがうなずく。

「いいや、決まってはいない。桐星中学が出場を表明すると、ほかが出場しないだけだ」

 私立桐星中学は、偏差値が高くて優秀なだけではない、スポーツ万能の生徒がそろっている。

 境中学はすべての面で、桐星中学に負けている。

『絶体絶命ゲーム』には、その中でもトップの生徒が出場してくる。

「けんかならともかく、『絶体絶命ゲーム』で、桐星中学には絶対に勝てねぇ」

 仁が不満そうに言った。

「だが、そこに勝てたら、おもしろいだろう」

 亜久斗が臆面もなく言うと、上級生たちが冷ややかに笑う。

「なんだって、よく聞こえなかったな。もう一度、言ってくれねぇか?」

 聞きかえした仁に、亜久斗はきっぱり言う。

「おれと大輔なら、桐星中学に勝てる」

「嘘じゃねぇだろうな?」

 仁が、亜久斗をにらみながら聞いた。

「嘘を言いに、わざわざこんなところにこない」

「お前、1年生の三国亜久斗か?」

 上級生の1人が、亜久斗を知っていた。

「そうです」

「仁、こいつは小学生のときに、『絶体絶命ゲーム』に出ているんだ」

「そうなのか?」

 仁に聞かれて、亜久斗はうなずいた。

「おれには、『絶体絶命ゲーム』で桐星中学に勝つ秘策がある。それには、大輔が必要だ」

 亜久斗は、立ちつくしている大輔を指さした。

「ゲームはいつだ?」

「おそらく、来週中」

「1週間、パシリがいないと不便だな」

「その心配はいらない。殴ったり、けったりしなければ、パシリをやらせてかまわない。ただ、けがだけはさせないでくれ」

「……まぁ、いいだろう。それまでは、そいつに暴力をふるわねぇよ」

「ありがとうございます」

 亜久斗は、軽く頭をさげた。

 となりで、大輔もあわてて頭をさげる。

「桐星中学に負けたら、三国もパシリだぞ」

 サダオが口をはさむと、亜久斗が頭をあげる。

「断る」

 亜久斗が言うと、サダオは困った顔をする。

 先輩たちは、助け船を出さない。

「……じょ、じょ、冗談だよ」

 サダオが、笑ってごまかした。

「これから大輔と話がある。今日は連れてかえる」

 亜久斗が言うと、だれもとめなかった。

「……本当に、『絶体絶命ゲーム』に出るつもりじゃないよね?」

 不良たちから離れると、大輔がこわごわ質問する。

「この大会は、ペアでの出場が条件だ」

 亜久斗の答えに、大輔がおどろく。

「それじゃ、本当に出場するつもりなの?」

「当然だ」

「……そ、それなら、もっと優秀なパートナーをさがしたほうがいいよ。ぼくなんて、足手まといになるだけだ」

「いや、パートナーはお前だ!」

 亜久斗が断言する。

「どうして? どうして、ぼくなの?」

 大輔の質問に、亜久斗はにやりと笑う。

「決まっているだろう。……お前に、才能があるからだ」

 

 

◆2 立会人は鳥肌タツ

 

 亜久斗が『絶体絶命ゲーム』西東京大会にエントリーすると、スマホに電話がかかってきた。

『――武蔵野市立境中学の三国亜久斗だね』

 大人の男の声だ。

「そうです」

『「絶体絶命ゲーム」の運営委員会です。西東京大会にエントリーしたようだけど、まちがいかな?』

「まちがいではありません」

 亜久斗は、はっきり答えた。

『本当に参加するのかい?』

「はい」

『西東京大会には、私立桐星中学がエントリーしているんだよ』

「そうですか」

『桐星中学は強豪だよ』

 委員会の男は、境中学に辞退してもらいたいようだ。

「参加です」

『決意はかたいようだね』

 運営委員会の男は、西東京大会予選のゲームを準備していなかったと言った。

 境中学の参加は、想定外だったのだ。

 大人の使う、卑怯な口実だ。

「では、ゲームの内容は、桐星中学の代表と話し合って決めていいですか?」

『うん、そうしてくれるか』

 運営委員会の男が言った。

 

 翌日、亜久斗と大輔は、私立桐星中学をたずねた。

 近代的でおしゃれな校舎は、有名建築家の設計らしい。

 2人が案内されたのは、緑の庭が見わたせるテラスだ。

 まるで、観光地のカフェのように居心地がいい。

「……す、すごい校舎だね。境中学の古い建物とは、おおちがいだ」

「味もそっけもない建物だよ。境中学のぼろい校舎のほうが、おもむきがある」

「……うん、そうかもしれないね」

 少しして、着物すがたの大人の女性が、部屋に入ってきた。

 亜久斗は、彼女に見覚えがあった。

 以前、東京を舞台にした『絶体絶命ゲーム』で案内人をしていた、鳥肌タツだ。

 彼女は、『絶体絶命ゲーム』運営委員会から送られた立会人だ。

 タツは、ちらりと亜久斗を見た。

「どこかでェィ、聞いた名前だと思ったら。お前さんだったんだねぇ、三国亜久斗ヨォ!」

「……ここで会ったが百年目、ですか?」

 亜久斗は、めずらしくおどけた口調で言った。

「お前さんもそういう冗談を言うんだねぇ。こりゃぁ、愉快、愉快、愉快だよぉぉぉぉッ」

 タツが、歌舞伎役者のように見得を切った。

 緊張していた大輔の顔が、さらにこわばった。

 そこに、桐星中学の2人の男子がやってきた。

 2人とも、背が高くて、整った顔をしていて、アイドルにも負けないルックスだ。

「今日は、わざわざ足をはこんでいただき、ありがとうございます」

 サラサラの髪のイケメンがあいさつした。

「ぼくたちは『絶体絶命ゲーム』の桐星中学の代表です。1年の相馬一生です」

「ぼくは、三木谷昴です」

「境中学の代表、三国亜久斗」

「……あ、あの……境中学の……犬塚大輔です」

 大輔が、ぺこりと頭をさげた。

「あたしゃ、立会人の鳥肌タツでェ。今後、お見知りおきをォ」

 タツは、ひかえめにあいさつした。

「きみたちが、境中学の参加者なのかな?」

 一生は、弱々しそうな大輔に視線をむけて言った。

「そうだけど、なにか問題あるか?」

 亜久斗が聞くと、「いや、ない」と一生が答えた。

「本当に、ぼくらと『絶体絶命ゲーム』の予選をやるつもりなのか?」

 昴が、上から目線で言った。

 彼らは、学校の恵まれた環境などを見せつけて、亜久斗たちを辞退させるつもりのようだ。

「当然だ。そのために、こんな遠くまできたんだ」

「おんぼろの市立中学のくせに」

 昴が言うと、亜久斗が鼻で笑う。

「新しいものがいい、という考えか。それこそ、古くさい」

「あたしゃ、口出ししないけどね。さっさとゲーム内容を決めてくれないかい」

 タツが、昴と亜久斗を落ちつかせるように言った。

「こんなことは言いたくないけど、ぼくと昴はスポーツ万能で、勉強でもトップクラスだ。それでも、ゲームをやるのかい?」

 一生が、念をおすように聞いた。

「やる」

 亜久斗が即答すると、一生は大輔に目をむける。

「きみは、いいのかい?」

「……ぼ、ぼくは……」

 大輔はそこまで言うと、亜久斗を見る。

「……こいつのことはいいんだ」

「いいって、どういうことだ?」

「おれは中学生になったら、『絶体絶命ゲーム』に出ようと決めていたんだ。でも、2人で参加が条件だったから、大輔をさそった」

「なるほど、中学の思い出づくりに『絶体絶命ゲーム』に出たいというわけか」

 昴が、あきれた口調で言った。

「どうしてもやるっていうなら、ゲームを決めないとならないな」

 一生もやる気になったようだ。

「頭脳戦では、おれたちに勝ち目はない。スポーツにしてくれないか?」

 亜久斗が言うと、昴が半笑いで質問する。

「スポーツでなら、ぼくたちに勝てるというのか?」

「頭脳戦より、可能性はある」

「……2対2で戦うなら、テニスとか卓球でどうかな?」

 一生が聞くと、亜久斗は首を横にふる。

「おれは走るのが得意なんだ。マラソンで勝負しないか」

 亜久斗が、真顔で言った。

「自分の得意なもので勝負したいって? そんな話に乗ってやると思うか?」

 昴は、にやにやしながら言った。

「2人はスポーツ万能なんだろう、それならマラソンでいいだろう」

 亜久斗が重ねて言うと、一生と昴が顔を見合わせる。

「……いいぞ。ただし、フルマラソンだ」

 昴の答えに、亜久斗が顔をしかめる。

「42・195キロも走るのか?」

「マラソンは得意なんだろう。いやなら、棄権でもいいぞ」

 昴が、意地悪な口調で言った。

「……しょうがない、それでいいよ」

 亜久斗は、しぶしぶ受け入れた。

「ルールだけど、2人のタイムの合計で、どうかな?」

 一生が提案するが、亜久斗は拒否する。

「それよりも、単純明快に、1位でゴールしたものの中学が勝ちということでどうだ?」

「パートナーを、あてにしてないんだな」

 一生に言われて、亜久斗は苦笑いする。

「図星だ。大輔は戦力にならない。だから、お前たちの相手は、おれだけだ。どうする、やるか?」

 亜久斗が挑発すると、昴が乗ってくる。

「ぼくはそれでいい。一生はどうだ?」

「昴がいいなら、そうしよう」

 大会は、9日後の6月27日の日曜日に決まった。

 一生が同意すると、タツが大会ルールをまとめる。

 

   絶体絶命ゲーム・西東京大会

   ゲーム・フルマラソン(42・195キロ)

   コース・荒川河川敷のマラソンコース。

   開催日・6月27日(日曜日)の午前8時スタート。

   スタートラインをこえたあと、コースアウトは失格。

   棄権は脱落。

   1位でゴールしたものの中学が勝者。

   2位以下は、勝敗に無関係。

 

「1位でゴールしたものの中学が、優勝だよぉ。それで、まちがいないねぇぇぇ?」

 タツがいつもの口調で聞いた。

「まちがいない」と亜久斗。

 一生と昴が、「いいです」と答えた。

 最後に大輔があわてて、「は、はい。いいです」と言った。

 

 桐星中学からの帰り道、亜久斗は大輔に意外なことを聞いた。

「フルマラソンを走る自信はあるか?」

「42・195キロを走れるかということ?」

「そうだ」

「それは、無理だと思う」

「準備はしておけ」

「三国くん、ごめん。ぼくは戦力にならないよ」

 大輔が言うと、亜久斗は大笑いする。

「知ってる。一生と昴は運動神経抜群で、中学生のマラソンの記録を出せるかもしれないと注目されているんだ」

「そんな2人相手に、マラソンで勝負するの?」

 大輔が、目を丸くして聞いた。

「勝負するのは、おれだ」

「ぼくは、なにをすればいいのかな?」

「大会まで、マラソンのトレーニングをするんだ。メニューはあとで知らせる」

「うん、わかった。それはいいけど……」

 大輔はけげんな顔をする。

「ぼくは42・195キロなんて完走できないと思うよ。それなのに、トレーニングしないとならないの?」

「勝敗に関係なくても、参加はしてもらう。いきなり走ったら、けがをする。けが防止のためにも、トレーニングは必要だ」

「そうだね、トレーニングするよ」

「それと、マラソンは苦しいものだ。その苦しみを、共有してほしい。だから、手を抜かずに、しっかりトレーニングをするんだ」

 亜久斗に言われて、大輔はやる気になる。

「わかった。しっかりトレーニングする」

 大輔はうなずいた。

 

 

〈後編につづく 10月11日更新予定〉

 

この短編は、10月13日発売のこの本にのっているよ!


絶体絶命ゲーム10 人形館の呪いを解け!?

  • 作:藤 ダリオ 絵:さいね
  • 【定価】 748円(本体680円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046320292

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