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スペシャルれんさい『スイッチ!(1)イケメン地獄はもうカンベン!』 【38】アクシデント


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【38】アクシデント

 

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「エントリーナンバー105番!」

 アナウンスとともに、今日一番の黄色い悲鳴があがる。

 3人がステージにあがると、バッとライトがつく。

 客席には満天の星のようなペンライトの光。

 あのとき。

 2年前にはじめて見たコンサートのようで、私の腕には鳥肌が立つ。

 一糸乱れずおどりはじめた3人を見つめ、

「うそっ。レン様と翼様って犬猿(けんえん)の仲なのに! どうしていっしょのステージに立ってるの!?」

「それを言ったら和月様よ! 和月様は、おどったり歌ったりなんてしないと思ってた!」

 女の子たちが興奮しながら、彼らに向かって手をふりあげていた。

 すごい。3人の動きは緩急をつけながら、会場をとりこにする。

 歌とおどりにみせられてあっという間にパフォーマンスが終わろうとしたそのとき。

 ガターン。

 大きな音がしたあと、会場の電気がいっせいに消える。

「停電?」

「キャアアアアア!」

 とつぜんステージやあらゆる場所の電気が消え、悲鳴があがる。

 ステージだけでなく客席も暗くなり、不吉な雰囲気が会場を包んでいる。

「ちょっと! ステージから煙が出てるっ!」

「火事よ! 火事よ─────っ!」

 パニックになった客席からあがった声のせいで、さらに客席が混乱する。

『機材故障のための停電です。すみやかに席におもどりください』

「うそよっ! 煙が出てたもの! 逃げなきゃ死んじゃう! みんな逃げよう! 逃げなきゃ!」

「やだっ、死にたくないっ!」

 泣きじゃくり金切り声をあげるお客さんに向かい、客席の整理と警備をやっていた私は、一生懸命声をはりあげる。

「大丈夫です。みなさん、おちついてください」

「うるさい! どきなさいよ!」

「うわっ」

 身体が横殴りの嵐にでもあおられたようにぐらりとゆれる。

 出口に向かうお客さんがパニックになり、人と人が押しあいひしめきあう。

 私はゴムまりのように吹きとばされ、目がまわる。

「──まつりっ!」

 レンさんがステージからとびおりる。

「──あ」

 暗がりの中でもしっかり見える。

 ステージからとびおりたレンさんのすがたが、あのときの女の子と重なり私は目を見開いた。

「──しっかりしろ!」

「はいっ。私よりもここにいるみなさんを!」

「バカ。オマエが心配なんだ。ファンなんてどうでも──」

 バチーン。

 私はレンさんの頬を平手うちする。

「お願いですから二度とそんなこと言わないでください!」

 レンさんはぼうぜんと私のことを見つめたあと、口のはしを少しだけあげて笑った。

 そしてマイクを持って立ちあがると、レンさんは暗いステージにもどる。

『レンです。みんな──この会場は大丈夫だから。俺の言葉、信じて聞いてください』

 レンさんの声にパニックになっていた人たちの動きがにぶくなる。

『翼です。心配かけてごめんね。いま機材のトラブルだってわかりました。煙はステージに設置されていたドライアイスだから、火事じゃありません。いま、僕たちが信頼しているスタッフさんががんばってるから。みんなまずは席にもどってくれないかな?』

 ゆったりと話しかける翼さんの声に、ひとり、またひとりとお客さんが席にもどる。

『いまゆっくりみんなに向かって話せるのも神様がくれたごほうび……なーんて思ってるって言ったら怒る? でもさ。絶対一生の思い出になるなって思うんだ』

 和月さんの言葉に、「私も絶対に忘れない!」と客席から声があがる。

『せっかくだから、最後まで歌っていいかな』

 3人がアカペラで歌いだすと、さっきまでの騒動がウソのように会場がしずまりかえる。

「♪君はひとりじゃない。僕がそばにいるから。悲しいときは名前を呼んで。いつだって。どこにいたって光の速さでかけていくよ。君のもとへ♪」

『いっしょに歌おう! ♪悲しいときは名前を呼んで。いつだって。どこにいたって光の速さでかけていくよ。君のもとへ♪』

 そのうちファンがひとり、またひとりと歌いはじめ、大合唱になった。

 その瞬間、まるで奇跡のようなタイミングで会場の電気がつき、銀テープが発射された。

 キャアアアッと黄色い歓声が会場をゆらす。

「すごい。3人は本物のアイドルですね」

 私はステージに立つ3人を見て、涙ぐんだ。



『優勝はエントリーナンバー105番、藤原レン・谷口翼・小笠原和月。満場一致で彼らの優勝が決まりました。3人は来月『ジョーカー』というグループ名で『ドリームシップ』よりデビューいたします。みなさま、あたたかい拍手をお願いいたします』

 発表の瞬間、銀テープが客席に向かってはなたれ、会場から割れんばかりの拍手とおめでとうコールがひびく。

 目頭に涙を浮かべ身体をふるわせる翼さんの肩を、レンさんと和月さんが優しくたたき、3人は手をつなぐ。

「「「みんな───っ! ありがとう!」」」

『ジョーカー』のメンバーがそう言うと、会場はさらなる喝采に包まれる。

 私はステージのそでから、3人を見つめる。

 よかった。本当によかった。

「ガール。おめでとう。これは君が起こした奇跡だ。君がメンバーをアイドルにしたんだよ」

 背後から聞こえた声におどろいてふりむくと、そこではジョニーさんと校長先生がこちらに笑顔を向けていた。

「いいえっ。私はなにもしていません」

「いいや。日々野さん。3人にファンを想う気持ちと、仲間を信じて協力しあう素晴らしさを教えてくれてありがとう」

「校長先生……私こそ今回、3人のマネージャーをやらせていただきありがとうございました」

 今回の経験は、楽しかったことも悔しかったことも、全部全部自分の宝物にしよう。

 3人のデビューが決まった日、ステージのそでで私は強く誓(ちか)うのだった。


 


 




【書籍情報】


スイッチ!(1) イケメン地獄はもうカンベン!

  • 作:深海 ゆずは 絵:加々見 絵里
  • 【定価】748円(本体680円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046317674

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