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【期間限定】『スピカにおいでよ 放課後カフェとひみつの仲間』1巻まるごとためし読み連載 第10回

【学校でもない。家でもない。見つけた!わたしの大事な場所】大人気作家・夜野せせりさんの『スピカにおいでよ』を、期間限定で1巻丸ごとためし読み♪ ユーウツな気分をふきとばす、応援ストーリーです!(毎週木曜更新、公開期限:7月31日(月)23:59まで)

15 いっしょに学校へ
次の日の、朝。わたしはいつもより早起きして、いつもより早く家を出た。
かりんちゃんと七瀬(ななせ)くんと待ち合わせをして、学校までいっしょに行くことになったんだ!
待ち合わせ場所は、七瀬くんが決めた。わたしの家と、かりんちゃんの家のちょうど中間にある、パンダ公園っていう名前の児童公園。ふつうに登校するよりちょっと遠回りになるけど、ちっとも苦にならない。だって、かりんちゃんといっしょに学校に行けるんだよ!
パンダ公園に着くと、すでに七瀬くんとかりんちゃんは来ていた。ふたりの家はとなりどうしなんだよね。
「おはよう」
「おはよ」
七瀬くんはにこっと笑った。
いっぽう、かりんちゃんは。もう、ぱっと見てすぐ「きんちょうしてるんだな」ってわかるぐらい、ひきつってカチコチになっている。
「くるみ、ごめんね。大変だからここまで迎えに来てくれなくてもよかったのに」
「ううん、わたしが来たかったの。それよりかりんちゃんは大丈夫?」
なんだか顔色が良くないような。やっぱり無理させちゃってるのかな。
「大丈夫」
かりんちゃんは、きっぱりと言い切った。なんだか自分に言い聞かせているみたいだった。
ちらっと、七瀬くんを見やる。七瀬くんはわたしの目をみて、うなずいてみせた。
きっと大丈夫だよ、そんなふうに七瀬くんも言ってくれているんだ。
3人ならんで、ハマっている動画の話とか、アニメの話とか。そんなたわいもない話をしながら歩いていくけど、学校が近づいてくるにつれ、かりんちゃんの口数は少なくなっていった。
かりんちゃん、大丈夫かな。具合、悪くなったりしてないかな。
きのう、スピカを出たあと。七瀬くんがこっそりわたしに教えてくれた。
かりんちゃんは5年生の3学期から学校を休み始めた。行こうとすると、頭やおなかが痛くなるんだって。
だからわたしたちは、かりんちゃんが学校に入れずに足を止めてしまっても、絶対に無理させないようにしようって、約束したんだ。もちろん、かりんちゃんには内緒で。
わたし、七瀬くんとちかいあったの。ふたりでかりんちゃんを支えようね、って。
かりんちゃんが、学校でも、自分らしくすごせる日が、またおとずれるように。
学校に続く歩道には、ランドセルを背負った生徒たちがたくさん、群れるように歩いている。
おはよう、と、明るい声があちこちで行き来している。
「……くるみ」
かりんちゃんの、かすれた声が、わたしの耳に届いた。
こんなに不安げな、いまにも折れてしまいそうなかりんちゃんの声、はじめて聞いた。
わたしは、かりんちゃんの手をとった。ぎゅっと、にぎりしめる。
――わたしがいっしょだよ。
声には出さず、心の中でつぶやく。でも、かりんちゃんには伝わっていたみたいで。
手をつないだまま、すうっと大きく息をすうと、わたしたちは、校門をくぐったんだ。
そして、6年3組の教室へ。
わたしたち3人が入ったとたん、ざわっと、教室の空気が揺れた。
そして、すぐにしーんと冷えていく。あちこちで、小さなさざ波がたったように、こそこそとささやき合う声がする。
「おはよーっ」
七瀬くんが明るい声をあげた。いつもみたいに。
毎朝七瀬くんは、登校すると、こんなふうに明るく友だちに声をかけているんだ。
「お、おう。おはよ」
七瀬くんと仲のいい男子――宮脇(みやわき)くんが、あいさつを返す。そして、ちらっと、七瀬くんの後ろでわたしと手をつなぎあっているかりんちゃんを見やった。
「ってか。ひさしぶりだな、野々村(ののむら)」
宮脇くんが、かりんちゃんに声をかけた!
「お、おす」
かりんちゃんは、おずおずと片手をあげた。
「なんだ、元気なんじゃん」
ほっとしたように、宮脇くんは表情をゆるめた。
「また昼休みサッカーしようぜ。野々村いないと物足りねーよ」
ははっと、宮脇くんは笑う。かりんちゃんは、赤い顔して、こくんとうなずいた。
やった!
わたしと七瀬くんは、思わず顔を見合わせた。今すぐにでもガッツポーズ決めたいぐらい!
女子たちは……、教室のはじっこに固まって、そわそわとわたしたちの様子をうかがっている。芸能リポーターみたいに目をかがやかせて、興味津々って感じの子たちもいれば、ひそひそと耳打ちし合っている子たちもいる。
大原(おおはら)さんたちは、とにかくびっくりしているみたい。
そうだよね。わたし、実はかりんちゃんと学校の外で知り合ってましただなんて、ひとことも言ってなかったもん。
姫野(ひめの)さんたちは……。教室の後ろの掲示板近くにいる。
ばちっと目が合った、その一瞬。
ぞくっと、背すじが冷えた。
姫野さんの目つきが、あまりにもするどかったから……。
チャイムが鳴る。
先生も、かりんちゃんの両親から前もって連絡を受けていたみたいで。突然学校に来たかりんちゃんを見てもおどろかなかったし、いたってふつうに接していた。
そうだよね、わたしが同じ立場だったら、みんなの前であんまり特別扱いされたくないと思う。
休み時間。わたしは、かりんちゃんといっしょに、大原さんと吉田(よしだ)さんのところへ行った。
「大原さん。わたしね、実はかりんちゃんと、ちょっとした知り合いで」
「ひみつきち」のことは、みんなには内緒だもんね。だからこういう、ふわっとした言い方になってしまうのはしょうがない。
かりんちゃんは居心地悪そうにうつむいている。
「えっと、……野々村かりんさん、だよね?」
吉田さんが遠慮がちに声をかけた。
「去年もおととしもクラスは別だったけど、野々村さんのことは知ってたよ。スポーツ万能で目立ってたし、かっこいいなって」
吉田さんがほおを赤らめる。大原さんもうなずいた。
「かっこよくなんてない……よ」
かりんちゃんが小声でこたえる。まだぎこちないけど、仲良くなれそうな予感がする。
なんせ、姫野さんに目をつけられていたわたしに声をかけてくれた子たちだもん。きっと大丈夫。……だと、いいんだけど。
4時間目が終わると、かりんちゃんは保健室に行って、給食を食べずに早退してしまった。
「たぶん、すごいきんちょうして、疲れたんだと思うよ」
七瀬くんが、こっそりわたしに告げる。
「でも、すごい。まさかかりんが」
七瀬くん、自分のことみたいにうれしそう。
わたしもうれしいよ。がんばったかりんちゃんのこと、すごいって思うし、尊敬する。
でも、かりんちゃんの話をする時の七瀬くんを見ていると、胸の奥がチクチクするの。
わたしだってかりんちゃんが好きなのに。絶対味方でいるって気持ちも、本当なのに。
昼休み、わたしはひとり、ベランダの手すりにもたれて、空を見上げていた。
かりんちゃんが帰ってしまって、わたしも空気の抜けた風船みたいに、ふにゃふにゃにしぼんでしまいそう。
「高梨(たかなし)さん」
声をかけられた。大原さんと、吉田さんだ。
「わたしたちも、名前で呼んでいい? 野々村さんみたいに」
「うん、いいよ!」
「じゃ、わたしたちのことも名前で呼んで」
こくりと、うなずいた。大原さんは、まりちゃん。吉田さんは、さなえちゃんだ。「さっちん」って呼んでいいよって言ってくれた。
「ところで、くるみちゃん」
まりちゃんが、声をひそめた。
「野々村さんが学校に来なくなった理由、知ってる?」
ふるふると、首を横にふる。まりちゃんとさっちんは、顔を見合わせた。
胸がざわざわする。ふたりが、すごく深刻な顔をしてるから。
「まりちゃんたちは、知ってるの?」
「……うわさだから、どこまで本当かわからないけど」
まりちゃんは、遠慮がちに口を開く。
「クラスで無視されてたんだって。5年生の時」
「どう……して?」
「くわしくは知らないけど、野々村さんと姫野さんが、もめたんだって……」
<第11回へとつづく>(6月1日公開予定)
『スピカにおいでよ 放課後カフェとひみつの仲間』は好評発売中!
そして、第2巻『スピカにおいでよ ゆれる想いと仲間のきずな』が6月14日(水)に発売になるよ!
ずっと、みんなと一緒にいたい。「スピカ」で過ごす時間と、そこで出会った仲間たちは、くるみにとって何よりも大切――だったはずなのに、大事な“居場所”がなくなっちゃう!? どうぞお楽しみに☆
スピカにおいでよ ゆれる想いと仲間のきずな
- 【定価】836円(本体760円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】新書判
- 【ISBN】9784046321633
スピカにおいでよ 放課後カフェとひみつの仲間
- 【定価】792円(本体720円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】新書判
- 【ISBN】9784046321619