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【期間限定】『スピカにおいでよ 放課後カフェとひみつの仲間』1巻まるごとためし読み連載 第8回


【学校でもない。家でもない。見つけた!わたしの大事な場所】大人気作家・夜野せせりさんの『スピカにおいでよ』を、期間限定で1巻丸ごとためし読み♪ ユーウツな気分をふきとばす、応援ストーリーです!(毎週木曜更新、公開期限:7月31日(月)23:59まで)





   12 ずいぶん仲良くなったみたいだね。 


 

「こんにちは……っ」
 カフェ「スピカ」のドアを開ける。
 遠足の次の日は、水曜日。「スピカ」が「ひみつきち」に変わる日だ。
 学校が終わって家に帰ると、わたしはまっすぐにスピカに向かったの。
「いらっしゃい。かりんさんは、もう来てるよ」
 葉子(ようこ)さんが、笑顔で奥のひみつきちスペースに通してくれた。
 引き戸を開けると、テーブル席にかりんちゃんがいた。眉間にしわをよせて、教科書とにらめっこしている。
「かりんちゃん」
 声をかけると、かりんちゃんは顔を上げた。
「あの、これ。七瀬(ななせ)くんは委員会の仕事で遅くなるから、わたしがかわりにあずかってきた」
 プリントの束をわたす。授業で使った物や宿題など、一週間分だ。
「ありがとう」
 かりんちゃんは笑顔になったけど、ちょっと疲れているみたい。勉強がんばってたのかな。
「まだ奏太朗(そうたろう)先生、来てないんだね」
「うん。いつもあたしが一番のりだから。ほら、学校行ってなくてヒマだからさ」
 ははっと、かりんちゃんは笑う。そして、わたしの顔をまじまじと見つめた。
「な、なに?」
「いや、くるみちゃん、なにかいいことあったのかなって」
「えっ!」
「目がにこにこしてるっていうか、口元がゆるんでるっていうか」
 するどい! っていうかわたし、すぐになんでも顔に出すぎ?
「実はね」
 わたしはかりんちゃんのとなりの椅子に腰かけた。
「わたし、転校してから今まで、ずっとクラスになじめてなくて」
 こんなこと話すのは恥ずかしいし、自分でもずっと認めたくなかった。だけど今、ここにはわたしとかりんちゃんふたりきりだし……。
 どういう事情かはわからないけど、学校に来ていないかりんちゃんは、わたしの息苦しかった毎日のことをわかってくれるんじゃないかなって思ったんだ。
 かりんちゃんはじっとわたしの目を見て、話のつづきを待っている。
「わたしね、ずっと友だちができなかったの。七瀬くん以外のクラスメイトとは、ぜんぜん話もできなくて」
 トートバッグにぶらさげた、宝物のキーホルダーに、そっと触れる。
「前の学校でも、親友と、けんかっていうか……、すれちがって、仲直りできないまま別れてしまったの。今の学校でもうまくいかなくて、わたし、どうしてこんなに友だちづくりがへたなのかなって落ち込んでた。でもね」
 そんな時、七瀬くんが「ひみつきち」に招き入れてくれて。
 きのうの遠足でも、クラスの輪の中に入れるように、自然なかたちでさそってくれた。
 そのおかげで、わたしは……。
「やっと、教室で、七瀬くん以外に、ふつうに話せる子ができたの」
 大原(おおはら)さんと、吉田(よしだ)さん。
 きのうの帰り道、たくさん話して。今日の学校でも、休み時間、いっしょに過ごしたの。
 すごくうれしかった! ひとりぼっちじゃない休み時間が、こんなに楽しいなんて。
「そうだったんだ。ずっと苦しかったんだね」
 かりんちゃんは、そう言った。
 ふだんの活発な感じじゃなくって。やわらかくてやさしい……、心にじんわりと染み入るような声色だった。
 なんだか熱いものが、ぐっとこみあげそうになる。
「よかったね、くるみちゃん」
「うん」
 涙がこぼれないように、小さく、うなずいた。
 かりんちゃんの笑顔が、あったかい。
 でもね、わたしがクラスで避けられていた理由については、まだ話さないことにしたんだ。
 特定のだれか……姫野(ひめの)さんのことを、悪く言いたくなかったから。
 ほんとは、大原さんたちとしゃべっている時、姫野さんににらまれたんだけど。
 大原さんたちが、すぐに察して、さっとわたしを囲んでたてになってくれた。
「ありがとう、大原さん、吉田さん」
 おずおずとお礼を言ったら、ふたりは、
「きっと大丈夫だよ。そのうち姫野さんの気持ちも変わるから、それまで耐えよう」
 と、はげましてくれたんだ。
 ようやく、教室に、七瀬くん以外の味方ができた。
 息苦しかった日々に、やっと光がさしてきたんだよ。
 かりんちゃんは、わたしが持ってきたプリントに目を通しはじめた。
「ねえねえ、ここ、わかる?」
 かりんちゃんが指さしたのは、算数の計算問題。うっ、授業でいまいちわかんなかったとこだ。
「えーっと。わたしも算数得意じゃなくって。国語だったらばっちりなんだけど」
 苦笑いしてごまかす。
「そっか。じゃあ、くるみちゃんには国語の質問をすることにする!」
 かりんちゃんは「いしし」と笑った。
「苦手なんだったら、くるみも、ここで奏ちゃん先生に算数教えてもらったらいいよ。いっしょにやろう?」
 そう告げたすぐあとで、かりんちゃんは「あっ」と口を手で押さえた。
「ごめん。あたし、いきおいで『くるみ』って呼び捨てにしちゃった」
「いいよ、『くるみ』で」
 むしろうれしい。ぐっと距離が縮まったみたいで。
「わかった! じゃ、『くるみ』って呼ぶね」
 かりんちゃんは、にこっと笑った。
 ひまわりみたいな笑顔。まわりを明るく照らす、笑顔。
 かりんちゃんも、学校に来られたらいいのに。
 ふいに、そんな気持ちが、ふわっと心の中にわきあがった。
 わたし、かりんちゃんといっしょに、昼休みにおしゃべりしたり、ふざけあったりしたい。
 七瀬くんや大原さんたちがわたしの味方になってくれたように、わたしがかりんちゃんのそばに寄り添っていられたら。
 そうしたら、かりんちゃんは学校に来られる……?
 その時、引き戸ががらっと開いた。
「こんにちは!」
 奏太朗先生だ。
「こんにちは。おじゃましてます」
 ぺこりと、頭を下げる。
 奏太朗先生はめがねの奥の目をにこっと細めた。
「いらっしゃい。ふたり、ずいぶん仲良くなったみたいだね」
 そう言われて、わたしとかりんちゃんは思わず目を見合わせた。
 かりんちゃんが、「にっ」とわたしに笑いかける。わたしも笑みを返した。
 ふたりして、くすくす笑う。なんだかすごくくすぐったい。
「センセ、さっそくだけど、ここわかんないんだ。教えてよ」
 かりんちゃんはさっきの計算問題ののったプリントを先生に突き出した。
「くるみに聞いたんだけど、くるみも算数苦手なんだって」
「ごめんね、力になれなくて」
 きっと、七瀬くんだったら、すらすらわかりやすく解説できるんだろうけど。
「そっか」
 先生は小さくほほえむと、わたしたちの向かいの椅子に座った。
 教科書を開いて、解き方から丁寧に説明してくれる。
「なるほど」
 かりんちゃんはさっそくプリントの問題を解き始めた。
「合ってる?」
「合ってる。ばっちり。すごいすごい」
 先生は目をきらっとかがやかせた。
「じゃあ、そのプリントの問題がぜんぶ終わったら、こっちも解いてみて。同じ単元のまとめプリントだから」
「えーっ」
 かりんちゃんは顔をしかめた。
「くるみさんも」
 同じプリントを、先生がわたしに手渡す。
「ど、どうも」
 わたしもやらなきゃダメ? ダメだよね、ここ、いちおう塾だし。算数が苦手だってばれちゃったし。
「わからないところがあったら遠慮なく聞いてね」
「は、はい」
 トートバッグからペンポーチを出して、シャーペンを取り出す。
 さっきの説明で解き方はわかったし、かりんちゃんも、さっきはブーイングしてたけど、もう学校のプリントを終えて先生のプリントにとりかかってるし……。
 わたしもやろう。
 ふたりして、集中して問題を解いて。ぜんぶ終わって答え合わせまでしてしまった。
 かりんちゃんが「うーん」とのびをする。わたしもすわったまま腰をひねってストレッチ。
 からだを後ろに向けたひょうしに、かべに沿うように置かれた本棚の本と目が合った。
「ここの本、借りて読んでもいいんですか?」
 たずねると、奏太朗先生はうなずいた。
「もちろん」
「くるみ、本が好きなんだね」
 かりんちゃんに言われて、こくりとうなずいた。
 ここにはいろんな本がある。絵本とか、文庫とか、雑誌とか、まんがもある。
「葉子おばさんが集めた本とか、知り合いがゆずってくれた本とか、僕の友だちおすすめのまんがとか、そういうものがほとんどだよ」
「へえ……。あっ、これも?」
 ふと目に留まったのは、「ワンプレートのカフェごはん」という本。レシピ集?
 その横には、「おしゃれどんぶりでカフェ風ランチ」、「しあわせカフェスイーツレシピ」なんてのもある。葉子さんが、スピカのメニューの参考にしてるのかな?
「ああ、その本を持ってきたのはね」
 奏太朗先生が言いかけた、そのことばを引き継ぐように。
「おれだよ。悪いか」
 ぶっきらぼうな低い声が響いた。
「えっ……」
 びっくりしてのけぞってしまった。
 ドアを開けて奏太朗先生の背後にあらわれたのは、目つきのするどい、茶髪の男子中学生だったの!

 

   13 もうひとりの「ひみつきち」メンバー 


 

 なんで中学生だってわかったかというと、その子が制服を着ていたから。
 前に、奏太朗先生が、もうひとり中学生が来ているって言っていたけど、きっとこの人だ。
 でも、まさかこんな……。
「なに? 新入りか?」
 中学生はわたしをぎろっとにらんだ!
 ひ、ひえええっ!
 髪の毛の色は明るい茶色だし、大学生の奏太朗先生と同じぐらい背が高いし、学ランは着崩しているし。顔だちはととのっているけど、目は切れ長で、とがったナイフっていうか、するどいカミソリっていうか、その。
「新入りかって聞いてんだけど」
「あ、あの……」
 怖くてちぢこまってしまう。
「ちょっと桐斗(きりと)! 初対面なのに、そんなケンカふっかけるみたいな聞き方はないよ!」
 かりんちゃんが、あわてて割って入った。
 桐斗っていうのがこの人の名前なんだ。っていうかかりんちゃん、呼び捨てにしてるの?
 年上の、ヤ、ヤンキーくんを?
「そうか? おれ、べつにケンカ売ってるつもりは」
「あんた、顔が怖いんだから、必要以上ににこにこ愛想よくしてないとだめだよっていつも言ってんじゃん。それに」
 かりんちゃんは、中学生(桐斗くん?)に人差し指をつきつけた。
「ことばづかいもダメ! なんなの、新入りか? って。やりなおし!」
「やりなおし……」
 桐斗くんは神妙な顔してつぶやくと、きゅっと口角をあげた! でも、ほっぺたはひきつってるし、目も笑ってない……。
「はじめましてこんにちは、新入部員……じゃなかった、新入塾生? ですか?」
「棒読みすぎ。笑顔もへただし、そんなんじゃ将来接客業なんてむりむり」
 かりんちゃんが、はあーあ、とため息をつく。
 桐斗くんはむっとまゆを寄せた。
「なんなんだよかりん、さっきからすっげー上から目線」
「コミュ力に関しては桐斗より上だもん」
「言ったなおまえ」
 待って待って。かりんちゃんってば、これじゃまるでかりんちゃんのほうが桐斗くんにけんかをふっかけてるみたい!
「はいはい、このへんでやめとこうか。くるみさんが困ってるよ」
 ね、と、奏太朗先生がわたしに同情の目線を送った。
「彼女は高梨(たかなし)くるみさん。新入塾生じゃなくって、見学に来てくれているんだ。かりんさんと昴(すばる)くんと、同じクラスなんだよね?」
「はい」
 うなずいて、桐斗くんに視線をうつした。目が合うと、わたしはすぐにぺこんとおじぎをした。
「よろしくおねがいします……」
 やっぱり怖い。年上のヤンキー系男子なんて話したことないし!
 わたし、あんまり男子の友だちいないし、っていうかそもそも友だち自体そんなに……って、また負の思考回路ループにおちいりそう。
「おれは間宮(まみや)桐斗。中2。あと、先に言っとくけどおれ、ヤンキーじゃねえから。この髪も生まれつきだし、見た目こんなだけど中身はいたってマジメだから」
 ぼそぼそと、ぶっきらぼうに桐斗くんは告げる。
「そうそう。ただたんにコミュ力がないせいで誤解されてるだけ」
 横からかりんちゃんが口をはさむ。
「おまえいちいちディスってくるよな」
「ほんとのことを言ってるだけ」
 わー、またはじまった!
「ほんとのこと、か。まあ、否定できねーけど。学校のやつらも、怖がって寄ってこねーし」
 桐斗くんはぼそっとつぶやくように告げた。かりんちゃんがそんな桐斗くんを見て、うつむいてきゅっと口を引き結ぶ。
「あ、あの。このカフェごはんのレシピ本って」
 しずんでしまった空気を変えたくて、わたしはあわてて話をふった。
 そういえば桐斗くん、この本を持ってきたのは自分だ、みたいなこと言ってた。
「おれがこづかいで買った。ここでこっそり読んでる」
「は、はあ……」
「桐斗はさ、スピカのことが好きで、それで自分も将来カフェを開きたいって思ってるんだよ」
 かりんちゃんがこっそりわたしの耳もとでささやく。
 でも。桐斗くんにはばっちり聞こえていたみたいで。
「こんな見た目なのにカフェごはんとか、キャラじゃないっつーのはわかってっけど。葉子さんに料理教えてもらったりしてるんだよ。まだまだへただけどさ……」
 もそもそと桐斗くんはつぶやく。
 さっきかりんちゃんに「接客業」がどうのこうのって言われてたのは、こういうことだったんだ。
 桐斗くんは耳たぶまで赤くなっている。照れてるんだ。ちょっとかわいい……かも。
 怖い人だって誤解して悪かったな。
「夢があるってすてきだと思います。しかも、料理も教わってるだなんて、ちゃんと努力しててすごい」
 わたしは言った。
 ほんとうに、そう思うんだもん。
 桐斗くんはますます真っ赤になった。
「夢とか、努力とか、そんな大げさなもんじゃねーよ」
 桐斗くんはふいっとわたしから目をそらす。
 と、その時。
「みんな、おやつタイムにしない~?」
 葉子さんが引き戸の向こうから、ひょこっと顔を出した!
「こんちは」
 葉子さんに続いて、なんと七瀬くんも顔を出したの!
 どきんと心臓がはねる。
 今日も学校でしゃべったのに。七瀬くんもここに来ることを知っていたのに。それなのに、「また会えた!」っていううれしさで胸がいっぱいになる。
 わたし、やっぱり七瀬くんのこと……、好きなんだ。
 でも。ちらりとかりんちゃんを見やる。
「今日のおやつ、なにっ!?」
 無邪気な子犬みたいに、目をかがやかせているかりんちゃん。
 葉子さんは、
「今日はお客さんも少ないから、お店はみんなの貸し切りにしちゃう。庭のハナミズキがきれいに咲いてるから、今から外でおやつにしましょ!」
 と、ウインクした。
「そうそう。お花見」
 と、七瀬くんも笑う。
 きゅっと、胸が痛くなった。

<第9回へとつづく>(5月18日公開予定)


『スピカにおいでよ 放課後カフェとひみつの仲間』は好評発売中!
そして、第2巻『スピカにおいでよ ゆれる想いと仲間のきずな』が6月14日(水)に発売になるよ!
ずっと、みんなと一緒にいたい。「スピカ」で過ごす時間と、そこで出会った仲間たちは、くるみにとって何よりも大切――だったはずなのに、大事な“居場所”がなくなっちゃう!? どうぞお楽しみに☆

 


スピカにおいでよ ゆれる想いと仲間のきずな

スピカにおいでよ ゆれる想いと仲間のきずな

  • 作:夜野 せせり 絵:かわぐち けい
  • 【定価】836円(本体760円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046321633

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スピカにおいでよ 放課後カフェとひみつの仲間

  • 作:夜野 せせり 絵:かわぐち けい
  • 【定価】792円(本体720円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046321619

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