<①~③巻トクベツ無料公開!>『サキヨミ!』第15回 新生ミミふわ

人の “不幸な未来”が見える「サキヨミ」の力を持つ私・如月美羽。友だちの夕実ちゃんが大ピンチになってるサキヨミを見てあわてていたら、瀧島君からショーゲキの提案をされて……?
※2023年12月15日までの期間限定公開です。
...。oо○ ①巻もくじ はこちら ○оo。...
...。oо○ ②巻もくじ はこちら ○оo。...
.。*゚+.*.。 15 新生ミミふわ ゚+..。*゚+
「キャンプ場のシャワー室のトイレに、ミミふわの衣装を隠してある。それを着て、ここまで戻ってくるんだ。ミミふわで『占い』をして、沢辺さんを滝に行かせないようにしよう。彼女を助けるには、それしかない」
そ、それしかない!? まさか!
「いや、ちょっと、強引すぎない!? そりゃ、今私が出ていったところで、夕実ちゃんは素直に話を聞いてくれないかもだけど、だからって、いきなりミミふわって……!」
「沢辺さんを、助けたくないのか」
抑えぎみだけれど、力強い声だった。
「そんなの……助けたいに、決まってるよ。でも……!」
「じゃあ、ミミふわになるんだ。考えている時間はない」
「そっ、そんないきなり言われても、急にはできないよ! 心の準備だってあるし……!」
「大丈夫。僕を信じろ」
そう言いながら、瀧島君は両手を私の肩に置いた。すぐ目の前にある瀧島君の瞳が、ぎらりと光る。
「思い出せ。ミミふわになって、如月さんがどれだけ大きなことをしたのか。どれだけの人の気持ちをつかんだのか。ミミふわには、大きな力がある。そしてそれは、如月さん自身の力でもあるんだ」
私の、力――……。
本当に、そうなのかな。
でも……他にいい方法が、思いつくわけじゃない。
何より、私の中の直感が叫んでる。瀧島君を信じていれば、きっと大丈夫。ひとりじゃできないことでも、彼といっしょなら、私にもできるって。
ひとつ、大きく深呼吸をする。それから私は、瀧島君の目を見つめて言った。
「わかった。シャワー室のトイレ、だね」
「最初の分岐(ぶんき)を右に行くと近い。塩野さんたちの言っていた休憩所は左方向だから、会う心配はないだろう。トイレに入ったら、一番手前に用具入れがある。衣装は、棚の中に入れてきた。白い袋だ。スマホは持ってる?」
「うん。大丈夫」
ポケットごしに、スマホをさわる。
「着がえ終わったら、連絡してくれ」
「わかった!」
「それじゃあ、後で」
瀧島君はそう言うと、夕実ちゃんの歩いていった滝のほうへと走りだした。
こうなったら、うだうだと考えているヒマはない。早く、ミミふわに変身しないと!
あわてて走りだした、そのとき。あせりのせいか足がもつれて、思いっきり転んでしまった。
(いたっ……!)
でも、大丈夫。どこも怪我はしていない。
すぐに立ち上がって、ひざについた土ぼこりをはらう。
ミミふわになるのは、やっぱりまだ怖いし、緊張する。けど、夕実ちゃんを助けるためだ。
夕実ちゃんは、私をこのまぶしい日々の中に連れてきてくれた、大事な友達。
だから、何があろうと、絶対に助けるんだ。
夕実ちゃんの友達として、せいいっぱいのことをやらなくちゃ!
シャワー室のトイレは、平日の昼間という時間のせいか、だれもいなかった。
ミミふわの衣装は、瀧島君の言った通りの場所に置いてあった。個室に入り、いそいそとジャージをぬぐ。
(この間は気づかなかったけど……これ、雪うさの衣装より、軽くて薄い感じがする)
瀧島君、持ち運びしやすくするために、かさばらない生地を選んだのかも。
袋の中には、うさ耳カチューシャや羽の形の仮面、にんじんポーチだけでなく、きちんとヘアゴムまで用意されていた。
髪をツインテールにして、シュシュをつける。
これ、「ミミふわ用に」って、瀧島君からもらったものなんだ。
実はこれも、ずっとポケットに入れていた。このシュシュも、私にとっては瀧島君の力を感じられるお守りなんだ。
瀧島君に連絡すると、「よし。分岐まで来てくれ」との返事。分岐……このトイレに来るために、曲がったところだ。
両手にグローブをはめ、にんじんポーチを肩にかけて、個室を出る。
ジャージは、ミミふわの衣装が入っていた袋に入れて、用具入れの中に隠した。
(……おお!?)

ふりかえると、鏡にファンシーな女の子が映っていて、思わずびっくりしてしまう。
新しい衣装に身をつつんだ、新生ミミふわ。こうやってまじまじと見るのは、初めて。
これ……私、なんだ。普段とはぜんぜん違う、生まれ変わった私の姿。
そんな気分になってる場合じゃないのに、不思議とワクワクしてきちゃう。
まるで衣装といっしょに、中身まで新しくなったような感じがする。
瀧島君も、雪うさになったときは、こんな気持ちなのかな。
なんだか、この姿なら、なんでもできるような気がしてくるよ!
(……よし!)
だれにも見られていないことを確認してから、私はトイレを出た。
相変わらず、遊歩道には人気がない。ゆるやかな上りになっている道を、ピンクの衣装をゆらしながら走っていく。分岐に近づいたところで、瀧島君の黒い頭が木の間に見えた。
念のために、とスマホの電源を落とす。万が一、だれかが「如月美羽」に連絡したとたんに音が鳴ったりしたら、正体がバレちゃうかもしれないもんね。
「瀧島君」
小声で、木陰に近づく。見ると、瀧島君はジャージの上をぬぎ、黒いTシャツ姿になっている。下も、ジャージ……かと思いきや、迷彩柄のズボン。顔には、メガネとマスク。
「そ、そのカッコ、いつの間に……?」
「メガネとマスクはポケットに入れてたんだ。上はぬいで茂みに隠して、下は裏返しただけ」
へえ、裏返し……って、うちの中学のジャージ、そんなリバーシブル仕様だったっけ?
そんなことより、夕実ちゃんだ。
「どうしてここに? 滝に行ったんじゃなかったの?」
「それが沢辺さん、滝には行かずに、途中で引き返してきたんだ」
「え、どうして!?」
「わからない。このまま戻ってくれればいいんだけど、迷ってるのか、さっきからあそこで行ったり来たりしてるんだ」
瀧島君の指さすほうを見ると、十メートルほど先の遊歩道に、夕実ちゃんの姿があった。
困ったように顔をしかめてうつむき、歩いては止まり、ふりかえってまた歩いては止まり……をくりかえしている。
(そっか、やっぱり……。夕実ちゃん、マジメだもんね)
「立ち入り禁止の場所に入らなきゃいけないから、迷ってるんじゃないかな」
「なるほど、そうか。さすが如月さん、沢辺さんのこと、よく理解してるんだな」
瀧島君はそう言うと、ふっと笑った。
「ちょうどいい。迷っているのなら、まさにミミふわの出番だ。滝に行かずに戻るよう、沢辺さんを占いで説得してくれ」
「わかった! ヘビのことを伝えて、危険だって言えばいいんだよね」
「ああ。沢辺さんなら、きっとすぐに信じてくれる」
そっか。そうだよね。
この間ミミふわをやったときは、シュウたちに占いを素直に受け入れてもらえなかった。それで、苦労することになったんだ。
でも、夕実ちゃんは違う。ミミふわのこと、すごい、あこがれるって言ってくれた。だからきっと、占いを信じてもらえる。
「よし、生配信、始めよう。準備はいいか?」
「うん! 大丈夫!」
いよいよだ、とつばを飲み込む。そうして瀧島君が私に向けてスマホをかかげた、そのとき。
「……あっ! ねえあれ、ミミふわじゃない!?」
後ろから聞こえたその声に、ぞわっと鳥肌が立った。
おそるおそるふりかえると、そこにいたのは……塩野さんたちだった。
きょとんとした顔でこっちを見ている塩野さんと佐藤さんとは対照的に、他の部員たちはおどろきの声をあげながら顔を輝かせている。
(み、見つかっちゃった……!)
「やばーい! なんでこんなところにいるんですか? 配信ですか?」
「衣装、前と違う! 写真、撮らせてください!」
最初にミミふわだと言った子が、さっとスマホを取り出す。
「えっと……あ、あの……」
いきなりのことに、うまく声が出てこない。
すると瀧島君が、指で私の腕をつついた。そうして今度は、私に向けたスマホを指さした。
(……もしかして……配信、スタートしてるのっ!?)
私の心の声に答えるように、瀧島君は無言のままウンウンとうなずいた。それから、びしっと人差し指を私に向ける。「行け」って言うように。
「……えっ……ええ~っと……ふわぽよ~! ミミふわです! ハイ、今回も始まりました、『ミミふわの突撃占い修業』! 今回は、大自然のキャンプ場からお送りします!」
しゃべりだすと、不思議とすんなり高めの声が出た。
わあっと演劇部の子たちがうれしそうな声をもらす。塩野さんと佐藤さんは顔を見合わせながらも、興味深げにこっちを見ていた。
ちらりと夕実ちゃんのほうをふりかえる。夕実ちゃんは、ミミふわを見て目を丸くしていた。塩野さんたちには、気づかれていないみたいだ。
「あの、私、雪うさとミミふわのファンなんです! 占ってもらえますか?」
ひとりの子がそう言って、ずいと前に出てきた。
「えっと、そうですねえ……はい、見えました! あなたの運勢は、絶好調です! 何か新しいことにチャレンジすると、うまくいきそうですよ!」
サキヨミが見えないことに安心しながら、そう言ってあげる。でもどうしよう、こんなことしてる場合じゃないんだ。早く切り上げて、夕実ちゃんのほうに向かわないと……!
「すごーい! ね、アカネも占ってもらいなよ」
「いや。あたしは、いい」
「なんで? ミミふわに会えるなんて、相当ラッキーだよ? アカネも、運が向いてきたんだよ」
すると塩野さんは、はっきりと顔をしかめた。
「占いなんて、ウソだろ」
「……え?」
いきなりの言葉に、私は何も言うことができなかった。
塩野さんは、とたんに静かになった周りの子たちにかまわず、続ける。
「占いなんて、ウソだ。そんなものに心をまどわされるなんて、くだらない」
「え……っと、ですね……」
「あたしは、ウソがきらいなんだ。あなたみたいなウソつきも、大きらい」
――ウソつき。
その言葉に、ぐさっと胸を突かれたようだった。私はあわてて言葉をしぼり出す。
「……う、占いは、ウソだと思う人にとっては、たしかにウソかもしれません。でも、とらえ方によっては、ステキな未来への道しるべになるものなので……」
予想外のことにとまどったせいか、ミミふわらしくない弱々しい声が出た。塩野さんの鋭い目つきに気おされて、次の言葉がなかなか出てこない。
(どうしよう。頭が真っ白だよ……!)
そのとき。後ろから、小さな足音が聞こえた。
ふりかえると、そこに立っていたのは――硬い表情の、夕実ちゃんだった。
「沢辺、さん……」
佐藤さんが言うと、夕実ちゃんはゆっくりと口を開いた。
「あの……ごめんなさい。私、その……やっぱりできないって思って、引き返してきたの」
「えっ……べつに、そんなの、もう……ねえ、アカネ」
ひとりの子が、あいまいな口ぶりで塩野さんの顔をのぞきこむ。
けれども塩野さんは、部活仲間の問いかけをよそに、じっと夕実ちゃんを見つめていた。
「あ……」
夕実ちゃんに向かって、何かを言いかける塩野さん。でも、言葉は続かない。
そのとき、佐藤さんが静かに口を開いた。
「……アカネ。あなたもしかして、ナナちゃんとのこと、まだ気にしてるんじゃ……」
そう言われた塩野さんは、キッと佐藤さんをにらみ返す。
「……やめてくれ!」
ナナちゃん? ナナちゃんって……何のことだろう。
すると次の瞬間、塩野さんは夕実ちゃんとは反対方向へと駆けだした。
「えっ!? あ、ちょ、ちょっと!」
あわてて声をかけたけれど、塩野さんはふりかえることすらしなかった。
(ど、どうして……!?)