<①~③巻トクベツ無料公開!>『サキヨミ!』第14回 ひとりきり

人の “不幸な未来”が見える「サキヨミ」の力を持つ私・如月美羽。友だちの夕実ちゃんが、大ピンチになってるサキヨミを見て……!?
※2023年12月15日までの期間限定公開です。
...。oо○ ①巻もくじ はこちら ○оo。...
...。oо○ ②巻もくじ はこちら ○оo。...
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林のむこうに延びる遊歩道は、自然公園のハイキングコースになっている。コースは何種類かあって途中で道が分かれているのだけど、一番長いコースのひとつが、大蛇の滝のそばを通るものだった。
レイラ先輩や叶井先輩が言っていたことを思い出す。
ヘビの神様が棲むという、エメラルドグリーンの滝つぼがきれいなパワースポット。けれども水難事故があったから、滝の見える岩場付近の遊歩道は封鎖されている。
(……まさか、とは思うけど……)
いやな予感は、おさまることがない。
(塩野さんたち……大蛇の滝に行こうとしてたり、しないよね……)
夕実ちゃんと塩野さんたちの今の関係は、最悪と言ってもいいくらいだと思う。
そんな中で、立ち入り禁止になっている危険な場所に近づいたりしたら……悪いことが起こる予感しかしない。
現に私は、ちゃんとした内容がわからないにしろ、夕実ちゃんのサキヨミを見てるんだから。
(絶対に、夕実ちゃんを守らなきゃ……!)
そのとき、急に横から声をかけられた。
「如月、何を急いでるんだ?」
勅使河原先生だった。学校にいるときと同じジャージを着ている。
「えっ……あ、あの、えっと……」
先生は、どこか物珍しげな様子でこっちに近づいてくる。私があせっている姿が、はたから見ても目立ったのかもしれない。
「沢辺はどうしたんだ? いつもいっしょにいるだろう」
「え、えーっと……夕実ちゃんとは、ちょっと、待ち合わせしてるんです」
「待ち合わせ? どこでだ?」
「……その……むこう、の、ほうで……」
ちらりと林のほうを見る。そのとき、ちょうど夕実ちゃんたちの姿が、炊事場の陰に隠れて見えなくなってしまった。
(あああ、早くしないと、見失っちゃう……!)
勅使河原先生は、だれもいない林のほうを見た。そうして私に向きなおると、
「くれぐれも、遠くまでは行くなよ。怪我しないように、気をつけろ」
「は、はい」
私の返事を聞くと、先生はくるりと向きを変えて歩いていった。今だ。
先生の目に入らないうちに、私は林へと走った。
遊歩道に着いたときにはもう、夕実ちゃんたちの姿はなかった。
道は弧を描く山の斜面ぞいに曲がっていて、どっちのほうを見ても、先が見えなくなっている。私以外には、だれの姿もない。
しばらく考えた後、私は最初のカンを頼りに、滝のほうへと進みはじめた。
ぐんぐん上がっている気温のせいで、額にじわりと汗がにじむ。
小走りで先へと進みながら、私はさっきの夕実ちゃんの言葉について考えていた。
気になるのは、「必要とされない」っていう言葉。
私、小学校時代の夕実ちゃんは、きっとたくさんの友達に囲まれていたんだと思ってた。
夕実ちゃんは、周りにすごく気をつかう、優しい子だ。
いつもみんなのことを見ていて、その場が丸くおさまるように、時には自分をおさえてふるまって……そんな優しい性格が、顔にもしぐさにも、すごく表れてるんだ。
そういえば、最初に声をかけてくれたとき、「クラスになじめなくって」なんて言ってたっけ。
昔の夕実ちゃんのこと、何も知らないけど……「必要とされない」なんて思ってしまうようなできごとが、何かあったのかな。
それに、私のしている「隠しごと」のこと。
瀧島君のことだと思ってたけど、夕実ちゃんさっき、「そうじゃない」って言ってたよね。
じゃあいったい、何のことを言ってるんだろう。
(もしかしたら、だけど……やっぱり夕実ちゃん、ミミふわのこと……)
そのとき、足の下でパキッと音がした。何かを踏んだ感触。
足を上げると、そこには折れた木の枝と……生い茂った、草。
(えっ……ここ、どこ?)
さっきまで、たしかに土の道を歩いていたはずなのに。
あわててふりかえる。重なり合う木々の間を埋めるように、下草が広がっていた。どれだけ見わたしても、遊歩道は見つからない。
冷たい汗が、たらりと背筋をつたった。
まさか、考え事をしていて、いつの間にか道をはずれていたの……?
これじゃあ、夕実ちゃんを守るどころじゃない。早く戻らなきゃ!
あせった気持ちで足を踏みだし、来たほうへと急ぐ。
けれども、進んでも進んでも、道は見えてこない。ぐるぐると辺りを見回しているうちに、さっきまで自分がどっちを向いていたのかさえ、わからなくなってきた。
(どうしよう……!)
周りを取り囲むように生える、背の高い木々。その新緑の葉が、屋根のように太陽の光をさえぎっている。
涼しさを感じるほどに、暗い。さっきまで感じていた暑さが、ウソのようだ。
自分の呼吸や心臓の鼓動以外は、葉ずれの音くらいしか聞こえない。
私……ここでこのまま、迷子になっちゃうの……?
山の中で迷子、ってことは……遭難!?
瞬時に、「遠足の中学生、キャンプ場で行方不明」というタイトルのニュース画面が頭にうかんだ。入学式に撮った、私のぼんやりとした顔写真とともに。
……いや。いやいやいや! あきらめるのは早いよ。
だって、まだそんなに長い時間、歩いてない。遊歩道は、きっとすぐそばにあるはずなんだ。
だから、大声を出せば、だれかに届くはず!
そうして、大きく息を吸いこんだとき。頭の中に、さっき聞いた会話が流れだした。
『あそこ、立ち入り禁止なんでしょ?』
『行っても意味ないか。やめとこ』
……そうか。
ただでさえ平日で、私たち生徒以外、お客さんのいないキャンプ場。
そのうえ、滝を見ることのできない遊歩道を歩く人なんて……いない。
ざわっと鳥肌が立って、体が石のように固まる。
心臓の音がどんどん大きくなるにつれて、力がぬけていくようだった。
こんな……こんなところで、立ち止まっている場合じゃないのに。
夕実ちゃんを、助けたい。助けなきゃ、いけないのに……!
逆に助けが必要な状態になっちゃうなんて、ほんと、なさけなさすぎて笑えない。
私は震える手で、ポケットの中にあるお守りを取り出した。
(私に、勇気をください。お願い、ユキちゃん――……瀧島君……!)
ぎゅっと目をつぶり、祈るように心の中で叫んだ。
――そのとき。
遠くで、人の声がした。
「……さん! 如月さん!」
ハッとして目を開ける。この声、これは……。
(瀧島君……!?)
「如月さん! どこだ!」
「た、瀧島君! ここだよ!」
ありったけの大声で答える。
どうして、瀧島君がここに? まさか……助けにきてくれたの……!?
瀧島君の声は、だんだんと大きくなってきていた。私は少しでも近づこうと、声のするほうへ足を一歩ずつ踏みだしていく。
瀧島君が、すぐそこにいる。それだけで、どうしてこんなにうれしいんだろう。どうしてこんなにも、心強いんだろう。
「瀧島君っ!」
にじむ視界をまばたきでリセットして、私は彼の名前を呼ぶ。
「――如月さん!」
はっきりとした、力強い呼びかけ。同時に、木陰から瀧島君が姿を現した。

「瀧島君……!」
思わず手を伸ばす。と、近づいてきた瀧島君はその手を勢いよくつかみ、私を引っぱるようにして歩き出した。
「た、瀧島君! あ、あのっ、ありがとう! でも、どうしてここに……」
「話は、遊歩道に戻ってからだ」
瀧島君はふりかえらずにそう言った。
つないだ手から、瀧島君の熱い体温が伝わってくる。
(瀧島君、私のこと、捜してくれてたのかな……)
ホッとしたのと、うれしいのとで、胸はドキドキ、はずみっぱなしだった。
瀧島君は、迷いのない足取りでずんずん進んでいく。周りの景色はほとんど変わらないように見えるのに、いつの間にか私たちは、遊歩道につきあたっていた。
「……よかった。見失ったときは、心臓が止まるかと思ったよ」
そう言って手を離すと、瀧島君はふーっと大きく息をついた。
「見失ったって……瀧島君、もしかして、私の後をつけてきてたの?」
「ああ。如月さんのこと、気になってずっと見てたんだよ。ここ最近、様子がおかしかったからね。表情が暗いし、僕に対する態度も急に変わったし」
瀧島君は、ちらりと私を見た。
あ……そうだ。私、瀧島君に、ひどいこと言っちゃったんだ。
「あ、あの、瀧島君、私……ごめんなさいっ!」
「いいんだよ。こっちこそ、ウワサになってたことに気づけなくて悪かった。僕のせいで、いやな思いをしてたんだろう。申し訳なかった」
「た、瀧島君は、悪くないよ!」
「ウワサに気づかず放置してしまって、その結果如月さんに不快な思いをさせてしまったのは、僕の責任だ。ウワサのほうはなんとかするから、今は沢辺さんを守ることに集中しよう」
「夕実ちゃんを……!?」
びっくりして、息が止まるようだった。
どうして瀧島君、夕実ちゃんが危険だってことを知ってるの?
(もしかして、瀧島君も……?)
私の頭に思い浮かんだ考えを認めるかのように、瀧島君は言った。
「昨日、見たんだ。沢辺さんのサキヨミを」