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<①~③巻トクベツ無料公開!>『サキヨミ!』第12回 苦しい決意


人の “不幸な未来”が見える「サキヨミ」の力を持つ私・如月美羽。同じ部活のミステリアスなイケメン・瀧島君と二人で、協力して未来を変えることに! でも最近、友だちの美羽ちゃんの様子がおかしくて……?

 ※2023年12月15日までの期間限定公開です。

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.。*゚+.*.。 12 苦しい決意 ゚+..。*゚+

 ドキドキが、おさまらない。それどころか、どんどん激しくなっていく。

 きっと、そうだ。それならぜんぶ、説明がつく。

 瀧島君と付き合ってないって言いながら、毎日いっしょに帰ったりして、私が瀧島君をひとりじめしてるから……そのことが、夕実ちゃんを苦しめてたんだ。

(なんで、気づけなかったんだろう――……)

 あんなにいっしょにいたのに、私、夕実ちゃんのこと、ぜんぜんわかってなかった。

 夕実ちゃんはきっと、私にがっかりしたんだ。自分の気持ちに気づいてくれない私のことを、友達だなんてとても思えないよね。

(――やり直したい。今からでも、ちゃんと夕実ちゃんの友達になりたい……!)

 そのためには、夕実ちゃんを――夕実ちゃんの恋を……応援、しなきゃ。

 そう思ったとたん、ズキッと胸に痛みが走った。

「もしかして……何か、見たのか? それで気分が悪いとか……」

「――ごめん」

 私は瀧島君の言葉をさえぎるように言った。

 視線が、白い廊下に落ちる。瀧島君の顔を、まっすぐ見ることができない。

「……今日は私も部活休むって、レイラ先輩に伝えてもらえるかな」

「何か、あったんだな」

 瀧島君の声が、硬く厳しくなる。――苦しい。

 そうだよって言いたい気持ちと、違うって言わなきゃって気持ちが、心の中でせめぎあってる。

「話してくれ。力になりたい」

 瀧島君の足が、一歩近づいてくる。私はあわてて背を向けた。

「もう、帰らないと」

「――待て」

 手首をつかまれた。体が、びくりと震える。

「何を、隠してる?」

 瀧島君の優しさが、あたたかい手から伝わってくるようで、たまらなかった。

 ぜんぶ、話してしまいたい。でも、それはできないんだ。

 私は「夕実ちゃんの友達」として、正しい行動を選びとらないといけない。

 

「瀧島君。……もう、いっしょに帰るの――やめよう」

 

 手首をつかむ瀧島君の手から、一瞬力がぬけたのがわかった。

「それは……そうしなければいけない理由が、何かあるのか?」

 ゆっくりとした、静かな口調。その裏に見え隠れする優しさが、逆につらい。

 理由なんて……夕実ちゃんが瀧島君を好きかもしれないから、なんて、言えるわけない……!

「……へっ、変なふうに思われたら、イヤなの」

 必死で、言葉をしぼり出す。

「変って……」

「B組で、ウワサになってるんだって。私たちが、二人で歩いてたって……」

「ウワサに?」

 瀧島君の声には、おどろきの色が感じられた。私は両手に力を入れ、ぐっとにぎりこむ。

「だから、私……とにかく、困るの!」

 勢いよく言い放つと同時に、ばっと手首を引きぬいた。そのまま、ふりかえらずに走りだす。

(瀧島君……ごめん。本当に、ごめんね……!)

 階段を下りて、学校を出て。校門をぬけても、瀧島君は追いかけてこなかった。

 機械みたいに足を動かしながら、私は学校を離れた。

 道端の電柱に手をついて、みだれた息を整える。

 夕実ちゃんが瀧島君のことを好きだからって、私と瀧島君の関係が切れるわけじゃない。同じ美術部の仲間なんだし、いっしょにいたってべつに不自然じゃないかもしれない。

 だけど、もし二人が付き合うことになったら?

 そうなったら、もう瀧島君と二人で帰るなんてこと、できなくなる。

 サキヨミ会議は、どうなるんだろう。電話でする?

 でも、二人でコソコソとそんなことを続けてたら、いつかきっと夕実ちゃんに知られることになる。そのときに、なんて説明する?

 サキヨミの秘密を絶対守らなきゃいけないのなら、言いわけできない。

 つまり……こうするほかに、方法がなかったんだ。

 友達の恋は、応援する。絶対、ジャマしちゃだめ。

 それが、友達としての正しい行動……なんだから。

(……これで、よかった。よかったんだよ)

 重い足を引きずるようにして、私はひとりの帰り道を歩んだ。

 

 次の日の六時間目は、遠足の前日準備の買い出しにあてられた。

 班ごとに必要な食材を買って、それぞれが分担して家に持って帰り、明日の遠足に持ってくる、ということなんだけど……。

 うちの班の買い出しは、ひどいものだった。

 塩野さんは佐藤さんの班のほうに行っちゃったし、夕実ちゃんも完全に私を避けたまま。

(ええっと、卵と、チーズと……)

 私は割り当てられた食材メモを見ながら、ひとりでスーパーの棚の間を歩き回る。

 すぐ近くでは、他の班の子たちが笑い合っている。その楽しそうな声を聞いていると、きゅっとノドのあたりが苦しくなる。

 ひとりでいることなんて、ずっと慣れっこだったはずなのに。

 となりに、夕実ちゃんがいない。それだけで、涙が出そうになってくる。

 瀧島君とも、あれから一言も話していない。連絡も来ない。

(瀧島君、怒ってる、かな……)

 きっと、そう。でも、しかたがない。ろくに話もしないまま、逃げてきちゃったんだもん。

 体も心も、ずしりと重い。楽しいはずの買い出しは、つらい思い出として終わりそうだ。

 このまま遠足も、楽しめないまま終わっちゃうのかな……。

「塩野さん、待って!」

 レジに向かおうとしたとき。聞き覚えのある声に、私は足を止めた。

 見ると、入り口のすぐそばに塩野さんが立っていた。そこに向かって駆けよったのは、買い物袋を手にした――夕実ちゃんだ。

「昨日、塩野さんの部活が終わるの、待ってたの。でも、親に呼ばれて、帰らなきゃいけなくなっちゃって」

 言いながら、夕実ちゃんは出入りするお客さんを気にして、脇へとよけた。

「待って、どうするつもりだったんだ?」

 塩野さんの声は、静かだった。夕実ちゃんは身を乗り出すようにして続ける。

「演劇部のこと、話したかったの。あの……昨日、部活で先輩に怒られたって聞いたけど、本当?」

 その言葉に、ハッと息をのむ。

(……もしかして、私が昨日見た、あのサキヨミのこと? あれが、実現しちゃったの?)

「それをあたしが話す必要、あるのかな」

「……やっぱり、そうなんだね。ごめんなさい」

「また、謝った。謝るんじゃなく、行動で示してほしいって、言ったよな」

「ご、ごめん。私、塩野さんに、本当に悪いことしたって思ってる。だから、考えたの。演劇部に入ることはできないけど、何か手伝えることないかなって、思って」

「手伝う?」

「そう。部員じゃなくても、お手伝いをしてる先輩がいるって聞いたの。だから私も……」

「入部してくれないと、意味がないんだ!」

 塩野さんの強い語調に、夕実ちゃんの肩がびくっとはねた。

「…………ごめんなさい、塩野さん」

 その声は、少し震えていた。塩野さんはしばらく夕実ちゃんを見ていたけれど、自動ドアが開いた瞬間、くるりと身をひるがえして外へ出ていった。

 夕実ちゃんは、買い物袋を提げたままうなだれていた。

 そのさびしそうな背中に、昔の自分の姿が重なるようで、胸が重苦しくなる。

(声をかけなきゃ……友達、なんだから)

 そう、思った瞬間。

 心臓が、ドクドクとさわぎはじめた。

(……なんで?)

 もしかして……私、夕実ちゃんに話しかけるのが、怖いの……?

 カゴを持つ手が、震えてる。

 今日も昨日と同じように、私は夕実ちゃんに何度も話しかけた。でも、ぜんぶ空ぶり。

 夕実ちゃんの態度は、まるで私なんかいらない、って言ってるようで。

 それを見るたびに、胸がひきさかれるようだった。

(私……夕実ちゃんに拒絶されて、自分が傷つくのが、怖いんだ……)

 なんて……なんて、なさけないんだろう。

 そのとき、カートを押したお客さんが前からやって来た。それを避けようとした私は、近くの金属製のワゴンにカゴをぶつけ、ハデな音を立ててしまった。

 その音に、夕実ちゃんがふりかえる。あっと口が開いたものの、私は声を出すことができない。

 夕実ちゃんは、ぎゅっと口を結んだ。かと思うとそのまま顔をそむけ、出ていってしまった。

 ――ズキン

 胸が、痛い。つらい。苦しい――……。

 私はしばらく、その場から動くことができなかった。


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