<①~③巻トクベツ無料公開!>『サキヨミ!』第11回 遠い背中

人の “不幸な未来”が見える「サキヨミ」の力を持つ私・如月美羽。同じ部活のミステリアスなイケメン・瀧島君と二人で、協力して未来を変えることに! 友だちもできてドキドキの中学生活だけど、何やらフオンな出来事が……?
※2023年12月15日までの期間限定公開です。
...。oо○ ①巻もくじ はこちら ○оo。...
...。oо○ ②巻もくじ はこちら ○оo。...
.。*゚+.*.。 11 遠い背中 ゚+..。*゚+
(ふええ……)
次の日の朝。校門をくぐった私は、昨日のことを思いだして熱くなるほおを、さっと押さえた。
(瀧島君、雪うさになったとたんにキャラが変わっちゃって……すっごいくっついてくるんだもんなあ……)
あの後、瀧島君の勢いに負けて、結局私はあの衣装を着るはめになってしまった。
測ったわけでもないのに、なぜかサイズはぴったり。ウエストはリボンで調節できるようになってたから、ぜんぜん苦しくもなくて。着心地も、すごくよかった。
「ミミふわ、かわいい! 天使! ほら、スマホ見て!」
そう言って顔をよせてくる瀧島君から必死で逃げようとしたけど、ぐっと肩を引きよせられて、抵抗できず。そのまま何枚も、スマホで写真を撮られてしまった。
その中の一枚を送ってくれたけど……恥ずかしくって、もう二度と見られない!
でも、雪うさになった瀧島君、すっごくきらきらしてたなあ。動画と違って声は瀧島君のままなのに、だんだんほんとの女の子といるような気がしてきちゃって。
元の格好に着がえるとき、瀧島君がいる前で衣装をぬぎそうになっちゃったんだよね。
あわてて注意してくれたからよかったけど、ほんとに危なかったよ……!
「おはよう、美羽ちゃん」
昇降口に足を踏み入れたとたん、背後から優しい声。現実に戻った私は、ばっとふりかえる。
「ゆ、夕実ちゃん! おはよう!」
うれしくて、思わず顔がほころぶ。夕実ちゃんは、いつもと変わらない優しい顔をしていた。
でも、その後の言葉で、私は固まってしまった。
「今日は、瀧島君といっしょじゃなかったの?」
「……え?」
「昨日の朝は、いっしょだったんでしょ。美羽ちゃんと瀧島君が二人で歩いてたって、B組でウワサになってるみたいだよ」
(……そんな!)
あまりのショックに、があんと頭をなぐられたみたいだった。
昨日、瀧島君といっしょに登校していたところ。それを見られたうえに、ウワサにまでなっていたなんて……!
「美羽ちゃんさ、部活がない日も、瀧島君といっしょに帰ってるよね。最初は偶然いっしょになっただけ、みたいな感じだったけど、今じゃもう、当たり前になってるよね」
「えっ……?」
その声の硬さに、ぎくりとする。夕実ちゃん、とつぜん、どうしたの……?
「ねえ、美羽ちゃん。美羽ちゃんと瀧島君って、どういう関係なの?」
「ど、どういう、って……部活がいっしょってだけで、べつに、なんでもないよ」
泳ぐ目線を必死に落ち着かせながら、なんとかそう答える。
すると、夕実ちゃんの顔からすうっと表情が消えた。
「……そっか。そうだよね。もしなんでもなくなかったとしても、私には言えないよね」
(…………!)
言葉が、出てこなかった。夕実ちゃんは、ゆっくりと私から目をそむける。
くらり、と一瞬世界がゆれたような気がした。見慣れた昇降口の風景が色あせて、暗くなったみたいに感じる。
私がぼう然としている間に、夕実ちゃんは素早く上履きを履いた。
「瀧島君は、人気者だから。いっしょにいると目立つし、すぐウワサになっちゃうし、気をつけたほうがいいよ」
そうして私を置いて、廊下に向かって歩き出した。けれどもすぐに止まって、
「あとさ、教室では、あんまり私といっしょにいないほうがいいよ。美羽ちゃんもまきこまれちゃったら、悪いから……」
ふりかえらずに言うと、そのままひとりで先に行ってしまった。
私は昇降口に立ったまま、しばらく動くことができなかった。
その日の授業は、ぜんぜん頭に入らなかった。
目の前にある夕実ちゃんの背中が、すごく遠くに感じられて。
クラスメイトの視線も、相変わらず冷たいまま。塩野さんも口数が少ないし、教室の空気は昨日よりもさらに重くなったみたいだった。
休み時間のたびに声をかけたけど、夕実ちゃんは私を避けるようにどこかに行ってしまう。
(放課後になれば、きっと話せるよね……?)
夕実ちゃん、昨日だって、部活のときは前と変わらない様子に見えた。
だから、話すチャンスはあるはず。そうすればきっと、また前と同じ関係に戻れる。
(だけど……)
今朝の昇降口で味わった、暗闇に放り出されるような感覚が全身をおそった。
あのとき、夕実ちゃんは……どうして急に、様子が変わったんだろう。
「おはよう」ってあいさつをしたときは、私の知ってる、優しい夕実ちゃんの顔だった。
でも、瀧島君の話になってから、とつぜん態度が硬くなったような気がする。
夕実ちゃんが悩んでいるのは、塩野さんたちとのことだとばかり思っていたけど……。
もしかしたら、瀧島君と私のことも、何か関係あるのかな。
『なんでもなくなかったとしても、私には言えないよね』――夕実ちゃんは、そう言った。
それって、どういうことだろう。
瀧島君と私のことを言ってたんだよね。瀧島君と私が、なんでもなくなかった…………。
(あっ……)
まさか、とは、思うんだけど。
夕実ちゃんが、前に電話で聞いてきたこと……瀧島君と私が、つ、付き合ってる……っていう、とんでもない誤解。
絶対にないって否定したけど、もしかして夕実ちゃん、まだそう思ってるのかな。
でも、どうしてそれで、夕実ちゃんの態度が硬くなるんだろう……?
――キーンコーンカーンコーン……
終礼のチャイムが鳴った。みんながガタガタと席を立って、帰り支度を始める。
前の席に座る夕実ちゃんも、教科書をカバンにしまいはじめた。
「あの、ゆっ、夕実ちゃん!」
なんとか話さなきゃ、とあわてて声をかける。夕実ちゃんはふりかえらず、横目でちらりと私を見ると、すぐに顔を前に戻してしまった。
「何?」
「今日、部活行くよね? 私、夕実ちゃんと話がしたくて……」
「ごめん、今日は私、部活には出ないの。用事があるんだ」
「え? だって、今日、活動日――」
「レイラ先輩には、もう休むって伝えたから。美羽ちゃんは行くんでしょ?」
そう言うと、夕実ちゃんはカバンを持って立ち上がった。
いけない。これじゃなんにも話せないまま、今日が終わっちゃう!
「ま、待って! 少しだけでも、話せない? 私、どうしても夕実ちゃんの……」
「美羽ちゃんは、瀧島君を大事にしなよ」
「――え?」
きょとんとする私に向きなおった夕実ちゃんは、口元に少しだけ笑みを浮かべていた。くりくりと丸く大きいはずの瞳は、くもった眉の下で細められている。
「ごめん。もう、行くね」
夕実ちゃんはそう言うと、流れるように教室を出ていってしまった。
(そんな……! どうして……?)
胸が、押しつぶされるみたいだった。いつの間にか震えていた両手を、ぎゅっと組み合わせる。
ふと視線に気づいてふりかえると、塩野さんがけわしい目つきでこっちを見ていた。私の顔を見ると、どこか気まずそうに視線をそらす。
その顔を、見た瞬間。耳元で、ノイズが走った。
(あっ……!)
サキヨミが、始まる――!