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<①~③巻トクベツ無料公開!>『サキヨミ!』第10回 美術部、始動


人の “不幸な未来”が見える「サキヨミ」の力を持つ私・如月美羽。同じ部活のミステリアスなイケメン・瀧島君と二人で、協力して未来を変えることに! 友だちもできてドキドキの中学生活だけど、何やらフオンな出来事が……?

 ※2023年12月15日までの期間限定公開です。

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...。oо○ ②巻もくじ はこちら ○оo。...

.。*゚+.*.。 10 美術部、始動 ゚+..。*゚+

 あの後、うちの班はお好み焼きを作るってことに決まった。

 話し合いはほとんど塩野さんと男子たちだけで進んで、夕実ちゃんと私は置いてけぼり。

 というか、夕実ちゃんが何かエンリョしてるみたいに、ほとんど口を開かなかったんだ。

「美羽ちゃん、今日も部活行くでしょ?」

 放課後。ホームルームが終わったとたん、夕実ちゃんがいつものように聞いてくる。

「あ、うん! 夕実ちゃんも、行くよね?」

 美術部の活動日は、火曜日と金曜日の週二回。でも部長のレイラ先輩と副部長の叶井先輩はほぼ毎日美術室にいるし、私も美術部のみんなといるのが楽しいから、活動日以外も部活に行くのが当たり前になっていた。

 でも、私が毎日部活に行く理由は、それだけじゃないんだ。「瀧島君といっしょに帰ってサキヨミ会議をするため」っていうのもある。

 瀧島君はとなりのクラスだし、日中に話をするのは、かなりむずかしい。

 廊下からちらっとB組の教室をのぞいたことがあるけど、瀧島君、いつもクラスメイトに囲まれてるんだ。

 呼び出しなんて、もってのほか。そんな目立つことしたら、瀧島君のファンから目をつけられちゃうよ。

 だけど、同じ美術部員だから、いっしょに帰ることは不自然じゃない。

 もしだれかに見られて何か言われたとしても、「部活が同じ」ってことが言いわけになるもんね。

「うん、もちろん行くよ」

 夕実ちゃんが大きくうなずく。

「そろそろ、ちゃんとした活動が始まる頃だと思うんだ」

「ちゃんとした活動?」

「美術部としての活動だよ。今までは、イス取りゲームとかボードゲームばかりだったでしょ」

 そ、そういえば、そうだった……。

「まずは部員みんなが仲良くなるのが大事」っていうレイラ先輩の発案で、みんなで遊んでばっかりだったんだ。

 叶井先輩は、最初こそ「ちゃんとやりましょう」って息まいてたけど、そのうちあきらめて、ため息をつくだけになっちゃってたな。

 二人ならんで廊下に出る。と、近くにいた女子の一団が、とつぜんおしゃべりをやめた。だまったまま、じっと私たちに視線を向けてくる。

 ずん、と胸が重くなる。いったい、何なんだろう……。

 塩野さんや演劇部の子たち、それにクラスメイトの冷たい視線を思い出す。

(やっぱり、ちゃんと聞かなきゃ。夕実ちゃんに、何があったのか)

 夕実ちゃんは、早足で歩いていった。その後を、私は小走りで追いかける。

「夕実ちゃん。ちょっと、聞きたいことがあるんだ」

 私の呼びかけに、夕実ちゃんの歩みが止まった。

「……何?」

「朝も聞いたけど……やっぱり、塩野さんたちと、何かあったんじゃないかなって思って」

 夕実ちゃんは、答えなかった。止めた足を階段にかけ、早足で上っていく。

「クラスのみんなも、なんだか様子がいつもと違う気がするの。もし何かあったんなら、教えてくれないかな。私、頼りないかもだけど、力に……」

「――何も、ないよ」

 夕実ちゃんは、踊り場でくるりとこちらをふりかえった。そうして、ぎこちない笑顔になる。

「大丈夫! 美羽ちゃんが心配するようなことは、何もないから。さ、早く行こう! 瀧島君、もう来てるんじゃないかな?」

 そう言いながら、タンタンと階段を駆けあがっていってしまった。

 残された私は、ひとり階段の前で立ちつくした。

(また、何も聞けなかったな……)

 思わずため息が出た。あの笑顔……夕実ちゃん、きっとムリしてる。

 いったい、夕実ちゃんと塩野さんの間に、何があったんだろう。

 今朝、塩野さんは、「悪いと思ってるなら、演劇部に入部したらどうなんだ」って言ってた。

 他の子も、「それが筋を通すってこと」って言ってたよね。

 つまり、夕実ちゃんが演劇部に入部しないといけないワケが、何かある……ってことなのかな。

 でも、どうして演劇部なんだろう。

 夕実ちゃんは、去年ここの文化祭に来たときから、美術部が気になってたって言ってた。演劇が好きとか、演劇部に興味があるとか、そんな話は聞いたことがない。

 それに、塩野さんが最後に言った、「ウソつき」って言葉も気になる。

(夕実ちゃん、どうして話してくれないのかな……)

 やっぱり、私が頼りないから……話してもしょうがないって、思ってるのかな。

 今朝までの私は、夕実ちゃんといっしょに、楽しい中学校生活が送れると思ってた。

 クラスメイトとして、同じ美術部員として、いっしょに楽しい思い出を作っていけるって、信じてうたがわなかった。

 でも、その未来は、絶対じゃないのかもしれない。

 未来は、変わる。サキヨミで見た未来が現実になるのを阻止できるように、ちょっとした行動がきっかけで、どんどん変わっていく。

 だから、私と夕実ちゃんの友達関係も、楽しい未来も……約束されたものじゃ、ない。

 ――けど。逆に考えれば、未来はどんなふうにも変えられるってことだよね。

 未来は、変わる。変えられる。だからこそ、がんばりがいがあるんだ。

 これは、夕実ちゃんともっと仲良くなるための試練なのかも。あきらめるのは、まだ早いよね。

 それに私には、瀧島君っていう、力強い仲間がいるんだから。

(大丈夫。がんばれば、きっと乗り越えられるはず……!)

 私はくっとあごを上げ、階段を一歩ずつ踏みしめていった。

 

「あ、来た来た! ミウミウ、ユミりん! 待ってたよー!」

 美術室に入った私たちを、レイラ先輩が元気な声で迎えてくれた。ニコニコしながら、黒いペンを持った手をブンブンとふっている。

 叶井先輩と瀧島君も、そのすぐそばに座っていた。

「今ね、ひー君とタッキーの誕生日を聞いてたの。二人も教えてくれる?」

「え? 誕生日、ですか?」

 夕実ちゃんが不思議そうに首をかしげる。

「そう! やっぱり仲間の誕生日はお祝いしたいでしょ? だから聞いておかなきゃって思って!」

 レイラ先輩はそう言うと、左の手のひらを広げてみせた。

 そこには黒い文字で、「ひー君:十月三十日 タッキー:四月二日」と書かれていた。

 ひー君っていうのは叶井先輩の名前「ヒサシ」からきたあだ名で、タッキーは瀧島君のこと。

 そっか、瀧島君の誕生日、もう終わっちゃってるんだ。

 ちなみにさっきの「ミウミウ」と「ユミりん」も、レイラ先輩が私たちにつけたあだ名。あだ名なんて初めてだからびっくりして最初はなじめなかったけど、最近はすっかり慣れちゃった。

「へえ……! 叶井先輩、さそり座なんですね」

 夕実ちゃんが、目を輝かせながらつぶやいた。叶井先輩は「ああ」と答えながらも、何やらチラチラとよそ見をしている。その目線の先は……美術準備室?

 すると、叶井先輩を見ていた夕実ちゃんが、「そういえば」と明るい声を出した。

「叶井先輩って、どういう絵を描かれるんですか? 見てみたいなあ」

 夕実ちゃんは、レイラ先輩に向かって目をパチパチさせた。まるで、何か合図するみたいに。

 するとそれを見たレイラ先輩は、ハッと目を見開いた。

「あ、ひー君ごめん! 始めてていいよ」

「本当ですか? ありがたい!」

 叶井先輩は勢いよく立ち上がり、美術準備室に駆けこんでいった。

 始める? 何のことだろう。

「ユミりん、ありがと。おかげでひー君がバクハツせずにすんだよ。ああ見えて、怒るとけっこう怖いんだから」

「バクハツ、ですか?」

 夕実ちゃんが目を丸くする。

「ああ、気にしないで! 前に一度あっただけだから。それより、誕生日だよ! まず、ユミりんはいつなの?」

「私は、十二月五日です。美羽ちゃんは?」

「あ、私は、六月八日……」

「へえ、ふたご座なんだ! ちょっと意外かも。レイラ先輩は、誕生日いつなんですか?」

「あたしは三月十四日のホワイトデーだよ! 覚えやすいでしょ!」

「すごい! バレンタインのお返しが豪華になりそうですね」

 そう言うと、夕実ちゃんはかわいい笑顔になった。さっきまでの様子とは違って、楽しそう。前と同じ、明るくて優しい夕実ちゃんの顔だ。少し、ほっとする。

 そのとき、叶井先輩が美術準備室からイーゼルを運んできた。そこに置かれていたのは、芝生の上でこちらを見上げる、かわいいポメラニアンの絵だった。

「す、すごい! それ、叶井先輩が描いたんですか!?」

「え? あ、ああ」

 とつぜん興奮ぎみの声をあげた夕実ちゃんの勢いに、叶井先輩は目をぱちくりとさせた。

「うわあ、すごいです……! 水彩ですよね? この毛の質感、いったいどうやって出してるんですか?」

「これは、まあ……独学で習得したんだ」

 照れを隠すように、叶井先輩はくいっとメガネを押し上げた。

「独学? すごい! 私も、動物の絵が描きたいなって思ってたんです。よかったら、私にも教えてもらえませんか?」

「もちろん、かまわない」

「ありがとうございます!」

 するとその二人のやりとりをニヤニヤと見ていたレイラ先輩が、私のほうに向きなおった。

「ユミりんは決まったね。あとはミウミウだけだよ」

「え? 何がですか?」

「文化祭で展示する作品のことだよ」

 瀧島君が言った。文化祭……そうか。今年も当然、文化祭があるんだ。

「如月さん、ここに来なよ」

 言いながら、瀧島君がイスを引いてくれる。私はお礼を言いながらそこに座った。

「あのね、美術部は、毎年文化祭で作品の展示をすることになってるんだ。なんでも好きに制作して大丈夫。絵じゃなくて、工作でも、なんなら手芸でも。ミウミウ、何か得意なことある?」

「え……ええっと……」

 言葉につまる。美術部に入ったのはいいけど、実は私、そんなに絵は得意じゃないんだよね。

「ちなみに僕は、叶井先輩と同じく水彩で、風景画を描こうかと思ってる」

 瀧島君が言った。風景画かあ。瀧島君の絵って見たことないけど、きっと上手なんだろうな。

「あたしは、60号のキャンバスに油絵を描こうと思ってるんだ。中学生活最後の絵になると思うし、受験の前に、大きなことやっておきたくて」

 そう言うと、レイラ先輩は何かを想像するように、楽しげな視線を宙に向けた。

「何描こうかなあ。自由ってむずかしいけど、なんでもアリだからおもしろいよねぇ」

「如月さん、絵を描くの好きだろう?」

 瀧島君にとつぜん言われ、びくっとする。

「ええっと! 好きっていうか、きらいではないけど、得意ってわけでも、ないというか……」

 思わず、しどろもどろになる。誘われたからとはいえ、なんで私、美術部に入ったんだろう。なんだか、本当にここにいていいのかなって思っちゃうよ。

 するとレイラ先輩が、太陽のような笑顔を私に向けた。

「大丈夫! 時間はたっぷりあるんだし、ゆっくり考えていけばいいよ! そもそも、上手じゃなくていいんだよ。楽しめばいいの! 楽しんで作ったものは、それだけですごい力があるものなんだから」

 そのあたたかい言葉に、ほわりと心がなごんだ。

(楽しむ、かあ……)

 そういえば、席がえして夕実ちゃんといっしょの班になったとき、これでいっしょに遠足が楽しめるって、二人で大喜びしたんだよね。

 今度の遠足は、そのとき思いえがいたとおりの、楽しいものにしなきゃ。

「あ、そういえば、一年生はもうすぐ遠足があるんじゃない?」

 私の心を読んだようなレイラ先輩の言葉に、ドキッとする。

「はい、今度の木曜ですよ」

 瀧島君が答える。

「自然公園のキャンプ場でしょ? あそこ、いい景色がいっぱいあるんだよねえ。ミウミウも大自然の中で楽しめば、何か作品のインスピレーションが得られるかもよ? タッキーも、風景画描くんだったら、いっぱい写真撮ってくるといいよ」

「なるほど、遠足にかこつけてモチーフ探しをしろってことですね」

 瀧島君の言葉に、レイラ先輩が口をとがらせる。

「べつにそんなつもりで言ったんじゃないけど。あ、でも! モチーフなら、キャンプ場のすぐそばにいいところがあるよ。その名も『大蛇の滝』!」

「だいじゃ?」

「そう。ヘビの神様が棲んでるって言い伝えがあるから、そういう名前なんだって。パワースポットとしても有名なんだよ! あたしが一年生のときはまだ有名になる前だったから、行ったことはないんだけど。雑誌で見たら、エメラルドグリーンの滝つぼがすっごくきれいだったんだ」

「へえ、そんなところがあるんですね! ヘビはちょっと、苦手ですけど」

 すぐ後ろで、夕実ちゃんが言った。いつの間にか、そばに来ていたみたい。

 すると、イーゼルの前に立っていた叶井先輩がふりかえった。

「その滝、今は見にいけませんよ」

「えええっ!? ひー君、それホント!?」

「ええ。ついこないだ、滝つぼで水難事故があったんですよ。だから、滝つぼを見下ろせる岩場付近の遊歩道は封鎖されて、立ち入り禁止になっているらしいです。ニュースで見ました」

「そんなあ……」

 夕実ちゃんが、残念そうにがっくりとうなだれる。

「でもさ、近くに行くだけでも、何かいいことあるかもよ? 何しろ、大蛇だよ! 神様だよ! きっと願いもかなえてくれるし、御利益あるよ~!」

 レイラ先輩が、夕実ちゃんの背中をぽんぽんとたたく。

「……そうですよね。きっと、いいことありますよね」

 そう言って、夕実ちゃんはほほえんだ。

 その笑顔は――いつもより少しだけ、影がさしているように見えた。


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