<①~③巻トクベツ無料公開!>『サキヨミ!』第7回 妹分、デビュー
.。*゚+.*.。 新たな危機 ゚+..。*゚+
シュウと夏葉ちゃんがボートに乗ったのを確認してから、私たちは人目を避けるように近くの林へと移動した。
「もしかして、さっきのメガネの子?」
変装をしたままの瀧島君に問われ、私はうなずく。
「あの子のスマホ、ケースが猫耳形だったの。シュウのサキヨミで見たのと、同じだった」
それだけ言うと、瀧島君はすべてを理解したようにうなずいた。
「……そうか。見晴台は、高い丘の上にある。金網のむこうは……崖だ」
夕実ちゃんが言っていた、「カップルが永遠の絆で結ばれる伝説」。私があの子に「見晴台で」と言ったのは、サキヨミで見た南京錠から、この伝説を思いだしたからだった。
「サイトの情報によると、あの崖の高さは約六メートル……マンションで言ったら三階くらいの高さだ。下は公園の駐車場。地面は、コンクリート」
瀧島君の言葉で、シュウのサキヨミを思いだす。シュウが倒れていた地面。あれは、コンクリートだった。
(そうか、わかった……!)
「シュウは、あの子が落としたスマホを取ってあげようとして、金網を乗りこえた。そして、何かの理由で、崖から落ちた……ってこと?」
私のつぶやきに、瀧島君がうなずく。
夏葉ちゃんの悲鳴がしたのは、二人であそこを訪れていたからだ。伝説を信じて、南京錠をかけようとしていたのかもしれない。
でも、あれはカップルのための伝説。付き合っていないのに、どうして二人であそこに行ったんだろう。
(やっぱりあの二人、付き合ってるんじゃ……?)
でも、さっきの夏葉ちゃんは、ウソをついているようには見えなかった。
南京錠をかけたいと思う、何か特別な理由があるのかも……。
「昨日の雨で土がやわらかくなっていたせいか、草で足がすべったか……とにかく、見晴台という場所は確定でよさそうだね」
「あのメガネの子、今どこにいるんだろう。見晴台に行くかな」
「わからない。けれどもきちんと『占い』をしてあげたから、もう彼女がスマホを落とすことはないだろうし、そうすればシュウ君も金網を乗りこえることはなくなる」
「じゃあ、シュウのサキヨミはもう、実現しないってこと?」
「その可能性が高い。というより、僕らが介入したことで、すでに運命が変わりはじめていると考えたほうがいいのかもしれない」
運命が、変わりはじめている……?
「それ、どういうこと?」
「シュウ君のサキヨミを見た昨日の夕方の時点で、仮にあのメガネの子のサキヨミを見ていたとしよう。その場合、内容は『スマホを落として困ること』ではなく、もっと悲惨な『自分のせいで男の子が怪我をしてしまうこと』になっていたはずだ。でも、さっき如月さんが見たサキヨミでは、そうなっていなかった。ミミふわが生配信を始めて、シュウ君たちに話しかけたことで、公園内にいる人たちの行動が変わった……つまり、運命が変わったんだ」
ええっと……そっか、なるほど。
さっきのメガネの子のサキヨミに、シュウは出てこなかった。
昨日のサキヨミ通りなら、シュウとあの子は同じ時間に見晴台にいたはず。でもミミふわが占いをしたことによって、シュウたちの行動が変わって……見晴台に行く時間がずれたんだ!
「如月さんが昨日見たシュウ君のサキヨミは、おそらくそのままの形では実現しない。けれど運命がどう変わったのかがわからない以上、二人を見守り続けたほうがいいだろう。念のため、さっきのメガネの子も追いたいところだな。見晴台で何事も起こらないのを、きちんと見とどけたい。シュウ君でなくとも、他の人が似たような目にあう可能性も……」
瀧島君がそう言ったときだった。
「ミミふわちゃーん!」
後ろから、聞き覚えのある声がした。ふりかえった私は、一瞬自分が「ミミふわ」であることを忘れていた。
「すごーい! さっきまで、配信見てたんです! こんなところでかくれんぼですか?」
(れ、レイラ先輩……!)
そう。そこにいたのはまちがえようもない、レイラ先輩その人だった。
いや、それだけじゃない。レイラ先輩の後ろには、顔をキラキラと輝かせている叶井先輩に、おどろいたように目を丸くしている夕実ちゃんまでひかえていた。
まさか、こんなところで見つかっちゃうなんて……!
「す、すごい……本物の雪うさの衣装だ……!」
「もう、今日の占いは終わりなんですか?」
感動にふるえる叶井先輩のとなりで、レイラ先輩が言う。
「え? え、えーっと……! とりあえず、おしまい……のつもりだったんですが……」
やばい。おどろきすぎて、動揺を隠しきれないよ。
すると瀧島君が咳ばらいをしてから、低い声でしゃべりだした。
「実は、雪うさから秘密の任務を託されていまして……先ほどの生配信は、カモフラージュだったのです」
(……たっ、瀧島君っ!?)
秘密の任務って……いきなり、何言ってるの!?
「ひ、秘密の……? 雪うさは、単なる占い動画配信者ではないということなんですか……?」
叶井先輩が、ずいと前に出てくる。
「え、え、それじゃ、何? もしかして……謎の超能力組織の一員、とか!?」
「ちょ、ちょっと、レイラ先輩……! 声が大きいですよ!」
夕実ちゃんがあわててしーっと指を立てる。も、もしかして、信じてくれてる?
「とある人たちの無事を、見とどける必要があるのです。ここで出会ったのも何かの縁。ぜひ、あなたたちに協力をしていただきたいのですが、どうでしょう?」
瀧島君はそう言って、顔を池のほうへと向けた。つられてそっちを見ると、池のほとりのベンチに座る女の子。さっきのメガネの子だ!
「彼女の尾行をお願いしたいのです。五分ごとに場所と行動を報告していただけると助かります」
「あのメガネ女子ですね! もちろん、ご協力します!」
叶井先輩が興奮ぎみにうなずき、レイラ先輩も「まかせてください!」と親指を立てた。
なるほど、あの子をレイラ先輩たちにまかせて、私たちはシュウと夏葉ちゃんを引き続き見守る、ってことだね。
「報告の方法は?」
「雪うさのSNSにメッセージをください」
「了解です」
叶井先輩のメガネの縁がきらりと光る。
「よし! それじゃあ、ミミふわ応援隊、行くよ!」
「はいっ!」
レイラ先輩に続き、夕実ちゃんがこぶしをつきあげる。
「健闘を祈ります」
瀧島君がそう言ったとき、ちょうどメガネの子がベンチから立ちあがった。
そろそろと忍び足で尾行する三人の背中を見送りながら、瀧島君がふうっと息をつく。
「ああ、おどろいた。まさかレイラ先輩たちに見つかるとは思わなかったな」
「おどろいたのはこっちだよ! いきなり秘密の任務なんて、わけわかんないこと言いだすんだもん」
「うまくいっただろ? これでメガネの子の行動を把握しつつ、シュウ君たちの尾行に集中できる。しかし、あんなにすんなり信じてくれるとはね」
たしかに。雪うさファンの叶井先輩がいたとはいえ、ちょっとうまくいきすぎだ。
(……まさか、とは思うけど……)
「私たちの正体、バレてたりしないよね……?」
全校生徒に「ミミふわの正体は如月美羽」とバレた状況を想像し、ぞわっとする。
もしバレてたら、部活……どころか、もう学校に行けなくなっちゃう!
「大丈夫だろう。普段の如月さんを知ってたら、ミミふわと結びつけようなんて発想すらしないはずだ」
そう言うと、瀧島君はくくっと笑った。
「ほんと、おどろいたよ。まさか、ここまで完璧にミミふわになりきってくれるとはね。立派なデビューを見とどけられて、雪うさも鼻が高いと思うよ」
「か、からかわないでよ!」
今になって、かあああっと急に恥ずかしさがこみあげてくる。何せ「ふわぽよ」だ。ああ、思いだしただけで、恥ずかしすぎてどうにかなっちゃいそう!
「なんか、今までの全部、夢だったんじゃないかって気がしてきたよ……」
「現実だよ。しっかり、みんなの目に焼きついてるはずだ」
瀧島君はそう言って手元のスマホに目を落とした。
「配信動画は録画してないから、コメント欄ももう閉じてるんだけど……SNSのほうで、ミミふわが話題になってるみたいなんだ」
「え、ほんと? なんて言われてる?」
不安のにじみ出た声に、瀧島君はダテメガネの奥にある目を細めた。
「大人気だよ。また見たい、占ってほしいって」
「ま、まさか!?」
「ほんとだよ。これは早々にミミふわ用の衣装を作らないとだな」
「……冗談だよね?」
「本気に決まってるだろう。これからは定期的にこうして生配信を……」
瀧島君の言葉が止まる。その視線の先を追うと、ボートから降りるシュウと夏葉ちゃんの姿が見えた。
二人の正面には、左右に延びる公園の通路。右が正門、左が見晴台の方へと通じている。
(この後、どこに行くつもりだろう……)
「……見晴台には、行かせないほうがいいな」
私の心を読んだように瀧島君がつぶやく。
「でも、どうやって? またミミふわで占って、行かせないようにする?」
「いや、あの態度だと、二人の行動を占いで変えるのはむずかしそうだ」
「だけど、それじゃあ……」
そのとき、夏葉ちゃんがこちらをふりかえった。派手なピンク色の私に気づいたんだろう、苦々しい表情でシュウの手を取って、通路の左方向へと引っぱっていった。
(……そっちは、だめ!)
心の中で、そうさけんだ瞬間。じじじ……と、イヤな音。
まさか。夏葉ちゃんのサキヨミ……!?
視界が暗くなったかと思うと、容赦なくそれは始まった。
――雨の降る、人気のない見晴台。金網の前に立つ夏葉ちゃんとシュウ。
夏葉ちゃんが南京錠をかけたとたん、金網がこちらに倒れてくる。近くにいたシュウが守ろうとするも、間に合わない。
結果的に夏葉ちゃんの顔には大きな傷が残り、モデルの仕事はできなくなってしまう。――
「……如月さん?」
サキヨミが終わったとたん、瀧島君の声。心配げに、私の顔をのぞきこんでいる。
「もしかして……見たのか?」
その言葉に、私はカタカタとふるえながらうなずいた。
「どうしよう。今度は、夏葉ちゃんが……!」
<第8回に続く>
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【書籍情報】
サキヨミ!(1) ヒミツの二人で未来を変える!
- 【定価】792円(本体720円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】新書判
- 【ISBN】9784046320315