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<①~③巻トクベツ無料公開!>『サキヨミ!』第7回 妹分、デビュー


人の “不幸な未来”が見える「サキヨミ」の力を持つ私・如月美羽。同じ部活のミステリアスなイケメン・瀧島君と二人で、協力して未来を変えることに――!?

 ※2023年12月15日までの期間限定公開です。

 ※前回までのお話を読む

.。*゚+.*.。 7 妹分、デビュー ゚+..。*゚+

「今日も未来へひとっとび! 雪うさでーす! ……と、言いたいところですが! みなさま、初めまして! 雪うさの妹分、ミミふわでーす! ふわぽよ~!」

 原っぱに立ち、ポーズを取る私。

 スマホを私に向ける瀧島君が、「いいぞ」と言いたげにうなずいた。瀧島君自身もダテメガネにマスク、帽子で、ちょっとした変装をしている。

「今日は番外編として、雪うさではなく私、ミミふわによる生配信でお送りします! ここ、月夜見(つきよみ)​​​​​​市の川北公園で、突撃占い修業をしていきたいと思いまーす!」

 瀧島君が用意してくれたカンペを読んでいく。始める前は不安でいっぱいだったけれど、いざやってみると、自分でもおどろくほどするすると読める。

 不思議。まるで自分の中に、「ミミふわ」という新しい人格ができたみたいな、そんな感覚。

 瀧島君の言う通り、怖いものなんか、何もないような気がしてくるよ。

「今日は見ての通り、とってもいいお天気です! こういうお天気の日は、占いも当たりやすくなるんですよー! ミミふわ、今日のデビューにあたって、雪うさ師匠からたくさんのことを勉強しました! みなさん、ミミふわの占いにも注目してくださいね! よろしくです!」

 そう言いながら、ちらりと体育館のほうを見やる。

 試合が終わるまで、あと三十分。シュウと夏葉ちゃんが出てくる前に、できるだけたくさんのサキヨミをしなくちゃならない。

 周りにいる人たちが、「何?」「雪うさ?」とざわついて、こっちに注目しはじめていた。

(そろそろ、サキヨミを始めなきゃ……!)

 私は、集まってきた人たちをぐるりと見回した。

「さてさて、まずはだれから占いましょうか……あ、ちなみに、公園での撮影許可は事前に取っているので問題なしですよー!」

 ミミふわになっているせいか、自分でもびっくりするくらい、堂々と顔を上げていられる。

 羽の形の仮面で、顔が隠れているおかげなのかも。

 今の私は、如月美羽じゃない。「ミミふわ」っていうキャラクターなんだ。

 周りには、どんどん人が増えはじめている。その顔を、私は順々に見ていった。

 シュウにつながるサキヨミを見るためには、とにかくたくさん人の顔を見ることが必要なんだ。

(サキヨミを見たいなんて思ったの、初めてかも……)

 そのとき、女子小学生の集団が、「占ってください!」とうれしそうに近よってきた。

 その中のひとり、大きなリボンを頭につけている子の顔を見たとき。

(……見えた!)

 私は、リボンの女の子――サキヨミが見えた子を指さした。

「じゃあまず、そこのあなた! あなたを占いたいんだけど、顔出ししても大丈夫?」

「あ、はい! 大丈夫です」

 ぱっとうれしそうな笑顔になった女の子の顔を、私はわざとじっくり見つめた。

「はい、出ました! スマホをトイレで落としてしまう、という未来が見えます! あなたのピンクのスマホ、今、上着のポケットに入ってますね? そこからすべり落ちることになりそうです。新しいスマホを買ってもらえなくて、とっても不便な思いをすることになりますよ! スマホは、バッグにしまいましょう!」

 そう言うと、その女の子は目を丸くした。そして上着のポケットに手を入れ、真新しいピンク色のスマホを取りだした。同時に、周りの人たちがざわめく。

 シュウに関係するサキヨミじゃなかったのが残念だけど、まずはひとつ、成功したみたい。

 ほうっと、小さく息をつく。

 この調子で公園内の人たちの信頼を得ながら、どんどんサキヨミを見ていけばいいんだ。

「ほんとにこの子、雪うさと関係あるの?」

「だってこれ、雪うさチャンネルだよ」

「雪うさはいないの?」

「ミミふわちゃん、占って!」

 配信を見たのか、どんどん周りに人が集まってくる。

 占って、と言ってきたけれど、サキヨミが見えない人もいた。そういう人には、きっと悪いことは起こらないんだろうと、「運勢は絶好調です」「今日という日を楽しみましょう」なんて言ってあげた。

 サキヨミが見えたときは、その内容の通りの忠告をする。

「おなかを壊すからソフトクリームは食べないように」「まだ友達としか思われていないから、告白はしばらく待ったほうがいい」……こんなふうに、どんどん「占い」をしていった。

 けど、シュウにつながるサキヨミは、ぜんぜん見えてこない。時間ばかりが過ぎていき、私はだんだんあせってきた。

(このままだと、結局何もわからないまま試合が終わっちゃうよ……!)

 もし、何の収穫もないままシュウたちが外に出てきてしまったら、どうするか。それについては、配信を始める前に瀧島君と話し合っていた。

 そのときは……シュウと夏葉ちゃんを引きはなす「占い」をするの。

 シュウのサキヨミでは、夏葉ちゃんの悲鳴が聞こえた。だからシュウと夏葉ちゃんがいっしょにさえいなければ、あのサキヨミが現実になる可能性はぐっと低くなる。そう考えたんだ。

 シュウはともかく、夏葉ちゃんは雪うさのことを知っていそうだし、もしかしたらファンかもしれない。モデルをやってるくらいだから、流行には敏感なはず。

 それにファンじゃなくても、女の子なら、占いに多少は興味があるんじゃないかな。恋愛に関する占いなら、なおのこと。

「あなたたち! 原っぱの真ん中で遊んでいるときに、雨が降ってきそうです。早めに帰るか、今のうちに傘を買っておくことをおすすめします」

 近よってきた女子中学生のグループに、そう言ったときだった。

 瀧島君が、ちらちらと目で合図を送ってきた。

 その視線の先には、体育館。そこから、男子小学生たちがわらわらと出てくるのが見えた。

(……シュウと夏葉ちゃんだ!)

 青のカットソーに、黒のハーフパンツ。すでにユニフォームから着がえているシュウは、夏葉ちゃんとならんで何かしゃべりながら、原っぱのほうへと向かってきていた。

 私は瀧島君に目で合図をし、さりげなくそちらへ移動する。

「それでは、そろそろ場所を移動してみようかと思います~。え、サイン? 生配信中なので、すみません!」

 そう言って人のかたまりを割りながら、シュウたちへと近づいていく。

「あ、あそこにかわいいカップルがいますね! ちょっと占ってみたいと思います。あの、ちょっといいですか?」

 とつぜん近よってきた得体の知れない派手なウサギに、シュウは思いきり顔をしかめている。

(大丈夫。きっと、うまくいくはず……!)

 緊張のせいか、手のひらに汗がにじんでくる。それをふりはらうように、私はこぶしをグッとにぎりこんだ。

「動画のネット生配信なんですけど、顔出ししても大丈夫ですか?」

「え? 生配信……ですか?」

 夏葉ちゃんが、いぶかしげに眉をよせる。

「そうです! 私、雪うさの妹分のミミふわです! 今日がデビューなんですよ!」

 明るいテンションでそう言っても、夏葉ちゃんの表情は硬いままだった。

「え、えーと……雪うさって、知らないかな……?」

「名前は、聞いたことありますけど……あの、顔出しはしないでもらいたいんですが」

 うっ……当てが外れた。

 夏葉ちゃん、雪うさには興味がないみたい……。それになんだか、迷惑そう。

「ええと、じゃあ、足下だけ写させてもらえますか?」

「てか、あんた、何なの?」

 シュウがフキゲンそうに言う。

「ミミふわです! 占いをしてます!」

「……占い?」

 シュウと夏葉ちゃんは、おたがい顔を見合わせた。

 まちがいなく、歓迎はされてないみたい。まずい……! 早く、占いを始めなきゃ。

「で、ではでは、さっそく占わせてもらいます! あなたは何かスポーツをやっていますね? そしてあなたは、芸能関係のお仕事をしているんじゃないですか?」

 すると、シュウが私をにらみつけた。

「何が占いだよ。そんなの、知ってて言ってるんじゃねえの」

「いえいえ、占いですよ! あっ、ちょっと待って! まだ終わってません! あなたたち二人は、カップルですねっ?」

「いえ、付き合ってないです。ただのクラスメイトです」

 冷静な調子でそう言ったのは、夏葉ちゃんだった。

「えっと、あれ? そ、そうなんですか?」

 いつの間にか、てっきりそう思いこんでいた。シュウがあきれたようにため息をつく。

「悪いけど、おれたち用事があるんで」

 そう言うと、背中を向けて歩きだした。夏葉ちゃんもそれに続く。

 あああ、どうしよう! このままじゃ、何も変わらない。

 あのサキヨミが、現実になっちゃう……!



「ま、待ってください! 言葉をまちがえました。あなたたち二人は、たしかに『今はまだ』付き合っていないかもしれません。でもこれから先、強い絆で結ばれるきざしが見えます!」

 私の必死な言葉に、夏葉ちゃんがふりかえった。その表情は、さっきよりも明るくなったように見える。

「……絆? それ、ほんとですか?」

「ほんとです! ただしその絆を結ぶためには、今日はいっしょに過ごしてはいけません。今すぐ、二人別々に家に帰ることをおすすめします!」

(言えた……!)

 私は、ドキドキしながら夏葉ちゃんの反応を待った。

 ここで二人がミミふわの言うことを聞いて帰ってくれれば……あとは、シュウを無事に家に送りとどけるだけ。すぐに着がえて、いっしょに帰ろうと声をかければいい。

 けれど夏葉ちゃんは、何も答えなかった。じっと私を見たかと思うと、くるりと背を向けてシュウの腕を取る。

 そして次の瞬間、ダダダッとすごい勢いで走りだした。シュウも、引っぱられるようになりながら後に続く。

「ちょ、ちょっと待って! どこ行くの!?」

 スマホをかまえた瀧島君が、あわてたように二人を指さしている。「後を追え」ってことだ。

「えーっと……占いは、信じるも信じないも自由です! 決してこちらから押しつけるものではありません! みなさんも、占いとうまく付き合っていきましょう!」

 苦しまぎれの言葉を発しながら、私は夏葉ちゃんたちが走りさった方向……東の池エリアのほうへと、小走りに移動する。

(まずいまずい、すっごくまずい……!)

 シュウにつながるサキヨミを見られたところで、二人を見失っちゃったら、意味ないよ!

 シュウと夏葉ちゃんの姿をしっかりと目に映しながら、私と瀧島君は必死で走った。

 どうやらあの二人は、ボート乗り場のほうに向かっているらしい。

 配信を見たのかウワサを聞きつけたのか、私の前には次から次へと「占いをしてほしい」という人が現れる。

「すみません、場所を移動しようと思うので、道を空けてもらえますか? 占いは後で必ずしますので……」

 人の波をかきわけ、前に進もうとしたときだった。

「きゃっ!」

 視界の端で、女の子が倒れるように転んだのが見えた。人の波の、すぐ外側にいた子だ。

(もしかして、私のせいで巻きこまれちゃった……?)

「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」

 あわてて駆けより、しゃがみこむ。高校生くらいだろうか。女の子は分厚いレンズのメガネを片手でかけ直しながら、ふるふると首をふった。

「わ、私が勝手に転んだだけなので……ぼーっとつっ立ってて、こっちのほうこそごめんなさい」

「本当に、大丈夫ですか? 怪我はないですか?」

 助け起こそうと、私は手を伸ばした。

「平気です! 自分で立てるので……!」

 そう言った女の子が顔を上げた、その瞬間。

 じじじ、と、今日何度目かわからないノイズが走った。

 

――南京錠がたくさんつけられた金網の、すぐ手前。腕を伸ばしてスマホで写真を撮ろうとしている女の子。

 が、スマホを金網のむこうへ落としてしまう。女の子はおろおろとするばかりで、どうすることもできない。――

 

「す、すみませんでした。それじゃ」

 女の子はそれだけ言うと、早足で池のほうへと歩いていこうとした。

「……待って!」

 呼びとめた私に、女の子がびくりとふりかえる。

「――見晴台で写真を撮るのは、やめたほうがいいです。行くにしても、金網に近づかないで。金網のむこう側に、スマホを落としてしまうかもしれません」

 女の子の目が大きく見開かれたのが、メガネのレンズごしにわかった。そうして私はカメラのほうに向きなおる。

「みなさん! 誠に勝手ながら、エネルギーチャージのため、生配信はここで終わりにさせていただきます! また次の機会にお会いしましょう! 以上、ミミふわの突撃占い修業でした!」

 大きく手をふると、周りから「もう終わり?」「占いは?」という不満の声がもれた。私は「ごめんなさい!」と謝りながら、人の波から離れた。

 スマホを下ろした瀧島君が、急いでついてくる。

「……どういうこと?」

 小声で問いかけられ、私はそっと耳打ちをした。

「見えたの。シュウにつながるサキヨミが」


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