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<①~③巻トクベツ無料公開!>『サキヨミ!』第2回 美術室での出会い

.。*゚+.*.。 占い男子 ゚+..。*゚+

 その瞬間、私は息をのんだ。

(れ、レイラ先輩っ……!?)

 ぼう然として、思わずじっとその顔を見つめてしまう。大丈夫、もうサキヨミは見えないみたい。

 白い肌に、うすいソバカス。子犬のような人なつっこそうな目は、長いまつ毛にふちどられている。その笑顔は、今朝見たものと同じように輝いていた。

(この人、美術部の部長だったんだ……!)

「部長! 乱暴はやめてください!」

 叶井先輩が、ずり落ちたメガネを押さえる。と、そのとなりに立つレイラ先輩は、私を見て目を丸くした。

「あーっ!? あなた、今朝の!」

 そうしてびしっと私を指さす。叶井先輩が「?」という顔で私とレイラ先輩を交互に見た。

「部長、彼女をご存じなんですか?」

「知ってるも何もっ!」

 レイラ先輩はいっそう声を張りあげる。

「あたしの命の恩人だよっ!」

(……へっ!?)

 ぽかんとしている私のそばで、レイラ先輩は興奮ぎみに腕を上下させた。

「あたし、今朝の朝礼で表彰される予定だったんだよ!」

 それは、知ってるけど……どうして私が恩人になるの? まさか、私がサキヨミを見たことを知ってるとか……?

 ううん、ないない!

 それにそもそも、私は何もしていないんだから。恩人になんか、なるわけないんだ。

「今朝あたし、この子の背中についてた小さな羽根を取ってあげたの」

 レイラ先輩は、胸を張って続けた。

「そのとき、この子の守護天使とあたしの間に特別なつながりが生まれたんだよ! そのおかげで、あたしは照明が落ちてきたときに巻きこまれなくてすんだの! つまり、あたしはこの子の守護天使によって守られた、ってわけ!」

「……はい?」

 守護、天使?

 ……なっ、何ですか、それ?

「部長、そのへんにしておいたほうがいいですよ。明らかに引いてますよ、その子たち」

「なんでよっ! ひー君だって、超能力信じるって言ったくせに!」

「完全に否定はしないと言っただけで、信じるとは言っていませんよ。それに超能力と天使は別物でしょう。宇宙人や幽霊、未確認生物まで幅広く信じている部長といっしょにしないでください」

「もー、かわいくないんだから、ひー君は!」

「べつにかわいさを目指してはいませんから。それにそういった非科学的な話には、興味もありません」

「でも雪うさのファンなんでしょ? 知ってるんだから!」

(雪うさ?)

 その言葉に、ぴくりと私の耳が反応した。どこかで聞いた気がするけど、何だっただろう。

「ち、違いますよ! 話題になっているから時おり見ているだけであって、べつにファンなどではっ……!」

「雪うさって、あの雪うさですか? 動画配信者の?」

 叶井先輩の言葉をさえぎるように、沢辺さんが身を乗り出す。

「そうそう! 有名だから、さすがに知ってるよね。ええっと……」

「沢辺です。沢辺夕実」

「沢辺さんね。あなたは?」

「き、如月、美羽です」

 レイラ先輩の大きな目に見つめられ、迷う間もなく答えてしまう。

「如月さんに、沢辺さん。二人とも、よろしく!」

 そうしてレイラ先輩は右手で沢辺さん、左手で私の手をにぎった。

「私も雪うさのファンなんです。如月さん、見たことある? 『雪うさの未来チャンネル』

 沢辺さんがくるりと私に向きなおった。

(動画、かあ……)

 まわりの子たちの多くが動画サイトに夢中になっていることは、さすがに私でも知っていた。そこに動画を投稿している人の中には、多くのファンをかかえるタレントみたいな人がいるらしいってことも知っている。

 けれど、「雪うさ」のことは知らなかった。私はふるふると首をふる。

「そういうサイト、見たことないんだ。その雪うさって、動画配信者なの?」

「そう。チャンネル登録者数三十万人超えの人気配信者だ。占い系配信者の登録者数としては、日本で一番だ」

 私の質問に答えたのは、沢辺さんではなく叶井先輩だった。

「彼女がするのは、占いだけではない。過去に一度、記録的な大雪が降ることを前日に予言している。まあネットでしか話題にならなかったが……結果的にそれが、チャンネル登録者数を爆発的に増やすきっかけとなったんだ」

「大雪?」

「そう。去年の年末、すごい大雪が降ったでしょ? 『積もる可能性は少ない』って予報だったから、みんな油断してたじゃない。でも雪うさは前の日から『ひざまで埋まるくらいの雪になる』って言ってたんだよ。すごいでしょ?」

 沢辺さんが、自分のことのように胸を張る。

「でも……それ、占いなの? 天気予報の才能があるだけなんじゃ……」

「雪うさが予言したのは、大雪が降ることだけではないんだ。市民体育館の屋根が雪の重みでゆがみ、くずれ落ちるという事故があっただろう。雪うさはそのことまでぴたりと予言したんだ」

(へえ……!)

 叶井先輩の言葉に、思わず眉が上がる。

 なるほど。「雪うさ」って、どうやら本当に、すごい人みたい。

 となりの市の体育館の事故のことは、新聞に載ってたから覚えてる。たしか屋根が落ちたのは朝早い時間だったから、だれも怪我しなかったんだよね。

 体育館のとなりに住んでる人がインタビューされてたけど、「ものすごい音がして飛び起きた。この世の終わりかと思った」って書いてあったっけ。

(……あっ!)

 ――思いだした。

 今朝、渡り廊下にいた子たちのおしゃべり。そこで「雪うさ」のことを――「雪うさ」がこの近所に住んでるかもって話を聞いたんだった。

(もしかして……)

 今朝レイラ先輩を助けたのって……その、雪うさ、って人がやったこと……だったりして。

 ……いや、まさかね。

「せっかくだから、これを機に一度見てみてはどうだ? 占いだけでなく、『今日の一言』や悩み相談のコーナーも、なかなか興味深いものがあるぞ」

「ひー君、そうやって信者増やそうとしてるんでしょ。バレバレだから」

「人聞きの悪い。見聞を広めるのは良いことでしょう」

 そのとき、がらりとドアが開く音がした。

「あ、タッキー! おそかったじゃん」

「すみません。委員会の仕事のことで、先生に呼びとめられまして」

 ふりかえった私は、正面からまともにその顔を見てしまった。

(しまった……!)

 けれど……大丈夫。サキヨミは見えないみたい。

「体験入部ですか?」

 タッキーと呼ばれたその男子は、そう言って沢辺さんと私をながめた。真新しい制服に、緑のネクタイ。一年生だ。

 通った鼻筋に、細いあご。長い前髪は、目のすぐ上までかかっている。

「そう! 如月美羽ちゃんに、沢辺夕実ちゃん。この子はもう入部してくれた一年生、瀧島幸都(たきしま ゆきと)君だよ」

「一年B組の瀧島です。よろしく」

 慣れた動作でそばの机にカバンを置くと、そう言って小さく頭を下げた。

「君たち、A組?」

「うん。二人ともA組だよ」

「ふーん」

 そうしてあごに手を当てると、瀧島君はじっと私の顔を見つめてきた。

(……何? こんなに、じろじろと……)

 鋭い視線から逃れるように顔をそらした、その瞬間。

 長い前髪の下の茶色い目が、一瞬きらりと光ったように見えた。

「あ、タッキー、お得意のアレだね?」

「いきなり怖がらすな、瀧島。入部してもらえなかったら、おまえの責任だぞ」

 部長と副部長の言葉に、瀧島君は苦笑いをした。

「すみません。つい、クセで」

「あのね、タッキーも占いができるんだよ!」

 レイラ先輩が言うと、叶井先輩がメガネを指で押し上げた。

「雪うさほどではないがな。一見の価値はあると思うぞ」

「また雪うさですか? 叶井先輩の雪うさ愛は、相変わらずですね」

「うるさい」

「あ、私、クラスの女子が言ってたの聞いたことがあります! B組の瀧島君は、占いが得意でよく当たるって」

 沢辺さんがぽんと手をたたく。

「しかも、一年男子の中では五本の指に入るかっこよさ、とも言われてましたよ! 瀧島君、こっちに引っ越してきたばっかりで、同じ小学校の子がひとりもいないんだよね? だから、よけい目立つみたいです」

「なるほど。入学早々、女子の人気者とは……なかなかやるじゃないか、瀧島」

「べつに、そんなんじゃないですよ」

「じゃあさ、せっかくだから、この二人を占ってみてよ!」

 レイラ先輩が、沢辺さんと私を指さす。すると、沢辺さんが手をたたいて飛びあがった。

「やった! お願い、瀧島君!」

「そうだな。見てみようか」

 瀧島君はそう言うと、静かに近づいてきた。そうして、私と沢辺さんの顔を交互に見つめはじめる。



(なっ、何……?)

「タッキーの占いはねえ、こうやって顔をじっと見つめることから始まるんだよ!」

「顔を見るだけで、占いができるの?」

 沢辺さんがおどろくと、瀧島君はフッと笑った。

「というより、見えるんだよ。――その人の、未来がね

 その言葉に、思わずドキッとする。

 ――顔を見ると、未来が見える。

(それって、「サキヨミ」と同じなんじゃ……!?)

 そう思ったところで、あわててその考えを打ち消す。

 未来が見えるなんて、そんなの冗談に決まってる。

 そもそも、瀧島君がやってるのは「占い」なんだから。サキヨミは、占いとは違うもんね。

 瀧島君は、じいっと私の顔を見つめている。前髪が長めなせいか、その表情からはうまく感情が読み取れない。

 サキヨミが見えないからよかったけど……こんなに顔が近いと、さすがに緊張してくるよ。

「うん、見えた」

 瀧島君はそう言うと、口元に自信ありげな笑みを浮かべた。

「君たちは明日、まちがいなく美術部に入部する」

(……へっ?)

 ……何、それ。

 ぽかんと口をあけた私のとなりで、沢辺さんが「えええええっ!?」と大声をあげた。

「ほ、ほんとに!? すごい! ね、如月さん、すごいね! 私たち、入部するんだって!」

 そうして私の手をとってブンブンとふる。

 いやいや、素直すぎる! 今のは占いっていうより、単なる瀧島君の希望でしょうが!

「わーい、やったー! 新入部員、確保!」

 レイラ先輩が両手を上げる。

「瀧島の占いは、なかなかどうして当たるからな。二人も入部するとは、喜ばしい限りだ」

 叶井先輩が満足げにうなずく。いやいや、ちょっとっ!

「ま、待ってください! 私、入部するなんて一言も……!」

「でも……瀧島君の占いでは、入部するって」

「そんなの、テキトーに言ってるだけに決まってるじゃない!」

 自分でもびっくりするほど、大きな声が出た。沢辺さんの表情が、ぴたっと止まる。

「どうして、そう思うんだ?」

 瀧島君がおだやかに言う。

(どうしてって……)

 私は、みんなの視線から逃げるようにうつむいた。

「だって……人の顔を見て未来が見えるって言うなら、見たくないものだって見えちゃう……ってことでしょう? それなのに、そんなに堂々と人の顔を見つめられるなんて……おかしいよ」

 ――しまった……。

 なんで、こんなこと言っちゃったんだろう。

 べつに、こんなことを言いたかったわけじゃない。言ったって意味がないし、これじゃあ、瀧島君がイヤな気持ちになるだけなのに。

 シーンとした空気が、美術室を包む。

(あああ、やっちゃった……気まずい……!)

 私はうつむいたまま、固まるしかなかった。

「……なるほど」

 しばらくして、叶井先輩が静かに口を開いた。

「たしかに……如月さんの言う通りだな」

(え……!)

 意外な言葉におどろいていると、レイラ先輩もウンウンとうなずいた。

「そうだねえ。そんなふうに考えたこと、なかったよ。ねえタッキー、そういうのも見えたりするの? 転んでドロまみれになるとか、アイス食べ過ぎておなか壊すとか」

 それを聞いた瀧島君は、ふきだした。

「なんですか、それ。レイラ先輩の考える災難レベル、低すぎですよ」

「でも、どうなの? 怖い場面とか、見えちゃったりするの?」

「ええ。しょっちゅうですよ」

 そう答えた瀧島君の声は、やけにあっさりとしていた。

「それ、つらくないの?」

 沢辺さんが、こわばった声でたずねる。

「大丈夫。運命は、変えられるから」

 ――ドクン

 瀧島君の力強い言葉に、心臓が波打った。

 思わず顔を上げると、瀧島君とばっちり目が合ってしまって。

 きれいな茶色い瞳が、射ぬくように私の目をとらえていた。その視線の強さに、身がすくみそうになる。

「ということで、明日からよろしく。沢辺さんに、如月さん」

 瀧島君はゆっくりとそう言うと、口元に不敵な笑みを浮かべた。

 

第3回に続く>

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【書籍情報】


サキヨミ!(1) ヒミツの二人で未来を変える!

  • 作:七海 まち  絵:駒形
  • 【定価】792円(本体720円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046320315

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