<①~③巻トクベツ無料公開!>『サキヨミ!』第2回 美術室での出会い

人の “不幸な未来”が見える「サキヨミ」の力を持つ私・如月美羽。同じ部活のイケメン・瀧島君と出会って、人生が大きくかわることに――!?
角川つばさ文庫で大人気の「サキヨミ!」シリーズに、スペシャルなお知らせが……! 10月2日ころまで待っててね!
超ハッピーな「あるお知らせ」を記念して、小説①②③巻を《スペシャル連載》でお届けしちゃいます!
恋に部活に友情に……青春がいーっぱいつまった、最っっっ高にときめいてキュンキュンする学園ラブコメ、お見逃しなく♡
※2023年12月15日までの期間限定公開です。
.。*゚+.*.。 2 美術室での出会い ゚+..。*゚+
その日の放課後。
今日から始まった部活の体験入部に急ぐ子たちを横目に見ながら、私はひとり、教室でぼうっと考えごとにふけっていた。
(だれかが、非常ベルを押した……)
あの後、朝礼は中断となり、そのまま終わってしまった。レイラ先輩の表彰は、次回に持ち越しになったみたい。
勅使河原(てしがわら)先生によると、押されたのは三階端の廊下に設置されている非常ベルだった、ってことなんだけど……。
(いったい、何のために?)
非常ベルと、大型照明の落下。
この二つの事件には……何か、つながりがあるんじゃないかな。
(だれかがレイラ先輩を助けるために、わざと非常ベルを押して、朝礼の開始をおくらせた……?)
でもそのためには、レイラ先輩が大型照明の下敷きになってしまうってことを、前もって知っていなきゃいけない。私が、あのサキヨミを見たように。
(……そんなこと、ありえないか)
ふうっと息をついたそのとき、後ろからぽんと肩をたたかれた。
いきなりだったから、びくっと体がふるえる。
「如月さん!」
ゆっくりとふりかえり、ちらっと顔を見る。
そこにいたのは、クラスメイトの沢辺夕実(さわべ ゆみ)さんだった。
「……な、何?」
相手がだれかを確認した私は、すぐに視線をはずしながら答えた。
「如月さん、ひとり? それとも、だれかと約束してたりとかする?」
(……約束?)
「べつに、してないけど……」
「そっか、よかった!」
視線をはずしたままの私を気にする様子もなく、沢辺さんは続けた。
「今日から体験入部が始まったじゃない? 如月さん、どこに行くつもりなのかなって」
そっか、約束って、だれかと体験入部にいっしょに行く約束……ってことか。
私は沢辺さんのおなかのあたりを見ながら、あらかじめ決めていたことを告げた。
「私、部活には入るつもりなくって……」
「え、そうなの? なんで?」
(なんでって言われても……)
人の顔を見ることで、よけいなサキヨミを見たくないから……なんて、言えるわけない。
「えっと……私、運動とか、得意じゃないし」
もぞもぞと両手を組みながらそう言うと、沢辺さんは「そうなんだ!」とうれしそうに言った。
「私といっしょ! 私も小学校のときから、体育はぜんぜんだめで。ボールにきらわれてるみたいなんだよねぇ」
沢辺さんはそこで言葉を切ると、にこっと笑ったみたいだった。視界の端に、少しだけ口元が見えたんだ。
「ね、如月さん。せっかくだから、私といっしょに、美術部行ってみない?」
「え……美術部?」
「そう! 去年文化祭に来たとき、すっごくきれいな絵が飾ってあってね。それからずっと、気になってたんだ」
「で、でも私、絵とか描けないし」
「べつにすごい油絵とか描かなくったっていいんだよ。イラストとか漫画を描いててもいいような、ゆるい部なんだって」
「だけど……」
うまい断り文句が見つからなくて、言葉につまる。
そもそも、なんで私なのかな……。他の人を誘ったほうが、いいと思うんだけど……。
私のその気持ちが伝わったのか、沢辺さんはエヘヘと恥ずかしそうに笑った。
「私、入学してからあんまりクラスになじめなくって、まだ仲のいい友達もいなくて……。体験入部、ひとりで行く勇気がなかったの。そしたら如月さんがひとりでいたから、いっしょにどうかなって。実は私、前から如月さんのことが気になってたんだ」
「え……私?」
「うん。なんだかちょっと、さびしそうに見えて……私と似てるかもって、思ったの」
はっとした。さびしそう、という言葉が胸に突き刺さって、ずきんとひびく。
(似てる……? 私と、沢辺さんが……?)
気がつくと私は、沢辺さんの顔をまっすぐ見つめていた。
くりっとした丸い目の上で、短い前髪のおでこがつるりと光っている。両サイドに作られた輪っか三つ編みには、かわいいさくらんぼの髪飾り。
……よかった。サキヨミは、見えない。
サキヨミさえなければ、人の顔を見ることも怖くなくなるのに――。
「やっと、目が合ったね」
沢辺さんはそう言うと、目を細めてにっこり笑った。
気づけば、三階の西端にある美術室の目の前だった。
結局、体験入部に付き合うことになってしまった。沢辺さんのうれしそうな顔を前にしたら、なんだか断れなくなっちゃったんだ。
――けれど、美術室のドアの前で、沢辺さんはぎこちなくふりかえった。
「いざ入るとなると、緊張するね?」
「……じゃあ、今日はやめておく?」
「い、いや、やめない! いっしょに行こう、如月さん!」
そうして沢辺さんの手が伸びたとき、ドアはがらりとひとりでに開いた。
「君たち、体験入部かな?」
開いたドアのむこうに立っていたのは、背の高いひとりの男子。
ちらりと顔を見る。色白で、上品な顔立ち。黒ぶちメガネをしているせいか、すごく賢そうに見える。
「は、はい! よ、よろしくお願いします!」
沢辺さんがふかぶかと頭を下げたから、私もあわててそれにならった。
「来てくれてうれしいよ。おれは副部長の叶井(かない)ヒサシ。よろしく」
そう言って、白い歯を見せる叶井先輩。その首元のネクタイは、青。ということは、二年生だ。
そのとき、美術室の中から大声がひびいた。
「ひー君、一年生来たのっ!?」
「どうどう。落ちついてください、部長」
「落ちついてなんていられますかああっ!」
だばだばと近づいてくる、やたらと明るい声。
(あれ? この声、どこかで……?)
叶井先輩の肩越しに、美術室の中をのぞく。そこにはふわふわの天然パーマをゆらす女子がいた。両手を大きく広げ、ドーン! と叶井先輩を横へ押しのける。
「美術部へようこそ! 私が部長の瀬戸(せと)レイラでーす!」