連載

  1. ホーム
  2. 連載
  3. 小説
  4. <①~③巻トクベツ無料公開!>『サキヨミ!』
  5. <①~③巻トクベツ無料公開!>『サキヨミ!』第1回 その名はサキヨミ

<①~③巻トクベツ無料公開!>『サキヨミ!』第1回 その名はサキヨミ


私、如月美羽。人の “不幸な未来”が見える「サキヨミ」の力を持ってるんだ。この力がつらくて、ずっと「ぼっち」をつらぬいてきた。でも、同じ部活のイケメン・瀧島君と出会って、そんな毎日が大きくかわることに――!?

すてきなお知らせ&シリーズ10巻とうたつ!!!!!

なんと、角川つばさ文庫でずーーーっと大人気の「サキヨミ!」シリーズに、スペシャルなお知らせが……! 10月2日ころまで待っててね!
「サキヨミ!」は、恋に部活に友情に……青春がいーっぱいつまってる!
最っっっ高にときめいてキュンキュンする学園ラブコメだよ♡
このすてきなシリーズを、もっともーっとみんなに知ってもらいたくて、特別に①②③巻を《スペシャル連載》でお届けしちゃいます!
①巻はまとめてぜんぶ公開、②③巻は毎日連載していくよ。

 ※2023年12月15日までの期間限定公開です。

...。oо○ ①巻もくじ はこちら ○оo。...

.。*゚+.*.。 1 その名はサキヨミ ゚+..。*゚+

 

「ユキちゃん! あぶない!」

 目の前のおかっぱ頭が、バランスをくずして大きくかたむいた。

 ここは、ジャングルジムのてっぺん。

 私は、弟のシュウをしっかりとだきかかえたまま、地面に向かって落ちていくユキちゃんの名前を呼んだ。

 呼ぶことしかできなかった。手を離したら、シュウが落ちちゃう……!

「ユキちゃん!」

 ほとんど悲鳴みたいなその声は、ユキちゃんが地面に落ちた音をかき消しちゃいそうだった。

「おねえちゃん……?」

 腕の中で、シュウが私を見上げた。

 シュウはまだ、何が起きたのか知らない。

 そしてこれからも、知ることはないんだ。

 ユキちゃんを身代わりにして、自分が助かったということを――。

 

「美羽(みう)、朝よ! 起きなさい!」

 お母さんの声に、ゆっくりと目を開ける。

 いつもの朝。いつもの部屋。

(またあの夢か……)

 もう、何度目だろう。

 私は、ベッドの上で体を起こした。汗をかいたのか、下着のシャツがうっすらぬれて、ぺたっと肌にはりついている。

「美羽! 何度言わせるの!」

 ノックもなしに、ばんっとドアが開けられた。そこに立っていたのは、化粧ばっちり、スーツ姿のお母さんだ。

「あー、またいきなり入ってきて。とっくに起きてるってば」

「起きてるならなんで来ないの! シュウはもうとっくに家出てるっていうのに!」

「え、もう?」

「ミニバスの朝練ですって。私ももう出るから、ちゃんと鍵かけてくのよ!」

 お母さんは、バタバタとドアのむこうに消えていった。

 壁の時計を見て、少しあわてる。私も早く、学校に行く準備をしなきゃ。

 ベッドを出て、リビングに向かう。窓から入る四月の日差しがあたたかい。

 ここは、十階建てのマンションの一室。

 私――如月(きさらぎ)美羽――は、両親と弟といっしょに、この五階の部屋で暮らしてるんだ。

 トーストを食べ、ぱりっとした制服に着がえて。玄関の姿見で全身をなんとなく確認してから、家を出る。

 マンションの前は、ゆるやかな坂道。私は少し息をついてから、その坂を上っていった。

 この春入学したばかりの中学校までは、歩いて十分くらい。

 いつもと同じ朝、いつもと同じ風景。通勤するサラリーマン、自転車に乗る高校生、犬の散歩をする女の人に、集団で歩く小学生……たくさんの人たちが行きかう、いつも通りの通学路。

 そんな人たちと顔を合わせないように、私はうつむきながら歩いた。

 顔を見てしまったら……見たくもないものが、見えてしまうかもしれないから――……。

 

 ――私には、未来が見える。

 

 未来っていっても、見えるのは「よくないこと」だけ。

 人の顔を見ると、その人にこれから起きる「よくないこと」が、映像で見えてしまうんだ。

 私はそれを、「サキヨミ」、って呼んでる。

 サキヨミには、いくつか特徴があって。

 まず、一つめ。サキヨミは、必ず見えるわけじゃない。悪いことが起こる前にその人の顔を見たのに、サキヨミを見なかったことは何度もある。

 二つめ。サキヨミで見たことは、いつ、どこで起こるのかわからない。場所や時間は、見えたものから考えるしかないんだ。

 サキヨミを見てからそれが実際に起こるまでの時間も、ばらばら。サキヨミを見た直後だったこともあれば、何日も経ってから忘れかけた頃に……ってこともあった。

 初めてサキヨミを見たのは、いつだったっけ……。物心ついたときには、見えるのが当たり前になってたんだ。

 そしてすぐに、他の人には見えないんだ、ってことに気がついた。未来が見えるのは、私だけなんだって。

 だからサキヨミのことは、だれにも……両親にさえも、話したことはないの。

 それに……小さい頃に起こった「ある事故」のせいで、私は人の顔が見られなくなって……。

 サキヨミを見ることが……すごく、怖くなっちゃったんだ。

 それからは、サキヨミを見てしまっても、何も考えないって決めた。

 そして、すぐに忘れるようにしたんだ。私は何も知らない、見ていないんだ、って……。

 私がサキヨミで見ている未来は、きっと、神様が決めた運命なんだと思う。

 たまたまそれを見る力があったところで、私が助けなきゃいけないわけじゃない……よね?

 そう、私は、見えるだけ。知れるだけ。それだけなんだ。

 だれかの運命をねじまげるなんて、きっとそのほうが、まちがってるんだ……!

 

 キキッ!

 

 前の方で、自転車のブレーキの音がした。その音につられて、思わず顔を上げる。

 自転車は、十メートルくらい先の角から、こっちに向かって曲がろうとしていた。乗っている男子高校生は、スマホを片手でいじりながら、画面に見入っている。

 



 その顔を見た瞬間――。

 じじじ、とノイズの音がした。

(……まずい!)

 このノイズが、サキヨミが始まる合図。

(イヤ、見たくない!)

 私はノイズをふきとばすように、ブンブン首をふった。

 でも、もうおそい。このノイズが聞こえたら、もうサキヨミを見ることは避けられない。

 どんなに見たくなくても、見るしかないんだ。

 ノイズが消えると、一瞬で映像が頭の中に流れ込んできた。

 

――坂を下った、曲がり角。

「きゃっ……!」

「うわ!」

 ドーン!

 角を曲がってくる女性、それにぶつかる男子高校生の自転車。

 女性はつきとばされ、高校生は自転車ごと道に倒れる。

 そばにいた通行人の、「キャーッ!」という悲鳴。

 横倒しになった自転車は、からからと音を立てて車輪を回している。

 二人とも血は出ていないけれど、女性は腕を押さえて、苦しそうに顔をゆがめている。――

 

 その衝撃的な映像を見なかったことにしたくて、私はぎゅっと目をつむった。

(何もしない。何も知らない。私は……関係ない……)

 これ以上人の顔を見ないように、うつむいて走りだす。

 しばらくすると――後ろから、大きな衝突音がひびいた。

 続いて、「キャーッ!」という悲鳴と、ガシャーンと自転車が倒れる音。

 その音から離れるように、私は必死に走った。

(知らない。私は、関係ないっ!)

「なに、なに!?」

 音におどろいてふりかえる人たちの中をすりぬけて、私は学校へと急いだ。

 

次のページへ

こちらの記事も読まれています