みんなのイチオシ! “怪盗レッドのナンバー1人気の巻” 前後編を全文ためし読み! 第7回

18 ラッキーカラーは、赤
ど、どうしてケイが?
今までどこでなにを……ううん、ちがう!
『――全部、わかっている』
ケイは、まるでいなくなったことなど、なかったかのように、いつもの調子で言ってくる。
でも、その声はわたしを心の底から、安心させてくれる。
「ケイ、爆弾が!」
『すでに、取りかかっている。爆破阻止は、こちらからはむりだ。だが、通信機器で起爆するのを妨害している』
それってつまり、どういうこと?
『時間はかせげる、ということだ』
ケイの言葉に、パッと、目の前が明るくなった気がした。
「十分だよ!」
足に力をこめて、観覧車にむけて、また走りだす。
『かせげる時間は、5分ほどだ。あまりよゆうはない』
その5分で、爆弾をとりのぞくか、まわりの人を避難させるかしないといけないってことね。
でも、ケイでも5分しかかせげないのって……。
『タキオンの新幹部のハッカーが、思いのほか手ごわい。技術はおれと拮抗している。そうでなければ、もっと時間をかせげていた』
くやしさをにじませる声で、ケイが言う。
でも、ケイがいなかったら、もう爆弾は爆発してた。
なら、その希望を、わたしがつなげるだけだよ!
わたしは、観覧車にたどりつく。
まわりを見まわすと、実咲たちのすがたがある。
やっぱり、ここにいた!
でも、レッドのすがたをしてるから、気づかれてない。
「みなさん、この観覧車に爆弾がしかけられている可能性があります! 避難してください!!」
わたしは声色を変えて、まわりにむけてさけぶ。
「え、ウソでしょ……」
「そもそも、あの人だれよ?」
さすがに、いきなりそんなこと言っても、信用してもらえないか……。
先に爆弾解除にむかうべき?
「えっ、怪盗レッド……どうしてここに?」
そのとき、実咲が言った言葉が、静まりかえった観覧車前にひびく。
「え? 怪盗レッドって……あの?」
「そういえば、あのすがたって怪盗レッドに似てるよ。テレビの特集で、あんなかっこうだってやってたから」
「じゃあ爆弾の話も、本当の話?」
「あの怪盗レッドだ。本物なら、ウソをつくわけがないだろ」
観覧車の近くにいた人たちの顔が、青ざめていく。
「に、逃げるぞ!」「早くしろー!」
近くにいた人たちが、観覧車から離れていく。
その中に、実咲たちが落ちついた様子で、混ざっているのが見えた。
実咲がちらりと、心配そうにこっちを見ていたけど、水夏に引っぱられて走っていく。
これでひと安心……ってわけには、まだいかないか。
爆弾をどうにかしないと。
わたしは、観覧車を見あげる。
白、青、赤、黄、緑、紫、橙の色のゴンドラが2台ずつ、合計14台ある。
「どうするつもりだい?」
いつの間にきたのか、恭也がとなりに立っている。
人が少なくなるのを待っていたみたい。
今の恭也は、ファンタジスタのかっこうをしていないしね。
『爆弾は、観覧車のゴンドラのどれかに、設置されている。あと3分だ。いそげ! ファンタジスタと2人なら、間に合う』
「りょーかい!」
わたしはうなずくと、観覧車のゴンドラにとびついて、屋根にのぼる。
「恭也。このゴンドラのどれかに爆弾があるそうよ。わたしは時計回り、恭也は反時計回りで見ていくっていうのはどう?」
そういえばケイ、恭也がいっしょにいるって知ってた。
どうして? とちょっと気になったけど、今はそれどころじゃない。
「のこり時間は?」
「3分……ううん、あと2分45秒」
わたしは答えると、さっそく1つめの白のゴンドラを、探しはじめる。
広くないゴンドラの中を、一目で確認してから、唯一かくせそうな、座席の下を調べる。
「ないっ、次!」
わたしは、すばやく次の黄色のゴンドラにとびうつる。
動きを止めているゴンドラが、ガタンと大きくゆれる。
2つめの黄色のゴンドラ、3つめの青のゴンドラにも、爆弾が見つからない。
のこりは、1分30秒。
『落ちつけ。アスカのスピードなら、全部見てまわれる』
ケイが、わたしのあせりに気づいて、言ってくる。
口に出してないのに、本当によく気づくよね、ケイは。
わたしは、小さく笑って、次の橙色のゴンドラに入りこむ。
「レッド! こっちにあったぞ!」
恭也が、反対側の紫のゴンドラから、声をあげてる。
その手には、30センチ四方の鉄製の箱がある。
あれが、爆弾らしい。
よかった! あとは、あの爆弾をどうにかすれば……。
『待て、アスカ。まだ時間がある。爆弾が1つとはかぎらない。すべてのゴンドラを探すんだ』
そっか。しかけられたのが、1つだとはかぎらないよね!
恭也にも同じことを伝える。
4つめ、5つめ……とゴンドラを調べて、最後の7つめ。
最後にのこったのは、一番高い場所にある、赤のゴンドラ。
赤は、わたしの――そして怪盗レッドのカラー。
最後が赤なんて、運命みたいって言ったら、ケイに笑われるだろうか。
赤のゴンドラに乗りこむ。
見える場所にはない。次に座席の下だけど……あれ?
イスの下の閉じられたスペースに、銀色の箱らしきものが見える。
もしかして、これが2つめの爆弾!?
わたしは、イスの下の金属板をはずして、箱をそーっととりだす。
さっき恭也が持っていたのと、同じものだ。
『のこり30秒だ、アスカ』
ケイの声に、いそいで銀色の箱をとりだして、赤のゴンドラの外に出る。
恭也も、すべてのゴンドラを調べ終わったところらしい。
どうする!? 爆弾を解除してる時間は、もうない!
『100メートル先に池がある! まわりに人はいない』
ケイの指示がきこえると、同時に、わたしは赤のゴンドラから飛びおりる。
べつのゴンドラにのりうつり、それをくり返して、地面までたどりつく。
「なにか方法があるのか、レッド」
恭也も同じように、おりてきてる。
「池があるから、そこに投げこむ」
「なるほどな」
わたしと恭也は、全速力で走りながら言葉をかわす。
『のこり10秒』
9、8、7、6、5……。
ケイのカウントをききながら、走る。
池が見えてきた。
半径50メートルぐらいはありそうな大きな池だ。
わたしは、銀色の箱をふりかぶる。
「いっけええええええっ!」
思いっきり、箱を池にむかって投げる。
同時に、恭也からも箱が投げられる。
2つの箱は、池にむかって飛んでいく。
『3、2、1……』
ズド――――ン!
箱が池に落ちた瞬間、大きな水柱をあげて、爆弾が爆発する。
池の水が舞いあがり、パラパラと雨のようにふってくる。
「ま、間に合った……」
わたしは、池のほうを見つめる。
水柱もおさまり、あらためて、まわりに人がいないことを確認する。
「水の中で爆発させることで、威力を最小限にとどめたか。とっさだというのに頭がまわるな」
恭也が、感心したように言う。
だって、ケイだから。
それぐらいは、とうぜんだよ。
「きみの手柄じゃないのに、ずいぶんとうれしそうだな」
恭也が、からかうように言う。
「だって、『怪盗レッド』のやったことだもの。どっちの手柄とかじゃないから」
「そういうものか……ん? 連絡か」
恭也のスマホに連絡がきたらしく、電話で話し始める。
すぐに切ると、わたしのほうを見た。
「タキオンの幹部たちは、早々に撤退したそうだ。人質の無事も確認してある」
「それって、恭也の仲間?」
「ラドロの人間の話だ」
ラドロ……!
そういえば、恭也はラドロのメッセンジャーって、言ってたっけ。
そして、ケイもそのラドロに……って、ケイは?
さっきから、声がしないけど……。
「ケイ!」
わたしはあわてて、インカムにむかって話しかける。
『どうした?』
すぐに返事がある。
よかったぁ……。今度はいなくなってない。
「また、いなくなったかと思った」
『いなくなった、わけではない。居場所は言ってあった』
それをいなくなった、って言うの!
しかも、居場所ってラドロでしょ!
「事情はちゃんと、説明してもらうからね!」
わたしは、ケイに言う。
タキオンも撤退したのなら、わたしも引きあげないと。
『アスカ、待て』
ケイに止められる。
なに?
『ここに、きてくれ』
……へ?
「ここって、ケイは今どこにいるの?」
わたしの質問に、ケイは少し時間をあけてから、答えた。
『ラドロのボスの目の前だ』