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みんなのイチオシ! “怪盗レッドのナンバー1人気の巻” 前後編を全文ためし読み! 第6回


2022年3~5月におこなわれた 「キミの好きな巻はどれ!? 怪盗レッド総選挙」で、見事に第1位にかがやいた15巻!

桜子を逃がすために、自分から「おとり」として敵に突っ込んでいったマサキ。
ピンチの桜子の前に現れるのは、「あの人」――!
人気キャラがぞくぞくと登場する15巻、見逃さないで!



7月13日(水)~8月3日(水)は、『怪盗レッド15 最高のパートナーを信じろ☆の巻』が毎週更新!

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12  力を合わせて

 あたしは、マサキといっしょに、あるビジネス街のビルのかげに、身をひそめていた。
 ここは、マサキといっしょに忍びこんだビルが、見える場所。
 平日の午後4時すぎだから、道路にはスーツすがたの会社員らしき人たちが、歩いてる。
「本当にここなのか?」
 マサキは、まだ疑問をもっている顔をしてる。
「説明したでしょ」
 あたしの推理はこういうもの。
 タキオンは、マサキとあたしのことを知っていた。
 そして、金髪の人の話から、動けるのはマサキとあたしだけ。
 つまり、取引において注意すべき人間は、マサキとあたしということになる。
 そのとき、対抗組織に気づかれずに、取引場所を決めるのなら、もともとある拠点の中から選ぶのが一番いい。
 そして、その中でもっともあたしたちが、取引場所だと考えないところは、一度忍びこんだこのビル、というわけ。
 一度忍びこまれたビルを、取引場所に使うとは、七音さんに言われるまで考えもしなかった。
 セキュリティが厳重なところのほうが、選ばれやすいと思いこんでいたから。
「たしかに、理屈は通るが……合理的に考えればセキュリティが最強の拠点を選ぶだろう」
「もちろんよ。だけど、今のあたしたちが、1か所だけにしぼるのなら、ここしかない。賭けてみるしかないってこと」
 確率100%にするなんて、もとからむりだ。
 だから、相手の心理を考え、可能性が高い場所を割りだす。七音さんが言っていた推理とは、そういうことなんだと思う。
 研究ばかりしてきたあたしには、人の心理は苦手な分野だけれど、コツがわかればできないことはない。
「――わかった。賭けに乗ろう。どっちにしろ、ほかの拠点を探してまわるほどのよゆうは、ないだろうしな」
 マサキが、心を決めた顔で言う。
「でも、昼間だし、人通りもあるけど、どうするの? 忍びこんだら目立つんじゃない?」
「ここの裏口は、通りに面していない。そちらから入る。それに、取引を行っているなら、機密を守るタキオンの人間しか、今あのビルにはいないはずだ」
「それもそうね。事情を知らない末端の会社員が、取引当日の現場をうろうろしてるとは、思えないし」
 そう言いながら、あたしもずいぶんと、こっちの世界の常識に毒されているな、と感じる。
「もちろん、あたしもいっしょに行くわ」
 マサキがなにか言いかけたのを、さえぎるように、あたしは言う。
「だが、危険だ」
「でも、データの確認は必要よ。あたしならわかるわ。それに、パソコンやネットワーク上に保存されていたりしたら、あたしがいたほうがいいでしょ」
 危険なのは、わかってる。
 でも、もう後がない。ここで失敗すれば、取引は成功してしまう可能性が高い。
 世界が、決定的にこわされてしまうかも知れないってときに。
 危ないからという理由で、あたしがひかえていても、しょうがない。
 あたしは、まっすぐにマサキの目を見る。
 マサキは、考えるように目を閉じ、そして開いた。
「……そうだな。ついてきてくれ」
 マサキが言って、あたしは緊張でこわばった笑顔でうなずく。
 さっそく行動を開始する。
 マサキが先に行き、ビルの裏口にむかう。
 裏口は、低めのコンクリートの塀で、かこわれている。
 まずは、裏口が見える、2車線の道路を挟んだ、別のビルのかげにたどりつく。
 ――と、あとをついていくあたしを、マサキが手で制する。
 遠目にだけど、ビルの裏口の前に、警備用のジャケットを着た大男が、2人立っているのが見える。
 とんでもない威圧感に、遠くにいるのに、見ているだけでも身がすくむ。
「警備を強化した、というレベルじゃないな。やはり当たりか?」
 マサキが、警備の大男を見ながら、声をおさえて言う。
「とはかぎらないわ。おそらく、同じように外から確認できる、出入り口の警備だけ、強化しているところは、ほかにもあるはずだから」
 あたしも、小声で答える。
「なるほどな。引っかけの可能性もあり、か」
 タキオンという組織の行動を考えれば、それぐらいの手間はかけているはずだ。
 だって、取引1つのために、遊園地でテロを行う組織なんだから。
「だが、この裏口からはむりだな」
 小型の単眼鏡で、裏口を見ていたマサキが言う。
「どうして?」
 マサキなら、あの2人の相手も、できそうに思えるけど。
「あの2人を倒すことは可能だ。だが、裏口のドアをよく見てみろ」
 マサキが、単眼鏡をわたしてくる。
 受け取って、あたしも裏口をのぞいてみる。
 単眼鏡で、裏口の様子が拡大されて見える。
「……ん?」
 あたしは裏口のドアを見ていて、違和感をおぼえて、目をこらす。
 どこかが、おかしい。
 ……もうちょっと倍率をあげて……えっ?
 ちょっと待ってよ! そこまでするわけ!?
 あたしは、違和感の正体に気づいて、おどろかずにはいられない。
 ――裏口のドアが、コンクリートで固められている。
 ドアそのものは、のこしてある。
 だけど、よく見ると、ドアのつなぎ目のところは、コンクリートでしっかり固められている。
 しかも丁寧なことに、コンクリートを、ドアといっしょの色でぬってある。
 ちょっと見ただけだと、気づかないぐらいだ。
「裏口から侵入したら、ドアは開かずに相手にばれるだけになる、可能性が高い」
「つまり、これはワナってわけね」
 あの屈強な大男の警備員ですら、マサキを釣るためのエサなんだろう。
 よっぽど、前に潜入されたことに、怒っているのか。それとも、ここが本命だからなのか……。
「正面を突破するしかないな」
 正面口に移動する。
 こちらは、車の通りは少ない道路で、反対側にはビルがならぶ。
 大通りからは1本外れているからか、そこまで人通りは多くなく、今も2、3人ぐらいが目標のビルの前を、通りすぎていくていど。
 マサキとあたしは、気づかれないように、正面口のななめむかい側の、位置をとる。
 ここからなら、警備員たちの視線も、角度的にとどかない。
 さっき、ちらりと見た感じだと、正面口にいる警備員は、4人……いや5人だったかも。
 かなり多い。
「あの人数は、1人ではむりか。……桜子、手伝ってくれ」
「……へ?」
 こともなげに、マサキに言われて、あたしは飛びあがる。
「自慢じゃないけど、あたしは運動音痴な上に、運動不足よ」
 研究ばかりの生活だったから、身体を動かすなんてこと、めったにしない。
「本当に自慢じゃないな……」
 マサキが、あきれたような声を出す。
「だが、桜子でもできることだ。こいつを、あいつらがいる正面口にむかって、投げつづけてくれ。それだけでいい」
 マサキはそう言って、布の袋から、ピンポン玉ぐらいの茶色い玉を、とりだす。
「それはなに?」
「やってみればわかる」
「でも、あたしはなにかを投げるのも自信ないわよ。警備員に当てるなんて、とてもじゃないけどむり」
「正確さは求めてない。正面口の近くにとどけばいいんだ。それならできるだろ?」
 あたしは、自信がないながらも、うなずく。
「この袋に、同じ玉が10個入っている。おれが走りだしたら、投げはじめてくれ。投げきったところで、桜子も正面口に走れ」
 マサキは言うと、袋をわたす。
 袋の中をのぞくと、さっきと同じ茶色い玉が、ぎっちりと入っている。
 マサキは気軽に言っているけど、これは失敗できない作戦だ。
 この玉でなにが起きるか教えないのも、そこからあたしに、自分の役割の重要性に気づかせないため。
 マサキなりのやさしさだ。
 それに、応えないわけにはいかない。
 あたしは、正面口に玉を投げ入れられる位置に、移動する。
 警備員からも、こっちが見えるはずだから、警備員があたしの顔を知っていたら、いつ気づかれるかわからない。
 時間をかけるほど、成功率が下がるから、すばやく準備する。
「できたわ。いつでもいける」
「カウントをとるぞ。……3、2、1……GO!」
 マサキが、正面口にむかって走りだす。
 距離は10メートルほど。
 さすがに、マサキの足の速さでも気づかれる。
 あたしは、思いっきりふりかぶって、玉を正面口にむかって投げる。
 玉が落ちるのを見届ける前に、次の玉を手にとって、投げる。
   パンッ! パンッ!
 つづけざまに割れた玉は、とたんに煙を大量に発生させる。
 これって、煙玉!?
 正面口が、煙につつまれる。
「どうした!」「なにが起こっている!」
 警備員の怒鳴り声がきこえる。
 少ないながらも、通りがかりの人もおどろいたように、足を止めてる。
 幸いなのは、煙に気をとられて、あたしに気づいていないこと。
 あたしは手を止めずに、玉を投げつづける。
 力のかげんがわからなくて、すぐに腕が痛くなる。
 こんなことなら、少しぐらい運動をしておくべきだったかも。
「はあはあ……」
 玉を投げ切って、あたしは息を切らす。
 正面口は、煙につつまれたままだ。
 どうなっているのか、さっぱりわからない。
 この中につっこむの……?
 ……ううん! なやんでいる場合じゃない。
 あたしは心を決めて、正面口にむかって走る。
 すぐに煙の中に入りこみ、視界が煙でみたされる。
「こっちだ」
 マサキの声のするほうに行くと、ぐいっと腕を引っぱられる。
「きゃっ!」
「おれだ。静かにしろ」
 すぐ近くに、マサキの顔がある。
「警備員は?」
「倒した。奇襲成功だ。あっちは見えないが、こちらはギリギリまで、相手の立ち位置が、わかっていたからな。あの煙の中では、数の利は活かせない。このままビルの中に入るぞ」
 マサキに手を引かれ、あたしはビルの中へと侵入する。
 入ってすぐに気づいたのは、違和感だった。
 一度きているから、見た目は、どことなく覚えている。
 だけど、そういうことじゃない。
 ビル中が、ひっそりとしている。
 これだけの騒ぎが、正面玄関であったのに、だれ一人出てくる気配がない。
 まだ、夕方で、仕事が終わるか終わらないか、という時間帯。
 働く人が、このビルにいないなんて、ふつうならありえない。
「いないな」
 マサキが、手近なドアを開いて、中にだれもいないのを確認する。
 あたしも、マサキのうしろから見てみると、照明が落としてあり、まるで夜中みたいだ。
「警備もなし、か」
 裏と表には警備員がいたから、中にもいると思っていたのに、出てくる気配がない。
 もしかして、取引場所はここじゃなかった?
 表だけそれっぽくして疑わせて、中は空っぽ。
 そんなイメージが、頭をよぎる。
「上まで順番に見ていくぞ」
 マサキが、階段を上がっていく。
 あたしもついていき、階ごとに順番にドアを開けて、部屋をのぞく。
「だれもいない……」
 あたしは、ぼうぜんとつぶやく。
 のこすは、あと1階。最上階だけだ。
「これだけいないとなると、ここはハズレだったか、それとも……」
 マサキは言って、言葉をにごす。
「ほかにも可能性があるの?」
 あたしは気になって、マサキにきく。
「なくもない。あまり考えたくはないが」
 マサキはそれだけ言って、最上階への階段を上がっていく。
 最上階もひっそりしている。
 ここにもいないとなると、ハズレ確定……。
 自信はあったつもりだったのに……。
 あたしがあきらめかけていると、マサキが急に足を止める。
 どうかしたの? そうきこうとして、マサキの顔つきがするどくなっているのに気づいて、やめる。
   カタッ
 物音がきこえた。
 あたしは、耳をすましてみる。
「…………については、…………これを見てもらえば…………」
 ……あっ。
 声がきこえる!
「この部屋だ」
 マサキが指でしめす。
 ドアをそーっと、少しだけ開ける。
 部屋の中の会話が、ききとれるぐらいの大きさになる。
「この中に、遺伝子組み換えをした植物のデータが入っている」
 はっきりと、声がきこえてくる。
 まちがいない!
 今、「遺伝子組み換えをした植物」って言った!
 取引現場!?
 ドアのすき間からは、スーツすがたの男が、アタッシェケースを持って話しているのが見える。
 マサキはすき間から、中の様子をうかがっていたけれど、急に顔色を青ざめさせて、ドアからはなれる。
 そのときに、ちらりと見える。
 スーツすがたの男の反対側に、右目に眼帯をした大男がいる。
 あれが、取引相手のタキオンの一員?
 ゾッとして、あたしはすぐにドアからはなれる。
「どうしたの、マサキ?」
 ドアからはなれた場所で、小声でたずねる。
「まさかあいつがいるとは。だから、警備員がビルの中にいなかったんだ。最後の防衛策が――最強だから、必要なかった」
 マサキは、熱にうかされているみたいに、ぼうぜんとつぶやく。
「なによ? あの片目に眼帯の大男が、問題なの? あれぐらいの大男なら、下でも倒してきたじゃない」
 たしかに、強そうではあったけど。
「やつは別格だ。タキオンの幹部、ファルコン。主様と海にしずんだはずだが、やつも生きていたんだな」
 幹部!?
 マサキから出た言葉に、あたしはおどろく。
 でも、考えてみればあたりまえか。
 これだけ重要な取引なら、幹部が出てこないほうがおかしいぐらいかも。
 ただ、それよりも気になるのは、マサキの様子だ。
 いつものよゆうが、まったく感じられない。
 こんなマサキを、見るのははじめて。
「かなわないの?」
 あたしは、思い切ってきいてみる。
「以前戦ったことがある。結果は、こっちのボロ負けだ」
「うそ……」
 あたしはおどろいて、口もとを手でおさえる。
 今まで見てきたマサキは、どんな大男でも圧倒してきた。
 だけど、そのマサキがボロ負けした?
 あの眼帯の大男に?
「とにかく、すきを見つけて、遺伝子組み換え植物のデータが入っているという、アタッシェケースをうばいとるしかない」
 マサキが言って、ドアに近づく。すると――
 中で会話していた、スーツすがたの男と、ファルコンとマサキがよんだタキオンの幹部が、会話を止める。
「どうかしましたか?」
 スーツすがたの男が、おびえたようにファルコンを見る。
「お客さんが、きたようだ」
 ファルコンは、感情を一切こめない声で言うと、不意に片手で、手近にあったデスクトップパソコンの本体を持ちあげる。
 ……は、はい?
 ここにあるタイプの、デスクトップパソコンは、15キロ以上、重いものなら20キロ以上はある。
 それを片手で苦もなく持ちあげている。
 ファルコンは、デスクトップパソコンをふりかぶると、こちらをむく。
 冗談でしょ。
   ブンッ!
 うなりをあげて、デスクトップパソコンが、マサキとあたしがいるほうにむかってとんでくる。
「ちっ!」
 マサキが、あたしにとびついて、そのまま床にころがる。
   ガシャン!
 大きな音を立てて、デスクトップパソコンが、壊れて床に部品をまきちらす。
 なに、あのむちゃくちゃ。
 背中に、ツーと汗がつたう。
 今までの相手とは、ぜんぜんちがう。
 こんなのから、どうやってアタッシェケースをうばいとるわけ!?
「やるしかないか」
 マサキが立ちあがり、部屋に飛びこんでいく。
「マサキ!」
 あたしも、ふるえる足をたたいて、なんとか部屋に入る。
ドガシャーン!
 部屋に入った瞬間に見たのは、宙をとばされるマサキだった。
 ファルコンとは反対側の、スチールロッカーに、背中からつっこむ。
 人がとぶところなんて、はじめて見た。
 ファルコンは、こちらを一瞬見ただけで、すぐにマサキのほうへ、視線をもどす。
 あたしなんて、警戒する必要もないっていうことらしい。
 それは当たってる。
 あたしに、あんな怪物みたいなの、相手にできるなんて思えない。
 そういえば、取引相手のスーツすがたの男は?
 部屋を見まわすと、部屋のすみっこで、頭をかかえて丸くなって、ふるえている。
 あれなら、だいじょうぶそう。
 それよりも、マサキは!
 あたしは、スチールロッカーにつっこんだ、マサキを心配する。
「ちっ、あいかわらず、むちゃくちゃだ……」
 マサキが顔をしかめつつ、立ちあがる。
 そのまま、体勢を低くして、ファルコンにつっこんでいく。
 目で追えないぐらいの、スピードだ。
 ファルコンの目の前までいくと、左にいくかのように動いてから、右に動く。
 遠くから見るからわかるけど、目の前でやられたら、いなくなったように見えるはず。
 だけど……。
   バンッ!
 にぶい音がして、ならぶ机の上に、マサキがころがるようにふっとぶ。
 ファルコンは、あのマサキの速度に対応して、腕を一振りしただけで、はじきとばす。
「くそっ! あきらかに、前より強くなってるだろ。どうなってやがる」
 マサキは舌打ちすると、今度はすぐにはとびかからずに、かまえをとる。
 あたしは、それを見てることしかできない。
 ……できない。本当に?
 七音さんに言われたことを、思いだす。
 無意識にはずしてしまう存在。
 今のあたしが、そうじゃない?
 この場にいるだれもが、あたしは戦力外だと思ってる。
 なにもできないし、脅威にならない。そう無意識に判断をくだしてる。
 なら、この状況をくつがえすには、あたしが動くのが一番いい。
 まだ、足のふるえは止まらない。
 できることなら、この部屋から出ていきたい。
 でも、そんなことをしたら、きっと一生後悔する。
 変わってみせるって、決めたんだから。
 あたしは、部屋を見まわす。
 手近に、鈍器になりそうなものは、なくもない。
 パイプイスや、ノートパソコンもそれなりの重さがあるし、なぐられたら痛い。
 だけど、あたしがそれでファルコンをなぐったところで、たぶん足止めにもならない。
 なら、どうする?
 考える。考えて、考えて、頭をフル回転させる。
 ……あたしは、だれ?
 宇佐美桜子。
 天才だって言われてる、女の子でしょ!
 この場を切り抜ける方法ぐらい、思いつけるはず。
 その間も、マサキとファルコンの戦いは、つづいている。
 マサキは、防御主体に動いて、ファルコンの攻撃の直撃をさけている。
 それでも、ガードした腕ごと、ふっとばされたりしていて、長く持つとは思えない。
 ファルコンは、マサキ以上のスピードに、マサキを圧倒するパワーがある。
 本当に人間かどうか、疑わしいぐらい。
 ……ん? 今、なにか引っかかったような……。
 もう一度、部屋を見まわす。さっきと景色は変わらない。だけど……。
 そうだ! ファルコンだって人間だよね。
 なら、できる方法はある!
 あたしは、戦う2人を横目に、必要なものをとりにいくために、動きだす。
 まずは、パソコンからのびている、電気コード。
 それをパソコンとコンセントから1本抜いて、机の上にあったハサミで、コーティングしてあるゴムの部分を切り取る。
 中から出てきたのは、にぶい色をした導線。
 ふつうなら、絶対にやってはいけない方法だけど、あのファルコンという大男なら、死んだりはしないはず。
 次は、室内にある小さめの給湯室に入る。
ドガシャ!
 ものすごい音に、思わずふり返ると、マサキが机の上のパソコンをなぎたおして、倒れている。
 そこにファルコンの追撃がくる!
 危ないっ!
 さけびそうになるのを押しとどめると、マサキが間一髪で、身体を起こしてパンチをよける。
 起き上がるときに、マサキがあたしをちらりと見たけど、すぐに視線をファルコンにもどす。
 逃げろ、とは言われなかった。
 まだ、マサキはあきらめてないし、あたしがあきらめていないことに、マサキも気づいてくれてる。
 だけど、あの様子だと、マサキがもう持たない。
 いそがないと。
 あたしは、給湯室の棚から、塩をとりだして、食塩水をつくって、2リットルの空のペットボトルにいれる。
 導線がむきだしのコードと、ペットボトルをかかえて、あたしは部屋にもどる。
 マサキ!
 静かになった室内では、マサキがファルコンの右手で首もとをつかまれて、持ちあげられている。
「ううぅ……うあぁ……」
 マサキが、うめき声をあげる。
 足が床についてない。あのままだと、窒息しちゃう!
 ファルコンは、あたしのことに気づいて、視線をむけてきたけど、その目は「まだいたのか?」と言いたげだ。
 だけど、それぐらいあなどられていたほうが、今は都合がいい。
 今は、マサキをつかまえていて、ファルコンも片手がふさがっている。
 動くなら今しかない!
「うぅ……」
 でも、あたしの足は動きだせずに、ふるえてる。
 あたしの考える方法は、あのファルコンの、近くに行かなくちゃできない。
 こわくないわけない。足がすくむ。体がふるえる。
 ……それでも!
 あたしは、ふるえる両足をいきおいよく、両手でたたく。
 痛みを感じるままに、ファルコンにむかって走りだす。
 遠くから、ペットボトルの食塩水を、ファルコンにむかってあびせる。
 ファルコンも、まさか水をかけられるとは思わなかったのか、それとも意味がないと思ってるからか、なんの反応もしめさない。
 その無意識のあなどりを、利用させてもらうわ!
 あたしは、ファルコンの近くまで行くと、身をかがめて、すべりこむようにファルコンの足もとにむかう。
 つづけて、導線がむきだしのコードを持って、ファルコンの足にまきつける。
「さっきから、羽虫がうるさい」
 ファルコンが、足をかるくふるう。
「きゃっ!」
 あたしは、ふっとばされて、床をころがる。
 だけど、反撃がくると思っていたから、両腕で顔をおおっておいて、正解だった。なんとか、まだ動ける。
 ガードした腕も真っ赤になっているけど、折れてはなさそう。
「桜子!」
 つかまれたままのマサキが、ふっとばされた、あたしにさけぶ。
「マサキ、そいつからはなれて!」
 あたしはさけび返す。
 作戦を、説明しているよゆうなんてない。
 だから、あたしを信じてもらうしかない。
 短い時間だけど、積み上げてきた信頼を信じるしかない。
「うおおおおおおっ!」
 マサキが、首もとをつかまれたまま、ファルコンのお腹に連続でけりをくりだす。
 ボコボコボコ、と連続でけりが決まる。
 持ち上げられているとは、とても思えない威力だ。
「ちっ」
 ファルコンは舌打ちすると、マサキをほうり投げる。
 効果があったらしい。
 ――そして、この瞬間を待ってた。
 あたしは、ファルコンの足にまいたコードの先を持って、コンセントにさす。
 すると、電流がコードをたどっていく。
「ぐぅおおおおおおおっ!」
 食塩水で、通電しやすくなったファルコンの体に、電流が流れる。
 さけび声をあげていたファルコンは、ビクッと体をふるわすと、片膝をつく。
「感電、か……羽虫と思ってほうっておいたのが、まちがいだったか」
 ファルコンが、ギロリとあたしを見る。
 背中に寒気が走る。
 だけど、もうこっちの作戦は、半分は終わってる。
 マサキが立ちあがって、ファルコンを無視して、スーツすがたの男のところへむかう。
「それをわたせ!」
 マサキは、スーツすがたの男からアタッシェケースをとりあげる。
「ひいぃ!」
 スーツすがたの男は、すっかりおびえて、抵抗する気もないらしい。
 ファルコンは、まだ感電から立ち直れておらず、動けていない。
 マサキがアタッシェケースを開くと、USBメモリと、難しい数式や図形が書かれた書類の束。
 マサキから見せられ、あたしはざっと書類に目を通す。
 パッと見ただけでは、さすがに、なにが書かれてるかまではわからない。でも、遺伝子組み換えに関わる書類、ということは判別がつく。
 ファルコンは、まだ片膝をついたまま立ちあがれてない。
 マサキが、ファルコンを見る。
「今回はこっちの勝ちだ。城での借りは返したぞ、ファルコン」
「……ふん、負けを認めよう。だが、おれを生かしておくのなら、次はないぞ」
 ファルコンが、マサキをにらみつける。
 マサキは、ちらりとあたしを見る。
「さあな。次の相手は、おれでないことを祈っているさ」
 マサキは言って、あたしの手を引いて、部屋を出る。
 そのまま正面口まで、走る。
 警備員が、よろよろと復活しているところを、マサキがうしろから走りながら、なぐりつけて、気絶させる。
 そのまま外に出て、走る。
「ずいぶんと、むちゃをしたな、桜子」
 マサキが、走りながら言ってくる。
「だって、ああでもしないとアイツは止められないと、思ったから」
 あたしも、あのとき動きだせた自分の勇気に、おどろいてる。
「助かった。……桜子が協力者でよかった」
 マサキが、なにかをぼそりと言ったけど、走る風切り音で、よくきこえない。
「え、なにマサキ。今、なにか言った?」
「いや。まだ、終わってないと言ったんだ」
 そんな言葉だったかな? と思ったけど、それよりマサキの言うとおりだ。
 しばらく走って、大通りぞいのオープンカフェまでたどりつく。
「追手はいないな」
 マサキがまわりを確認して、つげる。
「それなら、この遺伝子組み換え植物のデータの使い道だけど」
「予定通りにいく」
 マサキが言う。
「そうね。もともと、取引をじゃまするだけだと、あたしたちは負けだった。データを再度取引されたら、ふせぎようがない」
 最初から、この作戦では取引阻止は、作戦目的の1つでしかなかった。
「そうだ。だからこそ、このデータが必要だった」
「作物を駆逐してしまう、遺伝子組み換え植物は正体不明だから脅威になる。だけど、その正体が調べつくされてしまえば、対応は可能だもの。世界の食料を人質になんて、とることはできない。このデータを、しかるべき研究機関で調べてもらえばだいじょうぶ」
 村枝教授なら、この植物の脅威を理解して、どこかきちんとした研究機関を紹介してくれるはずだ。
「なら、行くぞ。休んでいるヒマはない」
「だいじょうぶ? マサキ、ふらふらみたいだけど」
 よく見ると、マサキは体中、傷だらけだ。
 あれだけ、何度も派手にふっとばされたら、とうぜんだよね。
 歩く人にも、注目されてる。とはいっても、かかわり合いになりたくないからか、目をあわせようとする人はいないけれど。
「このていどなら、だいじょうぶだ。桜子こそ腕はどうなんだ?」
「痛いけど、折れてはいないわ」
「それなら、もうひと仕事、このまま行く」
 マサキは、歩きだす。
「ほんと、人使いが荒いわね」
 あたしは苦笑しつつ、マサキのあとをついていく。
 ヘトヘトのはずだけど、なぜか足は動いてくれる。
 それはもしかしたら、仲間がいっしょだからかもしれない。
 そんなことを、マサキの背中を見て思いながら、歩いていった。

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