みんなのイチオシ! “怪盗レッドのナンバー1人気の巻” 前後編を全文ためし読み! 第2回

2022年3~5月におこなわれた 「キミの好きな巻はどれ!? 怪盗レッド総選挙」で、見事に第1位にかがやいた15巻!
その前編となる14巻から、15巻のラストまでの2冊分を、連続して公開します。
アスカとケイの「レッド結成以来の大ピンチ」を描いた、この2冊。
ラストには感動まちがいなし! ぜひ読んでみんなの「イチオシ」の理由を、たしかめてね!

6月22日(水)~7月6日(水)は、『怪盗レッド14 最強の敵からの挑戦状☆の巻』が毎週更新!

7 変わりたい気持ち
大学にむかう道は、いつもさわがしい。
大学生たちが、にぎやかに話しながら、街路樹の植わる歩道を歩いている。
そんなすがたを横目に、1人歩いていたあたし――宇佐美桜子は、大学の門にたどりつく。
門のむこう側には、テーマパークのような広さの敷地。
そこに、小中学校の校舎を、何十校も寄せ集めたように、建物がならんでいる。
いつ見ても、少しびっくりする。
門の横には、警備員のおじさんが立っている。
いつも見かける、50代ぐらいのおじさんで、警備員にしては、優しげな雰囲気がある。
今日こそは…………あいさつしたい。
これまでずっと、かるく会釈するだけで、通りぬけていたけど……。
そういうのは、やめにするって、決めたから。
あたしは、警備員のおじさんに近づいていく。
「……あ、あの、こ、こんにちは」
つっかえながら言うと、
「こんにちは。桜子ちゃんは、今日もF—3棟の北澤教授の研究室だね」
警備員のおじさんは、あたしを見て、にこやかな笑顔で返事をしてくれた。
名前まで覚えられていて、あたしはびっくりする。
ここは、国立の理数系の大学だから、広いし、警備も充実してる。
そんなたくさんいる、警備員のおじさんたちが、なんであたしのことを?
「はい。あたしのことを、知っているんですか?」
「学生の顔は、なんとなく覚えておくんだよ。出入りが自由な場所だから、へんなやつが入りこまないようにね。それに……ほら、桜子ちゃんはめだつだろう? もうここに通うようになって、2年ぐらいたつだろ。きみのことを知らない警備員なんかいないよ」
警備員のおじさんは、そう言って肩をすくめる。
いつも、警備員の人たちのことは、自分とは関係ないと思って、通りすぎてきたけど、むこうは色々と知っててくれてるんだ。
ちょっと不思議な感じがする。
「最近は、なんの研究をしてるんだい?」
「ええと、素粒子物理学の観点から、ダークマターについての研究、です」
「お、おう……おじさんには、さっぱりわからないな」
警備員のおじさんは、ほおをかいている。
「じゃあ、そろそろ時間なので、失礼します」
「ああ、引きとめてわるかったね。あんまり根を詰めすぎないようにね」
おじさんに、ぺこりとおじぎをして、あたしは門の中に入る。
ふうぅ……。
あたしは、心の中でホッと大きく息をつく。
知らない人との、ごくふつうの、日常会話。
ただそれだけなのに、やたらと緊張して、手に汗までかいてる。
やっぱり、こういうことはぜんぜんなれない。
研究についてだったら、大人相手でも気負わずに、話せるんだけどなぁ。
歩いていくと、大学生が、こちらをチラチラと見てるのに気づく。
それもそのはずで、あたしは高校の制服すがただから。
前は、その視線にイライラすることもあったけど、今はそういうふうに見られるのも、しかたないのかな、と受けとめてる。
昔のあたしだったら、絶対にこんなことを思わなかった。
そんなことを思うようになったのも、警備員さんにあいさつしたことも、……あいつの……、ケイのおかげかもしれない。
ケイか……。あたしは、くすりと笑う。
中学生なのに、あたしと同じ大学の研究室に、出入りするようになった天才。
それなのにケイは、そのことをあまり重要だと思っていないような、変わったヤツ。
とんでもなく、無愛想だしね。
なにを考えてるのか、あたしにも読み切れない。
だけど、とんでもなく頭が切れるのは、まちがいない。あたしに匹敵するぐらいに。
一方的にあたしが意識してるうちに、ケイに研究で先を越されて、くやしい思いをしたり……ちょっとした事件での借りもある。
だからこそ、次に会うときは、ケイが目を丸くするぐらい、変わっていたいと思う。
――ライバルとして。
大きな笑い声が近くできこえて、チラリと視線をむける。
大学の中にある芝生で、大学生たちが飲み物を飲みながら、楽しそうにおしゃべりしている。
カフェテリアやレストランもあるけど、今日の陽気なら、外のほうが気持ちいいにちがいない。
あたしの場合は、おしゃべりじゃなくて、読書をしたら気持ちよさそう、という感じだけど。
おしゃべりする、友達もいないし。
……自分で言ってて、少し悲しくなったから、これ以上はやめとこう。
あたしは、幼稚園のころから、理数系のことに強かった。
3歳くらいで方程式がとけたり、理数系の大学受験の問題も、パズル感覚でといて遊んでたし。
それでも、パパとママはあたしのそういう能力を、とくに気にしない人だった。
でも、中学校の理科の先生が、あたしの能力におどろいて、大学の教授に紹介してくれた。
それで研究室に顔を出しているうちに、大学の『特別研究員』になったんだ。
まだ高校1年生だけど、こうして週に2~3回は、大学の研究室に通ってる。
ケイもそうだったけど、最近はいそがしいとか言って、ほとんど顔を出していない。
大学の研究室での研究より、おもしろいことがあるのかって、あたしは思うけどね。
……でも、ケイには、あるのかも。
昔のあたしなら、こんなことは絶対に、認めたくなかっただろうけど。
――変わりたいな。
ケイに出会ってから、あたしはそう思うようになった。
さっき門の前で、警備員の人と言葉を交わしたりしたのも、その1つ。
あたしは、研究とか勉強をはさまずに、人と会話するのが苦手。
そういうところを変えた自分を見てみたい、と今は思ってる。
……ま。それもケイの影響だっていうのが、ちょっと腹が立つけどね。
そんなことを考えている間に、「北澤研究室」と書かれたプレートのかかる、部屋の前につく。
あたしは、ひと呼吸してからドアをノックする。
「はい、どうぞ~」
「こんにちは~」
あたしは、あいさつをして、ドアを開けた。
研究室の中には、北澤教授と大学生が4人、全部で5人いた。
「こんにちは。待ってたよ、桜子くん。さっそくだけど、きみにいくつか質問や相談をしたい学生がいるから、答えてあげてほしい」
白衣すがたで作業をしていた北澤教授が手をとめて、人のよさそうな笑みで、あたしを見る。
北澤教授は、小柄で小太りで、やさしい雰囲気がにじみでてる、50代のおじさん。
中学生のころとか、今よりもっと話下手だったあたしに、根気よく声をかけてくれたりした。
今、研究室で大学生の人たちとも、コミュニケーションがとれてるのは、北澤教授のおかげといってもいい。
「わかりました」
あたしは、バッグから白衣をとりだし、さっそく身につける。
白衣をまとうと、キュッと気分が引きしまる。
「桜子くん、ここの計算式についてなんだけど……」
待ってました、とばかりに質問してくる大学生に、あたしは答えていく。
「はい、これは、こっちの式をあてはめると……」
昔は、こんなふうに大学生相手に、怖気づかずに話すことはできなかった。
答えることはわかっていても、言葉が出てこないなんてことは、よくあったけど、今ではすっかりなれた。
30分ぐらい答えたところで、
「あ、あたし、そろそろ行かないと」
あたしは、腕時計を確認する。もうすぐ2時半。
そろそろ出ないと、おくれちゃう。
「なにか用事?」
大学生たちが、不思議そうな顔をしてる。
いつもは、大学の学食で夕飯を食べていくぐらい、けっこうおそくまで研究を続けているからね。
「ええ……バイトなんです」
あたしが答えると、大学生たちが「へ?」と間のぬけた声を出す。
……そんなに、びっくりしなくても、いいと思うんですけど。
「そういうわけだ。今日は桜子くんには、これ以上たよれないぞ」
北澤教授が、大学生たちを見まわして言う。
北澤教授には、バイトの話はしてあった。
だけど、研究室の大学生たちには、話すタイミングがなくて、気になってたんだけど……。
あたしは、大学生たちの顔を、チラッとうかがう。
あたしの頭脳がたよりにされてることはわかるから、がっかりされるかもしれない。
勝手だって、怒られるかも。そんな不安を感じる。
でも。
「桜子くんが、バイトかあ。いいんじゃないか?」
「おれも去年までは、バイトはよくやってたよ」
「やってみると、社会勉強にもなるし、なによりお金が手に入るしな」
「どうせ、あんたはムダづかいしたんでしょ」
「そんなことないって」
みんなの、あっさりした反応に、びっくりして、あたしは目を丸くする。
「今度、バイトがどうだったか、きかせてくれよ。失敗談も歓迎だ」
「なにそれ。縁起のわるいこと、桜子に言わないでよ」
「そんなつもりじゃないって」
この人たちは、あたしの頭脳だけじゃなくて、「あたし」自身を見てくれてるんだ……。
そう感じられて、あたしはうれしくなる。
北澤教授を見ると、笑顔でうなずいてる。
「それじゃあ、行ってきます!」
あたしは、あいさつすると、かろやかな気持ちで研究室を出た。
バイト先は、歩いて20分ぐらいの場所にある。
予定は4時だから、まだ余裕がある。
それにしても、生まれてはじめてのバイトか。
自然と緊張してきて、手がちょっとふるえる。
でも、自分で決めたことだから。
バイトといっても、さすがに接客業は、あたしにはハードルが高そうだから、やめておいた。
バイトの内容は、自分のスキルを活かせそうな、データ入力のバイト。
あまりくわしくは知らないけど、数字とか文書とかの書類に書かれているものを、パソコンでデータ化するのと、ちょっとしたプログラミングもするってきいてる。
事前に受けた面接で、プログラミングの実技テストがあったけど、そのあたりは研究室でも使うから、まったく問題なかった。
「ここか……」
あたしは、バイト先のビルにたどりつく。
5階建ての薄茶色のビル。
そこまで古くはなさそうだけど、新しいってわけでもない。
ビルの中に入ると、受付があって、女の人が2人すわっていた。
バイトにきたことを話すと、3階に行くように案内される。
エレベーターをつかって3階に行くと、「アルバイトはこちら」と書かれた紙が、ドアにはってあるのを見つけた。
緊張で、足が重くなるのを感じつつ、ドアの前まで行く。
大きく深呼吸してから、ドアを開ける。
部屋の中は、長机とパイプイスがならんでいた。
中にいるのは、20人ぐらいかな。大人の人ばっかり。
男の人が多めだけど、女の人も3分の1ぐらいはいる。
高校の制服を着てるような人は、ほかにいなくて、チラチラと、こちらに視線をむけられる。
大学で感じるのとは、またちがった視線に、ギュッと心臓がしめつけられるような、緊張を感じながら、近くのあいている席にすわる。
……はあ……ドキドキするなぁ。
それぞれバイトの人たちは、スマホを見たり、ぼーっとしたりして、すごしている。
話したりはしないみたい。
ほっとしたような、がっかりしたような……。
バイト先での、人付き合いがあるんじゃないかって、緊張してたんだけど。
ガチャ
2~3分して、スーツすがたの30代ぐらいの、男の人が入ってくる。
「みなさん、お集まりですね」
スーツすがたの男の人は、部屋の中を見まわしながら、よく通る声で話す。
「さっそくですが、今回の仕事内容についてお話しします。みなさんにしていただくのは、パソコンでのデータ入力です。作業はシンプルです。おわたしする書類を、データ化してください。当然ですが、入力内容は外部にもらさないように、お願いします。それでは、こちらにどうぞ」
スーツすがたの男の人が、ドアを開けてろう下に出ていく。
あたしも、ほかのバイトの人たちも、あとにつづく。
案内されたのは、同じ3階にあるパソコンがならぶ部屋。
ずらりと30台ぐらいの、パソコンがならんでいて、圧倒される。
社員の人が席を指定して、順番にすわっていく。
全員が席にすわり終わると、今度は何人かの社員の人が、あたしやバイトの人たちに、ずっしりとした書類の束をわたす。
ペラリと、紙をめくると、表や数字、それに文章がびっちりと書かれている。
これだけ入力するとなると、たしかに大変かもしれない。
でも、いつも似たようなことは、研究室でもしているし、こまることはないかな。
よし! はじめてのバイトだし、がんばろう。
あたしは、心の中で気合を入れると、キーボードの上に、指をおろした。
総選挙の結果発表と、みんなからのコメントはこちら!
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