みんなのイチオシ! “怪盗レッドのナンバー1人気の巻” 前後編を全文ためし読み! 第1回

6 過激な宣戦布告!
ファルコンと、ニック。
日本から撤退したはずの、犯罪組織タキオン。
その幹部2人が、今目の前にいる。
それが意味することは……?
『アスカ、逃げるぞ!』
一瞬早く、ケイが指示してくる。
そうだ!
今は、この場をどうにかしないと。
ファルコンとニック。
それに、ニックのそばには、見たことのない、ノートパソコンをかかえた若い男と、すらりとした高身長で、立ちすがたからして身軽そうな、金髪の若い女が立っている。
正面からぶつかって、勝てる見こみは少ない。
なら、逃げるしかない。
わたしは、すぐにドアの方向にふみだそうと、体勢を変える。
だけど、それを見越したかのように、ファルコンがすばやく行く手をふさぐ。
あの大きな体で、このスピード。
いまいましいぐらいに、あいかわらずだ。
「すぐに帰ることはないだろう、怪盗レッド。せっかくきてくれたのだから」
ニックは両手を広げて、歓迎するよ、と笑って言う。
でも、目がぜんぜん笑ってない。
わたしは、逃げるのはあきらめて、ニックにむき直る。
すきを探すしかない。
「この取引自体が、あんたたちが仕組んだことだったのね」
「そうだ。取引の情報を流し、屋敷に本物の価値ある美術品を配置し、警備も雇った。ああ、屋敷の警備員たちは、ただの雇われだから、われわれとは直接は関係ないよ。まあ、まっとうな人間でもないがね」
ニックは、楽しそうに語る。
ケイの勘が、当たりだったってわけね……。
この取引自体が、うまく仕組まれたウソ。
しかも、この口ぶりだと……。
「それだけの仕掛けを、もしかして、わたしのために?」
「その通りだ。君たちのためだけに、用意した。この国に帰ってくるのに、まず一番にあいさつすべき相手だと思ったものでね」
「それはどうも」
まったく、ありがたくないけどね!
話しながら、ファルコンのすきをうかがうけど、ぜんぜん抜ける気がしない。
右目が見えないなら、そちらが死角のはずなのに、完全にカバーされてる。
そう思っていると、ニックのとなりにいた若い男が、不意にノートパソコンを開いた。
「ちっ。屋敷のシステムに、侵入してきやがった。こいつの仲間だな。ちょうどいい。歯ごたえのある相手が、ほしかったところだ」
黒髪のアジア風の男は、舌打ちすると、ニヤリとこちらを見て笑う。
ケイが、裏で動き出したんだ。だけど、それも読まれてる。
あの若い男は、ケイと同じでパソコンの技術が優れてるタイプなの?
それにしても、話し声をきいてみると、思ったより若いのかも。
20歳か、それより下か……。
「対応はまかせた」
ニックは若い男に言って、わたしにゆっくりと近づいてくる。
それは不用意だよ!
わたしは、すばやく催眠ガス入りの玉を、ニックにむけて放つ。
だけど――
キンッ!
ニックに当たる前に、横からナイフが飛んできて、玉を壁にぬいつける。
ウソッ……!
飛んでる玉に、ナイフを当てたの……。
ナイフを投げた相手を、見る。
ずっとだまったままの、金髪の女の人。
モデルのような体型で、口もとの半分を隠しているけど、その目は冷め切っていて、感情の色が見えない。
それにしたって、ナイフを用意するのも、気づかせないほどの早業だった。
とんでもない技術だ。
まずい……。
ニックとファルコンだけでも、強敵なのに、見たことのない2人も、専門的なスキルを持っているみたい。
ニックはそれを見て、満足そうにうなずくと、立ちどまる。
「タキオンを、日本から一度引かせた。それに敬意をはらって、最初にきみたち、怪盗レッドに宣言する。感謝したまえ」
ニックが、手ぶりを加えながら、ゆかいそうに話す。
「いったい、なにを伝えるっていうの!」
わたしの言葉に、ニックはぴたりと動きをとめると、すっと目をほそめ、真剣な顔つきになる。
「――われわれタキオンは、日本へ再侵攻する。今度は油断は一切ない。日本を、そして世界を支配する!」
ニックは、高らかに宣戦布告ともとれる、言葉を放つ。
「そ……そんなこと、させるわけないでしょ!」
わたしは、ニックにむけて、かまえる。
だけど、すかさず、ファルコンと金髪の女の人が、牽制を入れてきて動けない。
「とめられるものなら、とめてみせろ」
ニックはそう言うと、わたしに背をむける。
それでも、わたしは動けない。
ファルコンと金髪の女の人の、プレッシャーがきつい。
『くっ、こっちはダメか! アスカ、今は脱出が優先だ!』
ケイの声にも、あせりがまじっている。
屋敷のシステムに入りこむのが、あんまりうまくいっていないのかも。
逃げきれる?
ファルコンや、この未知の相手を目の前に……。
ムリだ。
ファルコン1人なら、逃げるだけならどうにかなったかもしれない。
でも、この人数を相手にしてなんて、方法が思いつかない。
……でも!
それでも、やるしかないっ!
わたしは、すばやくバッグから、催眠ガス入りと唐辛子入りの玉をとりだす。
少しでも時間をかせげれば!
わたしは、一気に、玉を全弾ばらまく。
パンッ パンッ パンッ
次々に部屋のあちこちで、玉がはじける。
そのまま口もとをおおい、部屋のドアを開けて、ろう下に出る。
全力全開で、ろう下を走る。
足音なんて、気にしてる場合じゃない。
このていどで、ファルコンたちの、足止めになるとは思えない。
すぐに追ってくるはず…………あれ?
うしろから迫る気配がない。
いぶかしく思いつつも、警戒をゆるめずに、屋敷の外に出て、距離をとる。
それでも、ファルコンたちは、屋敷から出てくる様子もなかった。
「……どうして……?」
逃げきれたの?
だけど、どうして逃げきれたのかわからない。
あのていどで、足止めできる相手じゃないと思ってたのに。
『さっきの宣言通り、とめられるものなら、とめてみせろということらしいな。今日のところは、見逃されたんだ…………くそっ!』
ケイが、くやしさのにじむ声で、つげる。
『なにかを感じていたのに……決断できなかった。うかうかと、はめられたんだ。……完全に、おれの負けだ!』
ケイらしくない、乱暴な口調で言う。
たぶん、わたし相手に言ってるというより、自分のことがゆるせないんだと思う。
わたしだって、同じ気持ちだから。
ニック、ファルコン。
それに新しい見たことのない2人の実力者。
あの犯罪組織タキオンが、もどってきたんだ。
――日本を支配するために。
絶対に阻止しなくちゃ!
そのためにも、今はくやしいけど、逃げなきゃいけない。
ギュッとくちびるをかみしめ、わたしは屋敷からはなれていった。
第2回へつづく(6月29日午前10時 公開予定)
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