みんなのイチオシ! “怪盗レッドのナンバー1人気の巻” 前後編を全文ためし読み! 第1回

2 ケイが「判断不能」って!?
家に帰ってくると、わたしは部屋にまっすぐにむかう。
ドアを開けると、いつものようにケイが、パソコンにむかって、作業していた。
ほんと、ケイはテスト勉強する必要がなくて、うらやましいよ。
そんなことを思っていると、ケイが作業にひと区切りついたのか、手をとめる。
「…………」
だけど、そのまま、だまってる。
ケイがだまってることはめずらしくないんだけど、考えこんでたりするから、声をかけるタイミングを迷うんだよね。
そんなことを思っていたら……。
「…………~~~~~~~~!」
ケイがとつぜんいらだったように、乱暴に頭をかきむしる。
「!?」
な、なにごと!?
ケイのこんなしぐさ、はじめてみるよ。
「ど、どうかしたの? ケイ」
わたしはおそるおそる、声をかけてみる。
ケイは、ぐるりとイスを回転させて、ふり返る。
けわしい顔をしてるけど、そのいらだちは、こっちにむいてる感じがしない。
ということは……いらだちの相手は……自分?
「--アスカ、次のターゲットが決まった」
ケイが、言う。
ターゲット、という言葉に、わたしは怪盗レッドの仕事だとわかり、気持ちを引きしめる。
でもケイがこんな表情をしてるってことは……。
「もしかして、次のターゲットが、むちゃくちゃむずかしいとか?」
「……いや、その判断を、しかねている」
ケイは目をふせ、あごに手をあてて、考えこむ。
判断をしかねるって、どういうこと?
「次のターゲットは、ある取引の阻止だ」
取引?
「盗品売買の取引が行われる、という情報をつかんだ」
「ふーん」
それなら、べつに、仕事の内容としては、いつもとあまり変わらないよね。
ケイが、いらだつ理由がさっぱりわからない。
「なにか、おかしいところがあるの?」
「いや、なにもない」
へ? な、ないの!?
なら、どうして迷ってるわけ!?
「それが、わからない……なにかおかしい……そう感じるんだ。その理由がわからないから、こまっている」
へえ?
わたしは「なにかおかしいけど、わかる」って、けっこうあるけどな。
「アスカの勘は、動物並みだからな」
むっ、またそれ?
「じゃあケイのそれも、怪盗としての勘なんじゃない? 怪盗をやるようになってから、けっこう長くなってきたし」
中学1年になる直前からだから、もう1年以上だもんね。
「……」
ケイはふきげんそうな顔で、髪をかきあげる。
もう……髪の毛、ぼさぼさだよ。
でも、ケイがなんでいらだってるのかは、少しわかったかも。
勘にたよるなんて、ケイの性格からいって絶対したくないはず。
だけど、勘を無視することも、できないと思ってるんだ。
経験的に。
「どこか、情報にあやしいところがあってくれたほうが、逆にすっきりするんだけどな……」
ケイが、こめかみを指でおさえつつ、つぶやく。
あやしいところがあれば、そこを警戒すればいいわけだしね。
でも、今のところ問題がなにもないなら、対処のしようがない。
それで最初の「判断をしかねてる」って言葉に、なったんだ。
「でも、怪盗レッドが情報をつかんでるのに動かないってわけには、いかないでしょ!?」
わたしは、明るく言う。
悪いやつらの取引を、指をくわえて見のがすなんて、怪盗レッドとして絶対できない。
「……まあ、それはそうだが」
「なら、やろうよ! で、その取引はいつ?」
「5日後だ」
えっ?
「ちなみに、テスト期間の2日めの夜、0時半だな」
え―――――っ!
ケイの答えに、わたしは頭をかかえたくなる。
「ひ、昼間にテストで、夜にレッドをやるの……?」
しかも、その翌日もテスト?
どっちだけでも大変なのに、両方がいっしょにくるとか。
悪いやつらも、少しはタイミングを選んでほしいよ。
と、言いたいところだけど、そうも言ってられないよね。
「アスカには、それも問題だな。どうする? 今回のレッドの仕事は、やめておくか?」
ケイがきいてくる。
へ? なんで?
「いや……さっき言ったとおり、まだ判断がくだせない。ただ、情報を見るかぎりはGO、だ。だから、アスカの意見をききたい。……アスカは、どうしたい?」
ケイが、真剣な顔で、わたしにきいてくる。
えええっ!
そんなこと、急に言われても……。
意見をきかれることはあったけど、ケイがレッドのことで、判断をゆだねてくるなんて……。
はじめてだよね!?
なんて、答えるべきだろう。
わたしは、すぐには答えずに、頭の中でもう一度、考える。
…………うん!
「さっきも言ったとおり、悪いやつらが悪いことをしようとしてるなら、それをとめるのが怪盗レッドだよ!」
わたしは、ハッキリと答える。
それをきいて、ケイは目を閉じる。
数秒だけ、沈黙があってから、
「……わかった」
ケイがうなずく。
「準備しておく」
「りょーかい!」
さっそくケイは、パソコンにむかい、作業を再開する。
その背中を見ながら、わたしはベッドに腰かける。
怪盗としての、ケイの勘、かぁ……。
あのケイが、それに引っかかると言うんだから、気をひきしめていかなきゃね。
どっちにしても、実行役のわたしに、ナビゲーター役のケイのことは手伝えない。
だから、自分ができる準備をしておかなくちゃね。
5日後にあわせて、基礎トレーニング以外にも、体を動かしておかないと。
ここのところ、勉強ばっかりしてる気がするし。
とりあえず、朝のランニングを10キロから、30キロに増やしとこ。
あとは、道場も借りられるといいんだけど。
それはお父さんに相談かな。
テストにレッド。
両方とも、ちゃんとやって、乗りきらなくっちゃね!