KADOKAWA Group
ものがたり

怪盗レッド スペシャル 第10話 初代怪盗レッドの活動記録

「ぼくの落ち度です。反省はあとでしますが、今は計画を組み立てなおします」

『ああ、頼む』

 ぼくは、すぐさま頭の中で、計画の修正案の(こう)(ちく)をはじめる。

 ――――これはダメ、あれはリスクが高すぎる、これはいい線か……よし、これだ。

「で、どうするの? 圭一郎お兄ちゃん」

 美華子ちゃんが、ワクワクしたような表情で、ぼくにきいてくる。

 この、トラブルを楽しんでるみたいな顔は、やめてほしい。

「兄さん、きこえる?」

『ああ、きこえてるぞ』

「兄さんは、そのまま屋敷の連中を引きつけて、派手にあばれまわって。ただし、屋敷の西側からなるべく遠ざかるように移動して。気づかれないように」

『ふむ。(ゆう)(どう)するってことだな。まかせろ。……だが、1つ問題があるな』

「なに?」

 ぼくの計画に、なにかまずい部分が、あっただろうか。

『西がどっちか、わからん』

 うっ。

「…………兄さん、窓から外は見える?」

 ぼくは頭をかかえながら、たずねる。

『ああ、見えるぞ』

「タワーがあるのが、西の方角だよ」

『わかった! 連中の相手は、まかせとけ』

 通信が切れる。

「翼お兄ちゃんらしいね」

 美華子ちゃんが、くすくす笑いながら言う。

 そして、その笑みが、すっと消えて、真剣な表情になる。

「それで、わたしたちも動くんだよね? 圭一郎お兄ちゃん」

「うん。ぼくたち2人で、盗品売買の証拠をおさえにいく」

「りょーかい! 窓の鍵はどうするの?」

 美華子ちゃんが、きいてくる。

 翼兄さんは、まだ窓の鍵を開けていないから、予定していた潜入ルートはつかえない。

「見つからないように潜入する計画だったからつかえなかったけど、今は翼兄さんが派手な誘動をしてくれている。出る音を最小限におさえて、窓ガラスを割って潜入する」

「わかったよ! それならまかせて。潜入するのによさそうな窓はこっちだよね」

美華子ちゃんは、さっそく動きだす。

 翼兄さんとちがって、美華子ちゃんは屋敷の見取り図が、頭に入っているみたいだ。

 本当なら、打ち合わせのときに翼兄さんもきいていたんだから、覚えているはずなんだけど……。

 そのまま、ぼくと美華子ちゃんは、翼兄さんのおかげで、すかすかになった警備の穴をついて、盗品売買の証拠の品を1つ盗んで、証拠写真を撮り、屋敷を脱出する。

 翼兄さんは、少しおくれて、ぼくらと合流した。

 当然のように無傷なのがすごい。

「あとは、この証拠を、警察に届ければいいんだな」

 翼兄さんが、満足げに言う。

「怪盗レッドの名前でね!」

 美華子ちゃんも、うれしそうだ。

「べつに、名乗らなくてもいいと思うんだけど……」

「「それはダメ(だ)!」」

 翼兄さんと美華子ちゃんが、声をそろえて言うので、ぼくはあきらめる。

 この2人にとっては、「怪盗レッド」の名前を使うのも、重要なことらしい。

 

 その後、盗品と証拠の写真などを「怪盗レッド」の名で、警察に届けると、警察は、うたがいつつも屋敷を調べるために動きだし、盗品売買にかかわった者たちが、次々と逮捕された。

 ――以上が、今回の怪盗レッドの活動の記録である。

 

     3

 

「わあぁ! ……お父さんたちって、こんなふうに怪盗レッドの仕事をしてたんだぁ」

 わたしは記録を読むというかたちでだけど、初めて知った、初代怪盗レッドの(かつ)(やく)ぶりに、(こう)(ふん)する。

「それに、圭一郎おじさんも、現場までいってたんだね。はじめて知ったよ!」

「父さんたちのころは、通信が、まだ短い距離でしか送れなかったんだと思う。それに、距離が長くなると、それだけ盗み聞きされるおそれが高まるから」

「そうなんだ」

 技術が進歩した今、わたしたちは恵まれてるってことなのかも。

 そのぶん、お父さんたちは、わたしたちよりも1人多い、3人組だったわけだけどね。

「でも、お父さん、屋敷の見取り図を覚えてないなんて、わたしのことをとやかく言えないよ。さすがにわたしだって、いつも覚えるようにしてるし」

「それでも計画が中断にならない、父さんの計画を見直す判断力や、翼おじさんの身体能力の高さには、目を見張るものがある」

「だね。うちのお父さん、そのころから強そうだもんなぁ」

 当時のお父さんは、今のわたしと、年齢はそんなに変わらない。

 だけど、わたしより、そのころのお父さんのほうが強かったんだと思う。

「ねえねえ、ケイ。ほかの記録は?」

「ああ、見てみるか……ん?」

 ケイが、別のファイルを開こうとして、まゆをひそめる。

 ピ―――。

 とつぜん、パソコンから警告音のようなものが鳴り、ケイはなにも操作していないのに、さっきまで開いていたフォルダが閉じて、デスクトップ上から消えてしまう。

 な、なにごと!?

「なに、どうしたの、ケイ!?」

 わたしはびっくりして、ケイにきく。

「…………やられた」

 ケイは、パソコンを操作していた手を止めて、つぶやく。

「え?」

「父さんのしかけたワナだ。最初に、ぼくでもギリギリ破れるくらいのセキュリティを解除させて、安心させたんだ。それで、2つめのファイルを開こうとすると、フォルダごと、もっと強固なセキュリティが再設定されるようになっていた。今度は、びくともしない」

「それって、わたしたちがファイルを読むことまで、おじさんが予想してたってこと?」

「そうなる。父さんに、してやられた」

 ケイは、くやしそうに言う。

 うーん。

 さすがは、初代怪盗レッドだよ。

 ケイの裏をかくなんて。

 でも、ほんの少しだけど、初代怪盗レッドのことを知ることができて、わたしはうれしかったけどね。

 おじさんも、きっと意地悪でこんなことをしたんじゃなくて、自分たちの活動の記録を、ちょっとだけ、わたしとケイに見せたかったんじゃないかな。

 だって、ケイだって、くやしそうでいて、おじさんに(いど)めたことを、どこか楽しんでいたように見えるし。

 それにしても、お父さんたち初代怪盗レッドだって、ぜんぜん失敗がなかったわけじゃないんだね。

 ちょっと、ホッとしちゃったかも。

 わたしたち2代目怪盗レッドも、これからもっともっと、成長しなくっちゃ。

「がんばろうね、ケイ」

 わたしがケイに声をかけると、ケイは一瞬、けげんそうな顔をする。

 だけど、すぐにわたしの言った意味を理解したらしい。

「ああ、当然だ」

 ケイが、深くうなずいた。

〈おしまい〉

 

【怪盗レッドスペシャルはまだ続くよ、お楽しみに!】


初代怪盗レッドの活躍はこの本を読もう!


作:秋木 真 絵:しゅー

定価
1320円(本体1200円+税)
発売日
サイズ
B6判
ISBN
9784041101650

作:秋木 真 絵:しゅー

定価
1320円(本体1200円+税)
発売日
サイズ
B6判
ISBN
9784041087664

この記事をシェアする

ページトップへ戻る