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怪盗レッド スペシャル 第9話 宝条有栖のちょっとした日常・下

   *****

 

 次の日の朝。

 いつも通り、わたくしは学校にむかう。

 校門を通りすぎたあたりで――

「有栖ちゃん!」

 西園寺さんが、走ってくる。

 あわててころばないか、心配だわ。

「ごきげんよう」

 わたくしが、西園寺さんにあいさつすると、

「ごきげんよう」

 西園寺さんも、今気づいたとばかりにほほ笑みを返してくる。

()(にん)(ぎょう)()なあいさつだけれど、これが、このお(じょう)(さま)学校で定められている「上品なあいさつ」というだけのこと。

「それで、なにかあったの?」

 わたくしは、(たん)(とう)(ちょく)(にゅう)に西園寺さんにきく。

「それがね! 昨日、わたくしの家に泥棒が入ったんだよ!」

 西園寺さんが大声で言うものだから、まわりの人たちが、おどろいた顔でわたくしたちを見ている。

「声をおさえたほうがいいわ。それで、泥棒が入って、西園寺さんは無事だったの?」

「うん! そうなの。だれかが、泥棒がうちに入ったところをつかまえてくれていたの。警察が、とつぜん家にやってきたときは、びっくりしたよ。泥棒が入ったらしいっていうから、屋敷の中を調べたら、本当に、しばられている人たちがいて……」

「それは不思議なこともあるものね」

「本当だよね。でも、警察の人によると、怪盗レッドのしわざかもしれない、って」

 どうやら、うまくいったようね。

「でも、もし、あの怪盗レッドが助けてくれたのなら、ひと目会ってみたかったかも」

「あら。西園寺さんは怪盗レッドが好きなの?」

「好きっていうか、有名だから会ってみたいって感じかな。今回みたいに、悪いやつらに狙われてる人を助けてくれるなんて、いい人っぽいし」

 西園寺さんらしい、ふわふわとした理由だわ。

 でもこれでもう、大丈夫ね。

 レッドならこう言うのかしら。

 ――「ミッション成功」って。

 

   *****

 

 学校が終わり、わたくしは、いつものように校門を出る。

 今日も、サクスがわたくしを狙う人間を片づけてから、合流する。

 そのまま、ラドロの(ほん)(きょ)()のビルに行く。

「ボスのおじいちゃん」が、わたくしをよんでいると言われて、部屋へむかう。

 でも、おじいちゃんはまだ、この部屋にきていないみたい。

 わたくしは、わたくしの指定席になっているカウンター席にすわる。

「有栖、あの女の子に、なにも伝えなくてよかったのか? あの子のために動いたんだろう」

 サクスにしては、めずらしく、おせっかいなことを言うわね。

「……べつに。あの子がいつも通り、笑って話しかけてくるだけで、じゅうぶんな(ほう)(しゅう)よ」

 恩を着せたかったわけじゃないわ。

 ただ、わたくしの日常を守りたかっただけ……そこに西園寺さんがいただけ、よ。

 それ以外の(はん)(きょう)は、おことわり。

「……まったく。ずいぶんと勝手なことをする、有栖よ」

 低く、するどい声が、きこえてきた。

 声がしたほうを見ると、車いすに乗った、ラドロのボスのおじいちゃんが、付きそいのボディガードといっしょに、部屋に入ってくるところだった。

「これぐらいは問題ないでしょ。ラドロの規則だってやぶってないし」

 わたくしは、まったく悪びれずに、おじいちゃんに言う。

「どうせおじいちゃんも、あの男たちが気に入らなくて、いずれ手をまわすことになっていたのでしょうし」

 あいつらのこと、おじいちゃんが手を出さずにいるとは思えないもの。

 でも、西園寺家がどうなろうと、おじいちゃんはきっと気にしない。

 だから、一足先にわたくしが、わたくしのために動いただけのことよ。

「私を相手にして、そうズケズケと言ってのける度胸と頭の回転の速さは……やはりお前をラドロの幹部にスカウトしてよかったな」

 おじいちゃんが、くちびるのはしを上げて、ニヤリと笑う。

「あら。ありがとう。お礼は、チョコレートパフェでいいわよ」

「くっくっくっ……本当にへらない口だ」

 そう言いながらも、おじいちゃんは、そばにひかえる配下に片手をふって指示を出す。

 どうやら、本当にパフェをごちそうしてくれるみたいね。

「それで? なにかいいことでもあったの? これでもわたくし、少しぐらいは怒られる(かく)()はしてきたのだけど」

 本当に、ほんの少しだけれど。

「タキオンのことで、おもしろい情報がつかめた。どうなるかはわからないが、つけいるすきにはなるだろう」

「それはそれは。これから、いそがしくなりそうね」

 使用人が、わたくしの前に、チョコレートパフェをおいていく。

 自然とほおがゆるむ。

 ここで出されるチョコレートパフェは、絶品なのよね。

 いずれレシピをききだしてやろうと思っているのだけど、なかなか明かしてくれないのが、くやしいわ。

 わたくしは、パフェをひとさじすくって、口に入れる。食べる。

 ああ…………幸せだわ。

 これだけでも、ラドロにきてよかったと思えるもの。

 ……あ、いまのは冗談よ。

 さすがに、そこまで軽い気持ちじゃないわよ。

……本当よ。

 おじいちゃんが静かだと思って目をやると、いつものように、チェス盤の前で、だまって深い思考の中にいる。

 おじいちゃんが、悪だくみ……じゃなかったわ、計画をたてるときは、いつもそう。

 まあ、だいたい毎日だけれどね。

 タキオンとの戦いは、いつラドロが(れっ)(せい)になってもおかしくないのだから。

 それを1人で支えているのが、このおじいちゃんの頭脳。相手の動きを先読みした計画だといっていいもの。

 そうでなければ、ラドロがこんな大きな組織になる前に、タキオンにつぶされていたわ。

 だからそう。

「ま、いつものラドロね」

 これはふだんの、ラドロの風景だ。

 それも、もう少ししたら変わるかもしれないけれど。

 わたくしは、わたくしのできることをやるだけだわ。

 タキオンに世界を(ぎゅう)()られては、こまる。

 あいつらに支配された世界では、芸術もなにも意味をなさなくなってしまう。

 あいつらの動きを()()するために、わたくしはラドロに協力しているのだから。

 わたくしは、もうひとさじ、パフェをすくって味わう。

 これが、ラドロの日常。

 わたくしは、早く、絵を描くだけでいい生活にひたりたいのだけれどね。

 それには、まだ時間がかかりそうかしら?

 わたくしは、そっと肩をすくめた。

 

【怪盗レッドスペシャルはまだ続くよ、お楽しみに!】

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