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怪盗レッド スペシャル 第8話 宝条有栖のちょっとした日常・上

 後ろにいた男もふくめて、全員の顔は覚えたから、あとでラドロのボスのおじいちゃんに、それとなく伝えておくわ。

 ラドロに不満を持った者が、敵対組織に情報を流す……なんてことが、ないとも限らないわけだから。

 わたくしが、ここに顔を出している意味の半分は、そんな意味もあるわ。

 わたくしという存在をエサにして、ラドロにいだいている本心を引き出す。

 ……ほんと、あのおじいちゃん、人使いが荒いのよね。

「――おいおい、そいつはほんとかよ! まさか引き受けたのか?」

「声がでかいって。当然、断ったよ。ラドロからも追い出されたような連中だしな。だけど、やけに自信ありげだったな……あいつら程度の腕じゃ、西園寺家の屋敷に忍びこむなんて、リスクが高すぎることぐらいわかってるはずだが……」

 きこえてきた会話に、わたくしの眉が、ピクリと反応する。

 西園寺……。

「ねえ、その話について、少しくわしくきかせてくださらない?」

 わたくしは、話をしていた男たちに近づいていく。

「え、宝条さん。今の話ですか? お、おれはちゃんと断りましたよ」

「ああ、そういうことをうたがっているんじゃないわ。その元ラドロの人が、どこかのお屋敷を狙っているの?」

「○×区にある、西園寺家ですよ。セキュリティも堅いし、かんたんに狙えるような屋敷じゃないんですがね」

「あなたをさそったというのは、どういう連中なの?」

「こう言っちゃなんですが、いっしょにされたくないレベルのやつらですよ。5~6人でグループを組んでいるんですが、やり方が強引で、入った家や店を必要以上に壊したり、運悪く出くわした者にケガを負わせたことも数知れずっていう、強盗まがいの連中ですよ」

 男は、自分を責める話ではないとホッとしたのか、すらすらと説明してくれる。

 なるほどね……。

「ありがとう。参考になったわ」

 わたくしはお礼を言って、その場をはなれる。

 ○×区の西園寺家の屋敷といえば、()()()の家でまちがいないわ……どうしたものかしら。

 今の話を頭の中で整理しようと思っていると、

「――有栖。ボスがおよびだ」

 サクスが無愛想な声で、わたくしをよぶ。

 あら。

 けっこう、ここに長居してしまったみたい。

「おい、サクスさんだ。いつの間に来たんだ?」

「足音どころか、部屋に入ってくる気配さえも感じなかったぞ」

「さすが、あのサクスさんだ」

 あちこちで、泥棒たちがざわめいている。

「サクスは、わたくしとちがって人気者ね」

 わたくしはクスクスと笑って言うと、サクスと部屋の外に出る。

「……どうでもいい」

 サクスは、興味なさそうに言う。

 本当に興味がないのでしょうね。

 このサクスという男は、自分の腕をみがくことだけに関心がある。

 自分より明らかに腕のおとる人間たちのほめ言葉なんて、気にもとめないはずだわ。

 だから逆に、ラドロのおじいちゃんに対しては、最大限の敬意を持っているみたい。

 ラドロのおじいちゃん――初代ファンタジスタは、泥棒の世界では、「生きる伝説」あつかいされているみたいだから。

 ……「2代目ファンタジスタ」である(きょう)()の苦労を考えると、ちょっとかわいそうになってくるくらい。

「ねえ、サクス」

 わたくしは、ろう下を歩きながら、話しかける。

「ラドロでは、同じ組織の構成員の仕事を(じゃ)()邪魔することは、禁じられているのよね?」

「そうだ」

 サクスは、小さくうなずく。

「なら、構成員じゃない泥棒の仕事を邪魔することなら? 問題ないんでしょ?」

「まあ、そういうことになるな」

「それなら、やりたいことがあるんだけれど」

「……レッドの()()(ごと)でもするのか?」

 サクスは、わたくしのやりたいことを、見抜いていたらしいわ。

 でも、甘く見られたものね。

「ちがうわ」

 わたくしは、首を横にふる。

「わたくしは、学校の友人にふりかかろうとしている不幸を避けるだけ。彼女になにかあると、わたくし、学校での話し相手に(こま)るのだもの。誰もかれも助けたがるような、正義の味方なんかといっしょにしないでほしいわ」

 本当よ。

 あんなお(ひと)()しといっしょにされたら、かなわないわ。

「なるほどな。有栖が動く理由はわかった。……だが、おれがかかわらねばならない理由は? おれは、お前からやとわれているわけじゃない」

 サクスは、まっすぐにわたくしを見すえてくる。

 その目のするどさは、学校のクラスメイトなら、腰をぬかして、(しり)もちをついてしまうかも。

 だけど、わたくしはまったく怖さを感じない。

 だってそうでしょ。

 いつもわたくしが絵を描くとき見ているのは、「世界」そのもの。

 世界と向き合う覚悟があれば、人間1人の視線なんて、こわくない。

「……そうよね、サクス。そのとおりだわ」

 わたくしは、クスリと笑う。

「サクスは、わたくしではなく、おじいちゃんにやとわれて、わたくしのボディガードをしているだけ。立場で言えば、ラドロの幹部なんだもの」

「幹部を幹部とあつかわない有栖に言われるのも、どうかと思うがな」

「あら。わたくしは、敬意を持つべき相手には、ちゃんと持っているわ。――サクス、あなたに対してもそうよ。だからこそよ」

 わたくしは、言葉に力をこめる。

「泥棒の(きょう)()として、そいつらのやり方は許せるのかしら?」

そう言いながら、ラドロの目を見つめる。

「それに、ボスだって。たとえ(いっ)(とき)でもラドロにいた人間が、そんなことをしようとしているのは、喜ばしいことかしら?」

 わたくしは、わざと「ボス」という言葉を出してみせる。

「調子のいいことを言う。……だが、いいだろう。協力しよう」

 サクスは、苦い顔をしていたけれど、うなずいた。まず、私の話に耳をかたむけたのが失敗よ。

 わたくし、人を(くち)(ぐるま)にのせるのは、得意なの――まあ、おじいちゃんや、ケイみたいに、それが通用しない例外はいるけれど、ね。

 

【宝条有栖のちょっとした日常・下 につづく】
9月上旬公開予定!お楽しみに~☆

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