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怪盗レッド スペシャル 第8話 宝条有栖のちょっとした日常・上

 学校が終わり、わたくしは1人で校門を出る。

 校門のところには、黒塗りの高級車が(むか)えにきている生徒も少なくなく、敷地内から徒歩で出ていく生徒は、下校時刻のわりには少ない。

 西園寺さんも、迎えの車で帰ったはずだ。

 わたくしは校門を出ると、すたすたとそのまま学校からはなれる。

 学校から、だいぶはなれたところで、

「……サクス」

 と小さく呼ぶ。

 音もなく、スッと背後に男が立つ。

 スーツ姿に変装をした、サクスだ。

 人相はあまりよくないが、これなら、せいぜいボディガードぐらいには見える。

「今日はどうだったかしら?」

「数人、有栖を(ねら)っている人間がいたから、片づけておいた」

 サクスが、さらりと答える。

「ご苦労様。こりないわね」

「それだけ、『画家・宝条有栖に価値がある』と考える人間が多いんだろう」

 ありがた(めい)(わく)な評価、というやつね。

 サクスにはわたくしを狙ってやってくる人間を、さっぱりきれいに片付けてもらっている。

それが、わたくしがラドロに入る条件の1つとして、「ラドロのおじいちゃん」に、お願いしたことだからなのだけれど。

 学校の帰りには、宝条家の迎えを使わない。

 わたくしが狙われたら、運転手さんが巻き込まれてしまうもの。

 ボディガードを車に乗せていても、並のボディガードでは相手をしきれないこともあるでしょうし。

 その点、サクスなら気配さえ気づかれずに、わたくしを狙う人間にお帰り願えるというわけ。

「……そろそろ、向かうぞ」

 サクスが言うのと、ラドロの黒塗りの高級車がやってくるのが、同時だった。

 学校の帰りは、ラドロの車で送ってもらっている。

 もちろん、わたくしのお父様とお母様は、最初すごく心配していたけれど、そこはラドロのおじいちゃんが、うまく説明してくれたわ。

 ラドロのおじいちゃんの「表の顔」は、さまざまな技術を持つ職人の工房を支援し、その技術を世界に向けて販売する会社の会長なのだもの。

 そして、宝条家では、ラドロのおじいちゃんの会社と大きな取引をしている。

 つまり「お得意様」というわけ。

 お父様とラドロのおじいちゃんも、個人的に何度も食事をしたりして、仲がいいの。

 だから「画家であるわたくしが、放課後に、ラドロのおじいちゃんのところへ美術品を見に行く」という理由で、帰りの迎えをまかせる、ということになったのよ。

 そうそう。

ラドロのおじいちゃんが会長を務めている会社は、別に悪いことはしていないわよ。

 ……まあ、「泥棒()(ぎょう)から足を洗いたい」という人間もやとっているから、ちょっとグレーな気はするけれど。

 でも、泥棒をやめたくても、その後できる仕事がないという人間を、助ける意味もあるんだろうし、それに、もともと泥棒だから、物の()()きができる。そんな人たちの才能を活かしていると言えるかもしれないわ。

 ……そんなことを考えているうちに、わたくしが乗っている車が、ラドロの本拠である高層ビルの地下駐車場に入っていく。

 

 

「ありがとう」

 わたくしは、運転手のおじさんにお礼を言って、車を降りる。

 そのまま、エレベーターで、ラドロが使っているフロアへ向かう。

 このビルはラドロの持ち物で、低層階には、ふつうの企業が入っている。

 そして、ラドロの構成員が使う階は、30階から上。

 わたくしは、40階で降りて、ろう下を歩く。

 すると、正面に両開きの大きなドアがある。

 サクスがドアを開けてくれて、わたくしが中に入ると、そこはパーティー会場のような広さ。

 ここは、ラドロの構成員が情報交換する場として、使われている。

 今も、40~50人のさまざまな人間が、あちらこちらで話をしている。

「おっ、有栖の嬢ちゃんじゃねえか。調子はどうだい?」

 40代ぐらいの()(しょう)ひげのおじさんが、にこやかに話しかけてくる。

「ええ、問題ないわ。おじさんも元気そうね」

「おうよ。この間、大仕事を終えたばかりだから、少し休もうかとは思ってるけどな」

「それはいいけど、腕がにぶらないように気をつけなさいよ」

「嬢ちゃんに言われるまでもないさ。何年この世界にいると思ってんだい」

 おじさんは、トントンと自分の腕をたたいて見せる。

 この場でも、わたくしは異端な存在といっていい。

 わたくしは、ラドロの中では幹部と同じあつかい。それで、周囲の対応は、はっきりとわかれている。

 このおじさんみたいに、一定の敬意は払いつつも、年相応の相手としてかわいがるタイプ。そして……。

「宝条さん。おつかれさまです」

「ええ、おつかれさま」

 次に、事務的に対応して、すぐに、さっと距離をとるタイプ。

たぶん、わたくしをどうあつかっていいのか、はかりかねているんでしょうね。

 そして、最後が……。

「……おい、いつからラドロは子どもの遊び場になったんだ?」

 あからさまに、敵意を向けてくるタイプ。

 50代ぐらいの男が、わたくしに近づいてくる。

「おい、有栖嬢ちゃんは、そういうんじゃねえって……」

 さっきの顔なじみのおじさんが、かばおうとしてくれたけれど、わたくしはそれを手で制する。

「文句があるのなら、直接、ラドロのボスに言うべきではないかしら? ここでわたくしにネチネチ言って追い出そうなんて……うちの小学校の生徒だって、もう少しまともなアイデアが出せるんじゃないかしらね」

「なんだと!?」

 わたくしの(ちょう)(はつ)に、顔を真っ赤にする男。

 後ろには、ほかにも、わたくしをにらみつけている男が、何人か見える。

 この男と、似たような意見を持っているのだと思うわ。

 べつに、ケンカがしたいわけではないけれど、わたくしがラドロの幹部と同様の(たい)(ぐう)である以上、ここで引くわけにはいかない。

 そんなことをすれば、ラドロという組織の「上下関係」が、崩壊してしまう。

 昔のラドロは上下関係のない、情報交換の集まりでしかなかったらしいけれど……今のラドロは、ちがう。

 組織の「上」に立つものがいて、「下」にいるものを支える形になっている。

 わたくしが、この人たちの敵意に負けては、ラドロの幹部全体がその(てい)()だと思われてしまう。

 わたくしが、一歩も引かずに男たちをにらみ返していると、なにごとかと、まわりの視線が集まってくる。

「……ちっ。今日は帰る」

 男は、きびすを返して、部屋を出ていく。

 あわてて、それについていく男たちが数人。

 幹部あつかいのわたくしと「もめている」と思われるのが嫌だったみたいね。

 まあ、わたくしも、それを狙っていたのだけれど。

 泥棒たちにとって、ラドロという組織は、とても助かる存在らしい。だから彼らも、そこから追い出されるようなことはしたくない。

 でも、もともと1人で長く泥棒をやってきた人だと、プライドがゆるさないこともある……そんなところでしょうね。

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