怪盗レッド スペシャル 第8話 宝条有栖のちょっとした日常・上
中学生だけど、みんなにはヒミツで「正義の怪盗」をやってる、アスカとケイ。
そんな2人のかつやくを描いた「怪盗レッド」シリーズは、累計120万部を超える、つばさ文庫の超・人気シリーズです!
今回は、天才小学生画家・宝条有栖(ありす)ちゃんのお話!
有栖ちゃんが登場するのは、『怪盗レッド』13巻。すごく個性的な大人気キャラだから、まだ読んでいない子はぜひチェックしてみてね!
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真っ白な壁に、落ちついた赤色の屋根の建物。
校舎としては、ずいぶんとおしゃれな作りで、まさに、「有名なお嬢様学校のシンボル」らしいわ。
そして、この建物の美しさが、わたくし――宝条有栖が、学校に通うことに決めた、理由の1つでもある。
この学校は、お金持ちのご令嬢が多く通っていることで知られてる。生徒の親が政財界の著名人だったり、有名アスリートだったりするのは、よくあること。
わたくしからすれば、「小学校」には違いないし、「お嬢様」といっても、ちょっとマナーがしっかりしているだけで、特別なことなんて、特に感じないのだけれど。
「おはよう! 有栖ちゃん。なにしてるの?」
いつの間にか、わたくしの横に立っていた女の子が、話しかけてくる。
髪をサイドテールに結って、くりくりとした目が、いつもチワワを思い出させる。
「校舎を見ているのよ。いつ見てもきれいだと思って」
「うん、この学校の校舎はきれいだよね。……ああ、でも前のさわぎは、大変だったけど」
「ああ……あのときね」
わたくしは、顔をしかめる。
夏休み明けに、急に校舎が、全面的に立ち入り禁止になったことがあったのだ。
理由は、この校舎を設計した建築家にあったらしい。
――桧崎修介。
それが、この校舎を設計した建築家の名前だ。
もうずいぶん前に亡くなっているのだけど、彼が設計した建物の1つで、とつぜん爆発があったという。
そのせいで、桧崎修介が設計した建築物すべてで、総点検がされることになったとか。
まったく、バカバカしい話だわ。
このすてきな校舎を設計した建築家が、ムダに自分の建物を爆破するわけがない。
だからきっと、その爆発には、なにか意味があったのにちがいない。
すべての建築物を点検するだなんて……ムダでしかないわ。
案の定、なにも危険なところは見つからなかったらしいわ。
この校舎が小学生が使いやすいように考えつくされていて、桧崎修介の設計が、どれだけすばらしいものかということが、再確認されただけだったそうよ。
まあ、そのことだけは悪くなかったと思うわ。
「ねえ、有栖ちゃん。そろそろ行かないと、授業に遅れちゃうよ」
わたくしのそばに立つ女の子が、あせったように言う。
「まだ、大丈夫よ。西園寺さん」
わたくしは、言いながらも、ゆっくりと校舎に向かう。
「のんびりしすぎだよ、有栖ちゃんは~」
西園寺さんは、ほっとしたような顔で、わたくしの横にならんで歩き出した。
教室がにぎやかなのは、お嬢様学校でも同じ。
わたくしが教室に一歩足をふみ入れたとき、一瞬だけ教室が静まり返った気がしたけれど、気のせいね。
そのまま窓ぎわの席につく。
西園寺さんは、わたくしの席の前だ。
どうしてかはわからないけれど、わたくしはこの西園寺さんに好かれている。
よく話しかけられるし、教室移動もいっしょにすることが多い。
逆にいえば、クラスの西園寺さん以外の子とは、必要なことしか会話した記憶がないわ。
いつの間にか、そうなっていた。
「わたくしが『お嬢様』だから」というのは理由にはならない。だって、ここにいるのは全員、お嬢様だもの。
考えられるとすれば、「わたくしが画家だから」という理由のようね。
美術の世界で、わたくしの絵画は評価されているし、新聞、テレビ、雑誌、インターネット……いろいろなところで、取りあげられている。
そのせいでみんな、わたくしに話しかけづらくなっている……というのが、西園寺さんからきいた話よ。
『わたしたちはたしかにお嬢様だけど、それはパパやママがすごいってだけでしょ。でも、有栖ちゃんは、有栖ちゃん自身がすごいじゃない。だからなんとなく、みんな気おくれしちゃうんだよ』
いつだったか、西園寺さんがそう言っていたことがある。
ちなみに西園寺さんは、気おくれしないのかときいたところ、
『わたし、そういうの気にしないから。わたくしが将来、有栖ちゃんを超えるすごい人になれるとは思えないし。だったら気おくれするだけムダでしょ』
……だそうだ。
さっぱりしているのか、自己評価が低いだけなのか。
ともかく、この学校でわたくしが「友達」と言えるのは、この西園寺るりさんだけということになる。
まあ、わたくしにとっては、西園寺さんだけで3人分ぐらいのさわがしさを感じるから、ちょうどいいのだけれどね。