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怪盗レッド スペシャル 第7話 「夏の夜の夢」のうらがわで

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 演劇部の練習が終わったあと、わたしは体育館に残って、台本を片手に舞台上にいた。

『――おい、いたずら好きのパック。いるんだろう? 出てきてくれ』

 わたしは、オベロン役のセリフを読み上げる。

 明日の昼休みには、オベロン役のオーディションがある。

 今日、幸村先輩からの提案で、急に決まったシェイクスピアの喜劇「夏の夜の夢」の公演。

 しかも、アスカは、いたずら妖精のパック役をすすめられてる。

 アスカはまだ、役を受けるかどうかなやんでいるみたいだけど……。

たぶん、受けるんじゃないかなと、わたしは思ってる。

アスカなりに、入部をためらう理由があるのかもしれないけど、演技してるときのアスカは、いつも、すごく楽しそうだから。

 もし、アスカがパック役を()るなら。わたしもアスカといっしょの舞台に立ちたい。

 一番間近で、演じたい。

 それなら、オベロン役が一番いい。

 そう考えて、オベロン役に立候補した。

 ただ、オベロン役には、実力のある3年生や2年生も立候補してる。

 わたしだって、演劇部の中では、演技力があるほうだと思う。

 だけど、一番かと言われたら、そうじゃないことぐらいは、わかってる。

 ちょっと安心なのは、加瀬部長が妖精女王のティターニア役に立候補していることかな。

 加瀬部長と役を争ったら、かなう気がしないし。

 ……ううん、そんな(こころ)(がま)えじゃダメだよね。

 かなうとか、かなわないとかじゃない。

 わたしのオベロンを演じなきゃ。

「水夏、まだ練習?」

「加瀬部長!?」

 声がしたほうをふり返ると、加瀬部長がいつの間にか舞台の下に立っている。

()()まりはわたしがするので、先に帰ったんじゃ……」

「水夏のことだから、居残り練習するつもりだと思ったの。オーディションは明日なんだから、むりはよくないよ」

「わかってるんですけど、不安で……」

「なら、少し本読みに付き合おうか」

「いいんですか?」

「それぐらい、かまわないよ。ここからかな」

 加瀬部長は、台本を開く。

『――あれれ。隠れていたのが、バレてましたか』

 加瀬部長は、一瞬にしてパックになりきる。

 幸村先輩のパックとちがって、(あい)(きょう)が、より強く表現されてる。

 それが、すごく自然。

 いつも王女や女王といった役が多い加瀬部長だけど、それ以外の役もやっぱり演技のレベルが高い。

 わたしはすぐに、次のオベロンのセリフを続ける。

『――おまえに頼みたいことがある。おれはある時、見たんだ……』

 そうして、わたしと加瀬部長は、下校時刻ギリギリに先生が注意しにくるまで、練習を続けた。

 

 

 ――どう演じたらいいんだろう。

 わたしは、念願のオベロン役に選ばれた。

 だけど、始まりはここから。

 自分の役作りをすることは、演じるときはいつもやっていることだから、大変ではあるけどなれてる。

 だけど今回は、アスカのパックと、からむ場面が多い。

 わたしは、アスカのパックを相手にして、どんなふうに演じればいいのか、はかりかねているんだ。

 この、短すぎる練習期間で、アスカなりにせいいっぱいやっているけど、どこまでやれるのかわからない。

 わたしのオベロンばかりが目立って、パックの存在感とのバランスが(みだ)れたら、公演としては失敗だ。

 それくらいなら、アスカの演技に合わせるべきなのかな、とも思う。

 明日は、通し(げい)()の予定なんだよね……。

 どう演技したらいいのかな……わかんないよ。

 

 

 ――幸村先輩には、やっぱり見抜かれた。

 通し稽古で、わたしがアスカに合わせて、演技を加減したことを。

 アスカが演じやすそうだったから、稽古が終わった直後は、これでよかったんだと思った。

 だけど、幸村先輩は怖い顔をしてわたしを見てた。

こう問われてるみたいだった。

『水夏、本当にそれでいいの?』って。

 ……それでも、わたしはまだ迷ってる。

 わたしが全力を出すことで、それがアスカにとって、楽しい公演になるんだろうかって。

 アスカの演技は、この期間にも、すごくよくなってる。

 だけど、主役級の役としては、やっぱり見劣りする。

 幸村先輩がつきっきりで練習しているから、本番までには、もっといい演技になると思う。

 それでも、まだ大きな差がある。

「経験の差」って、すごく大きい。

 もしもアスカが、この「夏の夜の夢」の前に、一度でも大きな役を、舞台の上で演じきっていたら、またちがったと思うけど……。

 このまま舞台に上がって、アスカがつらい思いをするだけになったら……。

「考えごと?」

 不意に声がきこえて、顔を上げる。

 部室のドアの前に、加瀬部長が立っていた。

「今日のことを、ちょっと……」

「幸村先輩に、はっきり言われちゃったからね」

 加瀬部長はそう言って、(にが)(わら)いする。

 そのまま、わたしの向かいの席にすわる。

「わたしのこと、少し話してもいい?」

「え? はい……」

 急に加瀬部長に言われて、わたしはうなずく。

「幸村先輩が部にいたとき、わたしがよく幸村先輩とからむ役を演じてたことは、水夏も知ってるよね?」

「はい、もちろん」

「幸村先輩はね。一度も、手を抜いてこなかったの。いっつも全力。わたし、幸村先輩の役におされて、ぜんぜんバランスが取れなくて。実力がないんだ、もうダメだ、役をおりようって何度も思った」

「加瀬部長が、ですか?」

 おどろきだ。

 こう見えて、加瀬部長がねばり強い性格だということを、近くで見てきて知ってる。

 その加瀬部長が、役をおりようと考えるんだから、相当のことだと思う。

「でもね。幸村先輩は、練習のとき、絶対にわたしから目をはなさないの。直接は、なにも言わないんだけど、『絶対できる』『信じてる』って目をしててさ。もうこっちは限界だよーって思ってるのに、幸村先輩にそう思われちゃったら、がんばるしかないじゃない」

「がんばれたんですか?」

「うん。がんばれちゃった。本番でも幸村先輩の役におされたけど、公演をこわすようなことはなかったよ。とにかく、役を演じるのに必死で、ほかのことなんて考えられなかった。幸村先輩がすごいのは、いつもその役以外のことを考えない、混じり気なしの気持ちで舞台に上がってるからだと思うんだ。ふつうは、自分の不安とか緊張とか、色々持ちこんじゃうでしょ。そういう混じり気がないの」

「……言われてみれば、そうかもしれないです」

 わたしは、幸村先輩が出ていた公演を思い返してみる。

 いつだって、その演技に引きこまれたのは、舞台上の幸村先輩が、その役そのものにしか見えなかったからだ。

「だからって、べつに幸村先輩と同じになる必要はないんだけどね。ただ、部活のときにも言ったけど、おさえた演技をしてても楽しくないでしょ? アスカは舞台の上で、きっと水夏に応えてくれるよ」

「そうですね……わたし、友達としてだけじゃなくて、役者としてのアスカのことも信じます」

「うん。もし、なにか問題がおきても、それは部長のわたしが責任をとるから。水夏はせいいっぱいやって。それがわたしにとって、一番うれしいことだから」

 そう言った加瀬部長は、おだやかなほほえみをうかべていた。

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