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怪盗レッド スペシャル 第6話 怪盗レッドの家族写真

 ――シャン

 すんだ鈴の音が、静まりかえった神社の(けい)(だい)に響きわたる。

 場所取りをしてしばらく待つと、巫女の舞が始まった。

 ――息をのむほどの美しさ。

 その言葉の意味が、初めてわかったかもしれない。

 30代半ばぐらいだろうか。

 巫女が、真っ白な(しょう)(ぞく)に身をつつみ、一礼をしてから、境内の舞台の上で、舞いはじめた。

 そのとたん、ざわめいていた人々が、巫女に目をうばわれるのがわかった。

 ゆったりとした舞の動きなのに、おそいとは感じない。

 今の動きと次の動きのつなぎが、ものすごくスムーズなんだと気づく。

 巫女の動きに自然と目を()きつけられていると、神具がまた、鈴の音をかなでる。

 巫女が舞を終え、神社に向けて一礼する。

 思わず、えっ、もう終わり? と腕時計を確認すると、舞が始まってから10分はたっていた。

 ほんの数秒ぐらいに感じたけれど、こんなに時間がたっていたの。

 あっという間だった。

「すごいわねぇ……」

 となりで、杏子さんがため息まじりに言うのがきこえる。

「ただの踊りではないのが、すごいですよ。神に(ささ)げる舞としか言いようがない(ふん)()()でしたし」

 美緒さんも、巫女の舞にうっとりした顔をしている。

 やんちゃで、さわがしいアスカや、いつも静かなケイの2人も、おさないながらに感じるものがあったのか、巫女に見とれている。

 それなのに……。

「あれは、相当な練習の上に成りたつ技術がないとムリだな。マネぐらいならできるだろうが、美緒の言うとおり、それでは神事と言えるような舞には、ならないだろうしな」

「あの神具の鈴の音のタイミングも、計算されているね。もっとも効果があるタイミングで、鳴らしている。あれが昔から伝えられているというのだから、伝統というのは、すごいものだね」

 翼兄さんと圭一郎兄さんは、(じょう)(ちょ)がまったく感じられないことを言ってる。

 神様の怒りにふれるわよ、まったく。

 私は、兄さんたちにあきれつつも、まわりを見まわして言う。

「ねえ、そろそろ移動しない? 人の移動が本格的に始まると、人の波に飲まれそうだし」

 子どもを2人連れているし、人ごみは、なるべくさけたいと、大人たちも賛成する。

 だけど、その判断は、ひと足おそかったみたい。

 すでに、みんなが動きはじめていて、私たちはあっという間に人の波に飲まれてしまった。

「きゃっ」

「美緒。あぶないから、腕につかまっておけ。アスカは、お父さんの手をはなさないようにな」

 人にぶつかってよろけた美緒さんを、翼兄さんが支えている。

 圭一郎兄さんは、人ごみの中から、人が少ないルートを選んで、杏子さんとケイをエスコートしているみたい。

 さすが2人とも。

まあ、怪盗レッドなんだから、これぐらいやってくれないとね。

 ……って、そんなことを考えていたら、兄さんや姉さんたちのすがたが見えなくなる。

 まずっ! 見失ったかも。

 私はあわてて、人ごみをかきわけて進むけれど、この中から兄さんたちを見つけるのは、むずかしい。

 しかたない。

待ち合わせ場所を、携帯のメールで伝えておこう。

 私はすぐにさがすのをあきらめて、人波にさからわずに歩いていく。

 しばらくすると、杏子さんからメールがくる。

 あっ、そんなに遠い場所じゃない。どうせなら、飲み物でも買ってから、合流しようかな。

 私は近くの、しぼりたてリンゴのジュース屋さんによってから、合流場所に向かった。

 合流場所は、神社から少し離れた()(かげ)だった。

 どうしてか、杏子さんと美緒さん、それにアスカとケイしかいない。

 それに、なんだか杏子さんと美緒さんの顔が、暗いような……。

「すみません、はぐれました」

「美華子ちゃん! 合流できてよかったわ」

 杏子さんが、私のすがたを見つけて笑顔になる。

 でも、やっぱりどこかその表情に影がさしている気がする。

「なにかありました? それに兄さんたちは?」

 私は、杏子さんと美緒さんにきく。

「それがね……盗まれちゃったのよ」

 美緒さんが、失敗した、という顔つきで説明してくれる。

「盗まれたって……なにをですか?」

 私はおどろいて、たずねる。

「それが、言いにくいんだけど……美華子ちゃんからもらった、ロケットペンダントなの。しかも、私も美緒ちゃんもそろって」

 杏子さんが言いにくそうに、答える。

 えっ、あの気に入ってくれていた、ロケットペンダントを!?

「兄さんたちといっしょにいたのに、ですか?」

 怪盗が、身内のものを盗まれるって、間が抜けているどころの話じゃないでしょ!

「美華子ちゃんとはぐれたあとに、圭一郎くんと翼さんともはぐれてしまったの。そのときに、すられたみたい」

「美華子ちゃん、わざわざプレゼントしてくれたものなのに、本当にごめんなさい」

 杏子さんと美緒さんが、そろって頭を下げてくる。

「2人とも、頭を上げてください。そんなこと、いいんです」

 私はあわてて言う。

 だけど、あのロケットペンダント。

 杏子さんも美緒さんも、すごく気に入ってくれていた。

 それを盗まれるなんて……!

「兄さんたちは、今どこに?」

「犯人を探してくれてるわ。見つかるといいんだけど」

 美緒さんが、気落ちした表情で言う。

 私も探しにいこうかと思ったけれど、この場所に、杏子さんと美緒さんを残していくのも不安だ。

 アスカとケイもいるし。

 じれったい気持ちで、30分ほど待つと、翼兄さんと圭一郎兄さんがもどってきた。

「兄さん! どうだった?」

 私は、翼兄さんに、つめよる。

「落ちつけ、美華子。ペンダントのある場所を、見つけることは見つけたんだが……」

 翼兄さんの言葉は歯切れが悪い。

「どういうことなの?」

 私は圭一郎兄さんに、視線を向ける。

「それがね。すりの犯人は、すぐに見つけて、つかまえたんだ。だけど、そのすりが、ペンダントを持っていなかったんだよ」

「持っていないって……たしかにその人が、すったんでしょ?」

「ああ。だけど、そのすりは、おれたちにつかまる前に、途中の(ほこら)にあった箱に、盗んだペンダントを隠したっていうんだよ」

 翼兄さんが、苦い顔で言う。

 祠? そこまでわかっているなら、とりにいけばいいじゃない。

「その祠が問題なんだ。その箱は、さっき巫女が使っていた神具をしまうものだったらしいんだよ。しかも、その箱は、舞のあと、巫女が神具をしまって、巫女しか知らない宝物庫に納めてしまった後だったんだ」

 圭一郎兄さんが、説明する。

「ええっ? じゃあ、巫女さんに事情を説明して、取り出してもらえばいいじゃない」

「……この島の神事の伝統を考えたら、それは無理よね」

 答えは、意外なことに、杏子さんから返ってくる。

 この島の神事?

「どういうことですか?」

「この島の神事が、8年に1度しか行われないということは、知っているでしょ」

 美緒さんの言葉に、私はうなずく。

「神具をおさめる宝物庫も、8年に1度しか開けないの。つまり、今回の神事で使った神具をしまったあとなら、もう……」

「次は、8年後にしか、宝物庫は開けられないってことですか!?」

 私は、思わず声を上げる。

「そうなるわね」

 杏子さんが、困ったような表情をする。

 そんなのって……。

「美華子。ねんのため言っておくが、勝手に宝物庫を開けるってのは、なしだからな」

 翼兄さんが、くぎを()してくる。

「わかってるわよ。この島が伝えてきた神事だもの。その決まりを勝手に(やぶ)っていいわけがないじゃない。でも……」

 杏子さんも美緒さんも、兄さんたちもそう考えているのがわかるから、やるせない。

「……まあまあ、美華子ちゃん。8年後も私たちみんなで、もう一度きましょう。そのときのお楽しみだと思えば、いいじゃない」

「そうだよ。8年後には、この子たちも大きくなっているだろうし。来るのが楽しみでしょ」

 杏子さんと美緒さんが、私をなぐさめるように、言ってくれる。

 盗まれてがっかりしているのは、この2人なのに……。

 私ばかりが落ちこんでいたら、ダメね。

「わかりました! なら、絶対に8年後には、かならず宝物庫からとりもどしましょう!」

「ええ、そのときはお願いね」

「はい! 兄さんたちには、まかせておけませんから!」

 私ははりきって答える。

「美華子ちゃんなら、翼さんとちがって、ちゃんと覚えていそうだしね」

 美緒さんが、少し重くなった空気を変えるように、明るく言う。

「おいおい、美緒。さすがに覚えているって!」

「どうかしら~? この間、買っておいてってたのんだシャンプーを、わすれてきたじゃない」

「シャンプーとこれとは、ちがうだろう……」

 翼兄さんが、へこんでいる。

(じょう)(だん)。翼さんのことも信用してるから」

 美緒さんが笑って言う。

 圭一郎兄さんも、杏子さんをなぐさめるように話している。

 もう……ごちそうさまです。

 本当に、兄さんたち夫婦は、仲がいい。

 これなら、8年たっても、この人たちは大丈夫そうね。

 私は兄さんたち家族を見て、あらためてそう思った。

 

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