怪盗レッド スペシャル 第6話 怪盗レッドの家族写真
中学生だけど、みんなにはヒミツで「正義の怪盗」をやってる、アスカとケイ。
そんな2人のかつやくを描いた「怪盗レッド」シリーズは、累計120万部を超える、つばさ文庫の超・人気シリーズです!
今回は、アスカとケイの「お母さんたち」のお話。
『怪盗レッド』7巻のウラ話だから、つづけて読んでみると、さらにおもしろいかも!
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大通りを横に入って、小道を先にすすむ。
見えてくるのは、1軒のお店。
店の中には、明かりがともっている。
近づいていくと、窓越しに、めずらしいデザインの、カップやランプなどが見える。
ここは、美華子さんが趣味でやっている、輸入雑貨屋さん。
わたしとケイは、今日は美華子さんにさそわれて、美華子さんのお店にやってきたんだ。
カランカラン
木製のドアを開けると、ドアについたベルが鳴る。
「は~い、いらっしゃいませ」
お店の奥のほうから声がきこえる。
ドタバタと音がして、美華子さんが奥から出てきた。
「あら? アスカとケイじゃない。もうそんな時間なの?」
美華子さんが、わたしとケイのすがたを見て、おどろいたように、壁にかかった時計に目を向ける。
約束したのは、午後2時。
今は、その10分前だ。
「おじゃまします、美華子さん。いそがしいところでした?」
わたしが言う。
となりでケイも、ちょこんと頭を下げている。
「大丈夫、大丈夫。ひさしぶりにお店にきたから、探しものに熱中しちゃって……。奥へどうぞ」
美華子さんが、わたしとケイを奥に案内する。
わたしは、お店の中を歩きながら、まわりを見まわす。
この輸入雑貨屋さんにおいてある商品って、変わったデザインのものが多いんだよね。
海外でつくられたものらしくて、ライオンの口の中にライトがついていたり、亀の甲羅をさかさまにしたデザインのティーカップがあったり。
もちろん、落ちついたデザインのものもあるけど、近所の店で見かける商品とは、少しちがうものばかりなんだ。
美華子さんは、この店を、完全な趣味としてやっている。
本業は、貿易会社の社長だ。
お店は、美華子さんが日本にいるときにしか開けていないから、あんまり売れてないみたい。
それでも、通ってくれるお客さんはいるんだって、前に美華子さんからきいたことがある。
「今日はもう、店じまいね。閉店のプレートに変えてきちゃおう」
美華子さんが言って、お店のドアの外側にかかったプレートを「閉店」に変えてきた。
「いいんですか? せっかくお店を開けたのに」
「いいの。たまにはゆっくり、あなたたちと話したいと思ってたし。どうせお客さんもこないし」
美華子さんはそう言って、ケラケラと笑う。
……お客さんがこないっていうのは、笑いごとじゃない気もするんだけど……。
「さぁ、すわって。今、紅茶とコーヒーを用意するわ」
「あっ、それなら、お父さんから美華子さんに、おみやげをあずかってきました」
わたしは、持っていた紙袋をわたす。
「わあっ! これ翼兄さんの手作りパウンドケーキじゃない! 翼兄さん、お菓子もおいしいのに、めったに作らないから、すごくレアなのよね」
美華子さんが、紙袋の中身を見て、興奮したように言う。
そうなんだよね。
お父さんは、お菓子を作るのが上手なのに、あまりつくらない。
でも、たまに作ると、お店で買うのより、ずっとおいしいんだよ!
だから、おみやげ用に、パウンドケーキを焼いているのを見て、ひそかに楽しみにしてたんだ。
「それじゃあ、これも切り分けましょう。2人も手伝って」
美華子さんが言って、手早くお茶会の準備をする。
といっても、コーヒーを入れるのは、ケイがやったし、紅茶の準備や、パウンドケーキの切り分けは、美華子さんがやったんだけどね。
わたしは、自分の実力がわかっているから、お皿に盛りつけられたパウンドケーキをテーブルに運ぶ係だ。
お茶会の準備ができると、わたしたちは木製のテーブルのまわりにすわって、パウンドケーキを、ひとくち。
う~ん……おいしいっ!
口に入れると、ふわっとしたやわらかさが伝わってきて、そのあとにやさしい甘い味が広がる。
不思議なのは、甘いのに甘すぎないってこと。
いつまでも残る甘さじゃなくて、さらっと甘さが口の中で、とけてなくなる。
そのせいか、甘いものがあんまり得意じゃないケイも、気にならない様子で食べている。
「……やっぱりおいしいわね。本当に料理では、翼兄さんに勝てる気がしないわ」
美華子さんが、食べながら、ため息まじりに言う。
「お父さんって、昔から料理が得意だったんですか?」
「そうよ。料理する必要があったのと、お父さん……あなたたちからすると、おじいちゃんか。そのおじいちゃんが、料理が得意だった影響もあるんだろうけど」
「へえ~」
わたしは、お父さんのほうのおじいちゃんには、小さいころにしか会ったことがないんだよね。
だから記憶もおぼろげなんだけど、やさしそうな人だった気がする。
わたしたちは、パウンドケーキと紅茶とコーヒーを楽しみながら、いろんな話をする。
だいたい、話をしていたのは、美華子さんとわたしだけどね。
ケイは、必要なときしかしゃべらないし。
それでも、つまらなそうにはしていなかった。
「そういえば、それ。ちゃんとつけてるのね」
美華子さんが、わたしが首から下げたペンダントを指さす。
「なくしちゃうと嫌だから、ふだんはつけないんですけど、今日はいいかなと思って」
わたしは言って、首からペンダントをはずす。
これはロケットペンダントといって、チェーンの先に写真を入れたケースがついている。
同じものを、ケイも持っているんだ。
そしてこれは、元々は、お母さんたちのものだったんだって!!
これをゆずり受けたのは、見神島だったなぁ……。
「写真は、新しいのを入れたのね。……なつかしいわね、あのときのこと」
美華子さんが目を細めて、なつかしそうに語るのに、わたしは首をかしげる。
「あのときって? 見神島に行ったときですか?」
そんなに昔のことでもない気がするけど。
「ちがうわよ。ほら、島に行ったときに、少し話したでしょう。――そのロケットペンダントが盗まれたという話」
「ああ! はい、ききました。お母さんたちが、すりの被害に遭ったって」
「そうそう、そのときのことよ。8年前……もうすぐ9年になるかしら。あのときは、アクシデントもあったけど、楽しい思い出も多かったから」
「それって、お父さんやお母さんたちとの……」
「ええ、そうよ。……そうね。ただの昔話だけど、アスカとケイの2人には、きいてほしいかも。きいてくれる?」
わたしは、もちろん大きくうなずく。
となりでケイも、コクリとうなずく。
「じゃあ、話すわね。ロケットを盗まれたってこと以外は、特別どうということもない話だけど……」
美華子さんは、そうことわってから、ゆっくりとした口調で、8年前に見神島で起きたことについて、語りはじめた。
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