『恐怖コレクター』この巻が一番好き! みんなが選んだ 第1位をスペシャル連載♪ 第6回
「嫌! 嫌っ!」
歩佳は全力で走りながら、助けを求める。
だが、誰も道路を歩いていない。
(どうして??)
住宅地にやって来たが、どこにも人の姿がない。
(このままじゃ、世莉那ちゃんたちが)
ウズクロに入られた人間は、その後死んでしまう。
(もし私も入られたら)
歩佳は怯えながら、後ろを見た。
「あれ?」
ウズクロが追って来ていると思ったが、どこにも見えない。
「うまく、逃げられたのかな……」
歩佳は、辺りを警戒しながら、立ち止まった。
(今の内に誰かに助けてもらわなくちゃ)
ふと見ると、近くに小さなスーパーがある。
(店なら誰かいるはずだよね)
歩佳は、ウズクロを警戒しながら、スーパーに駆け込んだ。
だが、店の中を見てぼう然となった。
店内には、なぜか誰もいなかったのだ。
陽気な店内用の音楽はかかっている。
商品も棚に並べられている。
しかし、人がひとりもいない。
「どういう、こと……?」
コツン
そのとき、そばにある『従業員専用』とプレートがかかったドアの向こうから、小さな音がした。
ドアの向こうは、倉庫のようだ。
「そこにいるの?」
もしかしたら、スーパーにいた人たちもウズクロに襲われそうになり、倉庫に避難したのかもしれない。
「助けて下さい!」
歩佳はドアを開けると、倉庫の中に飛び込んだ。
その瞬間、何人もの人たちが崩れるように倒れかかってきた。
「きゃ!」
「入られた 入られた」
倒れた人たちは、血走った目をギョロギョロと動かしながら、つぶやき続ける。
後ろにも、10人ほどの人たちが倒れていた。
スーパーの従業員と客だ。
「入られたあぁああ!」
倒れた人たちが叫び声をあげる。
同時に、フラフラとしながら上半身だけを起こし、顔を上に向け、大きく口を開けた。
人々の口から、黒い煙が渦巻きながら次々と出て来た。
「そんな!」
ウズクロは1つだけではない。いくつもいたのだ。
浮遊するウズクロの1つが、歩佳のほうに飛んで来る。
「きゃああ!」
歩佳は逃げようと思うが、恐怖のあまり身体が動かない。
ウズクロに入られる。そう思った瞬間――、
誰かが、歩佳を後ろから抱きしめ、横に転がった。
「大丈夫か!」
歩佳を救ったのは、白いフードの少年――、雷太だ。
「怪我は?」
「な、ないです」
「よし!」
雷太は歩佳を守りながら立ち上がると、お札を構えた。
「雷太! ウズクロがおったんやな!」
ジミーも倉庫に駆け込んで来た。
「ジミーくん、早くフシギくんを! 駐車場にいるはずだ!」
どうやらフシギたちは、分かれてこのスーパーを探索していたようだ。
「やけど、お前ひとりじゃ」
「大丈夫。僕だって、ひとりでできる!」
「雷太……」
ジミーは、雷太を見て大きくうなずいた。
「よっしゃ、君はこっちへ来るんや!」
ジミーは歩佳に声をかけた。
「犬が――」
「今はそんなこと言ってる場合やない。早くするんや!」
大声でそう言うジミーに、歩佳は驚きながらも、あわててドアのほうへ走った。
ウズクロの1つが、そんな歩佳を追おうとする。
しかし、その渦巻く黒い煙のような物体に、雷太のお札を持った手が伸びた。
ドスンッ
瞬間、お札を貼られた黒い煙のような物体が、黒い石のようになって、床に落下した。
「お前たちにお札の効果があるのはすでに分かってる。ここに来る間にいくつも倒したからな」
「行くで!」
「は、はい!」
歩佳はジミーとともに、倉庫の外へと駆け出す。
雷太はその姿を見届けると、倒れている人たちをじっと見つめた。
「お前たちはいつもそうだ。何の罪もない人たちを平気で不幸にする……」
お札を持った手に力が入る。
雷太はウズクロたちを睨みつけた。
「僕は、お前たちを絶対に許さない! 滅せよ!」
その瞬間、ウズクロたちが同時に雷太に襲いかかる。
雷太はありったけのお札を両手に持ち、大きく振り上げた。
しばらくして。
スーパーの倉庫に、フシギとジミーがやって来た。
「雷太!」
ジミーは倉庫の中を見るが、いるのは倒れた人たちだけだ。
「まさか、そんな! 雷太、やられたんか?」
ジミーは倒れている人たちを見て、必死に雷太を捜した。
「そう、じゃないよ……」
ふと、倉庫の奥のほうから声がした。
見ると、そこにはボロボロになった雷太が壁に背をつけ、座り込んでいた。
「雷太、無事やったんか!」
ジミーはうれしそうに笑うと雷太に駆け寄る。
一方、フシギは、雷太のそばに、お札が貼られた黒い石が積み上げられていることに気づいた。
「全部倒したんだね」
「ああ、何とか頑張ったよ……」
「キミは、本当にたくましくなったね」
「フシギ、くん……」
それを聞き、雷太は思わず笑みをこぼした。
フシギは、手帳を取り出し、呪文を唱える。
セラテイロノ セツウイロノ シャ・エイ

次の瞬間、黒い石になったウズクロたちから奇妙なマークが現れ、キラキラと輝き、開かれたページに反転して写し取られた。
「これで、ウズクロは全部回収できたはずだ」
「あの、みんなは??」
ドアのそばで、歩佳が隠れるようにフシギたちを見ていた。
「大丈夫。今日ウズクロに襲われた人たちは、すぐに元に戻るだろう」
「じゃあ、世莉那ちゃんも知衣ちゃんも」
歩佳は、友達が死なずに済むと知り、ホッと息を吐いた。
「ところで、あなたたちは誰なの?」
歩佳は、フシギたちがフードをかぶっていることが気にかかった。
「もしかして、さっき会った女の子の知り合い?」
「なんやて!?」
ジミーが大きな声をあげた。
「それは、黒いフードをかぶった女の子やったんか?」
「う、うん。目玉のある青い傘が話しかけてきたの」
「フシギ!」
ジミーは、フシギのほうを見た。
しかし、フシギは首を小さく横に振った。
「この町には、もういないようだ」
「くそっ、タッチの差やったんか」
ジミーは悔しそうに地団駄を踏む。
「何としても、早く青い傘とヒミツちゃんを捕まえないと」
苦々しい表情で言う雷太の言葉に、ジミーは大きくうなずいた。
「青い傘は、ヒミツを使って一体何をするつもりなんだ……」
フシギは、赤い手帳を見つめながら、そうつぶやいた。
●
小高い丘の上。
ヒミツが、青い傘を差して、ひとり立っている。
「ウクク、さすがフシギさんですねえ。ウズクロを全て回収してしまうなんて」
青い傘の大きな目が、ヒミツを見つめる。
「さあ、次の場所へ向かいましょうか」
その言葉に操られるかのように、ヒミツはゆっくりと歩き始めようとした。
すると、そんなヒミツの前に、ひとりの少年がやって来た。
その少年は、青いフードをかぶっている。
マボロシだ。
青い傘はマボロシを見て、目を細めた。
「お久しぶりです」
青い傘がそう言うと、ヒミツが跪く。
「すべて、計画通りのようだね」
マボロシは青い傘を見て、にやりと笑った。
「あなたのおかげですよ。あと少しですべてが上手くいきます。これで、私の夢が叶います」
ウク クク クククク
青い傘の不気味な笑い声が辺りに響く。
マボロシは、小さくうなずくと、跪くヒミツをじっと見つめた。
「ヒミツ、キミは本当に素直で可愛い妹だね。――さあ、立って」
マボロシはほほ笑みながら、ヒミツに手を差し伸べた。
だが、ヒミツはその手を握ろうとはしない。
「ヒミツ……」
次の瞬間、マボロシは強引にヒミツの手を掴んだ。
「キミは、僕のものだよ。これからもずっとね」
目と鼻と口のないヒミツをじっと見つめ、マボロシはにやりと笑う。
「さあ、行こう。次の町へ」
マボロシはヒミツを立たせると、その手をしっかりと握りながら、その場から歩き始める。
その背後にある壁には、呪いのマークが刻まれていた。
佐東みどりさん・鶴田法男さんによる、
と~~~っても怖くてドキドキする新作
『呪ワレタ少年』の連載が、6月30日に始まるよ!
ぜひチェックしてね!
恐怖コレクター 巻ノ十八 明かされた過去
- 【定価】748円(本体680円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】新書判
- 【ISBN】9784046321381