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『恐怖コレクター』この巻が一番好き! みんなが選んだ 第1位をスペシャル連載♪ 第6回


大人気ホラー「恐怖コレクター」の舞台が、5月13日より上演開始! 今、大注目の「恐コレ」シリーズ。今年2月まで実施していた「キミが好きな巻はどれ?総選挙」で見事1位を獲得した第18巻を、期間限定で特別公開するよ!
フシギがなぜ都市伝説を回収する旅をすることになったのか。初めて回収した呪いは何なのか。フシギ・ヒミツ・マボロシの知られざる関係とは……。様々なナゾが明かされる、「恐コレ」はじまりの物語!
(全6回・毎週金曜更新予定)※公開期間は2023年7月19日23:59までです。

 

第1~5回を読む


6つ目の町 ウズクロ

ある山に棲んでいる怪物。

人間の中に入り込んでくる。

入られた人間は、その後死んでしまうらしい。

 

* * *

 

「ほんと、す~ごくいい休日だったよね」

 日曜日の夕方。

 小学5年生の塩谷歩佳(しおやあゆか)は、親友の本部知衣(もとべちい)とともに、道路を歩いていた。

 2人は先ほどまで、クラスメイトの寒川世莉那(さむかわせりな)の家で遊んでいたのだ。

「世莉那ちゃんのお家ってお庭広くていいよね」

「私、庭にテーブルを置いて食事したの初めてだよ」

 世莉那の祖母がケーキを作ってくれて、それを庭に用意したテーブルで食べた。

「庭で食べるのもロマンチックだったし、あのケーキもほんと絶品だったよね。世莉那ちゃんのおばあちゃん、ウチでもケーキ作ってくれないかなあ」

「だったら、歩佳ちゃんのお家でケーキ教室開こうよ」

「あ、いいね! 今度お願いしてみよう!」

 2人はうれしそうに笑いながら、林の横の道路を通り過ぎようとした。

 

 ガサッ

 

 突然、林の中から誰かが出てきた。

 歩佳たちは反射的にその方向を見る。

「えっ」

 そこには、作業服を着た男の人がいた。

 男の人は、フラフラと歩いている。

 その目は血走り、どこを見ているのか分からないほど、目玉だけがギョロギョロと動いていた。

「あ、あの、どうしたんですか?」

 歩佳たちは戸惑いながらも、男の人に声をかけた。

 すると、男の人が顔を向けた。

 

「入られた 入られた」

 

「入られた?」

 歩佳たちが首を傾げていると、男の人は林の向こうを見た。

 林の向こうには、山がある。

 男の人は、血走った目でその山を見つめながら、大きく口を開いた。

 

「入られたあぁああ!」

 

 次の瞬間、男の人は崩れるようにその場に倒れた。

「きゃあああ!」

 

 翌日。

 歩佳のクラスでは、昨日の男の人の話で持ち切りとなっていた。

 あの後、歩佳たちは通りかかった人に助けを求め、スマホで救急車を呼んでもらった。

 男の人はそのまま入院したのだという。

「大丈夫かな? 心配だよね」

 歩佳は、周りにいる知衣たちに言う。

 人が倒れる姿を初めて見た。

「急に体調が悪くなったのかな?」

 歩佳はそう心配するが、話を聞いていた世莉那は、なぜか神妙な顔つきになっていた。

「世莉那ちゃん、どうしたの?」

「え、あ、うん」

 何か言いにくいことがあるようだ。

「もしかして、倒れた人、世莉那ちゃんの知り合いだったの?」

「ううん、そうじゃないわ。だけど、その人、入られたって言ってたのよね?」

「うん」

 歩佳と知衣は同時にうなずく。

 世莉那はそれを聞き、歩佳たちをじっと見つめた。

 

「もしかしたら、その人、『ウズクロ』に入られたのかも」

 

「何それ?」

「おばあちゃんが昔教えてくれたの。あの山には、ウズクロっていう都市伝説の怪物が棲んでて、人の中に入って来るんだって」

「入って来る?」

 

「ウズクロに入られた人間は、その後死んでしまうらしいわ」

 

「死ぬ?」

 救急車で運ばれた男の人は、入院しただけだ。

「あの人、死んでなんかないよね?」

 知衣は不安そうに歩佳に尋ねる。

「うん、たぶん大丈夫だと思うけど……」

 正直、本当に大丈夫だったのかどうか分からない。

 世莉那の話を聞き、歩佳も不安になってしまった。

 

 放課後。

 歩佳は知衣とともに、男の人が入院している病院に行ってみることにした。

 担任の先生によると、男の人は駅前の病院に入院しているらしい。

「おじさんがちゃんと入院してたら、世莉那ちゃんが言ってたのは間違ってるってことだよね」

 知衣の言葉に、歩佳は「うん」と答える。

 歩佳は都市伝説など信じていなかったが、真面目な世莉那が真剣な表情で言っていたのが気になっていたのだ。

「確かめれば、安心できるよね……」

 やがて、病院に到着した2人は、受付にいる看護師に声をかけた。

「あの、昨日運び込まれたおじさんに会いたいんですけど」

「おじさん?」

「はい。林のそばの道路で急に倒れた」

 すると、看護師の表情が急に険しくなった。

 

「ええっと、彼とは面会できないわ」

 

「どうしてですか?」

「それは……」

 看護師は奥にいたベテランの看護師のほうを見た。

 ベテランの看護師は、カウンターのそばまでやって来ると、ゆっくりと口を開いた。

「あなたたち、あの人の家族じゃないでしょ?」

「は、はい」

「それじゃあ、面会はできないわ」

「え? そんなルール聞いたことないです」

 歩佳は以前、近所のおばさんが怪我をしてこの病院に入院したとき、見舞いに来たことがあった。

 そのときは、家族でなくても面会できたのだ。

 しかし、ベテラン看護師は首を横に大きく振った。

 

「ダメなものはダメなの。会うのは無理だから!」

 

 ベテラン看護師は強い口調でそう言う。

 歩佳たちはそれでも何とか会おうとしたが、看護師たちはまともに話すら聞いてくれなかった。

 

   ●

 

「ねえ、歩佳ちゃん、どういうことなのかな?」

 病院から出て来た歩佳と知衣は、トボトボと道路を歩いていた。

 結局、面会することはできなかった。

 知衣は、先ほどの看護師たちの態度に戸惑っているようだ。

 一方、歩佳は神妙な表情になっていた。

「あの看護師さん、変なこと言ってたよね?」

「変なこと?」

「うん、会うのは無理だって」

 歩佳は立ち止まると、知衣のほうを見た。

「もしかしたら、おじさんはもう病院にいないのかも」

「退院したってこと?」

 

「そうじゃないよ。――おじさんは、死んじゃったのかも」

 

「ええ??」

 歩佳の発言に、知衣は目をパチクリさせる。

 歩佳は、遠くに見える山を見つめた。

「世莉那ちゃんのおばあちゃんが言ったとおり、ウズクロはほんとにいるのかも」

 男の人は、ウズクロに入られて死んでしまったのかもしれない。

「私たちも襲われちゃうの?? そんなの嫌だよ」

 知衣の目には恐怖で涙が浮かんでいる。

 歩佳はそんな知衣を見て、首を大きく横に振った。

 

「大丈夫だよ。山にさえ行かなければ、ウズクロには襲われないよ」

 

 世莉那の祖母の話によると、ウズクロは山に棲んでいる。

 おそらく、男の人は山の中に入ったのだろう。

 そして、ウズクロに襲われ、入られてしまった。

「私、山にはほとんど行かないから。知衣ちゃんも同じでしょ?」

「うん、あそこは散歩コースもないし、私も全然行かないよ」

「みんなにも山には行かないように言ったほうがいいよね」

 そうすれば、ウズクロに襲われる人はいなくなるはずだ。

 歩佳と知衣は、明日学校でみんなにそのことを話すことにした。

 そのとき――、

 

「あれ?」

 

 ふと、前方の道路を見ると、世莉那が歩いていた。

 世莉那は、歩佳たちに気づくことなく、フラフラと歩きながら、角を曲がって行った。

「世莉那ちゃん、こんなところで何してるんだろう?」

 彼女の家とは、まったく違う方向だ。

「おつかいでも頼まれたのかな?」

「だけど、あっちは駅前じゃないからお店なんかないよ」

 世莉那の歩いて行った方向には、田んぼや畑しかない。

「それに、なんかフラフラしてたよね?」

「そう言われればそうかも」

「何かあったのかな?」

 2人は心配になり、世莉那を追って道路の角を曲がった。

 

 世莉那は、田んぼのそばを歩いていた。

 先ほどよりさらにフラフラとしている。

「世莉那ちゃん!」

 歩佳たちは少し離れた場所から声をかけるが、まったく反応しない。

「聞こえないのかな?」

 2人は世莉那のそばまで駆け寄ると、もう一度声をかけた。

「ねえ、世莉那ちゃん、どうしたの?」

 そう言いながら、歩佳たちは世莉那の顔を見た。

 

「えっ!?」

 

 世莉那は、目を血走らせ、どこを見ているのか分からないほど、目玉をギョロギョロと動かしていた。

「世莉那ちゃん??」

 世莉那は血走った目で、歩佳のほうをジロリと見た。

 

「入られた 入られた」

 

「それって」

「入られたあぁああ!」

 次の瞬間、世莉那は崩れるようにその場に倒れた。

「世莉那ちゃん!」

 歩佳は、あわてて世莉那の身体を揺さぶるが、まったく反応しない。

 知衣はそんな世莉那を見て一瞬で青ざめた。

「今、世莉那ちゃん、入られたって言ってたよね?」

 知衣は、怯えながら世莉那を見る。

 

「世莉那ちゃん、ウズクロに襲われたのかも!」

 

「まさか」

 世莉那は完全に意識を失っている。

「とにかく、誰かに助けてもらわないと!」

 歩佳は周りを見た。

 すると、少し離れた場所に、1台のパトカーが止まっていた。

「知衣ちゃん、世莉那ちゃんを見てて!」

「う、うん」

 歩佳は知衣に世莉那を任せると、パトカーのほうへと走った。

 

「あの、友達が大変なんです!」

 

 パトカーのそばまでやって来た歩佳は、叫ぶように言う。

 だが、車の中には誰もいなかった。

「そんな!」

 そのとき、近くの路地から男の人が出て来た。

 制服を着たお巡りさんだ。

「あの、すいません!」

 歩佳は、お巡りさんに駆け寄った。

 しかし、お巡りさんは歩佳に気づく様子もなく、フラフラと歩いていた。

「入られた 入られた」

「えっ?」

 見ると、お巡りさんの目は血走り、ギョロギョロと動いていた。

「入られたあぁああ!」

 

 バタンッ

 

 お巡りさんはそのまま崩れるように倒れた。

「きゃあ!」

 歩佳は驚きながらも、お巡りさんが歩いて来た路地のほうを見た。

 

 するとそこには、数人の人たちが倒れていた。

 

「どうして??」

 意味が分からないが、ここにいるのは危険だ。

 歩佳はあわてて知衣たちのもとへ戻った。

「知衣ちゃん、世莉那ちゃんを連れて逃げよう!」

 歩佳は、世莉那のそばに座っている知衣に言う。

 だが、知衣はなぜか下を向いたまま動かない。

「知衣ちゃん?」

 歩佳が戸惑いながら声をかけると、知衣は、ゆっくりと顔を上げた。

 

「入 られ た」

 

 その目は血走っていた。

「知衣ちゃん!」

 知衣は、目玉をギョロギョロと動かしながら立ち上がると、フラフラと歩き出す。

「待って!」

 歩佳は知衣の腕を掴むが、まったく動きが止まらない。

「入られた 入られた」

 知衣はそうつぶやきながら、フラフラと歩いて行く。

「知衣ちゃん、待って! 止まって!!」

 歩佳は必死に知衣の動きを止めようとした。

 

 ウフフフ

 

 ふいに、女の子の笑い声がした。

 前方に、ひとりの女の子が立っている。

 女の子は、歩佳たちを見つけると近づいて来た。

 その足取りは、しっかりとしている。

 歩佳は、女の子のもとへ走ると、声をかけた。

「お願い、助けて! 友達が大変なの!」

 

「大変? それは、どんな風にですか?」

 

「えっ」

 女の子の声は、まるで男の人のようだった。

「えっと、あの……」

 戸惑う歩佳のそばに、女の子がやって来る。

 女の子は、黒い服を着て、黒いフードをかぶっている。

 そして、雨も降っていないのに、青い傘を差していた。

 

「大変なことなんて、何もないと思いますよ。ウククク」

 

 女の子はくるりと傘を回す。

 傘には大きな目があり、不気味に笑っていた。

 刹那、風が吹き、フードに隠れていた女の子の顔が見えた。

 女の子には、目も鼻も口もない。

 

 顔のない子供だ。

 

「きゃあああ!」

 たじろぐ歩佳をよそに、知衣は顔のない子供のそばまでフラフラと歩く。

 顔のない子供は、そんな知衣を捕まえるように抱きしめた。

「人間をこんな風にするなんて、とても素晴らしいですねえ。ウク、クククク」

 声は、青い傘から聞こえる。

「な、何なの……」

 歩佳が戸惑っていると、青い傘の目がジロリと睨むように見つめた。

 

「次は、あなたの番ですよ。ウクククク」

 

 瞬間、知衣が激しく揺れ動いた。

「知衣ちゃん!」

 知衣は顔を上に向けて、口を大きく開けた。

 

 その口の中から、渦を巻いた真っ黒な煙のようなものが出て来た。

 

 そのまま、知衣は崩れるように倒れる。

「知衣ちゃん!!」

「ウク、ククク。彼女より、自分のことを心配したほうがいいですよ。ウズクロは、あなたにも興味があるようですからねえ」

 浮遊していた真っ黒な煙が、渦を巻いたまま空中でピタリと止まった。

 黒い煙は、ウズクロだったのだ。

 次の瞬間、ウズクロは歩佳のほうへ向かって飛んで来た。

「嫌っ!」

 歩佳はあわててその場から逃げ出した。


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