『恐怖コレクター』この巻が一番好き! みんなが選んだ 第1位をスペシャル連載♪ 第5回

大人気ホラー「恐怖コレクター」の舞台が、5月13日より上演開始! 今、大注目の「恐コレ」シリーズ。今年2月まで実施していた「キミが好きな巻はどれ?総選挙」で見事1位を獲得した第18巻を、期間限定で特別公開するよ!
フシギがなぜ都市伝説を回収する旅をすることになったのか。初めて回収した呪いは何なのか。フシギ・ヒミツ・マボロシの知られざる関係とは……。様々なナゾが明かされる、「恐コレ」はじまりの物語!
(全6回・毎週金曜更新予定)※公開期間は2023年7月19日23:59までです。
※第1~4回を読む
5つ目の町 待ってさん
家の中で、誰のものか分からない足を見かけたら、それは『待ってさん』かもしれない。
自分の代わりになる人間を探していて、もし見つかると、その人は次の『待ってさん』になってしまう。
ある言葉を言うと助かるらしいのだが――。
* * *
「よし、じゃあみんな隠れよう!」
とある一軒家。
小学4年生の諸口修介(もろぐちしゅうすけ)は、クラスメイトの3人と、親友の見崎荒太(みさきこうた)の家に来ていた。
学校帰り、荒太の家で遊ぶことになったのだ。
今日は、久しぶりに家の中でかくれんぼをすることにした。
ジャンケンで荒太が鬼となり、修介の掛け声とともにかくれんぼが始まった。
(どこに隠れようかな~)
荒太が1階のリビングで数を数えているなか、修介はひとり2階へとやって来た。
(荒太くん、見つけるのが上手いんだよなあ)
この前かくれんぼをやったとき、修介はクローゼットの中に隠れたが、すぐに見つかってしまった。
その前は、ベランダに隠れたが、同じように見つかってしまった。
(今日こそ見つからないようにしなくちゃ)
廊下に立つ修介は、各部屋のドアを見回す。
2階には部屋が4つある。
荒太はどの部屋に入ってもいいと言っていた。
(クローゼットがあったのは荒太くんのお母さんたちの部屋だったし、ベランダがあったのは高校生のお兄さんの部屋だったよね)
修介は、一番奥の部屋のドアをじっと見つめた。
(あそこは、たしか荒太くんの部屋だよね)
今まで何度も荒太の家でかくれんぼをしてきたが、彼の部屋に隠れたことはなかった。
「あそこにしよう……」
修介は音を立てないようにドアを開けると、荒太の部屋に入った。
「ええっと、隠れる場所は……」
いろいろ隠れられそうな場所はあるが、簡単なところだとすぐに見つけられてしまうだろう。
(今まで隠れたことのない場所がいいよね)
修介はふと、視線をベッドの下のほうに向けた。
ベッドの下にわずかな隙間がある。
(あそこなら隠れられるかも)
修介は寝そべると、隙間に身を隠した。
(よし、完璧)
ここなら、荒太に見つからないはずだ。
10分間見つからなければ、修介たち隠れる側の勝ちだ。
修介はドキドキしながら、ベッドの下に隠れ続けた。
3分、5分……。
時間が少しずつ過ぎていく。
修介の目には、部屋の床だけが見えている。
(このまま、このまま)
修介は、今度こそ上手く隠れることができたはずだと思った。
そのとき――、
部屋のドアが開いた。
(来た!)
修介は息を殺し、床をじっと見つめる。
ペタ ペタ ペタ
誰かが部屋の中を歩いている。
(荒太くんだ)
そう思いながら、修介はその足音を聞いていた。
ペタンッ
突然、ベッドの前に足が現れ、大きな音が響いた。
「んん」
修介は驚いて声を出しそうになったが、あわててその声を吞み込む。
幸い、荒太は気づいていないようだ。
だが、その足を見て、修介は目を大きく見開いた。
目の前に見えているのは、大きな男の裸足だったのだ。
(どういうこと?)
明らかに、荒太の足ではない。
荒太の両親は、仕事で今家にはいない。
高校生のお兄さんだろうか?
ベッドの下からは、足首ぐらいまでしか見えなかった。
ペタ ペタ ペタ ペタ
大きな足は、さ迷うようにウロウロと部屋の中を歩く。
そしてしばらくすると、部屋を出て行った。
(誰だったんだろう……?)
ジリリリリン
部屋の外から、目覚まし時計のアラーム音が聞こえてきた。
リビングに置いていた時計の音だ。
10分が経ったという合図だ。
修介は戸惑いながらも、ベッドの下から出ると、1階のリビングに行くことにした。
「修介くん、どこにいたの?」
リビングでは、荒太とクラスメイト3人が、修介が来るのを待っていた。
どうやら3人とも、荒太に見つかってしまったようだ。
「ええっと、僕は荒太くんの部屋のベッドの下にいたよ」
「そうなんだ。僕の部屋までは捜してなかったなあ」
やはり、荒太は部屋に入っていないようだ。
修介は、先ほど部屋に入ってきた人物のことを荒太に話した。
「部屋に?」
「うん、たぶんお兄さんだと思う。急に入ってきたから僕びっくりしちゃって」
修介がそう言うと、荒太は首をかしげた。
「お兄ちゃんは、今日も部活だから、夜まで帰って来ないよ」
「えっ?」
今日はたまたま早めに帰ってきたのだろうか?
だが、家中を捜しても、兄はどこにもおらず、帰ってきた形跡さえなかった。
3人のクラスメイトも、2階には行っていないらしい。
「じゃあ、あの足は誰だったの?」
修介は、部屋の中を歩く大きな足を思い出し、ゾッとするのだった。
●
「誰なのか分からない足を見ただって?」
夜。
家に帰ってきた修介は、家族と夕食を取りながら、荒太の家で起きた事を話した。
「荒太くんたちの足を見間違えただけじゃないのか?」
父親がご飯を食べながら言う。
しかし修介は、部屋には誰も来ていなかったことを話した。
「じゃあ、誰だったっていうの?」
母親の言葉に、修介は「分からないよ」と答えた。
「ペタ、ペタ、ペタって音を鳴らしながら、部屋の中をウロウロしたんだ」
すると、それを聞いていた弟の優介が、修介のほうに顔をむけた。
「お兄ちゃん、ぼく、そのお話こわい」
小学3年生の優介は、怖い話が大の苦手だ。
「たしかにちょっと不気味ね。修介、もうその話はやめてご飯を食べなさい」
「だけど」
「いいから。優介が怖がってるでしょ」
「そ、それはそうだけど……、う、うん」
修介はそれ以上何も言えなくなってしまった。
(ほんとに、あれは何だったんだろう……)
真夜中。
修介は、部屋のベッドで横になりながら、あの足のことをずっと考えていた。
部屋は優介と一緒で、2段ベッドの下の段が修介のベッドだ。
真っ暗な部屋の中、上の段からは優介のいびきが響いている。
(優介が怖いなんて言うから、お母さんたちにちゃんと話ができなかったんだぞ)
荒太たちも何かの見間違いだと言って、まともに話を聞いてくれなかった。
(どうして、誰もちゃんと話を聞いてくれないんだよ)
修介は、小さなため息を吐いた。
ペタ
「えっ?」
暗闇の中で、音がした。
ペタ ペタ ペタ
誰かが、部屋の中を歩く音だ。
修介は目を凝らした。
2段ベッドの下の段からは、下半身しか見えないが、大人の男の人が歩いているようだ。
(お父さん……?)
修介たちがちゃんと寝ているか見に来たのだろうか?
しかし、なぜか影は、真っ暗な部屋の中をさ迷うようにウロウロしていた。
ペタ ペタ ペタ ペタ
影はそのままドアのほうへ歩いて行く。
そして、音が消えた。
(出て行ったの……?)
ドアが開いたようには見えなかった。
修介は起き上がり、部屋を見るが、どこにもいないようだ。
(お父さん、何しに来たんだろう……?)
翌朝。
修介は、リビングに行くと、仕事に出かけようとしていた父親にそのことを話した。
「真夜中に修介たちの部屋に? う~ん、お父さんは行ってないぞ」
「えっ? じゃあお母さんだったの?」
男の人の足に見えたが、見間違えたのかもしれない。
だが、母親は首を横に振った。
「私も行ってないわ」
「そんな……」
修介は、弟の優介のほうを見た。
「優介も見たよね? 誰かウロウロしてたよね?」
「ぼく、寝てたから分からないよ。お兄ちゃん、朝からこわいこと言わないで」
優介は怯えたような表情で母親にしがみついた。
「修介、もうその話はいいから。きっと夢でも見てたのよ」
「そうだな。荒太くんの家で見間違えたことが、頭の中に残っていたんだろうな」
母親は、「早く学校に行く準備をしなさい」と修介に注意をする。
結局、修介はまたちゃんと話をすることができなかった。
(あれは、夢なんかじゃない)
学校へやって来た修介は、教室に向かいながらそのことを考えていた。
裸足の大人の人が部屋の中を歩いていた。
それは、はっきりと目が覚めた状態で見たのだ。
(もしかして、泥棒だったのかも)
そう思うが、朝起きても、特に荒らされた跡も盗まれた物もなかった。
修介は歯がゆい気持ちになりながら、教室に入った。
すると、荒太が駆け込んで来た。
「修介くん、大変だ!」
「どうしたの?」
「みんな、見たっていうんだ!」
「見た?」
荒太の後ろには、昨日一緒にかくれんぼをした3人が立っていた。
彼らはなぜか、怯えたような表情をしている。
「何を見たっていうの?」
修介が尋ねると、3人の中でいちばん背の高い、松下正行が口を開いた。
「昨日の夜、僕たちの部屋にも出たんだ。――歩く男が」
「えっ?」
正行たち3人は、真夜中、それぞれ自宅の自分の部屋で、息苦しさを感じて目を覚ましたのだという。
「そうしたら、真っ暗な部屋の中で、男の人が歩いていたんだ」
「下半身しか見えなかったけど、裸足でウロウロしてて」
「朝、お父さんたちに部屋に入ったか聞いたんだけど、誰も入ってないって言ってて」
「それって……」
修介とまったく同じだ。
修介は自分のところにも、真夜中、男が現れたことを話した。
すると、それを聞いた荒太が、「もしかして」とつぶやいた。
「昨日、修介くんたちが帰った後、部活から帰ってきたお兄ちゃんにそのことを話したんだけど、お兄ちゃん、それ知ってるよって言ったんだ」
「ええ?」
「お兄ちゃんが言うには、その男は『待ってさん』っていう都市伝説の怪人かもしれないんだって」
待ってさんとは、家の中に現れて、ウロウロと歩く不気味な男なのだという。
「自分の代わりになる人間を探してて、もし見つかっちゃうと、襲われて、その人は次の待ってさんになっちゃうんだって」
「そんな」
荒太はそんな話は信じていなかったが、修介以外も見たと知り、それが本当かもしれないと思うようになっていた。
修介は戸惑いを隠せなかった。
それは正行たちも同じである。
「また現れたらどうしよう」
修介はすでに2回も見ている。
3回目がないとは言えなかった。
「大丈夫だよ」
そんな修介たちに、荒太は真剣な表情のまま、わずかにほほ笑んだ。
「お兄ちゃんに、助かる方法を教えてもらったんだ」
「何なに? 教えて!」
「もし、待ってさんに見つかって襲われそうになったら、『待って』って言えばいいんだ」
その言葉を言えば、待ってさんの動きが止まり、そのまま消えるらしい。
「お兄ちゃんの部活の先輩が、塾の友達に聞いたんだって」
「そうなんだ」
都市伝説の怪人は不気味だが、助かる方法が分かれば、そこまで恐れる必要はない。
「よかった~」
修介たちは互いの顔を見て、ホッとするのだった。