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『恐怖コレクター』この巻が一番好き! みんなが選んだ 第1位をスペシャル連載♪ 第4回


大人気ホラー「恐怖コレクター」の舞台が、5月13日より上演開始! 今、大注目の「恐コレ」シリーズ。今年2月まで実施していた「キミが好きな巻はどれ?総選挙」で見事1位を獲得した第18巻を、期間限定で特別公開するよ!
フシギがなぜ都市伝説を回収する旅をすることになったのか。初めて回収した呪いは何なのか。フシギ・ヒミツ・マボロシの知られざる関係とは……。様々なナゾが明かされる、「恐コレ」はじまりの物語!
(全6回・毎週金曜更新予定)※公開期間は2023年7月19日23:59までです。

 

第1~3回を読む


4つ目の町 呪いのCD

無念の思いで死んだ者が、聴いた人間を呪い殺そうとしたCD。

ラベルが真っ黒で、曲名が書かれていないことが特徴らしい。

 

* * *

 

「ごめんなさいね。部屋の片付けを手伝わせてしまって。香理(かおり)も強引だから……」

 中学1年の杉谷香理(すぎたにかおり)の母親が、香理の幼なじみの浅田輝生(あさだてるお)に謝った。

 杉谷家の2階にある香理の部屋はひどい散らかりようだ。

 衣服や漫画、玩具などが机や床に所狭しと広がっていて、フローリングの床もほとんど見えない。

 その片付けのために、香理は輝生を連れてきたのだ。

「昔からカオリンの部屋でばっかり遊んでた僕も悪いし……。それに、うちの親もカオリンとは姉と弟みたいだって言ってますから……」

 保育園時代から香理を「カオリン」と呼ぶ輝生を、香理がキッとにらんだ。

「え!? なんで、姉と弟なのよ。テルとは同い年だよ!」

 輝生を「テル」と呼ぶ香理は、さらに母親をにらんで話を続ける。

「というか、お母さんが手伝ってくれれば、テルを呼んだりしなかったのに!」

「こら! 自分の部屋なんだから香理がひとりで片付けるのが当たり前でしょ! それに、お父さんは長期出張してるし、私は家事をしながら仕事もしてるのよ! それなのになんで香理の部屋の片付けを私が手伝う必要があるのよ!?」

 杉谷家の娘と母の口論に、輝生はいつものこととほほ笑んだ。

 

 床の上には2人が小さい時に遊んだ玩具もあった。

 思い出が詰まった、捨てるに忍びない玩具だ。

 輝生がついそれを見てしまうと、香理はさっと取り上げた。

「だんしゃりよ! そうしないと片付かないのよ」

「だんしゃり、ってなんだっけ?」

「知らないの? えっと、つまり物を捨てるのよ」

 香理もよく分かっていなかった。

 ところが、輝生はハッとして近くにあった紙にペンで漢字を書いた。

「思い出した。『断捨離』ってこういう字を書くんだよ」

「ええ? なにこれ?」

「ヨーガの思想なんだって」

「ヨーガって何?」

「僕もよく分からないけど、とにかく単に物を捨てるのとは違って、『断捨離』っていうのは物にとらわれない生き方を表すらしいよ」

 輝生の話を「?」を浮かべながら聞いていた香理だが、すぐに片付けモードに戻る。

「断捨離の解説なんてどうでもいいの! とにかく片付けよ! テル、しっかりやって!」

「は、はい!」

 香理の突然の剣幕にビックリして、声がうわずる輝生。

 香理は様々な物をどんどん大きなゴミ袋に入れていった。

 ガラッ!

 香理が押し入れの戸を勢いよく開けた。

 中に頭を突っ込んだ香理は、縫いぐるみ、水鉄砲、シャボン玉セットなどをポイポイと後ろに投げる。

 それをゴミ袋に入れていく輝生。

 

「あれ?」

 

 押し入れの中から聞こえた香理の声はくぐもっていた。

「カオリン、どうしたの?」

「こんな物が、なんでここにあるんだろ……?」

 香理は黒い箱形の物を押し入れから出してきた。

 輝生には一瞬、数ヶ月前まで背負っていたランドセルに見えた。

 でも、それはランドセルより小さい長方形で、『つまみ』や『ボタン』が付いていた。

『入/切』、『再生』、『音量』、『選局』などの文字が書かれている。

 そして、箱の上部には棒状のアンテナが付いていて、両側には細かい網目の穴が空いていた。

「この網目の部分はスピーカーだ。これ、CDラジカセだよ

「しーでぃーらじかせ?」

 香理は聞き慣れない言葉にきょとんとした。

「うん、これ1台でラジオとカセットテープとCDが聴けるんだよ。うちにも1台あったんだ。2、3年前にお父さんが捨てちゃったけど」

「へぇー。知ってたけど本物をいじるのは初めてだよ」

 香理が恐る恐るCDラジカセの表面に触れると、輝生は電源コードを近くのコンセントに差し、スイッチを入れた。

 

 ジリリリッ!

 

 ラジオの文字盤が光ると同時に、ノイズが聞こえた。

 輝生が『選局』のつまみを回す。

 

『夕方になってこのスタジオの白壁もオレンジに染まってきました。皆様、いかがお過ごしでしょうか――』

 

 パーソナリティの声が聞こえてきた。

「わぁ、これ、ラジオだね。ちゃんと聴けるね」

 さっきまでイライラと片付けをやっていた香理が噓のようだ。

 そして、香理はCDラジカセ上部の『開』ボタンを押した。

 パカッ――

 上部の蓋が開く。

「あ、CDが入ってる」

 中を覗いた輝生がつぶやき、香理は懐かしさに目を輝かせる。

「わぁー、CDを見たの久しぶり。なんのCDだろ?」

「でも、変だな……」

「何が?」

「このCDのラベルは真っ黒なだけで何も書いてないよ」

「本当だ。普通は曲名とかアーティスト名とかが書いてあるよね」

 首をかしげてCDを見た香理だが、突然、「ふふふ」と笑った。

「どうしたの?」と輝生。

「どんな音楽が入ってるのか分からないって、逆に楽しいじゃん。聴いてみようよ」

「ああ、そうだね。よし、聴いてみよう」

 輝生は蓋を閉めて、『CD再生』のボタンを押した。

 シュルシュルとCDが回り出す音が微かに聞こえてきた。

 やがて、両側のスピーカーから何か音が出始める。

 

 うぅぅぅぅぅ

 

 音が小さい。

 2人はスピーカーに耳を近づけたがよく聞こえない。

 輝生は『音量』と書いてあるつまみを回して音を大きくした。

 

 うぅぅぅぅぅううううぅぅぅぅ

 

 音楽と言うより人のうめき声のようだ。

「……何、これ?」

「……わからない」

「なんか、女の人の声みたいだけど……」

 香理は自分よりCDに詳しい輝生の顔を見たが、幼なじみも首をかしげるだけだ。

 輝生は『音量』のつまみをいじって音をもう少し大きくしてみた。

 

 うううううぅぅぅぅぅううううううう

 

 女のうめき声が大きくなっただけだ。

 ピアノやギターなどの楽器の音色や、明確な歌詞の歌声は聞こえない。

「ねぇ、なんか気持ち悪いよ」

「そうだね。もしかしたら故障してるのかも……。もう止めよう」

「うん、切ってよ」

 輝生は『停止』のボタンに指を掛けた。

 その途端――、

 

 

 呪ワレロ!!

 

 

 女の怒鳴るような声が大音量で響いた。

 

「きゃぁぁ!」

「わぁぁあ!」

 

 香理と輝生はビックリしてのけぞった。

 しかも、女の声は叫ぶようにけたたましく笑い出した。

 

 

 ぎゃああはははっ! あははっ! ぎゃはははっ!

 

 

 ゾッとした香理は耳を塞いで身を縮めた。

「いやぁぁぁ! テル! 止めてっ!!」

「分かってるよ!」

 輝生が慌てて『CD停止』ボタンを押すと笑い声は消えた。

 2人はゾッとして目の前のCDラジカセをぼう然と見つめる。

「なんなのよ、これ? 気持ち悪いよ」

「ああ、もう、2度と聴きたくないね」

「うん、聴きたくないね」

 2人は顔を見合わせてうなずいた。

「どうしたの!?」

 部屋の外から足音が響き、香理の母親が飛び込んできた。

「何があったの!? 2人して叫んで……?」

「お母さん、なんでこんな物を持ってるの!?」

 香理がCDラジカセを指さしながら、母親に食ってかかった。

「え? これ、捨てたと思ってたけど……。結婚した当時にお父さんが買ったんだけどね。それで、これの何が……?」

「変なCDが入ってたのよ」

「変なCDって何?」

「え? お母さん、分からないの? ねえ、テル、お母さんにも聴かせてあげてよ」

「ええっ? また聴くの? さっきは2度と聴きたくないって言ってたのに……」

「うん、だから、私は別の部屋に行ってるから」

 香理はさっと立ち上がると部屋を出て行った。

「じゃ、僕も一緒に……」

 輝生は香理を追って部屋を出ようとしたが、母親に呼び止められる。

「テルちゃん、私、こういう機械の操作には弱いのよね。CDを再生してもらえない?」

「え? 僕がですか?」

「お願い」

 母親は輝生に向かって手を合わせた。

「……はあ」

 輝生はしぶしぶCDラジカセの前に座り直す。

 

   ●

 

「きゃぁぁぁ!」

 

 リビングにいた香理の耳に母親の悲鳴が聞こえてきた。

 香理が慌てて自分の部屋に戻ると、CDラジカセに背を向けてうずくまる母親がいた。

 輝生はCDラジカセの上部の蓋を開けて黒いラベルを見ている。

「お母さん、大丈夫?」

「大丈夫なわけないでしょ! なんなの? このCD」

「それを私たちがお母さんに聞いてるのよ!」

 香理がイラッと言うと、母親もイラッと答える。

「そんなの私も知らないわよ!」

「だったら、お父さんがこのCDを買ったのかな?」

「でも、こんな気持ちの悪いCDを買うなんて……」

 母親はそこまで言って、はたと口をつぐんだ。

「お母さん、どうしたの?」

「いや、それが、お父さんが出張に行く前に結婚した頃の思い出話をしたのよ。その時に、『呪いのCD』の話をしたのよね」

「『呪いのCD』?」

 そう聞き返したのは香理ではなく輝生だった。

 母親はうなずいて話を続ける。

「結婚した頃、話題になってたの。黒いラベルのCDがあって、それを聴くと呪われるって噂があったのよね」

「なんでそんな話をわざわざしたの?」

「お父さんは初めての長期出張だから、寂しくなって色んな事を思い出したのよ」

 娘の質問に答えた母親は、怯えながらラジカセの中のCDを見る。

「でも、じゃ、これが……?」

 そうつぶやいた輝生もゾッとしてCDを見た。

 香理だけは平気なフリをした。

「そんなバカなことがあるわけないじゃん! ねえ、テル、このCDラジカセを外に捨ててきてよ」

「え? 僕が……?」

「あ、そうよ。明日はちょうど燃えないゴミの収集日よ。テルちゃん、お願い!」

「ええ? お母さんまで……」

 輝生はため息をつくと、仕方なくCDラジカセを抱えて部屋を出た。


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