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『恐怖コレクター』この巻が一番好き! みんなが選んだ 第1位をスペシャル連載♪ 第1回


大人気ホラー「恐怖コレクター」の舞台が、5月13日より上演開始予定! 今、大注目の「恐コレ」シリーズ。今年2月まで実施していた「キミが好きな巻はどれ?総選挙」で見事1位を獲得した第18巻を、期間限定で特別公開するよ!
フシギがなぜ都市伝説を回収する旅をすることになったのか。初めて回収した呪いは何なのか。フシギ・ヒミツ・マボロシの知られざる関係とは……。様々なナゾが明かされる、「恐コレ」はじまりの物語!
(全6回・毎週金曜更新予定)※公開期間は2023年7月19日23:59までです。

 




※画像をクリックすると拡大表示されます。


1つ目の町 フシギとヒミツ

昭和初期、ある山間の村に、

不思議な能力を持つという双子の兄弟がいた。

その村の住人は厄災を招き、

たった一晩でこつ然と姿を消してしまったが、

唯一、子供がひとりだけ助かったらしい。

それが、双子の兄弟のひとりだったという。

 

* * *

 

 フシギは、ジミーと雷太(らいた)とともに、湖のほとりに立っていた。

 目の前には、青いフードをかぶった少年、千野(せんの)マボロシがいる。

 マボロシは、フシギの兄だ。

 山奥にある、今では廃村になってしまった仟埜村(せんのむら)こそ、フシギとヒミツが生まれ育った場所だった。

 そして、そんな村の外れにある湖のほとりに、ボロボロになった石碑が置かれていた。

 千野不思議之墓(せんのふしぎのはか)

 石碑にはそう書かれている。

 フシギは、その石碑をじっと見つめていた。

「今から僕が話してあげるよ。フシギ、キミのことを、そしてヒミツのこともね」

 マボロシは、フシギの失われた記憶を知っているようだ。

 フシギたちは、ただ黙って、彼の話に耳を傾けた。

 

   ●

 

「ねえ、お兄ちゃんはこの村のこと好き?」

 晴れた日の午後。

 赤い服と赤いスカートを身につけた女の子が、森の中を歩きながら、後ろにいる黒い学生服を着た男の子にそう言った。

 それは、遠い遠い昔の出来事。

 女の子と男の子は、ヒミツとフシギである。

「村を?」

 フシギは歩きながら、森の向こうを眺めた。

 森の端に、わずかに仟埜村が見えている。

 フシギはその村を見ながら「分からないよ」と答えた。

「他の村や町と比べようがないからね。だって僕もヒミツも、村から出たことないだろう」

 フシギとヒミツの両親は、彼らが赤ん坊のときに亡くなった。

 2人は仟埜村に住んでいる親戚のマボロシの家で育てられ、この村が世界のすべてだったのだ。

 しかし、フシギの答えを聞いたヒミツは、頬を膨らませながら首を横に振った。

「も~、どうして他の村とか町と比べるの? 私が聞きたいのは、村の人たちのことよ。私はみんなのこと大好きだよ」

 ヒミツは立ち止まると、フシギのほうに顔を向け、幸せそうに笑った。

「本当のお父さんやお母さんのことは全然覚えてないけど、おじ様もおば様もすごく優しいし、お兄様だって本当の兄妹みたいに仲良くしてくれるでしょ」

「ああ、昨日も写真を撮ってくれたものね」

「お兄ちゃん、すごく緊張してたよね」

「そりゃあそうだよ。写真なんて滅多に撮らないだろ。まあ、誕生日のいい記念になったけど」

 2人は、昨日14歳になった。

「ねえ、お兄ちゃんは大人になったら何になりたい?」

 ふいに、ヒミツが尋ねた。

「大人になったら?」

 フシギは「う~ん」と言って首をひねった。

「考えたこともないなあ。この村で働くとは思うけど」

「私はね、もう決めてあるの」

 ヒミツは、フシギの目をじっと見つめた。

 

「私は、お兄ちゃんとずっと一緒にいるの。大人になっても、おばあちゃんやおじいちゃんになってもずっと一緒に楽しく暮らすの」

 

「ヒミツ……」

 フシギは嬉しくなり、思わず照れ笑いを浮かべそうになる。

 そんなフシギを見て、ヒミツはまた幸せそうに笑った。

 やがて、ヒミツは「そうだ」と言うと、昨日マボロシから聞いた話をフシギに教えた。

「お兄様に、14歳になったから教えてあげるねって言われたの」

「どんな話だい?」

 

「とっても怖い話。――この村にはね、『カンカン様』って女の幽霊がいるんだって」

 

「えっ?」

 そんな話、初めて聞いた。

 フシギがそう言うと、ヒミツは小さくうなずいた。

「お兄様が言うには、村の決まりで子供には教えないことにしてるらしいの。カンカン様は木槌を持ってて、それで人を襲うらしいよ」

「人を襲う……」

 フシギは身震いするが、すぐに首を横に振った。

 

「それはきっと、兄さんがヒミツを怖がらせるためについた噓だよ。村にそんな決まりがあるわけないし、そもそも、この世に幽霊なんているわけないよ」

 

「そうなのかな?」

「そうだよ。ヒミツもそんなこと信じちゃいけないよ」

 フシギのはっきりとした口調に、ヒミツは「それもそうだよね」と笑った。

 そんなヒミツを見て、フシギも笑う。

「さあ、帰ろう」

 フシギは、ヒミツとともに村へ帰ることにした。

「あっ、うさぎ」

 ヒミツは、茂みのほうを指さした。

 見ると、茂みの奥にある岩の下に、1羽のうさぎがいる。

「かわいい~」

 ヒミツはうさぎを触ろうと、岩場へと駆けて行った。

「ヒミツ、帰るよ」

「分かってる。だけどとってもかわいいでしょ」

「まったく……」

 フシギは呆れながら、ヒミツのもとへ歩いて行こうとする。

 だが、フシギは岩場を見てハッとした。

 ヒミツの頭の上にある岩の一部が、今まさに崩れ落ちようとしていたのだ。

 

「危ないっ!」

 

 フシギはあわてて駆け寄ると、ヒミツを突き飛ばした。

「きゃ!」

 ヒミツが茂みの中に倒れる。

 フシギは、ヒミツの代わりに岩の真下に前のめりになって膝をついた。

 瞬間、岩が崩れ、フシギの上に落下した。

 

 ドオォォン

 

「お兄ちゃん!」

 土埃が舞い、何も見えなくなってしまう。

「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」

 ヒミツは必死に叫ぶが、返事はない。

 

「そんな……、そんな……、嫌ああああ!!

 

 ヒミツは突然の出来事にパニックになる。

 木々が激しく揺れる。

 同時に、強い風がヒミツの周りを吹き抜けた。

 

「ヒミツ……」

 

 小さな声がした。

「お兄ちゃん!」

 ヒミツは手で土埃を掻き分けると、岩場に駆け寄った。

 落下した岩のそばに、フシギの姿がある。

 どうやら、岩が当たる直前に上手くよけたようだ。

「よかった~~」

 ヒミツは目に涙を浮かべてフシギに抱きつく。

 フシギはほほ笑みながら、そんなヒミツの頭を優しく撫でた。

「お兄ちゃん、怪我はない??」

「大丈夫、平気だよ」

 フシギは埃を払いながら、その場からゆっくりと立ち上がった。

 そのとき――、

 

 ガサガサッ

 

 岩場の向こうで、茂みが激しく動いた。

「え?」

 フシギとヒミツは、同時に音のしたほうに顔を向ける。

 茂みの中に、何かがある。

 

 それは、不気味な女の顔だ。

 

「誰なの……?」

 村の人間ではない。

 ヒミツが戸惑っていると、フシギが声をあげた。

「あれは人間じゃない!」

「どういうこと?」

「あの顔をよく見るんだ!」

 女の顔を見ると、肌が完全に透けている。

 女が茂みから出て来る。

 首から下は、煙のようなものに包まれていて、身体はまったく見えない。

 女は、フシギたちを見ながら、血のように赤い唇を大きく開けた。

 

 ヒヒヒヒ

 

 次の瞬間、女はフシギたちに襲いかかってきた。

「きゃああ!」

「ヒミツ!」

 フシギはヒミツの手を掴む。

「逃げるぞ!」

「う、うん!」

 2人はあわててその場から走り出した。

 

 ヒヒヒ ヒヒヒヒ

 

 煙に包まれた女が、フシギたちに迫って来る。

 フシギたちは必死に走り続ける。

「お兄ちゃん、怖いよ!」

「いいから走るんだ。捕まったら殺されるぞ!」

 あれが何者なのかは分からない。

 しかし、捕まったら無事ではすまないだろう。

「あっ」

 前方を見ると、大きな木が見える。

「あそこなら!」

 フシギはヒミツを連れて、その木の陰に身を隠した。

「お兄ちゃん」

「動いちゃダメだ」

 フシギはヒミツを守るように抱きしめ、息を殺す。

 やがて、不気味な女が近くにやって来た。

 女は、目をギョロギョロとさせて、辺りを見回す。

 フシギはヒミツを抱きしめながら、女が立ち去るのを祈った。

 

 すると、女が立ち止まり、なぜか急に震え出した。

 

(どうしたんだ……?)

 フシギは戸惑いながら、木の陰から顔を出し、女を見る。

 透明だった女の顔が、徐々に白い肌に変わっていった。

 首から下を覆っていた煙も消え、白い着物を着た身体が見える。

 ボサボサの髪には、鉄のような輪っかを載せている。

 鉄の輪には、ロウソクが3本立っていて、ボッと炎がついた。

 女は、いつの間にか木槌を持っていた。

 

 ヒヒヒヒヒヒ

 

 女は、笑い声をあげながら、フラフラとさ迷うように歩き出すと、やがて森の奥に消えて行った。

「た、助かったのか……」

 フシギは見つからずにすみ、ホッと胸をなでおろす。

 だが、ヒミツは胸の中でブルブルと震えていた。

「あの人、人間じゃないよね? あれって、あれって……」

 怯えるヒミツに、フシギは小さくうなずく。

「あれはたぶん、カンカン様だ――

 


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