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【期間限定】『恐怖コレクター』1巻無料スペシャル連載 第2回

 その夜、まどかは妙(みょう)に寝(ね)苦しく、なかなか眠(ねむ)れなかった。
 ベッドに入り、目をつぶっても、なぜか頭だけが冴(さ)えていたのだ。
(明日学校だから、早く寝なくちゃいけないのに……)
 まどかはそう思えば思うほど、眠れなくなっていってしまった。
 まどかは今何時なのか時計を確認しようと、ふと、目を開けた。
 そのとき、


 きゃああああああ!!

 という女の子の叫(さけ)び声が、部屋の外から聞こえてきた。
「なに⁇」
 まどかは驚(おどろ)き、あわててベッドから起き上がった。
 時計を見ると、深夜の2時を過ぎている。
 耳をすましてみる。しかし家はシンと静まり返っていて、女の子の声はもう聞こえなかった。
「今の何だったの……⁇」
 まどかは怖いと思いながらもドアを開け、廊下を見てみた。
 だけど、廊下には誰(だれ)もおらず、真っ暗だった。
 まどかは廊下に備え付けられていた防犯用の懐中(かいちゅう)電灯を手に取ると、周りを照らしてみる。
(誰もいない……)
 まどかはあちこち照らしてみたものの、異変はなかった。
(いつの間にかウトウトして、寝ぼけていたのかな⁇)
 まどかは廊下にひとり立って、首をかしげていた。


 翌朝。
 まどかが部屋から出ると、ゆりかが廊下に立っていた。
 いつもと同じように赤いワンピースを着て、クマのヌイグルミを大切そうに抱き締めている。
(もしかして、昨日の声はゆりかだったのかな?)
 まどかはゆりかに聞いてみることにした。
「ねえ、ゆりか。あなた昨日の夜中、叫んだりした?」
 まどかがたずねると、ゆりかは首を横に大きくふった。
「叫んでないよ。ずっと寝てたもん」
「そっか……」
 叫び声は幼い女の子の声だったような気がした。
 この家にはゆりか以外、幼い女の子はいない。
 1階に下りたまどかは、朝食を食べていた父親と母親にもたずねてみたが、やはり彼らも叫んでなどおらず、そもそもそんな声を聞いてもいなかった。
「それだけ大きな叫び声だったら、お父さんたちも目を覚ましたはずだよ」
「そうね。まどかが寝ぼけていたのよ。新しい学校に通うようになって疲(つか)れていたんじゃないかしら?」
「やっぱりそうなのかな……」
 まどかは納得できなかったものの、とりあえず自分が寝ぼけていただけだと思うことにした。


 しかし、数日後。
 まどかは再び、不思議な体験をしてしまう––。


 その日、学校から帰ってきたまどかは、いつものように2階の自分の部屋に鞄(かばん)を置いてから、リビングでおやつを食べようと思った。
「あれっ?」
 鞄を置きに行くために階段を上がろうとすると、階段の手前に何かが落ちていた。
 まどかは何かと思い、じっと見つめてみる。
 するとそれは、赤いクレヨンだった。
 クレヨンはかなり使われていて、半分ぐらいの長さになっている。
「どうしてこんなところに?」
 まどかが何気なくそのクレヨンを手に取ると、ちょうどゆりかが2階の廊下から下をのぞいているのが見えた。
「ねえ、ゆりか。このクレヨン、ゆりかの?」
 まどかが見上げながらたずねると、ゆりかは首を大きく横にふった。
「ゆりかのじゃないよ」
「そうだよね。絵とか描(か)かないもんね」
 念のため、まどかは台所で夕食を作っていた母親にも聞いてみたが、やはり知らないと言われた。
 仕事中でまだ帰ってきていない父親もクレヨンなど使わない。
「だとしたら、誰のクレヨンなの……?」
 そのとき、まどかは亜衣が言っていたあの話を思い出した。
『ある日、その家に引っ越してきた家族が、家の中で赤いクレヨンを見つけたんだって––』
「それってもしかして!」
 まどかは急に怖くなって、あわててそのクレヨンをリビングのゴミ箱に投げ捨てた。


 ピンポーン。

 インターフォンが鳴り、母親が「はーい」と言いながら玄関(げんかん)へ向かう。
 そしてすぐに、まどかのもとへと戻ってきた。
「まどか、お友達が来たわよ」
「友達? 桃香ちゃんかな? それとも亜衣ちゃん?」
「いいえ、男の子よ。赤いフードを被った」
「えっ?」
 誰だろう?
 そもそも、男の子とはまだそこまで仲良くないので家に来るとは思えない。
「それに、赤いフードって確か……」
 今度は桃香が言っていたあの話を思い出した。
『フードを被った男の子らしいんだけど、目も鼻も口もないんだって––』
「顔のない子供!」
 まどかは思わず部屋のドアから顔を半分だけ出して、玄関のほうを見た。
 するとそこには、母親が言った通り、赤いフードを被った男の子が立っていた。
 だけど、男の子には目も鼻も口もある。
「まどか、どうかしたの?」
 まどかの様子を変に思った母親が後ろからたずねる。
「えっ、ううん、べ、別に何でもないよ……」
 まどかは思わず苦笑いを浮かべた。
(そうだよね。顔のない子供なんているわけないよね……)
 もし、目も鼻も口もなかったら、母親が普通(ふつう)に戻(もど)ってくるわけがない。
 何より、顔のない子供はただの都市伝説の噂話なのだ。
 まどかは自分が怖がり過ぎていたことを反省し、その男の子に会うことにした。
「あの、私がまどかだけど、あなたは?」
 男の子は、白い肌(はだ)に、大きな澄(す)んだ目とシュッと通った鼻筋、そして薄(うす)く綺麗(きれい)な唇(くちびる)をしていた。
 歳(とし)はまどかより少し上のようだ。
 フードを被って顔を隠(かく)しているが、びっくりするぐらいかっこいい。
 そんな男の子がまどかのほうを見ている。
「名前なんてどうでもいい。キミに忠告しに来たんだ」
「忠告?」
 まどかはなぜ忠告などされるのか意味が分からなかった。
 しかし男の子はそんなまどかをよそに、話を続ける。
「この家は、赤いクレヨンに呪われた家かもしれない––」
「えっ?」
 まどかは思わずハッとした。
「どうして赤いクレヨンのことを知ってるの⁇」
 まどかがクレヨンを見つけたのは、つい10分ほど前のことである。
 それなのに、男の子はそのことを知っている。
 まどかが困惑(こんわく)していると、男の子はその大きな目でじっと見つめた。
「分かるんだ。このままでは、キミやキミの家族が不幸な目に遭(あ)う––」
 それを聞き、まどかは思わずゾッとした。
 すると、リビングでその話を聞いていた母親が2人のもとへやってきた。
「ちょっと、何を言ってるの! まどか、この子はあなたの友達じゃないの?」
「ううん、知らない……」
「じゃあ、帰って!」
 母親は男の子がまどかを怖がらせていると思い、怒(おこ)っていたのだ。
「僕(ぼく)は真実を言ってるだけだ」
 男の子はまったく動じず、母親にそう言う。
「いいから出ていきなさい! ほらっ、早く!」
 そんな男の子に母親は怒鳴(どな)り、家の外へと追い出した。
「まったく。多分、近所のイタズラ好きの男の子なんでしょうね」
 母親が怒る気持ちもよく分かる。
 引っ越してきたばかりの家を呪われた家などと言われたら、誰だって怒りたくなるだろう。
 まどかは、男の子に詳しい話を聞きたいと思ったが、それはもうムリそうだった。
(だけど、どうしてあの男の子は赤いクレヨンのことを知ってたんだろう⁇)
 まどかはそれが不思議で仕方なかった。
 赤いクレヨンのことは、ゆりかと母親しか知らないのだ。
 そのとき、まどかはあることに気付いた。
(もしかして、赤いクレヨンを置いたのはあの男の子なのかも?)
 母親は男の子のことをイタズラ好きだと言っていた。
 だとしたら、男の子が家の中にクレヨンを置いて、まどかたちを驚かそうとしていた可能性もあるのだ。
(そうか、ただのイタズラなんだ!)
 まどかはホッとし、自分の部屋へ戻ることにした。
「お姉ちゃん……」
 階段を上がると、廊下にゆりかが立っていた。
「呪われた家ってなに? なんか、すごく怖い……」
 どうやら、ゆりかは2階から話を聞いていたらしい。
 不安そうな顔で、クマのヌイグルミを強く抱き締めている。
「大丈夫。あれは全部、あの男の子のイタズラだから」
 まどかはゆりかの頭を優しくなでた。
「ほんとに?」
「うん、だからゆりかは何も心配しなくていいよ」
 まどかがそう言うと、ゆりかは「分かった」と返事をし、笑顔になった。
 それを見て、まどかも笑みを浮かべた。


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