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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第70回 みんなといっしょに


◆第70回

サッカーをしていた過去の自分の傷と向き合って、黒羽中吹奏楽部のみんなで全国大会で金賞をとる決意を固めた伊吹先輩。
全国大会に向けての練習が始まります!

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*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

♪みんなといっしょに

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

 コンクール曲の合奏が終わり、音楽室に最後の音が残って響いた。

 

 北田先生は、その音を味わうように、じっと閉じていた目を開ける。

 

 指揮台からギョロッと部員たちを見回したあと、ゆっくりと伊吹先輩のほうを向いた。

 

「伊吹」

 

「はい」

 

「いいソロだ」

 

「……ありがとうございます」

 

 一夜明けて、伊吹先輩は部活に戻ってきたんだ。

 

 迷いがなくなった先輩の音は、今まで以上に高らかに響いた。

 

 それにつられてか、ふしぎとみんなの音も澄んでいく。

 

 北田先生が、うなずいて言った。

 

「今までで一番、厚みとまとまりがある演奏だ」

 

 音楽室中が、わっと歓声に包まれる。

 

 めったにほめない北田先生が、ほめてくれた……!

 

「ねぇ、今日の合奏、すごく楽しかったよね」

 

「うん! なんかわくわくした」

 

 あちこちから、そんなささやきが聞こえてきた。

 

「私たち、もっとがんばれそうじゃない?」

 

「やれることは全部やって、全国の舞台に立ちたいよね」

 

「うん。やっぱり全国で金賞とりたいよ」

 

 ひとりひとりの気持ちがひとつになって、今、部がまとまりつつあると感じてる。

 

「今日の合奏は、個人的にすごく楽しかったです」

 

 高田先輩の、部活終わりのあいさつに、みんながうなずいた。

 

「全国大会、みんなと思いっきり楽しみたいです。『楽しむ』のやり方はみんなそれぞれだけど、僕は、努力の先に『楽しむ』があるのかもしれないと、今日の合奏で思いました」

 

 高田先輩は、ふっとほほえんで伊吹先輩を見つめた。

 

「ということで、トップ奏者からも、ひとことお願いします」

 

「……」

 

 突然話を振られた伊吹先輩は、ふきげんそうに、ぎゅっとまゆをよせた。

 

 けれどすぐに、みんなを見渡して立ち上がる。

 

「俺も、部長と同じ気持ちだ。努力したからこそ、楽しめるんだと思う」

 

 ひと呼吸おいて、きっぱりと言った。

 

「みんなといっしょに、金賞をとりたい」

 

 先輩の強い意志が伝わってくる言葉だった。

 

「俺も、金賞とりたいです!」

 

 崎山くんの言葉に、みんなが続く。

 

「私も、がんばりたい」

 

「あともう一歩だもん。せいいっぱいやろうよ!」

 

「最高の演奏をしよう!」

 

 音楽室が、あたたかい拍手に包まれた。

 

 誰もが、同じ気持ちで拍手をしていた。

 

 フルートパートの全員が。

 

 さっこと加代ちゃんと、内藤さんと、そして柴田さんが。

 

 顔を見合わせて、『がんばろう』って、視線を交わしあったんだ。

 

 

 翌日。

 

 音楽室の壁の「行くぞ全国!」の横断幕に、「とるぞ金賞!」の文字が書き加えられた。

 

 部員全員の目標が、やっと定まったんだ。

 

「伊吹先輩がいると、ぐっと部がまとまるね。やっぱりソロは、伊吹先輩じゃないと」

 

 崎山くんはすごくうれしそう。

 

「崎山くんのソロも、すてきだったよ」

 

「あくまで俺は、伊吹先輩の代理だからね。でも……」

 

「横断幕、書き加えたのね」

 

 柴田さんがやってきて、崎山くんのとなりで横断幕を見上げた。

 

「あ、月乃」

 

 崎山くんは、にっこり笑顔を柴田さんに向けて言った。

 

「月乃といっしょにソロの部分を吹けて、すっごく楽しかったよ!」

 

「……そう」

 

 柴田さんは、少しおどろいた顔をしたあと、そっけなく答えた。

 

「俺、月乃のピアノ好きだよ。またいっしょに演奏しよう」

 

「……そうね」

 

「わっ。あいかわらず反応うすいなぁ~。月乃ってほんとかわいくないよね」

 

「かわいいって思ってもらわなくてけっこうよ」

 

 ツンと言い返した柴田さん。でもふっと、やわらかい笑みになった。

 

「でも……ありがとう」

 

 はなやかな笑顔が咲く。崎山くんは目をぱちくりさせた。

 

「月乃って、笑ったらすっごくかわいいんだね」

 

「……っ。失礼するわ」

 

 

 柴田さんは、くるっと背を向けて行ってしまった。

 

 長い黒髪のかげにかくれたほおは、ピンクに染まっているみたいだった。

 

「へんな月乃」

 

 きょとんとした顔で崎山くんがふしぎそうに言う。

 

 崎山くんが柴田さんの気持ちに気づくのは、いつなんだろう。

 

 もしかしたら、いつまでも気づかないのかもしれない。

 

 切ないような気もするけれど、柴田さんはそれで幸せだって言ってた。

 

 この出来事も、柴田さんの『宝物』として、心の奥にそっと残り続けるのかもしれない。

 

「崎山、お前さ……いや、なんでもない」

 

「わっ、伊吹先輩!」

 

 突然あらわれた先輩は、あきれ顔。

 

「なんでもないって、気になるじゃないですか~!」

 

「あんまり女子を泣かすなよ」

 

「え! それ、伊吹先輩が言っちゃいます~!?」

 

 あははと笑う崎山くんを見てると、私まで笑顔になる。

 

 やっぱり恋って、すてきだな。

 

 ちらりと伊吹先輩を見上げて、心からそう思う。

 

 恋は人を迷わせて弱くするけれど、パワーに変えることもできる。

 

 そのことに、やっと気づいたんだ。

 

 感情に振り回されて、自分がブレてしまったり、自分が情けなくなったりもする。

 

 でも、それでいい。弱くてもいいんだ。

 

 自分の弱さを認めて、そこから一歩動き出そう。

 

『好き』の気持ちを、私はパワーに変えよう。

 

 そう思ったら、伊吹先輩を見ているだけで、がんばろう!って、力がわいてくる。

 

「あ、そうだ。吉川、ちょっといいか?」

 

 急に伊吹先輩と目が合って、ドキン!と心臓が跳ねる。

 

「は、はい」

 

 いったい、なんだろう。

 

 シメられるようなことは、してないはずだし……。

 

 伊吹先輩に連れられて、私は音楽室をあとにした。

 

 

伊吹先輩が帰ってきて、全国大会に向かって心をひとつにした黒羽中吹奏楽部。
よかった……と思っていたら、伊吹先輩からまさかの呼び出し!?
次回もおたのしみに!

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