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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第66回 消えた先輩


◆第66回

加賀谷くんとの思わぬ再会と、明らかにされてしまった先輩の過去の傷。
この出来事が、大きな影響を与えるなんて……。ハラハラの第66回です。

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♪消えた先輩

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

 月曜日のお昼休み。

 

 急いでお弁当を食べた私は、練習のために音楽室に向かった。

 

 準備室からは、トランペットの音が聞こえてくる。

 

 伊吹先輩の音だ。

 

 よし、私も練習がんばろう。

 

 楽器庫に入って、楽器ケースに手をのばす。

 

 そのとき、違和感を覚えた。

 

 準備室から聞こえてくる、伊吹先輩の音がいつもと違う。

 

 くぐもった、透明感のない音だ。

 

 どうしたんだろう。

 

 伊吹先輩が、こんな迷いのある音を出すなんて。

 

 私は、昨日見てしまった、伊吹先輩のつらそうな顔を思い出した。

 

 なんだか、胸さわぎがしてしまう。

 

「先輩……」

 

 フルートの楽器ケースにつけたピンクのこけしキーホルダーを、きゅっとにぎった。

 

 いつも私が伊吹先輩にしてもらっているように、私が伊吹先輩にしてあげられることって、何かあるだろうか。

 

 考えたけれど、何も見つからない。

 

 すると、音楽室のドアが開く音がした。

 

 楽器庫のガラス窓越しに見ると、固い表情をした高田先輩が、ちょうど準備室に入っていくところだった。

 

 お昼休みに高田先輩が来るなんて、初めてだ。

 

 どうしたんだろう。

 

 気になってしまって、楽器庫から少しだけ顔を出す。

 

「どうした?」

 

「忘れ物を取りに来たんだけど……伊吹、その音……どうした?」

 

「……吹けない」

 

 伊吹先輩の声は、淡々としていた。

 

「そっか。……何があったか、聞いてもいい?」

 

「……」

 

 何も答えない伊吹先輩に、高田先輩がやわらかい声で言った。

 

「……わかった。じゃあ、僕にできることは?」

 

 しばらくして、伊吹先輩がふうっと長く息をはく音が聞こえた。

 

「少し時間が欲しい。必ずもどる」

 

「……いいよ。こっちのことは気にしなくていいから」

 

「悪いな」

 

「大丈夫だよ。僕にまかせて」

 

 いったい、何が起こっているんだろう。

 

 伊吹先輩はトランペットが吹けなくなってしまったの……?

 

 もしかして、きのうのせい?

 

 私はふるえる足で、必死に音楽室を飛び出した。

 

 

 その日、伊吹先輩は部活を休んだ。

 

 

 

「伊吹先輩、カゼでお休みだってね」

 

「え~~! 伊吹先輩が休むの、初めてだよね」

 

「体育祭のマーチングもあったし、つかれてるのかなあ」

 

「心配だね」

 

「今日のソロ、どうするんだろう」

 

 心配そうなひそひそ声が、あちこちから聞こえてくる。

 

 みんなを落ち着かせるように、高田先輩はおだやかな声で言った。

 

「伊吹のソロの部分は……崎山くん、お願いできるかな」

 

「はい」

 

 伊吹先輩が吹いていたソロは、もともとオーボエかサックスで吹くメロディーだ。

 

 だから、サックスの楽譜がある。

 

 崎山くんならきっとすてきなソロを吹いてくれるはず。

 

 だけど、崎山くん自身は、眉をよせて、ちょっと難しい顔をしている。

 

 ソロといっしょにピアノを弾く柴田さんは、そんな崎山くんを、心配そうに見つめていた。

 

 

 顧問(こもん)の北田先生も、伊吹先輩の話は特にしなかった。

 

 すぐに合奏が始まる。

 

 崎山くんのソロはすばらしくて、柴田さんのピアノとも息がぴったり。

 

 いつも通りに、合奏の時間が過ぎていく。

 

 だけど……。

 

 伊吹先輩のハイトーンが聞こえない合奏は、どうしても心がおどらない。

 

 明らかに何かが違う。そう思っているのは、私だけじゃないみたいだった。

 

 このまま、伊吹先輩が戻ってこなかったらどうしよう。

 

 そんなこと、考えちゃダメなのに。

 

 くちびるがふるえて、せっかくきれいに吹けていたトゥッティが、うまく吹けない。

 

 

「今日の合奏はここまでにしよう」

 

 北田先生は、いつもより1時間もはやく部活を終えた。

 

 片づけ中の楽器庫では、誰もが伊吹先輩のことを話していた。

 

「伊吹先輩、大丈夫かな」

 

「はやく治るといいね」

 

 みんな、そわそわしている。

 

 昼休み、高田先輩と伊吹先輩の会話を聞いてしまった私は、知っている。

 

 ──伊吹先輩はきっと、カゼなんかじゃない。

 

 いったい、いつ帰ってきてくれるんだろう。

 

 不安でいっぱいになる。

 

 先輩の様子がおかしいのは、加賀谷くんに会ってからだ。

 

 いや……。もしかしたら、もっと前からかもしれない。

 

 荒木田先輩に、試合にさそわれてから……?

 

 ふと、あることに思いいたって、ハッとした。

 

 ひとりだけ、いる。

 

 私の疑問に答えてくれる人が。

 

 いてもたってもいられなくて、さっこと加代ちゃんに向かって声をかけた。

 

「さっこ、加代ちゃん、ごめん! 先に帰ってて!」

 

「え? あ、うん」

 

「わかったよ~」

 

 私は自分の荷物を持って、音楽室を飛び出した。

 

 

黒羽中吹奏楽部みんなの心を支えていた、伊吹先輩のお休み……。マーチングで、せっかく心をひとつにがんばれそうだったのに、またもやピンチ!
加賀谷くんのことも、高田先輩と伊吹先輩との会話も知ってしまったさくらが、向かった先とは!? 次回もおたのしみに!

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