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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第59回 好きだから


◆第59回

体育祭に向けて、マーチングの練習を重ねていく黒羽中吹奏楽部。
練習の応援にかけつけてくれたのは、とってもたよりになる、あの人です!

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♪好きだから

 

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 マーチングの練習を始めて、1週間。

 

 ようやく、マーチング初心者の1年生が、歩幅を合わせて歩けるようになった。

 

 今日からは、楽器を持って、演奏しながら歩く練習だ。

 

 歩きながら吹くなんて初めてだから、難しすぎて、ここでも大苦戦。

 

 そんな中、練習する部員たちを、高田先輩が呼び集めた。

 

「今日は、伊吹椿先輩が指導に来てくださいました」

 

「みんな、がんばってるね。応援しにきたよ!」

 

 高等部のジャージを着た、椿先輩が来てくれた!

 

 伊吹先輩だけじゃなく、実は椿先輩も中等部では大人気。

 

 だから、吹奏楽部が練習中のグラウンドを、伊吹姉弟ファンのみなさまがぐるっとかこんでいるんだ。

 

 みんな、伊吹先輩と椿先輩のことをじっと見つめている。 

 

「じゃあ、始めよう」

 

「「「はい!!」」」

 

 マーチングの先頭を歩くのは、ドラムメジャーの高田先輩。

 

 先輩のかけ声で、全員がピシッと足をそろえて背すじをのばし、顔を上げた。

 

 ピッ。

 

 短い笛の音で、いっせいに楽器をかまえる。

 

 ピッ。

 

 次の笛で、スネアドラムやバスドラムが鳴り、足ぶみが始まった。

 

 高田先輩がかざりのついたシグナルバトンをくるくる回して、ポーズを決める。

 

 いよいよ行進スタートだ。

 

 指揮棒代わりのシグナルバトンを見ながらリズムをとって、私たちは演奏をしながら歩きだした。

 

「胸張って、顔上げてー! 横の列を意識してね!」

 

 椿先輩の声が、グラウンドにこだまする。

 

「楽器が下がらないように! 腕きついけど、がんばって!」

 

「全員で意識を合わせて、演奏も動きもそろえるんだよ~」

 

 前列の人、横の人、見えない後ろの人も。みんなの動きを感じて、リズムと列をそろえる。

 

「楽器の角度、意識してね! うん、いい感じ!」

 

 崎山くんに見せてもらったあの動画みたいに、できている。

 

 部員全員が、ひとつの大きな楽器になったみたい。

 

 一体感が、すごく楽しい!!

 

 やっぱり、マーチングに挑戦できてよかったなって、心から思った。

 

 

 帰り道、いつも『今日の高田先輩のかっこよかったポイント』を語っていたはずのさっこが、今日は無言でうつむいている。

 

「さっこ、どうしたの?」

 

 心配になって声をかけると、さっこの目から、ぽろりと涙がこぼれ落ちた。

 

「え!? さっこ!?」

 

 加代ちゃんもおどろいて、さっこの顔をのぞきこんだ。

 

 さっこは、うつむいたままで、元気なく口を開く。

 

「今日も、高田先輩のこと見てたら……私、気づいちゃったんだ」

 

「なにに?」

 

「高田先輩、いつも椿先輩を見てるの。きっと、椿先輩のことが好きなんだと思う……」

 

「「え!?」」

 

 ぜんぜん予想もしていなかった話にびっくりして、加代ちゃんとふたりで顔を見合わせた。

 

「でも、それって、部長として、椿先輩の指導を受けきゃいけないから、とかじゃないの?」

 

 加代ちゃんの疑問に、さっこは首を横に振った。

 

「違う。だって、練習中だけじゃないんだもん。休憩(きゅうけい)時間も、すごく切なそうに椿先輩のこと見てるの」

 

「……」

 

 好きな人を見つめていたからこそ、『好きな人の好きな人』が誰なのか、気づいてしまうなんて。

 

 そんなの、つらすぎる。

 

「たとえ好きな人が高等部生だったとしても、椿先輩も吹奏楽部員だから、『部活内恋愛禁止』のオキテを破るわけにはいかないんだと思う……高田先輩は部長だから」

 

「そんな……」

 

「高田先輩が、私に、『お友だちから』って言ったのも、オキテのせいで自分が苦しんでいるからなのかもしれない。部活内恋愛は禁止だし、フッたら私が傷つくから、そのどっちでもない、一番私が苦しまない方法をって考えてくれたんだと思う」

 

 顔を上げて、さっこは、泣き顔のままで苦しそうに笑った。

 

「高田先輩はすごく優しいけど……優しいって、残酷(ざんこく)だね。思いっきり、フッてくれればよかったのに。『お友だちから』なんて言われたら期待しちゃうし、忘れられないよ……」

 

 そう言って、さっこはぽろぽろと涙を流した。

 

「実は、私も、すごく苦しいことがあって……」

 

 さっこの背中をさする加代ちゃんの目にも、涙が光っていた。

 

「マーチングの練習、うまくいかなくてへこんでたら、佐久間先輩がコツを教えてくれたんだ。すごく優しかった」

 

 加代ちゃんのほおを、涙がぽろりと伝っていった。

 

「優しくしてもらえてうれしいけど、先輩には彼女がいるって思うと切ないよ。もう、部外の人を好きになろうって決めたのに。気がついたら、いつも佐久間先輩を探しちゃってるし」

 

「加代ちゃん……」

 

 楽しそうに練習してた加代ちゃんも、こんなに傷ついていたんだ。

 

 ふたりの切なさに、私の心もヒリヒリして涙がにじむ。

 

「部活内恋愛禁止の理由が、身に染みてわかったよ」

 

「うん。痛いくらいわかった」

 

 さっこの言葉に、加代ちゃんがうなずく。

 

「全国大会とマーチング、両方がんばりたいって思ってるのに、心がつらくて練習に打ちこみきれなくって、そんな自分がすごくイヤなの」

 

「恋って人を弱くするね……。私も、もうイヤだよ」

 

 夕映えの空の下、私たちは泣きながら帰った。

 

 

高田先輩のことを好きだからこそ、かくされていた気持ちにも気づいてしまったさっこ。
切ない気持ちをかかえて、いよいよ次回、体育祭が始まります! おたのしみに!

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