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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第54回 椿先輩の特訓


◆第54回

体育祭の『マーチング』をめぐって、部内が伊吹先輩派と高田先輩派にわかれて、まっぷたつ!? 不安な中、さくらが取った行動とは……?

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♪椿先輩の特訓

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

「さくらちゃん、いらっしゃい」

 

「こんにちは。よろしくお願いします!」

 

 土曜日の部活が終わったあと、私は伊吹先輩のお家をたずねた。

 

 今日は、伊吹先輩のお姉さん──椿先輩が、フルートの個人レッスンをしてくれる日。

 

 全国大会に向けて、ブレない自分でいるためにも、練習をがんばらなきゃ。

 

「防音室、お母さんがピアノのレッスンで使ってるの。あと10分くらいで終わると思うから、それまで私の部屋でおしゃべりでもしよう。こっちだよ」

 

「お母さん、ピアノの先生なんですか?」

 

「そうだよ~。この間入った防音室、グランドピアノもあったでしょ」

 

 伊吹先輩のおうちは、家族みんなが音楽好きみたい。

 

 まだお会いしたことはないけど、お父さんも何か楽器が弾けたりするのかな。

 

 長いろうかを歩いていたら、白い木目のドアの前で、椿先輩が立ち止まった。

 

「ここが私の部屋」

 

 お部屋の中は、落ち着いた青っぽい色合いの壁と、黄色のソファーがとってもおしゃれ。

 

 木目がかわいい本棚には、ずらっと小説や参考書がならんでいる。

 

「わ~、すてきですね!」

 

「そういえば、楓の小さいころの写真あるんだけど。見る?」

 

「えっ!? み、見たいです!!」

 

 即答した私に、椿先輩はあははっと笑った。

 

「ちょっと待ってて。たしか、このへんにしまってあったはず……」

 

 椿先輩がクローゼットを開けると、りっぱなトロフィーがちらりと見えた。

 

「それ……もしかして、フルートのコンクールのトロフィーですか?」

 

 ふしぎに思ってたずねると、私の視線に気づいた先輩は、「ああ、これ?」とトロフィーを抱えた。

 

「これ、楓のものなんだ。サッカーやってた時の」

 

「サッカー、ですか」

 

「うん。これは、最優秀選手に選ばれた時にもらったんだよ」

 

 椿先輩の言葉で、担任でサッカー部顧問(こもん)の鈴木先生から聞いた話を思い出した。

 

 伊吹先輩は、ずっとトランぺットをやっていたわけじゃない。

 

 トランペットは中学生からで、それまではずっとサッカーをやっていた。

 

 しかも、将来をかなり期待されていた、すごい選手だったそうだ。

 

 だけど、大ケガをして、サッカーができなくなってしまった……。

 

「さくらちゃんは、楓がサッカーをやってたこと、知ってるの?」

 

「……はい。サッカー部の鈴木先生から聞きました」

 

「そう……。さくらちゃんは、鈴木先生から信頼されてるんだね」

 

 そう言って、椿先輩はにこっと笑った。

 

 鈴木先生は、サッカーができなくなってヤケになっていた伊吹先輩が黒羽中に入ったきっかけも、トランペットを始めたきっかけも、椿先輩だっていうことを知っていた。

 

 きっと、椿先輩と鈴木先生は、伊吹先輩を心配する、仲間同士みたいなものなのかもしれない。

 

「サッカーをやめた時に、賞状も盾もトロフィーも、ボールも、楓は全部捨てたのよ」

 

 椿先輩の声は、低くしずんでいた。

 

「全部、ですか?」

 

「うん。でも、このトロフィーをもらった時が一番うれしそうだったから……私が拾って、勝手にあずかかってるの」

 

 椿先輩は、金色に輝くトロフィーを、優しくなでた。

 

「つらいことも、苦しいことも、いろいろあったけど。いつか、そういうのを全部ひっくるめて、楓にとって、いい思い出になればいいなって思ってるんだ。やってきたことはムダじゃないって、ムダなことなんて、ひとつもないって、思える日がくるといいなって」

 

「……」

 

『ムダなことなんて、ひとつもない』って……、私が伊吹先輩から言われた言葉だ!

 

 この言葉は、椿先輩の、伊吹先輩への想いでもあったんだ。

 

 想いがこんなふうにつながっていたことがわかって、胸がじんと熱くなった。

 

「あ! そういえば!」

 

「はいっ!」

 

 椿先輩が大きな声を出したから、びっくりしちゃった。

 

「中等部の部活のふんいき、悪いらしいね。高等部でもちょっとうわさになってるよ。なにがあったの?」

 

「ええっと」

 

 どういうふうに言ったらいいんだろう。一生けんめい言葉を探す。

 

「全国大会に向けて練習しなきゃいけないのに、部のまとまりがないんです。あと……、伊吹先輩と高田先輩の意見が、対立してて……」

 

「へぇ」

 

 椿先輩は、ふふっと笑った。

 

「部長とトップ奏者の意見が分かれてたら、そりゃ部員はみんな不安になるよね。でも、大丈夫。あのふたりがぶつかるのは、いつものことだから」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。出会ったときから、ずっとあんな感じ。ふたりは、びっくりするほど正反対だからね~。でも、ぶつかりあえる相手がいるのはいいことだよ。それに、ふたりとも意味のない対立はしないから、大丈夫」

 

 きっぱりした椿先輩の言葉に、だいぶほっとした。

 

「それならよかったです」

 

「高田くんも、楓も、人の気持ちを動かす力のある人だからね。ふたりがぶつかればまわりは混乱しちゃうのは、無理のないことだよ。でも、さくらちゃんは自分の気持ちに素直になっていいんだよ」

 

「はい!」

 

 私の一番の気持ちは、変わらない。

 

 伊吹先輩といっしょに、金賞をとりたい!

 

「……あ、そろそろ時間かな。じゃあ、防音室に行こうか」

 

「はい。よろしくお願いします!」

 

 目標のために、がんばりたい意欲がまた、強くなった。

 

 

 今日の椿先輩の特訓のおかげで、高音はだいぶきれいに出せるようになってきた。

 

 自分が上達していることを、ちゃんと実感できる。

 

 久しぶりに、フルートが楽しいって思えたんだ。

 

 

椿先輩の話を聞いて、少しほっとできたさくら。
目指すは全国大会の金賞! 気持ちをあらたに、がんばるさくらの前に、また大きな試練が!? 次回もおたのしみに♪

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