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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第50回 『好き』のかたち


◆第50回

『さくらは崎山くんのことが好き』という、さっこと加代ちゃんの誤解を解けないままになってしまったさくら。
つらい気持ちを抱えていたさくらの心を救ってくれるのは……?

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♪『好き』のかたち

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

 

 指切りの約束をしてから、5日。今日は実力テストの最終日だ。 

 

 放課後には、久しぶりの部活がある。

 

 やっぱり私は、さっこと加代ちゃんに、好きな人を伝えられないままだ。

 

 ふたりを見かけるたびに、ちゃんと話さなきゃって、緊張しちゃう。

 

 でも、言えない。小学校からの仲よしで、何でも話せる大好きな親友なのに。

 

「はぁ~……っ」

 

 机にほおづえをついて、窓の外のひこうき雲をながめていたら。

 

 思わず、大きなため息がこぼれた。

 

「最近、ずっとため息をついてるのね」

 

「え!?」

 

 おどろいて振り返ると、柴田さんが私を見下ろしていた。

 

「ここのところ、須田さんや、寺西さんといっしょにいても、浮かない顔をしているわ」

 

「柴田さん……」

 

 柴田さんは、私を責めているわけでもなく、何かを聞き出そうとしているわけでもないみたい。

 

 ただ静かな声でそう言った。

 

「うん……。さっこも加代ちゃんも、大切な友だちなんだけど……。だからこそ、伝えられなくなることもあるのかなって。こんなの、初めてだよ」

 

 素直な言葉が出てきたのは、話を聞いてくれているのが、柴田さんだからなんだと思う。

 

「女子の友情って難しいわよね。だから、私はひとりが楽だわ」

 

 気づかうようにほほえむ彼女は、たぶん、私が何になやんでいるのか知っている。

 

 私が本当に好きなのは伊吹先輩で、そのことをさっこと加代ちゃんに話せない、ということを。

 

 罪悪感になやみながら、でも言えずにいる。そんな今の気持ちも、全部。

 

 そう思ったら、するりと本音が出てきた。

 

「そうやって言い切れて、しっかりひとりでいられる柴田さんは、すごく強くて、すてきだね……。でも、私は弱いんだ。人にどう思われるかが、気になっちゃうの」

 

「吉川さんは、何をおそれているの?」

 

「おそれ……?」

 

「ええ」

 

 どういう意味だろう。私は柴田さんの言葉を待った。

 

 

「まわりを気にして、気持ちをすなおに伝えることができないのは、弱さじゃないわ」

 

 柴田さんは、私の目を見つめて言った。

 

「おそれているものを避けるために、何も言えなくなるのよ。……吉川さんのおそれは、何?」

 

 私は、何が怖くて、何におびえてるんだろう。

 

 自分の心に、問いかけてみる。

 

 答えは、すぐにわかった。

 

「……嫌われるのが、怖いよ」

 

「嫌われるかしら?」

 

「このままだったら、きっと嫌われると思う。私だけ秘密を打ち明けないなんて、裏切りだから」

 

「……」

 

 柴田さんはすこし考えたあと、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。

 

「友だちだからって、すべてを話さなくちゃいけないものかしら?」

 

「え……」

 

 思いもよらない言葉におどろいて、柴田さんの長いまつげにふちどられた目を見つめる。

 

「誰かに話して分かち合いたい想いというものは、確かにあるわ。でも、自分の心の奥に大切に秘めておきたい想いだって、あってもいいんじゃないかしら」

 

「心の奥に、大切に秘めておきたい想い……」

 

 私の、伊吹先輩への想い。

 

 そっと、かくしておくことに決めた想い。

 

 私の恋は、きっと、柴田さんの言うようなものなのかもしれない。

 

 柴田さんの言葉は、私がずっと感じていたことを、かたちにしてくれたみたいだった。

 

 ようやく見えてきた自分の気持ちを、少しずつ、言葉にする。

 

「私……何度もふたりに、本当のことを言おうとしたけど、言えなかったの。いくらでも伝える方法はあったはずなのに」

 

「ええ」

 

「言えなかったのは、まだ、自分以外の人と『分かち合いたい想い』じゃないってことなんだね」

 

 そうか。そうだったんだ。

 

 ずっとなやんでいたことが、すっと溶けていくように感じた。

 

「今はまだ、大切に秘めておいてもいいのかな」

 

 ぽつりとつぶやくと、柴田さんは優しく笑った。

 

「打ち明けたいと思った時が、最適なタイミングなんだと思うわ」

 

「そっか……」

 

 今は、まだ、打ち明けなくてもいいんだ。

 

 秘めておきたい想いを秘めたままにするのは、裏切りなんかじゃない。

 

「秘密を共有しあうことだけが、友情じゃないわ。誰だって、秘めておきたい想いを持ってるものよ」

 

「……ありがとう。柴田さんのおかげで、目の前が開けた気がする」

 

「それなら、よかったわ」

 

 柴田さんは静かにほほえむと、少しだけ目を伏せた。

 

「想いは、自分の心の奥に秘めたまま、鍵をかけておいたっていいの。時々、心の奥からそっと取り出して、ながめるだけでもいいわ。少なくとも私は、それで幸せよ」

 

「え!?」

 

 さらりと告げられて、関東大会の日のことを思い出した。

 

 柴田さんは、崎山くんのことが好き。

 

 だけど、崎山くんが伊吹先輩のことが好きってことも、柴田さんは知っている。

 

 伝えられない想いだから……柴田さんは、崎山くんへの想いをそっと心の奥に秘めて、たまにながめる。

 

 それが、柴田さんの想いの『かたち』なのかな。

 

「『好き』には、人それぞれいろんな『かたち』があるんだね」

 

「そうね。相手に伝えたい人、想うだけでいい人、そばにいたい人……。『好き』の表現方法は、たくさんあるわ」

 

 私は……今は、秘めておきたい。

 

 さっこと加代ちゃんに。そして、伊吹先輩にも。

 

 伝えるのは、きっと、今じゃないんだ。

 

「迷いはなくなったかしら」

 

「うん!」

 

「……よかったわ」

 

 罪悪感を手放した私は、柴田さんと静かにほほえみあった。

 

 

柴田さんの言葉をもらって、自分の想いの『かたち』に気づいたさくら。
前を向くことができたさくらが、次に直面するトラブルとは……? 次回もおたのしみに!

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