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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第46回 バラバラな心


◆第46回

関東大会を突破した黒羽中学校吹奏楽部は、全国大会に向けての練習を開始! でも、さくらは、全国大会の舞台に立つことができるの!? ハラハラの第46回です!

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*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

♪バラバラな心

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

 昼休み、私は、高橋先輩といっしょに北田先生の部屋に呼ばれた。

 

 いくら私が金賞をとりたい! って思っていても、全国大会の選抜メンバーに、私が選ばれるとは限らない。

 

 もしかしたら、先生は高橋先輩を選ぶかもしれない。

 

 ふたりのうち、どちらが選ばれても応援しあおう。

 

 高橋先輩と、そう約束して、ドキドキしながら部屋のドアをノックする。

 

 先生が私たちに向かって言った。

 

「吉川、関東大会ではよくがんばったな。次の全国大会も、吉川を選抜メンバーにする。金賞を目指してがんばってくれ」

 

「……はい!」

 

 先生は、続けて、高橋先輩に声をかけた。

 

「……高橋、すまない。全国大会は申しわけないが、定期演奏会でぜひがんばってほしい」

 

「はい。わかりました」

 

「話は以上だ。昼休みに呼び出して悪かったな」

 

「「失礼しました」」

 

 ふたりでおじぎをして、先生の部屋を出る。

 

 ドアを閉じると、高橋先輩は私に笑顔を向けてくれた。 

 

「全国大会、私のぶんもお願いね。応援してる」

 

 高橋先輩にそう言ってもらえて、とってもうれしい。

 

「はい! がんばります!」

 

 固い握手をかわして、先輩の想いをしっかり受け取った。

 

 全国大会は、10月下旬。1ヶ月半後だ。

 

 よーし、がんばるぞ!

 

 

 放課後、急いで音楽室に行った。

 

 さっこと加代ちゃん、それに崎山くんが、楽器の準備をしている。

 

「いよいよ全国大会なんだね……」

 

 ふと、加代ちゃんが音楽室の壁を見上げて、しみじみつぶやいた。

 

 そこには横断幕(おうだんまく)がかけてあって、筆文字で『行くぞ全国!』と大きく書かれている。

 

「あれ、初めて県大会を突破した2年前にはられたんだって」

 

「2年前っていうと、椿先輩が部長だったころだ」

 

 崎山くんが教えてくれると、さっこも横断幕を見上げた。

 

「2年経って、全国大会出場がかなったんだね」

 

 椿先輩や、そのあともコンクールに挑戦し続けた先輩たちがいてくれたから、今の私たちの、全国大会出場があるんだ。

 

「私たちの代で、目標達成できたなんて、うれしいね」

 

 ようやくここまでたどり着くことができた。

 

 目指すは全国大会で金賞だ!

 

 今日も練習がんばろう! あらためて決意して、ピシッと背すじを伸ばす。

 

 でも、さっこと加代ちゃんは、

 

「私たち、ここまでよくがんばったよね」

 

「うん。練習、きびしかったなぁ。でも、いい思い出だよね」

 

 ……なんて言ってる。まるで、コンクールが終わったあとみたい。

 

「ふたりとも、全国大会はこれからだよ」

 

 崎山くんがちょっとあきれたように言うと、ふたりはハッとした顔になった。

 

「わっ。そうだよね!」

 

「まだまだがんばらなくちゃ!」

 

「それに、このあと体育祭もあるし。今年はどうなるかわからないけど、吹奏楽部はきっと何か演奏することになるんじゃないかな。今日も練習、がんばろうね」

 

 にっこり笑う崎山くんに、私も笑顔を返して、フルートパートの練習場所へ向かった。

 

 

「……ごめん。塾の時間だから、帰らせてもらうね」

 

「え?」

 

 フルートのパート練習中、3年生の金子先輩が、気まずそうに席を立った。

 

 3年生でパートリーダーの山口先輩が、まゆをよせる。

 

「塾って……。これから合奏なのに?」

 

「私、外部受験するから。今日から週2で塾に行くことになったんだ」

 

「そんな……。全国大会に向けてがんばる時なのに」

 

「わかってるけど……。去年の今ごろは、外部受験組の先輩は引退して、勉強に専念してたでしょ? 部活も大事だけど、進路も大事だし。北田先生には言ってあるから……じゃあ」

 

 金子先輩は楽器を片づけて、私たちに「ごめんね」と言って教室を出ていった。

 

「どういうこと……? ありえないよね」

 

 いつもはおだやかで優しい山口先輩が、いらだったように言った。

 

 こんな山口先輩を見るのは初めて。

 

 2年生の先輩ふたりが、困ったように顔を見合わせている。

 

 私も、1年生の早川さんと『どうしよう?』ってとまどいの目を見交わした。

 

 そんな私たちを、山口先輩はキッと見すえた。

 

「今年は、伊吹くんがいるからここまで来られたんだと思うの。黒羽中にとって、最初で最後の全国大会になるかもしれないんだから、絶対に金賞をとらなきゃ!」

 

「は、はい!」

 

 私も、全国大会で金賞をとりたい。

 

 だから、みんなといっしょにうなずいたけれど……。

 

 山口先輩の指導はいつもよりずっときびしくて、みんなから笑顔は消えていた。

 

 

「さくらちゃん」

 

 部活が終わった後、楽器を片づけていた早川さんが、小さな声で話しかけてくれた。

 

「山口先輩、さくらちゃんにばっかりダメ出ししてたけど、大丈夫……?」

 

「うん、大丈夫だよ。……ごめんね。私のせいで何度も練習中断しちゃって」

 

 私の課題は、高音がきれいに出せないこと。

 

 だから、山口先輩に注意されて当然。

 

 ……でも、今日の山口先輩は、いつもと違った。

 

 何度も何度も、同じところを私だけ注意されて、パート練習は少しも進まなかった。

 

「ううん、私だって注意されたし、おたがいさまだよ。でも、なんだか、金子先輩が帰っちゃったイライラを、さくらちゃんにぶつけてるみたいに見えちゃった」

 

「……うん……」

 

 もしかしたら、山口先輩の私への注意は、八つ当たりだったのかもしれない……って、私も、心のすみで思っていたから。

 

 言い当てられたみたいでドキッとした。

 

「とにかく、注意されたところを、がんばって直すよ!」

 

 わざと明るい声で、イヤな思いをふりはらうように言う。

 

「私もがんばるかな。じゃあ、また明日ね」

 

 手を振って、早川さんは楽器庫を出ていった。

 

 

 ひとりで練習しようと楽器庫に残っていると、ひそひそと話す声が聞こえてきた。

 

「今日のパート練習、キツかったね」

 

「うん。雰囲気が悪かったよ」

 

「どんなに練習がきびしくても、楽器吹くのは楽しかったのに。今日は楽しくなかったな……」

 

「私……正直言うと、別にそこまで金賞にこだわってないんだよね」

 

「わかる。ここまでがんばったんだから、もっと肩の力を抜いて、楽しめばいいのに」

 

「私は、なんかもう、関東大会で燃えつきちゃった」

 

「受験勉強もしなくちゃ……」

 

「体育祭とか、球技大会もあるでしょ。部活ばっかりやってられないよ」

 

 聞こえてきた先輩たちの本音に、息をのむ。

 

 そうか……。部員全員が、私や山口先輩みたいに、金賞を目指してるわけじゃないんだ。

 

 さっこと加代ちゃんみたいに、全国大会に行けるだけで満足な人もいる。

 

 

 関東大会まではしっかりひとつにまとまっていたみんなの心が、バラバラになっていく。

 

 このままで、大丈夫なんだろうか。

 

 不安な気持ちが押しよせてきて、思わずへたりこんでしまった。

 

 

みんなで心をひとつにして関東大会を突破したのに、全国大会を前にして、すべてがくずれてしまいそう……部活も、恋も、トラブルの予感!?
でも、そんなとき、不安な気持ちを吹き飛ばしてくれるのは……?
次回は、みんながまってた「あの人」が登場! おたのしみに♪

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