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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第45回 序奏


◆第45回

今回からは、文庫3巻の内容が始まります! 関東大会を突破した黒羽中学の吹奏楽部は、ついに、夢の全国大会へ! 全国大会に向かうさくらの、部活と恋のゆくえは……?
胸キュンいっぱいでお届けします!

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 何度も壁にぶつかって、何度も転んだ。

 そのたびに助けてくれたのは、強くて大きな手。

 

 ぶっきらぼうな言葉の裏に

 誰もよせつけない瞳の奥に

 たくさんの優しさがかくれているのを知ったんだ。

 

 その瞳が、迷い、悲しみに染まる時、

 今度は私が、手を差し出そう。

 

 届かなくても、払いのけられたとしても、あきらめない。

 何度だって手を伸ばそう。

 

 差し出された手のあたたかさを教えてくれたのは、

 あなただから……。

 

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

♪序奏

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 

「はぁ~~~」

 

 なんて清々しいんだろう。

 

 澄んだ空を見上げて、朝の空気を深く吸いこんだ。

 

 

 昨日、吹奏楽コンクールの関東大会に初出場した黒羽中吹奏楽部は、金賞をとって、関東代表に選ばれた。

 

 夢だった全国大会に、出場できる。

 

 目指すは、『全国大会で金賞をとる』こと!

 

 今日からまた、新しい目標に向かってがんばっていこう。

 

 気持ちも新たに、さっこと加代ちゃんとの、いつもの待ち合わせ場所に向かうと……。

 

「さっこ、加代ちゃん、おはよう!」

 

「「……おはよう……」」

 

 あれ? どうしちゃったんだろう。

 

 ふたりとも、顔色が悪いし、声もかすれていて、元気がない。

 

「ふたりとも、大丈夫……?」

 

 ゆっくり顔を上げたさっこの目には、黒いクマができちゃってる。

 

 「さくら、元気だね……。もしかして、告白成功したの?」

 

 そういえば、そうだった!

 

 全国大会に進めることになった昨日の帰り道、さっこと加代ちゃんは、いきおいで、『好きな人に告白する!』って言って、別々に駆け出していったんだった。

 

 私も、伊吹先輩のところに走っていったんだけど……。

 

『告白するのは今じゃない』って思ってしまった。

 

 全国大会でいい演奏をして、自分に自信が持てるようになったら。

 

 そうしたら、告白しようって決めたんだ。

 

「それが……告白できなかったんだ」

 

「そっか。それはそれでつらいね……」

 

 弱々しくつぶやいた加代ちゃんの目は、真っ赤にはれていた。

 

「……」

 

 こんなとき、何て言ったらいいんだろう。

 

 3人で無言のまま改札を通って、ホームで電車を待っていると、さっこが重い口を開いた。

 

「……私、高田先輩に、『とりあえず、お友だちからスタートしようか』って言われたんだ」

 

「えっ、それって、どういうこと?」

 

 カノジョじゃなくて、でも後輩じゃなくて、……お友だち?

 

「きっと、遠回しに断られたんだと思う……」

 

「それは、わかりにくいね……」

 

 加代ちゃんも、うつむいたまま、小さな声で言った。

 

「私は、佐久間先輩に、もっとはっきりフラれたよ。『部外に彼女がいる』って」

 

 おどろいたさっこが、いきおいよく加代ちゃんを見た。

 

「え! 佐久間先輩、吹奏楽部じゃない人とつき合ってるんだ……!」

 

「そうみたい。部活内恋愛禁止だから、絶対フリーだと思ってたのに。ぜんぜん知らなかった」

 

 ならんで肩を落としたふたりは、ぴゅーっと吹いてきた北風に、飛ばされちゃいそうなくらい、弱ってる。

 

「失恋って、こんなにつらいんだね……」

 

 はぁ~っと重いため息をついたふたりに、かける言葉が見つからない。

 

『つらかったね』?

 

 ……それとも、『元気出して』?

 

 どんな言葉も、安っぽい気がしてしまう。

 

 丸くなった背中を、優しくさすることしかできない。

 

 私はなんて、無力なんだろう。

 

 そのとき。

 

「でも! 生まれて初めて、好きな人に告白したこと、後悔してないんだ」

 

 と、さっこががばっと顔を上げた。

 

「私も! 結果は残念だったけど、気持ちを伝えたことは後悔してないよ」

 

 加代ちゃんの目には、まだ涙がにじんでいる。

 

 でも、勇気を出して告白したふたりが、私にはキラキラ輝いて見えた。

 

「うん。ふたりとも、すごくかっこいいよ!」

 

 心をこめて伝えると、さっこと加代ちゃんは、ようやくちょっと笑ってくれた。

 

 さっこが、優しい目で私を見る。

 

「今回は言えなかったかもしれないけどさ、さくらは崎山くんのこと、がんばってね!」

 

「え?」

 

「そうそう。私たちは好きな人が3年生だから、引退前に伝えなきゃ!っていうのがあったから」

 

「崎山くんは同じ学年だし、まだいくらでも告白するチャンスがあるって!」

 

 加代ちゃんもそう言って、はげますように私の背中をぽんぽん叩いた。

 

 あっ、そうか!

 

 ふたりはまだ、私の好きな人が崎山くんだって、誤解したままなんだ!

 

「あの、さっこ、加代ちゃん……」

 

 私の好きな人は、崎山くんじゃなくて、伊吹先輩なの……!

 

 言いかけたとたん、がたがたと音を立てて、電車がホームに入ってきてしまった。

 

 私の言葉はかき消されてしまう。……なんてタイミングが悪い。

 

 電車には同じ黒羽中の生徒が乗っているから、好きな人のこと、話しにくいな……。

 

 車両に乗りこんで、つり革をつかむと、さっこが苦笑いをして言った。

 

「よく考えたら、私って無謀(むぼう)だよね。高田先輩は部長なんだから、『部活内恋愛禁止』のオキテを破れるはずないのに」

 

「そう言われたら、確かに。……あっ、でも! 『だから』じゃない!?」

 

「どういうこと?」

 

「高田先輩の『お友だちからスタートしよう』っていうのは、実は『今はオキテがあるからつき合えないけど、引退したらつき合おう』っていう意味なのかも!」

 

「えっ!? え~~~~~!!」

 

「3年生の引退は、3月の定期演奏会のあとだよね?」

 

「基本的にはそう。でも、高校を外部受験する人は、全国大会が終わったらすぐに引退するかもしれないんだって」

 

「高田先輩はどっちなんだろう~」

 

「きゃー! 『お待たせ。引退したから、僕はもう部長じゃないよ……だから、つき合おう』的な、胸キュン展開があるかも!!」

 

「わわ~! ドキドキしてきた!」

 

 ぱぁっと明るくなったさっこの顔を見て、ほっとする。

 

 でもすぐに、私の胸には、不安が広がっていった。

 

 伊吹先輩は、いつ引退しちゃうんだろう。

 

 いつまでいっしょに演奏していられるんだろう。

 

 そんなことを考えている間に、学校に着いてしまった。

 

「じゃあ、また放課後」

 

「今日もがんばろうね~」

 

「あ、うん! またね」

 

 気を取り直したらしいふたりは、しっかり背すじを伸ばして教室に向かっていった。

 

 少しでも元気になってくれて、よかった。

 

 ……でも。

 

 結局、ふたりに、

 

『私の好きな人は伊吹先輩なんだ』

 

 って言えなかった。

 

 

さっこ、加代ちゃん、そしてさくらの、それぞれの恋は、このあといったいどうなるの……? 続きは、次回をおたのしみに!

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