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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第44回 終幕


◆第44回

吹奏楽コンクール関東大会を突破して、その勢いのままに、恋する気持ちを伝えるために走り出した、さっこ、加代ちゃん、そしてさくら。
この想いは、かなうの……?
2巻最終回です!

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*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪終幕

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 しばらく走ると、前のほうに伊吹先輩が見えてきた!

 よかった、ひとりみたい。

 念願の全国大会出場も決まったんだし、今度こそ想いを伝えてもいいよね。

 先輩は、柴田さんが好きなのかもしれない。 

 でも、先輩が誰のことを好きでも関係ない。

 私が、先輩のことを好きなんだ。


 
 先輩の背中を追いかけて、ぐんぐん走る。

 距離がちぢまると、ドキドキが激しくなっていった。

 先輩まで、あともう少しだ。


 先輩に追いつきたい。

 そして……先輩のとなりを歩きたい。

 その想いがふくれ上がって、気持ちがはやる。

「伊吹先輩!」

「……吉川?」

 振り向いた先輩に、私は駆けよった。

 オレンジ色の薄い雲の下で、私たちは立ち止まる。

 目が合うと、ひときわ大きく胸が高鳴った。

「どうした?」

「あの……」

 どきどきどきどき。

 心臓が口から出てしまいそうだ。

 ポケットの中のこけしキーホルダーを、きゅっとにぎる。

「先輩、あの……。色々ありがとうございました。関東大会に出られて、すごくうれしかったです」

 思いっきり頭を下げると、先輩がふっと笑った。

「よかったな」

 優しい声に心がふるえて、一気に想いがこみ上げる。

「県大会の演奏を観客席で聞いて、すごく感動したんです。黒羽中吹奏楽部も、伊吹先輩もすごいなって。だからもう一度、ステージに立ちたいって、みんなと……先輩と演奏したいって思ったんです。その気持ちがあったから、がんばれました。レッスンも、ありがとうございました」

 ひと思いに告げて見つめると、先輩の瞳がゆれた気がした。

「俺も、お前に感謝してる」

「え……」

「ずっと、全国に行けるレベルの演奏を目指してた。でも、俺の音は、なにか足りなくて。県大会も、金賞を狙える演奏をすることだけ考えてた。そんな中……観客席にいるお前たちが見えたんだ」

 静かに語られる言葉が、私の胸をドキドキさせる。

 ひとことも聞き逃したくなくて、じっと耳をかたむけた。

「演奏を聞いてるのは、審査員だけじゃない。観客席にいる人にも、よろこんでもらえる演奏がしたいって、初めて思った。それに……」

 夕陽を浴びながら、先輩が続ける。

「関東大会で観客席にどんな音を届けたいか……ずっとわからなくて迷ってた。でも、お前を見ていて、気づいたんだ。うまいだけじゃなくて、人の心を動かす音を出したいって。おかげで吹っ切れた」

 おどろいて言葉が出ない。

 伊吹先輩にも、迷いやなやみがあったなんて……。

 知らなかった。

 戦ってたのは、私だけじゃなかった。

 先輩は、たくさんのものをせおって、ステージに立ってたんだ……。

 打ち明けてくれたことがうれしくて、胸がいっぱいだ。

「先輩の音は、いつも人の心を動かしてますよ」

 私だって、柴田さんだって、先輩の音に心をゆさぶられて、一歩ふみ出せたから。

 それだけじゃない。部員みんなが、先輩の音や存在に支えられているんだ。

「お前の音はまだまだへなちょこだけど、想いが伝わる音だ。関東大会のステージで、またお前の音と演奏できてよかったよ」

「先輩……」

「がんばったな」

 そう言って、先輩は私の頭をポンポンとなでてくれた。

 だめだ。先輩が好きすぎて、胸がはりさけそう。

 想いを伝えたくて口を開くと、先輩はにやりといじわるく笑った。

「とはいえ、全国大会はもっときびしいからな。明日からも気を抜くなよ」 

「……っ。は、はい!」

「気が向いたら、またレッスンしてやるから」

「え!?」

「イヤならしないけど」

「イヤじゃないです! ぜひお願いします!」

「気が向いたらな」

「ええ!?」

 振り回されっぱなしの私を見て、先輩は楽しそうに目を細めた。


 ようやく手にした、最高のステージへのキップ。

 まだまだ駆けぬけたい。

 目指すは『全国大会で金賞』だ!


 想いを伝えるのは、やっぱり全国大会が終わってからにしよう。

 それまで、自分みがきをがんばるんだ。

 どんな時だって、自分に自信を持てるくらい。

 だから、この気持ちは……もう少しだけ胸に秘めておこう。


 大きく一歩をふみ出して、ぐんと前に出る。

 ドキドキしながら、伊吹先輩のとなりにならんでみた。

 ちらりと横目で私を見て、先輩はそのまま歩く。
 
 いつか、その瞳に……私を映してくれますか?

 心の中で、問いかけて。

 ますます速まっていく自分の心臓の音を聞きながら、私は先輩の横顔を、こっそり見つめた。


 秘密の恋を打ち明けるまで、きっと、あともう少し……。
 

次なる目標は、『全国大会で金賞』!
そのときに、先輩に想いを伝えられる自分になれるように、さらにがんばる決意をしたさくらを、おうえんしてくださいね!

次回、第45回からは、文庫3巻の内容をお届けします!!
おたのしみに♪

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