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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第41回 関東大会当日


◆第41回

選抜メンバーになるための再オーディションが終わって、関東大会の舞台に立つことができたのは、さくらと高橋先輩、はたしてどっち……?
ついに、関東大会が始まります!!

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♪関東大会当日

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

「見て見て。伊吹先輩とオソロ~」

 緊張のあまり、会場に来て6回目のトイレから出た直後に。

 男子トイレから出てきた崎山くんが、ニコニコしながらよってきた。

「んん?」

「髪形! 伊吹先輩と分け目を同じにしてみたんだよね」

「ごめん。ちょっとわかんない」

 というか、私にそんな余裕はない。

 いつも思うけど、崎山くんは緊張しないんだろうか。

 コンクールの出番直前なのに。

「でもさ、さくらちゃん、本当によかったね」

「うん」

 今日は吹奏楽コンクールの関東大会当日。

 私は、選抜メンバーとしてここにいる。

 再オーディションの結果発表で名前を呼ばれたのは、私だった。

 あの瞬間は、今でも忘れられない。

「吉川さん、おめでとう。私の分もお願いね!」

 すっきりした顔でそう言ってくれた、高橋先輩との固い握手も。

 高橋先輩は、本当にすてきな先輩だ。

 大きくうなずいた後、思わず泣いてしまった私を、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 今日は、高橋先輩の分もがんばるんだ!

「う~~ん。やっぱりちょっと髪切ったほうがよかったかな~」

 崎山くんは、まだ楽しそうにブツブツ言ってる。

 私もこの余裕を見習わなくちゃ。

「崎山くんはどんな髪形でもかっこいいよ」

 崎山くんは私の中で、男子とか女子とかそういう枠組みを取っ払った、仲のいい存在。

 女の子同士で言う「かわいい~!」と同じレベルで何気なく言ったんだけど。

「ほんと!? さくらちゃんってやっぱいい人だね。大好き!」

「ぐほっ!」

 いきなりガバッと抱きつかれて、思わず倒れそうになる。

 本番直前にやめて~~!

 ジタバタしてると、後ろから誰かの気配が近づいてきた。

 その瞬間、崎山くんがパッと私を放す。

「わっ。違うんです、先輩!」

 このマイペースな崎山くんをあわてさせる人って、もしや……。

 振り向くと、そこにはやっぱり伊吹先輩が立っていた。

「伊吹先輩、違うんです!!」

 崎山くん、その「違う」の意味って、

『本当は吉川さんなんて好きじゃないんです! 俺が好きなのは伊吹先輩なんです!』

 ってことだと思うけど。

 あきらかに先輩には伝わっていないみたいだよ……。

 伊吹先輩は、私たちをじろりと見下ろした。

「あんまりチョロチョロすんなよ」

「は、はい! 行こう、さくらちゃん!」

 めずらしく動揺している崎山くんは、「さくらちゃん」って、名前で呼んだことにも気づいていないらしい。

「お前は残れ」

 静かなその声とともに、伊吹先輩は私の肩をつかんだ。

 うわ~~~!

 もしや、お説教!?

 崎山くんはそれを察したのか、ゴメンと口パクで伝えて、走り去っていった。

 残された私は、伊吹先輩に肩をつかまれたまま……。

「ちょっとこっち来い」

 近くのリハーサル室に連れていかれた。

 誰も使っていないリハーサル室で、伊吹先輩とふたりきり。

 先輩は、無表情……。

 それもそうだ。

 かんぺきな演奏なんてできていない私が、本番前にあんなところでウロウロしていたら、怒られても当然だ。

 緊張感がないとか、最終チェックしろよ、とか。

 そんなおりの言葉を想像して、首をすくめた。

 すると……。

「調子はどうだ」

 聞こえてきたのは、思いもよらない優しい声だった。

「あの……すごく緊張してますけど、すごくわくわくしてます」

「そうか」

 先輩は、ふっと笑った。

 でもすぐに、真剣な表情になる。

「出だしの音、キツくならないように気をつけろよ。高い音のピッチもはずすな」

「はい!」

 伊吹先輩から、またアドバイスをもらえるなんて。

 本番直前なのに、課題がこんなにたくさんあるなんて、マズいことなんだけど。

 それでも、やっぱりうれしくなってしまう。

「指揮をよく見ろ。それと、力みすぎんな。落ち着いて吹け」

「は、はい!」

「あとは……」

 うっ。まだあるなんて。

 私、やっぱりダメダメすぎるのかも。

 ちょっとへこみそうになっていると……。

「あとは、思いっきり楽しめ」

「……へっ?」

 てっきり注意が続くのかと思って、身構えていたのに。

 ぽかんとしたマヌケな私の顔を見て、伊吹先輩はちょっぴりいじわるにほほえんだ。

「そのくらい、力を抜け。あとは今までどおりやればいい」

「は、はい」

「全国まで、あと一歩。絶対に行くぞ」

「はい!」


 
 控え室に向かって、先輩の少し後ろを歩く。

 地区予選のときも、本番前にこうやっていっしょにろうかを歩いたな。

 県大会に出られなくて、ぐんと広がってしまった先輩との距離。

 またこうしていっしょに歩いている今、少しは近づくことができたかな。

 これから同じステージに立てることを思うと、うれしくて、胸がいっぱいになった。
 

選抜メンバーとして、伊吹先輩と演奏するという目標をかなえたさくら。
次回、ついに全国大会出場がかかった、関東大会の本番です!

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