連載

  1. ホーム
  2. 連載
  3. 小説
  4. 【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい!
  5. 【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第40回 明日への決心

【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第40回 明日への決心


◆第40回

椿先輩のレッスンにつづいて、伊吹先輩に特別レッスンしてもらったさくら。
いよいよオーディション直前です!!

第1巻(1回~16回)を読みなおす(もくじへ)
第2巻(17回~)を読みなおす(もくじへ)

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪明日への決心

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 夢のような伊吹先輩の特別レッスンの時間は、あっと言う間に終わってしまった。

 いっしょにコンクール曲を吹いて、私の演奏を見てもらったら、もう時間切れ。

 帰る時間になっちゃった。

「ありがとうございました」

「ああ」

 防音室を出てろうかを歩いていると、いぬおが伊吹先輩にじゃれついてきた。

「いぬお、かわいいですね」

「お前、なんでその名前を……」

「さっき椿先輩が教えてくれましたよ」

 伊吹先輩はぎゅっと眉をひそめて、わしゃわしゃといぬおをなでる。

「覚えとけ。こいつの名前は、『ルイ』だ」

「え! かっこいい名前じゃないですか」

「だろ。それなのに……父親が、ふざけたあだ名をつけやがったんだよ。いつの間にか、家族みんなそう呼ぶようになってた。お前もしっぽ振ってんじゃねーよ。お前の名前は『ルイ』だろ」

 伊吹先輩はしゃがみこんで、いぬお……じゃなくて、ルイに真剣に言い聞かせている。「あら、もう帰るの? 夜ご飯食べていけばいいのに」

 突然、お母さんがひょっこり出てきて、うふふと笑った。

「帰るの遅くなるだろ。今度にしろよ。駅まで送ってく」

 伊吹先輩はそう言って、玄関のドアを開けてくれた。

 今度!?

 ……なんて、期待しちゃだめだよね。

「ありがとうございます」

「また来てね」

「はい! おじゃましました」

 伊吹先輩のお母さんに深々とおじぎをして、伊吹家をあとにした。

 外に出ると、もう空は暗くて、星がまたたいている。

「明日、オーディション前に練習したかったら、音楽室に行け。最近は誰も来てないから、のびのび練習できると思う」

 駅まで送ってもらう途中、伊吹先輩は最後のアドバイスをくれた。

「ありがとうございます! そうします」

「じゃ、気をつけて帰れよ」

「はい。今日はありがとうございました」

「ああ」

 先輩に見送られ、駅の改札を通る。

 ぐっと前を見すえて、私は決めた。

 まずは、先輩と同じステージに立てるようにならなくちゃ。

 明日のオーディション、絶対に受かろう!

 祈るように、フルートのケースをぎゅっと抱きしめた。


*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪みんなの想い

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 翌日、いつもより1時間早い電車に乗った。

 さっこと加代ちゃんには、『練習をしたいから、今日は先に行くね』って連絡をして。

 今日は再オーディションの日。

 朝の澄んだ空気を吸いこみ、気合いを入れた。

「本当だ。誰もいない……」

 音楽室のカギは開いていて、しんと静まり返っている。

 よし、がんばろう。

 フルートを用意して、譜面台(ふめんだい)に楽譜を立てた。

 音出しをして楽器をあたためたら、『海の男達の歌』を吹いてみる。

 やっぱりこの曲は最高にかっこいい。

 胸がはずむのを感じながら、ひとつひとつの音を、確かめるように演奏した。

 すると──。

 私の音に、突然ピアノの音色が重なった。

「!?」

 おどろいて視線をめぐらせると……柴田さんがピアノをひいていた!

 それだけじゃない。

 今度は、サックスとクラリネットの音が加わる。

 崎山くんと、内藤さんも!?

 さらに、トランペットと鎖(くさり)の音も響き始めた。

 振り向くと、さっこと加代ちゃんも楽器をかまえていた。

 どうして? なんでみんなが、ここにいるの?

 胸が熱くなるのを感じながら、最後まで吹き終える。

「みんな、どうして!?」

 楽器をおろしてたずねると、みんなはいたずらっぽく笑った。

「さくらが朝練するっていうから、私たちも協力したいね~って話になったんだよ」

「そうそう。それで、同じ気持ちだろうなって人に声かけたの」

「さっこ、加代ちゃん……」

 ふたりの気持ちがうれしくて、言葉にならない。

 加代ちゃんが、同じパーカッションパートの柴田さんに笑顔を向ける。

「私から、柴田さんに連絡して……」

「私から、詩音に」

「そう。月乃から俺に連絡がきたから、俺から……」

「私に……!」

 内藤さんが、ポッと顔を赤らめる。

「みんな、ありがとう!」

「さくらといっしょに、関東大会出たいもん」

「このくらいは協力させてよ」

 さっこと加代ちゃんの言葉に、ぐっと涙がこみ上げてくる。

「じゃ、もう一回最初から通そうか」

「うん!」

 崎山くんが言うと、みんなが笑顔でうなずいた。

 私のフルートと、内藤さんのクラリネット、崎山くんのサックスに、さっこのトランペット。

 そして加代ちゃんのパーカッションに、柴田さんのピアノ。

 みんなで輪になって、合奏が始まった。

『海の男達の歌』の、全員が同じメロディーを演奏するトゥッティは、目を合わせて吹く。

 それが、とっても楽しくてしかたない。

 柴田さんのピアノが響く。

 ここで、伊吹先輩のソロが入るんだよね……。

 昨日、先輩の家で聞いたすばらしいソロを、頭の中で再生しようとしていたら。

「「「「「「え!?」」」」」」

 みんなのおどろきの声が響いた。

 だって……。

 ここにいるはずのない、伊吹先輩のソロのメロディーが、聞こえてきたから……!

「伊吹先輩!?」

 びっくりして振り向くと、トランペットをかまえた伊吹先輩がいた。 

 柴田さんのピアノといっしょに、美しい音が響きわたる。

 伊吹先輩も、来てくれたんだ……。

 うれしくて、みんなの笑顔がさらに輝く。

 ソロの後、徐々に盛り上がる中で、伊吹先輩のハイトーンが胸を打つ。

 なんて幸せなんだろう。

 なんて楽しいんだろう。

 私のために集まってくれた、この合奏の感動を、私は絶対に忘れない──。


*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪再オーディション

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 再オーディションは、昼休みに行われた。

「よし!」

 気合いを入れて、北田先生の待つ部屋に入る。

 先生の目の前に立つと、オーディションに落ちたときのつらい気持ちがよみがえってきた。

 今回も、ダメかもしれない……一瞬よぎった、そんな怖れを振り払う。

 過去の傷を引きずっても、この先の未来を不安がっていても、何も変わらない。

 変えられるのは「たった今」だけ。

 今、この瞬間に、自分が何をするかが大切なんだ。

 誰かのせいにすることなく、目を背けることなく、自分の責任で、自分で選択しよう!

『がんばれさくら!』

『これだけ練習したんだもん、自信持って!』

『応援してるよ、吉川さん』

『吉川さん、絶対大丈夫だよ』

『いっしょにステージに立ちましょう』

 朝の合奏の後、そう言ってくれたみんなを思い出す。

『全国行くぞ、フルート』

 そして、伊吹先輩の言葉も。

 絶対に、関東大会に出たい!

 ゆるぎない想いを胸に、先生をまっすぐに見る。

「よろしくお願いします!」

 一瞬だけ、ポケットの上からピンクのこけしをさわって、私は深々と頭を下げた。
 

最後の練習でみんなと音と心を合わせて、いよいよ、再オーディション!
はたして、さくらは、みんなといっしょにコンクールに出ることができるの……?
次回もお楽しみに!

もくじに戻る
第1巻(1回~16回)を読みなおす(もくじへ)

関連記事

関連書籍

君のとなりで。(2) 近くて遠い、ふたりの距離

君のとなりで。(2) 近くて遠い、ふたりの距離

  • 【定価】 726円(本体660円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046319463

紙の本を買う

  • カドカワストア
  • アマゾン
  • 楽天

電子書籍を買う

  • BOOK WALKER