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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第39回 特別講師の登場


◆第39回

椿先輩につれられて、伊吹先輩のおうちにやってきた、さくら。
お家の防音室で、椿先輩とフルートの練習!
そこに、あの人があらわれる!? ドキドキの展開です!

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*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪特別講師の登場

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

「うん! 今のいい感じ! だいぶ音が良くなったよ」

「椿先輩のおかげです。ありがとうございます!」

「関東大会で、またさくらちゃんの演奏を聞きたいからね」

「がんばります!」

「でも、私ができるのはここまでかな~」

 そう言って、椿先輩はスマホを取り出した。

「悪いけど、私これから用事があってでかけるの。あと30分くらい時間大丈夫よね? 特別講師を紹介するから、もうちょっとがんばってみて」

「え?」

「もうそろそろ来ると思うんだけど……」

 椿先輩がフルートを片づけ終わった、そのときだった。


 バン!!!!


 防音室のドアが、勢いよく開けられた。

「……どういうことだよ」

 そこには、めちゃくちゃふきげんな伊吹先輩が立っていた!

「おかえり~楓」

「おかえりじゃねぇよ。どういうことだって聞いてんだよ」

「どういうことって、メールしたとおりだよ。さくらちゃんが来てるから、早く帰っといでって」

「おまっ……ほんとわけわかんねぇし」

 突然のことに、私はフルートを持ってぽかーんと立ったまま、姉弟の会話を聞いている。

 椿先輩がくるっと振り返って、にっこり言った。

「ということで、さくらちゃん。あとは、この特別講師が教えるからね」

「えっ……!?」

「はぁ!?」

「じゃあね~~」

 ブンブンと手を振って、椿先輩は防音室を出ていってしまった。

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪約束の特別レッスン

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

「……」

「……」

 沈黙(ちんもく)が痛い。

 そして、伊吹先輩が怒ってる。

 それもそうだよね。ただの後輩でしかない私が、突然家にいたらイヤに決まってる。

 あやまって、早く帰ろう。

「あの、先輩……。ご自宅にあがりこんで、すみませんでした」

「別に……。姉貴にむりやり連れてこられたんだろ。想像つく」

「いえ! 椿先輩は、すごく親身になってレッスンしてくださって。ありがたかったです」

「へぇ。で、少しはまともに吹けるようになったのか?」

「まともかどうかと言われたら、自信がないですけど……」

「……言葉が悪かった。楽しく吹けるようになったか?」

「それなら……はい!」

 あの椿先輩が、私の音を聞いて、アドバイスしてくれる。

 それが信じられなくて、うれしくて。ただただ楽しかった。

「じゃ、吹いてみろよ」

「え!? でも、ご迷惑なんじゃ……」

「地区予選の帰り、約束しただろ。また特別レッスンしてやるって」

「伊吹先輩……」

「そのかわり、甘やかさないからな」

「はい! ありがとうございます!」

 信じられない。また、伊吹先輩のレッスンを受けることができるなんて。

 しかも、先輩は楽器ケースからトランペットを出してきた。

「俺がじっと聞いてたら緊張して吹けないだろ。いっしょに吹くぞ。『海の男達の歌』の頭からな」

「はい!」

 スッと息を吸って、伊吹先輩は冒頭のゆったりとしたメロディーを吹き始めた。

 うわぁ。どうしよう……。うれしくて、涙が出そう。

 ひとりぼっちだったころ、昼休みの楽器庫で、壁の向こうから響いてきたメロディー。

 それが今、目の前から聞こえてくる。

「……どうした?」

 ふっと音が止み、我に返ると、先輩は心配そうな顔で私を見ていた。

「わっ。すみません。なんだか、すごく感動しちゃって」

「変なやつ。いつも吹いてるだろ」

「そうなんですけど。でも、なんていうか……先輩の、大好きなんです」

「……」

 先輩がだまりこんでしまった……。

 私、勢いあまってなんてことを! これじゃ告白してるみたいだ!

 耳まで真っ赤になりながら、あわててごまかす。

「あ、ちがっ。違います! その、先輩が吹いてる、メロディーがってことです!」

「わかってるよ」 

 伊吹先輩は、少し困ったような顔をしていた。

 さすがに全力で否定しすぎて、失礼だったかもしれない。

「……さっきは、悪かった。最近、お前の音の調子が良くなくて、何か悩んでるんだと思ったけど、何も言ってこないし。ひとりでかかえこんで、誰にも頼らないし」

 何も言わなくても、先輩には、全部バレてたんだ。

「後輩がなやんでるのに、何もしてやれなくて……。イラついてたのかもしれない」

 先輩は、椿先輩も言っていたとおり、優しい人だ。

 私も、すなおにならなきゃ。

「私こそ、すみません」

 先輩は、私の話をじっと聞いてくれている。

 心から、ぽろぽろとトゲが抜け落ちていくみたい。

 気がつけば、抱えこんでいた気持ちをはき出していた。

「前のオーディションのときは、ひたすら必死になれたんです。でも、今の私は、自信がなくて……」

「それはきっと、成長してる証拠だろ。それをバネにするか、このままつぶれるか、お前は自分で選べる。それに、〝自分を信じる〟で、〝自信〟だ。自分を信じなかったら、自信なんて生まれない。自分が自分の、一番の味方になってやれよ

「はい!」

 伊吹先輩の言葉は、魔法みたいだ。

 私はきっと、自分で自分に呪いをかけてしまっていたんだ。

 私は、柴田さんに比べたら、全然ダメな子なんだって。

 でも、そうじゃない。

 人と比べて落ちこむんじゃなくて、私が私を信じてあげなきゃいけなかったんだ。

「先輩、私もう大丈夫な気がします! 明日のオーディション、せいいっぱいがんばります!」

「ああ。がんばれよ」

 先輩はそう言って、頭をなでてくれた。

 私は伊吹先輩が好き。

 たとえ伊吹先輩が誰を好きであっても、その気持ちは変わらない。

 モヤモヤする気持ちは、私には必要ない。

 伊吹先輩と、柴田さんと、さっこと加代ちゃんと、崎山くんと内藤さんと……。

 みんなといっしょに関東大会に出たい!

 恋も部活も全力でがんばりたい!

 だから……今はオーディションに受かることを、一番に考えようって思えた。
 

伊吹先輩のおうちで、伊吹先輩とはちあわせ!
しかも、椿先輩のおかげで、先輩とふたりっきりの特別レッスンしてもらえたさくら。
ぜったいにコンクールで演奏したい!という気持ちで、オーディションにのぞみます!
次回もお楽しみに♪

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