連載

  1. ホーム
  2. 連載
  3. 小説
  4. 【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい!
  5. 【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第37回 再オーディションとプレッシャー

【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第37回 再オーディションとプレッシャー


◆第37回

ピアニストの柴田さんが、黒羽中吹奏楽部に入部してくれて、関東大会はひと安心!
でも、その前に、さくらがコンクールの舞台に立つためには、オーディションを突破しなければならなくて……!?

第1巻(1回~16回)を読みなおす(もくじへ)
第2巻(17回~)を読みなおす(もくじへ)

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪再オーディションとプレッシャー

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 いよいよ明日は再オーディションだ。

「さくらちゃん、明日がんばってね! 応援してるから」

「吉川さんが集中して練習できるように、今日は私たち、違う教室で練習するね」

 そう言って、選抜落ちメンバーのみんなは、私を残して教室から出ていった。

「みんな、ありがとう」

 みんなの気づかいがうれしくて、がんばらなくちゃと思うのに。

 情けないことに、頭の中がごちゃごちゃで集中できない。

 伊吹先輩と柴田さん、ふたりの練習を思い出してしまう。

 伊吹先輩といっしょにステージに立てる最後のチャンスなんだから、何がなんでも関東大会に出たい!

 でも……再オーディションに落ちちゃったら、私はどうなっちゃうんだろう。

 緊張とプレッシャーで、私は少しずつ追いこまれていった。

 なんとか『海の男達の歌』を吹き終えたそのとき。

「ひどい音だな」

 突然、後ろから聞こえた声におどろいて、びくっと肩がふるえた。

 振り返ると、そこにいたのは、やっぱり伊吹先輩だった。

「……」

 自分が情けなくて、先輩の前から逃げ出したくなる。

「お前の音、迷いがありすぎて心に響かない。今のままだと、選抜メンバー入りは無理だろうな」

「……わかってます」

「あきらめてんなら、俺はもう何も言わないけど」

「あきらめてません!」

「じゃあ、なんとかしろよ」

「……」

 心の中がごちゃごちゃで、何も言えなくて、ぎゅっとくちびるをかみしめた。

 このままじゃだめだってことはわかってる。

 でも、自分の音をどうしたらいいのか、わからなかった。

「なんか言いたいことがあるなら、言え」

「……ありません」

 私、何をしてるんだろう。

 せっかく伊吹先輩が声をかけてくれたのに。

 本当はすごくうれしいのに。

 顔も見られないし、すなおになれない。

「……そうか。勝手にしろ」

 そう言い残して、先輩は行ってしまった。

 先輩の足音が遠のいていくと、ぽろりと涙がこぼれた。

「あらら……。楓ったら、ほんと口が悪いんだから」

 え!?

 あわてて涙をふいた私の目に飛びこんできたのは、高等部の制服。

 教室のドアからこちらをのぞいている、『椿先輩』だった。

「ごめんね。でもああ見えて、けっこう優しいところもあるんだよ」

 何度も助けてもらったから、知ってる。

 でも、今は、せっかくの優しさを払いのけてしまった。

「まぁ、誰にでも優しいってわけじゃないんだけど。とりあえず! さくらちゃん、だよね? 私と練習しない?」

「ええっ!?」

 椿先輩は、にっこり笑って私の目の前に座った。

「グラグラゆれちゃう不安定な気持ち、わかるわ~。でもね、悩んだり迷ったりすることは悪いことじゃないんだよ。それを乗り越えたら、パッといい音になるんだから!」

 弟の伊吹先輩とはタイプが違いすぎて、思わず目をぱちくりしてしまう。

 けれど、椿先輩の底抜けな明るさに、心が軽くなっていく。

 椿先輩はパッと立ち上がって、私の腕を取った。

「じゃ、行こうか!」

「で、でも。ご迷惑じゃ……」

「迷惑だったら声かけないって! 北田先生にもOKもらってるし。さくらちゃんがイヤならやめるけど」

「イヤじゃないです! ありがたいです! ありがたすぎて、私、どうしたらいいか……」

 笑いながら、椿先輩は私のフルートをてきぱきと片づける。

「私、さくらちゃんの演奏、好きなんだ。あ、おせじにも上手とは言えないけどね。むしろ、ぜんっぜんダメダメなんだけど」

 うっ……。

 さすが伊吹先輩のお姉さま。けっこう直球でえぐってくる。

「あらけずりで、不器用。でも、強い想いがまっすぐに伝わってきたんだ。地区予選のとき、そんなさくらちゃんのフルートに、なんだか涙が出ちゃって。心に響くって、こういう演奏のことを言うんだって思ったの。大切なのは、技術だけじゃないんだって気づいたよ」

 じわりと涙がにじんできた。

 私の演奏を、そんなふうに聞いてくれる人がいたなんて……。

「でも、もう違うんです。今の私は、あのころと違って……。どうしたらいいかわからなくて」

「大丈夫。私が救い出してあげよう! ひとりでモヤモヤ考えてもうまくいかないときは、誰かに頼るのもひとつの手だよ」

「ありがとうございます」

「うん! ていうか、今のを楓に言えればよかったんだけどね」

「え?」

「なんでもな~い」

 はい、とマイフルートが入ったケースを渡されて、しっかりと受け取る。

「ついてきて。ちょっと遠いけど」

「わかりました」

 どこに行くんだろう。高等部の音楽室かな?

 そんなことを思いながら、たのもしい椿先輩の後に続いて教室を出た。
 

さくらの前にあらわれた「救いの手」は、伊吹先輩のお姉さんの、椿先輩!?
そして、椿先輩がさくらを連れていった先とは……?
次回もぜったい注目です!

もくじに戻る
第1巻(1回~16回)を読みなおす(もくじへ)

関連記事

関連書籍

君のとなりで。(2) 近くて遠い、ふたりの距離

君のとなりで。(2) 近くて遠い、ふたりの距離

  • 【定価】 726円(本体660円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046319463

紙の本を買う

  • カドカワストア
  • アマゾン
  • 楽天

電子書籍を買う

  • BOOK WALKER