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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第36回 伊吹先輩の好きな人


◆第36回

「柴田さんは、伊吹先輩のことを好きなわけではなかった」……それを、さくらが真っ先に伝える相手は、やっぱり……?

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♪伊吹先輩の好きな人

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「え!? 月乃は伊吹先輩のこと、好きじゃないの!?」

 次の日の部活中。

 休憩時間に入るとすぐ、私は崎山くんにこっそり昨日のことを報告した。

「うん。それに、柴田さんは伊吹先輩とデートしたかったわけじゃなかったんだって」

「そうだったんだ! あ~~よかった」

 笑顔の崎山くんが、「でも」と、眉をひそめた。

「ちょっと来て。静かにね」

「う、うん」

 崎山くんに連れていかれたのは、2階のはじにある第二音楽室。

「そこの窓から、中をそーっとのぞいてみて」

「なになに? ……あっ!」

 ろうかから中をのぞくと、伊吹先輩と柴田さんがふたりっきりで練習をしていた。

「そこ、もう少し余韻が欲しい」

「わかりました。こうですか?」

「そんな感じ」

「このくらい響かせてもいいですか?」

「ああ、すごく良くなった」

 楽しそうな伊吹先輩の表情に、ぎゅっと胸がしめつけられた。

 崎山くんも、となりで切なそうに口をへの字にまげている。

「応援するつもりだけど、やっぱ切ないね。すごくいいふんいきだから」

「仕方ないよ。ソロの部分は、しっかりふたりで練習しなくちゃ」

「わかってるけどさ。俺も、伊吹先輩と吹きたいし、いっしょに練習したいのに」

 ううっ。私だって、同じ気持ちだよ。

 心の中でつぶやいて、顔に出ないようにぐっとおさえる。

「伊吹先輩、今まで個人レッスンなんてしたことないのに」

「そうなんだ……」

「月乃は好きじゃなくても、やっぱり、伊吹先輩は月乃のこと……」

 はぁ~とため息をつく崎山くんは、めずらしく落ちこんでいるみたいだ。

「崎山くん、元気出して」

「うん。ありがとう」

 伊吹先輩に合う女の子は、きっと、音楽についての話ができる人なんだろうな。

 私みたいに、何も知らない子じゃなくて。

 どんどん完成されていくふたりの演奏は、本当にすばらしい。

 これが聞きたかったはずなのに……胸が苦しくなっていく。

 切なさのあまり、スカートのポケットに入れたピンクのこけしを、そっとにぎりしめた。

 さっこと加代ちゃんといっしょに帰り道を歩いていても、私の心はしずんだままだった。

「ねぇ、聞いて!」

「なになに、さっこ」

 帰り道で開催される、『伊吹先輩情報』の時間。

 いつもはテンション高めなのに、今日はさっこの眉間に、深いしわがきざまれている。

「すっごくショックな話があるんだけど」

「え~~!? 伊吹先輩の話? やだ~~~聞きたくない~~」

「聞かないほうがいいかもしれない」

「そう言われたら聞きたい~~~」

 さっこは大きなため息をついて、肩を落とした。

「今日ね、伊吹先輩と柴田さんが……ふたりで第二音楽室に入っていくの、見ちゃったんだよね」

「ええ~!? ふたりっきりでラブラブレッスンってこと!?」

「さすがにのぞけなかったんだけど、ソロの練習をしてたんだと思う」

「それって……私たちがずっと夢見てる、伊吹先輩との個人レッスンだ……!」

「うん……。きっと、柴田さんは伊吹先輩に優しく教えてもらってるんだよ……」

「いいなぁ……」

 肩を落とすふたりに、何も言えなくなってしまう。

 私も同じ気持ちだよって、心の中でつぶやいた。

「でもさ、相手は柴田さんだもんね」

「ほんとそれ。勝てる気がしないどころか、ぶっちゃけおにあいだよね」

「うん。それにさ、伊吹先輩と柴田さんの会話って音楽の専門用語がいっぱいで、なんだか別世界だよね」

 ぐさっと心にトゲがささった。

「柴田さんってさ、私たちとは次元がちがうっていうかね」

「うんうん。伊吹先輩が好きになる人って、ああいう人なのかな」

「私、もうあきらめようかな。ていうか、最初から相手にしてもらえるなんて思ってないし~」

「私も~~! 他に気になる人いるし!」

「わかる~~。私も実はね、うふふ」

「え~~~さっこ、本命がいるの!? 誰~~!?」

 いつものように、あっと言う間に話題が変わっていく。

 それでも私は、伊吹先輩と柴田さんのレッスンの光景を忘れられなくて、しずんだままだ。

 柴田さんは、伊吹先輩に恋愛感情はないって言ってたけど。

 伊吹先輩は、どうなんだろう……。

 追いつけない。

 音楽に対する感性も、技術も、才能も。

 伊吹先輩と柴田さんの世界に入っていけないもどかしさが、たまらなく切ない。

 比べちゃだめだ。わかってる。

 でも……。

 柴田さんがどうしようもなくすてきで、あこがれてしまうのも確かで。

 だからこそ、つらい。

 わいわいと盛り上がっているふたりの横で、私は苦しい気持ちでいっぱいだった。
 

柴田さんが伊吹先輩のことを好きなわけではない、ということは分かったけれど、でも、伊吹先輩の気持ちは、いったいどこにあるの……?
不安になってしまうこともあるけれど、さくらが選抜メンバーになれるかどうかを決める、再オーディションがせまってきています!
次回もおたのしみに♪

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