連載

  1. ホーム
  2. 連載
  3. 小説
  4. 【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい!
  5. 【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第35回 天才ピアニストの決心

【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第35回 天才ピアニストの決心


◆第35回

柴田さんの「入部の条件」だった『伊吹先輩とふたりで話す』イベントを無事にクリア!はたして、柴田さんは、吹奏楽部に入学してくれるの……?

第1巻(1回~16回)を読みなおす(もくじへ)
第2巻(17回~)を読みなおす(もくじへ)

・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪天才ピアニストの決心

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 翌日の月曜日、学校に行くと、教室で柴田さんが私を待っていた。

「吉川さん、今、少しいいかしら。話があるの」

「う、うん」

 いつもと変わらないすずしい表情からは、柴田さんの気持ちは読めない。

 きっと、部活のことだよね。

 ふたりで教室のすみまで行って、向かい合った。

「一晩考えてみたわ」

「うん」

「私、みんなといっしょなら、ステージの上でも、ピアノをひけるような気がするの」

 ゆっくりと静かに、柴田さんはそう言った。

「それじゃあ……」

「ええ。入部、するわ」

「ありがとう!!」

 やった!! うれしい!!

「柴田さんが入部してくれるの!? いったい、なにがどうなってこうなったの!?」

 ちょうど登校してきた内藤さんが、びっくりしながらやってきた。

「吉川さんの熱意に負けたのよ」

「すごい! 吉川さん、お手柄だね!」

 内藤さんもうれしそう。

「これで全国大会出場も夢じゃないね! よろしく、柴田さん」

「でも、まだステージの上でひけるかどうか、わからないんだけれど」

 柴田さんは、すこし不安そうにそう言った。

 きっと昨日の夜じゅう悩んで、勇気ある決心をしてくれたんだとあらためて思う。

「とにかく、柴田さんがいっしょに演奏したいって思ってくれたことがうれしいよ」

「優しいのね、吉川さん。昨夜、家ではひけたから、期待にこたえられるようにせいいっぱいがんばるつもりよ」

「きっとひけるよ。私たちもしっかりフォローするから」

 内藤さんの言葉に、柴田さんは小さくうなずいた。

 柴田さんが、部活にも合奏にもなじめるように、できる限りフォローしよう!

「私も応援してるよ!」

「ありがとう」

 3人でほほえみ合うと、わくわくしてきた。

 今日の合奏が、とっても楽しみだな。

 放課後、柴田さんといっしょに部活に行くと、先生も、先輩たちも大よろこび!

 森田先輩もほっとした顔をしていた。

 さっそく、合奏に向けて、ピアノの引きつぎが始まった。

「ここは、伊吹くんの音をよく聞いてね。柴田さんなら、伊吹くんの音をさらにいいソロにできると思うから!」

「はい」

 柴田さんは真剣な顔で、真新しい楽譜に森田先輩のアドバイスを書き写していた。

 そして、いよいよ柴田さんが入って初めての合奏。

 柴田さんは伊吹先輩の前に立って、ゆっくりと頭を下げた。

「よろしくお願いします。伊吹先輩」

「よく来たな。いい音、期待してる」

「はい……!」

 その瞬間、音楽室に拍手がわきおこった。

「月乃が、ちゃんと敬語を使ってる……」

 崎山くんは、幼なじみと大好きな先輩を、複雑な顔で見つめている。

 でも、幼なじみのピアニスト復帰は、やっぱりうれしいみたい。

「さくら、ありがとう!」

 加代ちゃんが、こっそり私に告げた。

 笑顔でうなずくと、さっこがうっとりしたため息をつく。

「それにしても、美男美女だね……」

「うん。あのふたりの演奏、絶対絵になる!」

「早く見たいし聞きたいわぁ」

「わかる!」

 やっぱりみんな、そう思うよね。

 心が痛くなって、思わず胸を押さえた。

 伊吹先輩とは、昨日のダブルデート以来、ひとことも話していない。

 柴田さんと伊吹先輩がいっしょに演奏する日を、楽しみにしていたのに……。

 こんな気持ちでこの日をむかえるなんて、思ってもみなかった。

 その後の合奏で、柴田さんは見事なピアノを披露(ひろう)したらしい。

 空き教室で選抜落ちメンバーと耳を澄ましていたら、歓声が聞こえてきた。

「森田先輩が転校しちゃうって聞いてびっくりしたけど、今日入ったピアノの人、すごいね!」

「うん。森田先輩もあの人なら大丈夫!って言ってたし」

「これで関東大会も突破できそうだね」

 部内は、そんな話題で持ちきりだ。

 私もがんばらなくちゃ。

 関東大会出場をかけた再オーディションまで、あと少ししかない。

 絶対に、関東大会に出たい!

 でも……想いは強くなっているのに、なぜか集中できなかった。

 部活後、ひとりで残って、練習を続けていた。

「吉川さん」

 静かな声に呼ばれて振り返ると、柴田さんが立っていた。

「どうしたの? 部活はもう終わってるよね?」

「私、吉川さんが言っていたことが少しわかったの」

「え……?」

「みんなといっしょだから吹けるし、吹きたいって。吉川さん、そう言っていたでしょ?」

 確かに、言った。

「合奏に参加してみて、感じたの。みんなといっしょなら、もう一度ステージに上がるのも、スポットライトを浴びるのも、もう怖くないって」

「……っ。よかった!」

 想いが伝わっていたことがうれしくて笑顔を向けると、優しくほほえみかえしてくれた。

「今まではピアノを見るのもイヤだったの。見るとつらくて、苦しくて。だから避けていた。でもそれって、『本当はピアノが好き』って気持ちに、気づかないフリをしていただけだったのよ」

「そう、だったんだ……」

「どうでもよかったら、ピアノを見たって平気なはずだもの。わざわざ遠ざけていたのは、未練があったから。そんな自分の本当の気持ちを、みとめるのが怖かったの。……弱虫なのよ、私」


 柴田さんが、私に本音を話してくれている。

 打ち明けてくれたことが、うれしかった。

「柴田さんは弱虫じゃないよ。いつもかっこよくて、強くて……私のあこがれなの」

「ふふ。ありがとう」

 過去の「怖さ」を手放して、乗り越えた彼女は、一段と強く見えた。

「オーディション、がんばって。私、吉川さんといっしょにステージで演奏したい」

「柴田さん……ありがとう。がんばるね!」

「応援しているわ。じゃあ」

 そう言って、柴田さんは帰りかけて……足を止めた。

「それと、私は伊吹先輩に特別な感情があるわけじゃないから、安心して」

「え!?」

 衝撃的な言葉に、大きな声をあげてしまった。

 しまった。こんな反応してしまったら、私が伊吹先輩のこと気になってるって、丸わかりだ。

 柴田さんはくすっと笑った。

「そもそも、私は先輩とデートがしたかったわけじゃないのよ。ただ話がしたかっただけ」

「ウソ!?」

「本当よ」

 そう言われて、柴田さんとの当時の会話を思い出してみる。

 た、確かに……。

 よく考えたら、デートがしたいなんてひとことも言ってなかった!

 崎山くんと私の、早とちりだったんだ!!

「ソロのメロディーも、先輩の演奏も、とてもすばらしいから。やるなら最高の演奏をしたいと思ったの。だから、ソロを吹く人の音楽性を知っておきたかっただけ」

「そ、そうだったんだ……」

「この人といっしょにひきたいと思えるか、この人のソロを輝かせたいと思えるか。なによりも、自分の心が動くかどうか。それを知りたかっただけなのよ」

 まさか、そんな深い想いがあったなんて。

 勝手に悲しくなったり、自信をなくしていた自分がはずかしくなる。

「伊吹先輩は、予想以上にすばらしい人だったわ。ソロ奏者として、プロの世界で成功できる実力があると思う。そんな人が、なぜ中学校の吹奏楽部にうもれているのかふしぎだったの」


 柴田さんの言葉に、私の胸はどきりと音を立てた。

 そんなこと、一度も考えたことなかった。

「そう聞いたら、伊吹先輩はなんて言ったと思う?」

「なんて……言ったの?」

 聞くのが怖いけど、聞いておかないと後悔すると思った。

「〝ひとりで光の中を歩くより、たとえ暗闇の中でも仲間といっしょに歩きたい〟、そう言ったのよ」

 その瞬間、ぶわっと鳥肌が立った。

 伊吹先輩は、黒羽中吹奏楽部を……仲間を、とても大切に思っているんだ。

「それ以外にも色々話して、この人とならひきたいと思ったから入部したの」

「そ、それって」

 やっぱり伊吹先輩が好きってこと!?

「でも、恋愛感情ではないと思う……今はね」

「えっ!?」

 ほっとしかけて、ふいうちのひとことにぎょっとする。

 柴田さんは私の反応をおもしろがるように、ふふっといたずらっぽく笑った。

「じゃあ、また明日」

 それっていったい、どういうこと? 

 意味深な言葉を残して、柴田さんは行ってしまった。

 とりあえず、柴田さんは、伊吹先輩が好きってわけじゃないんだ。

 あ~、よかった。あらためてほっとしたのもつかのま。

 あれ?

 待って! やっぱり、柴田さんには私の恋心がバレてる!?

 う、うわ~~~~!

 頭の中で、ちーんとトライアングルの音が鳴り響いた。
 

無事に柴田さんが入部してくれることになった!
そして、柴田さんが伊吹先輩のことを……?というギワクもなくなったけれど、さくらの恋心はバレバレ!?
次回もおたのしみに!

もくじに戻る
第1巻(1回~16回)を読みなおす(もくじへ)

関連記事

関連書籍

君のとなりで。(2) 近くて遠い、ふたりの距離

君のとなりで。(2) 近くて遠い、ふたりの距離

  • 【定価】 726円(本体660円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046319463

紙の本を買う

  • カドカワストア
  • アマゾン
  • 楽天

電子書籍を買う

  • BOOK WALKER