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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第33回 お似合いなふたり


◆第33回

柴田さんと伊吹先輩のデートに乱入した、さくらと崎山くん。しかも、ただのデートじゃなくて、浴衣デート!?
まだまだドキドキのデートは続きます♪

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♪お似合いなふたり

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「な~んか、いい感じだよね。あのふたり」

「そうだね」

 私と崎山くんは、伊吹先輩と柴田さんから、少し離れて歩いていた。

 ふたりは楽器屋さんで楽譜を見たあと、CDショップのクラシックコーナーで長い間おしゃべりしている。

「う~~ん。何話してるんだろう」

「そこそこ盛り上がってるっぽいよね」

「月乃なんていつも無口なのに、伊吹先輩が相手だとすごくしゃべってる」

「伊吹先輩も、めずらしくしゃべってるね……」

 きっと音楽の話をしているんだろう。割って入っていけるふんいきじゃない。

「楽しそうだよね」

「それに距離も近いよね」

 ふたりとも、ふだんからそんなに笑う人たちじゃないから、今も無表情。

 でも、なんだかすごく楽しそうに見えて、うらやましくなってしまう。

「それにしても。伊吹先輩、よく来てくれたね」

 ふたりを見ているのがつらくなってきて、話題を変えてみると。

 崎山くんは、ふふっと思い出し笑いをした。

「月乃の入部条件が『伊吹先輩とのデート』ってことを先輩に言ったら、案の定、『無理』って言われちゃって」

「それ、どうやって説得したの?」

「知らない子とふたりきりでデートするのが無理なら、4人ででかけましょうって提案したんだ」

「すごいね。最初に一番難しいことを言っておいて、だんだん条件をやさしくしていく戦法だったんだ」

「そのとおり。さらに俺には気になっている女の子がいて、その子を誘いたいから先輩にも協力してほしいってお願いしたら、しぶしぶだけどOKしてくれたんだ」

「え!?」

 衝撃的な真実を聞いて、私はさーっと青くなる。

「だまっててごめんね。でも、なんだかんだ言って、やっぱり伊吹先輩って優しいよね。半分は部のため、もう半分は俺のために、無理って言ってたダブルデートに浴衣で来てくれるんだから」

「う、うん……」

 それって……最悪の状況だ!

 私が崎山くんのペア役だって知ったとき、先輩が少しおどろいた顔をしていたことを思い出す。

 そもそも、先輩はごほうび会のときから、私と崎山くんのことを誤解してた。

 どうしよう……。

 伊吹先輩のかんちがいが決定的になったかもしれない。

 ふいに、崎山くんが私の浴衣の袖を引っ張った。

「移動するみたい」

 ハッと我に返って顔を上げると、伊吹先輩と柴田さんがCDショップを出るところだった。

 あわててふたりを追いかける。

 伊吹先輩と柴田さんは、浴衣姿の美男美女。

 ふたりが歩くたび、まわりの人たちが注目している。

「見て、あのふたり。浴衣が似合ってるね」

「モデルさんかな?」

「すてきなカップルだね」

 そんな声があちこちから聞こえてきた。

「もうすぐお祭りの時間だから、はぐれないように4人でいっしょに行こうよ!」

 崎山くんが、早足で歩き出す。

「うん!」

 しずみかけている気持ちをぐっと押しあげて、笑顔を作った。

 4人ならんで、お祭り会場まで歩いていく。

 さっきから、まわりの視線が気になって、そわそわしてしまう。

 伊吹先輩と柴田さんだけじゃない。崎山くんも、キラキラオーラでいっぱいだから。

 なんだか、私だけどこにでもいる「普通の子」だな……。

 私の心は、すりむいたようにずっとヒリヒリしていた。

 お祭り会場はすごい人ごみで、みんなについていくだけで必死。

「あ! りんごあめがありましたよ」

 楽しそうな崎山くんのとなりでは……。

「『私のお気に入り』は知ってる?」 

「『サウンド・オブ・ミュージック』の中の『My Favorite Things(マイ フェイバリット シングス)』だろ」

「原題はそうね。あの曲はジャズバージョンも好きよ」

「そうだな。原曲の3拍子もいいけど、ジャズの4拍子とか8分の6拍子のアレンジもいい」

 伊吹先輩と柴田さんが、いつの間にか、またふたりで音楽の話で盛り上がっている。

 負けじと崎山くんも、ふたりの会話に入っていく。

「『My Favorite Things(マイ フェイバリット シングス)』のジャズバージョンは、サックスがめちゃくちゃかっこいいんですよ! 先輩、今度聞いてください。俺、吹くので!」

「今度な。吹奏楽バージョンもいいよな」

「あ~いいですよね。俺も好きです。トランペットもかっこいいですよね」

「そうね。最初のピッコロソロと、途中のフルートもすてきよね、吉川さん」

「え……? あの、ごめんなさい。私、聞いたことなくて……」

 柴田さんは、ずっとだまってる私を気づかって、声をかけてくれたんだと思う。

 それなのに、話に入れなかった。

 はぁー……。申しわけないし、情けない。

 なんとか笑顔をキープして、ふんいきを壊さないように気をつける。

「ていうか月乃、伊吹先輩に敬語使わないとかあり得ないから!」

「部活ではちゃんとするわよ」

「へぇ、入部する気になったんだ」

 伊吹先輩の言葉に、柴田さんは眉をぴくっと動かす。

「まだ検討中よ」

 そっけなく返事をした柴田さんに、崎山くんがかみついた。

「素直じゃないなぁ。ほんとかわいくないよね、月乃って」

「かわいくなくて結構よ」

 自分の言葉で、はっきり言い返すことができる柴田さんは、強くてかっこいい。

 いつもは大人っぽい崎山くんも、柴田さんの前では気がゆるんじゃうみたい。

 崎山くんとだけじゃない。伊吹先輩とも、堂々と話ができるし……。

 柴田さんがすごく魅力的な人だってことを、思い知らされる。

 自分と比べちゃだめだってわかってるけど……落ちこんじゃうな。

 そっとため息をつくと、お祭りのテントにならんだカラフルなキーホルダーが目に入った。

「あ……」

 思わず足が止まる。

 それは、ピンク色の「こけしキーホルダー」だった。

 入部してすぐの楽器決めの時に、加代ちゃんが『黄色のこけし』を待ち受けにしておがんでいた。

 伊吹先輩と同じ楽器になれますようにっていう、願かけだったんだけど。

 実は、黄色は金運アップのおまじない。

 恋愛成就とか、願いがかなうおまじないは、このピンク色のこけしだったんだよね。

 なつかしいな。ピンクのこけし、今となっては私が欲しいよ。

「へぇー、意外! 吉川さん、こういうの好きなの?」

「え!」

 崎山くんの声におどろいて顔を上げると、伊吹先輩と柴田さんも私を見ていた。

 うわっ。はずかしい!

「ち、違うよ! そういうわけじゃなくて。ただ、こけしだな~と思って」

 あわてて否定したけど、言いわけだってめちゃくちゃだ。

 アワアワしていたら、柴田さんがこけしを見下ろして、少し口をゆるめた。

「私は、かわいいと思うわ」

「……」

 これって、きっと、私をフォローしてくれたんだよね。

 でも、だめだ。素直に「ありがとう」が出てこない。

 思わず、うつむいた。

「行きましょう」

 柴田さんは、伊吹先輩とまた音楽の話をしながら歩いて行ってしまった。

「待ってよ! みんなで行こうよ。吉川さんも、行こう!」

 崎山くんがあわててふたりを追いかける。

 足が重いけれど、みんなとはぐれてしまったら迷惑をかけちゃう。

 どんなに自分が情けなくても、それだけは避けないと。

 私も3人を追って走り出した。
 

衝撃的な「ダブルデート」の始まりが明らかに!? そして、柴田さんに対して、すなおになれないさくらのちょっとしたモヤモヤを抱えつつ、次回、まさかのドキドキイベント発生!? おたのしみに~!

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