連載

  1. ホーム
  2. 連載
  3. 小説
  4. 【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい!
  5. 【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第29回 入部の条件

【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第29回 入部の条件


◆第29回

伊吹先輩の演奏がきっかけで、黒羽中吹奏楽部に興味を持ってくれた柴田さん。
どうか、柴田さんが吹奏楽部に入部してくれますように……! 祈りながら見守るさくらだったけれど? 意外な展開に!

第1巻(1回~16回)を読みなおす(もくじへ)
第2巻(17回~)を読みなおす(もくじへ)

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

♪入部の条件

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

 音楽室に来た柴田さんは、合奏の準備をしている選抜メンバーを見回していた。

「うちの吹奏楽部、こんなに人数がいたのね」

「うん。みんなで曲を作り上げるんだよ」

「そう……」

 北田先生が指揮台の上に立つと、『海の男達の歌』の合奏が始まった。

 柴田さんは、うつむきぎみに、やっぱり無表情で聞いている。

 どうだろう。やっぱりダメかな……。

 もう少しで、伊吹先輩のソロだ。

 先輩、どうか柴田さんの心を動かしてください!

 ピアノの森田先輩は、今日はお休み。

 いよいよ、伊吹先輩のソロの部分が、ピアノなしで始まった。

 すると──。

「……っ」

 柴田さんが、顔を上げた。

 その手は、ひざの上で動いている。

 さっき一回聞いただけなのに、もうピアノのメロディーを覚えたの!?

 横でおどろいている私なんて、まったく目に入っていないみたい。

 伊吹先輩のソロを聞きながら、楽しそうに指を動かしている。

 これ、もしかしたら、もしかするかも!

「連れてきてくれてありがとう。帰るわ」

『海の男達の歌』を聞き終わった柴田さんは、席を立って音楽室を出ていってしまう。

 私はあわてて追いかけた。

「次は課題曲を演奏するよ」

「そう。でも、もう十分よ」

 そう言ったきり、柴田さんは無言で、足早にろうかを歩いていく。

「柴田さん、待って!」

 話しかけても止まってくれない。

 でも、これがきっと最後のチャンスだ。

 柴田さんの背中に、思い切って声をかけた。

「おせっかいだと思うけど……。もう一度、ピアノをひいてみない? みんなといっしょに!」

 すると柴田さんは、くるりと振り返って、私をまっすぐに見つめる。

 初めて、ちゃんと目が合った。

「吉川さんは、さっき、どうして合奏に入らなかったの?」

「ええっと、私はコンクールの選抜メンバーオーディションに落ちちゃったから」

「そう」

「でも、もう一度オーディションをしてもらえることになって、今、猛練習中なの」

「そこまで出たいものなの? コンクールって」

 直球な質問に真剣に答えようと、私は言葉を探した。

「……私ね、オーディションに落ちたけど、入院した先輩のかわりに、地区予選に出させてもらったんだ」

 感情が読みとれない柴田さんの目を、しっかりと見つめて。

 想いをこめて、必死で話す。

「地区予選前までは、ひとりぼっちで練習してたんだ。それなりに楽しんでたつもりだったけど……。でも、選抜メンバーの中に入って、みんなと演奏ができて、心を合わせて演奏するってこんなに楽しいんだって知ったの」

「そう……。コンクールのステージは、怖くなかったの?」

「うーん。ひとりでステージに立ってフルートを吹けって言われたら、怖くて吹けないと思う。でも、みんなといっしょだから吹けるし、吹きたいんだ。吹奏楽はみんなが主役だけど、同時にみんなが全体のための1ピースだから、かな?」

「……そういうものなのね」 

 私の言葉に、柴田さんは少し不思議そうな顔をした。

「柴田さんも、みんなの中の1ピースとして、ピアノをひいてみない?」

「え……」

 思い切ってふみこんだことを提案してみると、柴田さんはきゅっと眉をひそめた。

「音楽って、色んな壁を取り払ってくれると思うんだ」

「……」

 柴田さんは少しうつむきながら、だまって私の言葉を聞いてくれている。

「みんな、それぞれ色んなものを抱えて、色んな想いで演奏してるんだと思うの。でも、地区予選のステージで演奏してるとき、ひとりひとりの壁が吹き飛ぶくらい、心が近くなった気がしたんだ。みんなでひとつの音楽を作り上げてるっていう実感があったの。だから、まだまだこのメンバーで、コンクールっていう特別な舞台で演奏していたいって思ったんだ」

 私の想いが伝わりますように。

 そう祈りながら、ぜんぶ言葉にして届けた。

「……」

 柴田さんが、ゆっくりと顔を上げる。

「……あの人。銀色のトランペットの人」

「伊吹先輩?」

「伊吹先輩……。あの人がそうなのね……」

 つぶやいたあと、柴田さんは、きっぱりと言った。

「あのトランペットソロといっしょなら、ひけるかもしれない」

「本当!?」

 さすが伊吹先輩!

 柴田さんの心を動かしたんだ!

 黒羽中が関東大会を突破できるくらい魅力的な演奏をするには、柴田さんのピアノが必要。

 柴田さんのピアノが加わった伊吹先輩のソロを、私も、どうしても聞きたい。

 それが、あと少しでかないそうな気がする!

「……私、伊吹先輩のことを、よく知りたい」

「う……うん?」

 これは、どういうことなんだろう。

「伊吹先輩が、普段どんな音楽を聞いているのか、音をどうとらえているのか。いっしょにソロを完成させるのなら、彼の音楽に対しての感性を知りたいの」

 ええっと……。

「伊吹先輩と、ゆっくり話がしたい。それが、私が吹奏楽部に入部する条件よ」

 突然の言葉に、胸がざわめきだす。

「わ、わかった。伊吹先輩に伝えるね」

 柴田さんが入部してくれるかもしれない!

 ぐんと全国大会が近づいた。

 けれど……。

 私の心の中は、嵐のようにさざ波が立っていた。

 伊吹先輩と柴田さん。天才同士で、なにか感じるものがあるってことなんだろうか。

 それとも……柴田さんが、伊吹先輩に興味を持っているってこと?
 

 

柴田さんがさくらにつきつけた、『入部の条件』は、伊吹先輩とふたりっきりで話す時間をつくること!? 
もしかして、柴田さんも伊吹先輩のことを好きになった、っていうこと……?
次回もおたのしみに!

 

もくじに戻る
第1巻(1回~16回)を読みなおす(もくじへ)

関連記事

関連書籍

君のとなりで。(2) 近くて遠い、ふたりの距離

君のとなりで。(2) 近くて遠い、ふたりの距離

  • 【定価】 726円(本体660円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046319463

紙の本を買う

  • カドカワストア
  • アマゾン
  • 楽天

電子書籍を買う

  • BOOK WALKER