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【期間限定】『君のとなりで。』スペシャルれんさい 第28回 心に響く音楽


◆第28回

天才ピアニストの柴田さんを吹奏楽部にさそったけれど、そのことがきっかけで、柴田さんの心の深いところにあるキズを知ってしまったさくら。
でも、柴田さんの演奏を忘れられないさくらは……?

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♪心に響く音楽

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 今日の最後の授業は、音楽だった。

 曲を鑑賞して、作者や作品への理解を深めようっていう内容。

「今日は、ショパンの曲を聞いてもらう」

 北田先生がそう言うと、音楽室のスピーカーからピアノの音が流れ始めた。

「あ……!」

 出だしで、すぐに気づく。

 これって、『幻想即興曲』だ。柴田さんがピアノコンクールで優勝したときの曲!

 北田先生、まさかのまさかだけど……これってわざと!?

 先生の気持ちはよくわかるけれど、こんなことしたら、柴田さんがつらくなってしまうかもしれない。

 心配になって、柴田さんのほうをちらりと見ると。

 柴田さんの手が、ひざの上で動いてる!!

 しかも、すごく楽しそう。

「……っ」

 でも、曲が終わると、柴田さんは我に返ったようにハッとした顔になった。

 さっきまでひざの上でかろやかに動いていた手を、ぐっと固くにぎっている。

「……」

 確かに、柴田さんはピアノを避けているのかもしれない。

 でも、曲に合わせて楽しそうに指を動かしていたのは、柴田さんの本当の気持ちのあらわれなんじゃないかな……?

 どうしても気になってしまって、放課後、私は勇気を出して柴田さんに話しかけた。

「しつこくてごめん。これで最後にするから」

「……最後?」

「うん。一度でいいから、吹奏楽の『海の男達の歌』を聞いてほしいの」

 スマホにつないだイヤホンを差し出して、頭を下げる。

 けれど、いつまで待っても、柴田さんは無言のままだ。

 やっぱりダメだったか……そう思って、イヤホンを片づけようとしたら……。

「これを聞いたら、もう二度とこの話をしないって約束してくれる?」

 静かなその声に、私はガバッと顔を上げた。

「約束する!」

「それなら聞くわ」

「ありがとう!」

「言っておくけど、聞くだけよ。感想も言わない」

「うん。それでいいよ。これ、私たちの演奏なんだ」

 柴田さんがイヤホンをつけたのを見て、再生ボタンを押す。

 ──このすばらしい曲が、柴田さんの心に届きますように!

 祈りをこめて、曲を聞いている柴田さんを見守る。

「……」

 でも、柴田さんは、無表情で聞き続けている。

 やっぱり、ダメなのかな。心には響かなかったのかな。

 あきらめかけたそのとき。

「……!」

 突然、柴田さんの表情が変わった。

 きっといま聞いているのは、伊吹先輩のトランペットソロだ!

 そして、ほんの小さな声で、

「……美しいメロディーね」

 確かに、そうつぶやいた。

 柴田さんの心を、伊吹先輩の音がゆさぶったんだ。

「ありがとう。返すわ」

 演奏が終わると、無表情に戻った柴田さんはイヤホンを返してくれた。

 私は意を決してたずねてみる。

「よかったら、実際に演奏を聞いてみない?」

「……」

 考えこむように、柴田さんは目線を落とした。

 聞いてみたいって、言ってくれますように!

 ドキドキしながら返事を待つ。

「……そうね。聞いてみたいわ」

 小さくうなずいて、そう言った。

 やった! 一歩前進できた!

「ありがとう! じゃあ、もうすぐ合奏が始まるから、いっしょに行こう」

「ええ」

 静かに立ち上がった柴田さんを連れて、音楽室へ向かった。
 

 

閉ざされた柴田さんの心を動かしたのは、やっぱり、伊吹先輩の演奏だった……! 
音楽室で、吹奏楽部の演奏を聞いて、柴田さんが入部を考えてくれるかどうか、ここが黒羽中吹奏楽部の運命の分かれ道!?
次回もおたのしみに♪

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